LOGIN※完結しておりますっ! 大海原を往く豪華客船……その真ん中で、私は棄てられた。 婚約者の純と日野内グループが主催するクルーズに参加していた香織だったが、突然起こった経営する会社の株の大暴落で失墜してしまう。 そして船から大海原へと放り出された彼女を見つめていたのは、元婚約者の彼とその隣に居座る令嬢『田沢湖 海未』だった。 冷たい海と絶え間ない孤独。しかし悲しみと憎しみに震える彼女に光が差し込む。 「取り戻してみせる。会社も幸せも」 ※ブックマーク、コメント、レビュー、いいねが創作の励みになりますのでぜひ!
View Moreあんな幕引きは、今でも嘘なんじゃないかと思う。 慌てて降りてきた警察官の背後で、燃えさかったのはパトカーだった。 誰かが田沢湖 羽海を始末するために仕掛けた。 その推理は、降りてきた警察官たちの証言で塗り替えられた。 彼女は自爆したと。 体内に仕掛けた爆弾で。 燃え尽きるまで、ただ見てることしかできなかった。 この後のことは、あんまり覚えていられなかった。 船に名をつけたのも、最後の綱を切ったことも、全て火に包まれていく。 でも確かに『グランガルフ』は大海原へと進んでいった。 首謀者の死。豪華客船から始まった事件の終幕は、釈然としないまま終わってしまった。 それからどれくらいの月日が経っただろうか。 他愛のない日々が安らかだけど、凄く長くて退屈に感じてしまう。 怖い目に沢山あったのにね。 白湯を一口。窓の外を眺めながら、心の中で呟く。 慎太郎はあの街の中で頑張ってるんだろうな。 持っていた白湯を置いたとき、視界が真っ暗になって、 「だれーだ」 答えなんて一つしかない。 「また、会社抜けてきたの?」 「任せてきたって言ってよ。香織と、お腹の子が心配で、ついね」 視界がパッと開くと、慎太郎の笑顔も咲く。 ここ数ヶ月。慎太郎とは仕事していない。 お腹の子の成長も順調で、お医者様からも仕事はそろそろ控えた方が良いと診断された。 子の成長にホッとする一方で、仕事に行けないじれったさが体を燻っている。 仕事に行けば、慎太郎が傍にいてくれるからだ。 私は寂しさで彼の肩に手を回す。 「重たくなったでしょ?」 「二人分の命を感じる。でも、僕だって鍛えてるから」 と、軽々と立ち上がらせて、私を抱きしめた。 「さっき、何考えてたの?」 「ぼーっとしてただけよ」 「嘘だ。香織、ちょっと難しそうな顔してた」 「分かるの?」 「窓の反射でね」 クスリと笑ってしまう。 「色々あったけど、なんだかあの日々が凄く充実してたように感じてたの。沢山、怖い目にあったのにね」 「それ以上に幸せがあったからじゃないかな?」 「幸せ?」 「うん。怖い目にもあったし嫌なことも沢山あったけど、二人で乗り越えたりしてさ。色んな出会いもあったじゃない? 柊さんとか立花
会場にこだましたのは、乾いた銃声。 観客達は身を伏せ、得も言えぬ恐怖が広がっていく。 誰が狙われているのか、無差別なのか。 しかし、二発鳴って続かない。 沈黙が十秒続いた頃、撃たれた人間を探すように、皆が目線を上げる。 遠景のビルを見つめる私に注目が集まった。「ご安心ください。皆様は、狙われておりません」 マイクを通して、慎太郎が言う。「今のはドッキリかい?」「いいえ。本物の銃声です」 立花さんの顔色が引き攣っていく。 まさかパーティーの場で聞くとは思わない、と言いたげだ。「誰を狙って」「私です」 胸に手を当てて、前へ出る。 マイクに入っていたからか、その声色で会場が騒然とした。「日野内氏が狙われた?」「一体誰が」「まさか一条の連中の報復?」 憶測が広がっていく。 純には自分からやる度量なんてないのだけど、結びつきやすいところはそこよね。 だが、たった一人。 銃声にも動じず、私の姿をマジマジと見つめていた人物がいた。 溢れる鮮血を見たいがためだけに、隙を曝した女が、立ち尽くしていた。 先に起こることを予見していたように。 しかし裏切られたことに呆然としているように。「なぜ・・・・・・あんた生きてるのよ!」 発した声は自白だ。 田沢湖 羽海が唇を噛み、私へ叫んだ。「君が香織へ仕向けた男達だけど、今頃は地に伏してるよ。最も、殺してはいない」 物騒な言葉に会場のざわつきが大きくなる。「今の銃声は、僕の部下が撃ちました。会場にいる人間へ危害を加えようとしていた者達へ。勿論、武器を破壊しただけですが」「もしや、ここは狙われていたということか?」 立花さんにコクリと頷く。 勿論、狙われていたのはこの私。「皆様ではなく、壇上に立つ香織を狙った。その企みを知った僕は、部下の腕を信じて任せただけです。お騒がせたしことをお詫びいたします」 最も、防がなければ会場を赤く染めた殺人事件になっていただろう。 一つ、役目を終えて私はホッとしてしまった。「嘘よ・・・・・・」「何か言いたげだね。田沢湖 羽海」「嘘よ! 嘘よ嘘よ! なんで失敗するのよ!」 もはや取り繕うことすら諦めたのか。 自暴自棄になり、皆へ自身の企みを自慢するように話し出す。「綺麗に血の華を咲かせて、傷ついた綱島に取り繕う・・・・・・私は、
海上レストラン『グランガルフ』の進水式。 雲一つない青空の下、盛大に飾られたステージに上った。 司会の他愛のない挨拶からマイクが渡って、「本日は、お集まりいただきありがとうございます」 そんな、変哲のない台詞から始まった。 しかしこんな大勢の前でマイクを取って、自分が主役の場はいつぶりだろう。 あの豪華客船で始まった屈辱が、もう遠い昔のように思う。 だけど、華やかさとは裏腹に、手にした原稿の端々に暗雲が立ちこめている。 これを口にしてもしなくても、きっと私への刃は消えない。 大きく息を呑み、告げた。「進水式の前に、告発したいことがあります」 どよめく会場。 屋根のない、開放的な空間なのに、それは私の元までしっかりと伝わってくる。「日野内グループへの偽装工作、豪華客船の爆破、これらの真実です」 後ろの方で、不敵に私を見ていた田沢湖 羽海の表情が一瞬凍り付いた。 そして慎太郎が出てくると私の手を取り、「半年以上前から彼女の周りで起こっていた奇妙な出来事。僕を始め、多くの人間の協力で全てが明かされました」 口火を切って話し出すと、彼女の顔色はますます青くなっていく。「全ての事件や妨害は一条グループの謀略だと、僕たちもそう思っていました。しかし、先日の一条 純が起こした誘拐事件でハッキリした。その裏に、ある人物の影があったことを」 そして私はゆっくりと指を上げる。「かつて日野内と競合関係にあった田沢湖グループ。そのご令嬢が、自身の家を潰された復讐に、全ての事件を起こした。そうですよね? 田沢湖 羽海さん?」 全員の視線が羽海へと向く。「ふふふ・・・・・・何をいってらっしゃいますの?」「シラを切るつもりかい?」 一転、彼女の顔は平静を装うように戻り、私たちを据える。「言いがかりも甚だしい。やっぱり、そこにいる女が彼を誘惑して」「そちらこそ、そろそろ白状した方が良いんじゃ無いか?」 慎太郎の目が冷たく細まる。 そしてブツリと鳴るスピーカーの接続音。「ではこの計画を立案したのも?」 閉鎖空間に響く男の声。 優しそうだが、間違いなく聞き覚えのある声だ。「細道?」 私の小声に、彼は義眼を取って指し示した。「あぁ。羽海の奴が言ったんだ。香織の腹の子を堕として、俺との子を作れば戻ってくるって」「じゃあ、お前自身が武
「お腹、大きくなってきたね」 ぽっこりと膨れたお腹を見て、慎太郎が微笑む。 私を安心させてくれてるんだろう。 「今日でしばらくお仕事はできなくなるけど」 言い掛けて、表情が曇る。 慎太郎の傍で支えられなくなってしまうことじゃなくて、 「最後かも、知れないって思っちゃった」 必死に安心させてくれてるのに私は・・・・・・。 落ち込みそうになるけど、彼は両肩を抱いて言う。 「僕が必ず守るから」 この人は、何を思ってるんだろう。 もし、もしも。 何かが欠けていて、私が死んでしまったら。 またあの怖い瞳で復讐するんだろうか。 ・・・・・・でも、死んじゃった後にそれを知る術なんてない。 「香織は絶対に死なない」 確証は無いけれど。 慎太郎がいるんだもの。大丈夫。 私は死なない。 愛してくれる人が守ってくれる。 私はその言葉を信じて、前に進む。 進むしかない。 今まで、与えられてばかりの私だったから。 今度は慎太郎の為に、何かしなくちゃいけない。 心が狩られ、恐怖を滲ませていく。 「あの、慎太郎」 私は、離れて行きそうな背中を掴んで呼んだ。 「なんだい?」 首を傾げる彼をしばらく見つめてから、 「んっ?!」 優しく、けど強く唇を重ねる。 したいだなんて、私が思うのは気恥ずかしくて今までなかったけど。 深く、甘く、重なっていくそれを、私は味わって離す。 息が苦しくなっても、彼とこうして繋がっていたいと思う。 私は呆気に取られている慎太郎にウィンクして、背中を見せた。 そして、淡い青のドレスを纏って。 海風の当たるステージに、私は立ったのだった。 香織から求められるなんて思いもしなかった。 肌の感触と、甘い唾液を噛みしめて、僕は少し酔ってしまったかもしれない。 突然吹いた、少し強い海風が僕を引き戻す。 全て完璧だ。 誰がどう行動しようと、香織に危害が及ぶ可能性はゼロに近い。 僕は美濃部から送られてくる配置図を見ながら、それでも拭えない不安を汗に溶かす。 「慎太郎様。警備の配置、整いました」 「ご苦労。それで」 「見立て通り、狙撃手が二人」 「美濃部に繋げ」 予想は当たっていた。 僕は耳に手を当て、 「予定通り、
二十年分の思い出話。 ディナーの時間も忘れ、僕たちは語り合って、「それでね。保健室に運ばれたって聞いた香織のお父さんが教室に飛んできて」 そんな話の折り、彼女がコクリ・・・・・・コクリと頭を揺らしていた。 その隣に行くと、ビクリと肩が上がる。「ごめんなさい。ちゃんと聞いてるから、大丈夫」「ううん。長旅で疲れたよね」 彼女の頭を肩へ寄せると、数分としないうちに寝てしまった。 髪がふわりと揺れ、毛先がうなじに触れる。「優しいよね。いじめられたときも転んだときも、ずっと優しくしてくれて」 昔からずっとお姉さんみたいだったけれど、「大きくなって、綺麗になったね」 耳元で呟く
邪魔者が消えた客船で、「んんぅもっとよぉ純」 寝言を言う羽海の隣で、俺は人生最高の朝を迎えた。 日野内グループの不正が世に出回り、暴落した株を俺達『一条グループ』が買い占めた。 これで莫大な資産、そしてこの船は俺の物。「お前は最高の女だよ羽海」 成功の喜びで恋人と唇を交わし続けた俺は、横に寝る女の頬を撫でる。 『田沢湖 羽海』が不正の話を手にしていなかったら、俺はあいつの言いなりになっていただろう。 親父の代から、日野内の奴らは気に食わなかった。 俺達が築き上げてきた業績を、まるで自分の功績のように語ってのし上がりやがって。 だが、あそこまで蔑まされて、反撃の一つもでき
船が港に着く。 そこはサマリア沖にある小さなリゾート島だった。 その名は、「ようこそ『エルアリナイト』へ」 慎ちゃんが両手を広げて歓迎してくれる。 背景にはリゾートホテルやコテージが建ち並ぶ。 そして誰もが、足を止めて彼を見つめていた。「慎ちゃんの島って、ここが?」「そうだよ。驚いた?」 驚くなんて言ったものじゃない。 この島は国内外のあらゆる富豪やセレブが一度は訪れたいと口にする高級リゾートだ。「でも海賊が出るんじゃないの? この辺りって」「その辺は心配ご無用。我が社の警備がついてますから」 見渡すと、来島する人達の船とは別に乗ってきた船のような無骨な船が数隻留
大きな船の中に船で入って、「香織っ!」 パイプだらけの物々しい廊下を掛けてきたのは、一人の美青年。 どこか可愛げがあるけど、顔はまるで覚えていない。 でもこの声の感じ。昔どこかで聞いたことあるような。「オサ! 連れてきた」 私を連れてきた男が言うと、「ご苦労だったね。仕事詰めで疲れてるだろう。少し長めに休んでいいぞ」 優しく男達に促した。 目の前で起こり続けた事がまだ信じられない私は呆気に取られている。「どこか具合悪いかい?」「う、ううん。でもごめんなさい」 そして俯きがちになった私。 彼の心配そうな顔が下からから覗いてくる。「なんで謝るの? 何か悪いことしたか