Mag-log in大海原を往く豪華客船……その真ん中で、私は棄てられた。 婚約者の純と日野内グループが主催するクルーズに参加していた香織だったが、突然起こった経営する会社の株の大暴落で失墜してしまう。 そして船から大海原へと放り出された彼女を見つめていたのは、元婚約者の彼とその隣に居座る令嬢『田沢湖 海未』だった。 冷たい海と絶え間ない孤独。しかし悲しみと憎しみに震える彼女に光が差し込む。 「取り戻してみせる。会社も幸せも」 ※ブックマーク、コメント、レビュー、いいねが創作の励みになりますのでぜひ!
view more終わりという言葉がシャンデリアに照らされ、海原のクルーズ船はざわめきという荒波に揺られる。
「私とは終わりって、どうしてなの純?!」
「はぁ・・・・・・お前も察しが悪いな。お前よりイイ女が見つかったからに決まってるだろ」
『一条 純』がため息交じりに言う。
なぜなの。真っ先に脳裏を過ったのはそんな問い。
「お前の親父の権力には世話になったよ。だが、それも今日までだ。散々、家族をコキ使って金稼ぎしやがって」
今日まで?
初めて見る彼の一面に驚きながらも、その含みのある言葉に引っ掛かる。
「あらぁ? この子、何のことか分からないみたいよぉ純」
「やっぱお前を捨てて正解だったわ。なぁ
「やだぁお荷物ぅ。あっ純、その腕時計」
「あぁこいつか」
ちらりと見せたのは金の腕時計。
「お前とペアの時計。もうゴミみたいなもんだからな」
「ゴミって……それ記念日に買った……」
純はツカツカ歩いていくとホールの扉をバンッと開く。
見せびらかすように腕時計を外してニヤリとほほ笑む。
ハッと息を呑んだ瞬間、海へ投げ捨てる。
羽海のキャハハハという高笑いが聞こえると、耳元で囁く。
「純ってば、あなたとの思い出捨てちゃったね」
体の震えが止まらない。気づけば頬を暖かい涙が伝う。
「うっわぁ泣いてるぅ。ねっ見て見て純」
「もう泣くくらいしか取り柄がないからなこいつ」
二人の嘲笑いがホール中に響き渡り、哀れみの目線が至るところから向けられている。
「あー笑った笑った」
「おいおい羽海。まだ楽しみはこれからだろう?」
「そうだった! ほらあのモニター見て」
指を指す方向には大型モニターに映るのは
一直線に下へと伸びていく。
私のスマホが鳴り、
「大変だ香織! うちの株が暴落しておる!」
狙ったようなタイミング。
純の方へ向き直ると二人はキスをしながらこちらを横目に、また嘲笑う。
「残念だったな香織。お前はもう、大企業のご令嬢様じゃなくなった」
私は手にしたスマホを折れんばかりに握りしめる。
確証はないけれど、でも間違いはない。
「あらこわぁい。野犬がこちらを睨んでおりますわぁ! 純さん助けて」
「あぁ。おいコンシェルジュ! 今すぐこいつを海へ放り出せ!」
「放り出せって・・・・・・この船はお父様の」
「もうお前等の船じゃねぇよ。なぁ?」
「左様でございます。どうか抵抗なさらずに」
どこからともなく出てきた二人のコンシェルジュに両腕を掴まれる。
「今、この船はどの辺にいる?」
「アラビア海、サマリア沖でございます」
「サマリアって海賊がよく出るところよねぇ?」
「香織は運が良い。こいつ身体つきだけは良いからな、海賊の娼婦なら稼ぎも悪くないだろう」
「私の身体じゃ満足できないのぉ純」
「いいや。お前は身体も性格も最高だよ羽海」
戦慄した私は固まった。
海賊が夜な夜な出る海に放り出される。
しかし純は容赦なく、私をパーティーホールから追い出し、金の時計と同じように海へ放り投げた。
香織には何でもお見通しなんだ。 隠していたはずの憎しみが出ていた。 一条 純・・・・・・いいや、一条家の人間にか。 口では味方だと伝えたけれど、この人があいつの親だと思うと問い詰めたくなってしまう。 一体、どういう教育をしたら、あんなクズが生まれるのかを。 「後は僕にお任せください。貴方は、身を隠していた方が良い」 「え?」 「言い方が悪いかもしれないが、貴方は今の一条家を御せない。 そう言って、香織を彼から遠ざけた。 傷つける者は何人たりとも許さない。 愛している。心の底から。 香織がいない人生なんて考えられないくらいに。 だから僕は、どんなことをしても香織を守りたい。 それを叶えるには、世界から敵を消せばいいとさえ考えている。 香織は―― 「もしかして、殺そうとしてないよね」 不安とも、恐怖とも取れる表情に僕は迷ってしまった。 僕は、一条とその協力者を消そうとしている。 世界から香織の敵を消そうとしてるのだ。 好きな人と、安全を脅かされずに過ごす権利はあるはずだから。 だけど、彼女はそれを望んでいない。 消しても良いのだろうか、と。 これを伝えてしまったら、香織に嫌われないだろうかと。 ・・・・・・分からない。 沈黙が数瞬過ぎた後、僕は止まった。 「少し寄り道しても良い?」 「うん。良いけど・・・・・・」 ホームへ向かおうとした折に、僕は尋ねた。 フネシュキーはデザインしたい気持ちとついてきたい気持ちで悶々としていたけど。 「すまないな。もう少し付き合ってくれ」 と、帰る方面とは逆の新幹線に乗り込んだ。 香織の周りを嗅ぐ奴らから、まずは身を隠さなければならないからだ。 すると香織は寝てしまい、フネシュキーも船を漕いでいる。 そんな様子を見て、 「着いたら起こすよ」 そう言って彼も眠りに誘う。 二人とも安心しきって眠っているのを見守って、 「細道」 「御用でしょうか。慎太郎様」 僕は呼んだ。 一つ後ろの席からは、車を預けに行っていた細道が顔を覗かせる。 「始末を」 「了解です」 まるでスパイ映画のワンシーンだ。 彼の背中がデッキに消えていくのを見て、僕は香織を肩に寄せる。 「ごめん香織。僕は、君とお腹の子を
顔を見る間もなく、声の男は私の手を取った。 「こちらに居られたのですね!」 ブンブンと振る彼に、私が困っていると、 「すまない君。香織が困っている」 「す、すいません。でもご無事で!」 慎太郎が私を抱き寄せて、男から引き離す。 守るように私を背に置いた。 「先代社長の元で働かせていただいた間宮です」 「間宮さん?」 お父さんと働いてたって言うと・・・・・・。 「はい! 入社した時に、いろいろ教わって」 「あぁ!」 小槌をつく。 地元の工場で基板を担当していた人だ。 間宮と初めて会ったときは新入社員。 その顔つきは見違えるように変わっていて、気がつかなかった。 「彼は?」 「工場の社員さんよ。心配ない」 怪訝だった慎太郎の顔が和らいだ。 「突き返すような言い方をしてすまない」 「いいえ! 先代からいろいろ聞いてます。お会いになりましたか?」 私は首を振った。 「心配されていますよ。それに、あなたに会いたいって人もいて」 会いたい人? 父には会わないと決めていたし、街の人が知っていればいずれ伝わると思っていた。 (私の決意だって、分かってくれるよね) 祈りのような思いは声には出さない。 父じゃなかったら、一体誰なんだろう。 慎太郎と顔を見合わせていると、彼の後ろから壮年の男が出てくる。 「一条 孝三と申します」 恐怖が背筋を伝って、一瞬固まって・・・・・・。 今度は私から慎太郎の背に隠れてしまう。 「大丈夫だよ香織」 「え?」 「この人は僕たちの味方だよ」 「でも一条って」 慎太郎の言うことでさえも、とても信じられない。 (私を大海原に捨てた人の一族なのよ) すると一条 孝三は前触れもなく、額を地面につけた。 「愚息の愚行をお詫びしたい」 伺うように様子を見守る人。 チラリと見て通り過ぎる人。 修羅場を目撃したように驚く人。 疎らだった駅の来訪者の視線を釘付けにしている。 「この通りだ。申し訳なかった」 「・・・・・・顔を上げてください」 静かに私は告げる。 「上げられません。愚息の行為を許してくれとは申しません。ですが」 この人が謝る必要なんて一切ない。 血が繋がっているとは言えど、この人と純は他人なのだから。
香織が妊娠した・・・・・・?! 都内の高級マンションの一室。 俺はスマホを床に落とした。 「腹の中に綱島との子供」 ハラワタが煮えくり返りそうだった。 俺が愛した女なのに。 俺が先に手を付けた女なのに。 あの野郎・・・・・・。 「へぇ・・・・・・日野内が子供をねぇ」 羽海の声がしてさっとスマホの画面を隠す。 「勝手に見るなよ!」 「いいじゃなぁい。それより、好きな人に子供が出来たってさ。純はどうするの?」 「・・・・・・決まってるだろ。香織は俺に必要だった。だから連れ返すだけだ」 「正気? 既成事実が出来てるのに?」 「・・・・・・俺との子供だ。そう決まってる」 そうだ。あいつとは身体の関係もあった。 だからきっと俺の。 「有り得ない。だったらもっと早くつわりが来てなくって?」 羽海は無慈悲に、不気味な笑みで言う。 認めたくない現実から目を背けていても仕方がない。 俺はどうしたら香織を取り戻せるか、頭を捻る。 腹にいる赤ん坊が俺との子供だったと証明させるか? 医者に金を握らせれば、鑑定結果だって作り出せる。 だが、相手はあの綱島だ。頭が切れる上、背後にある力が何か分からない。 「どうすりゃ良いんだよ!」 力任せに椅子を蹴り飛ばした。 ふざけるな・・・・・・無事に産ませて。 「そうか」 思いかげず頭に過った妙案。 「気づいた?」 「産ませなければ良いのか」 俺も羽海も、顔を見合わせて微笑む。 まだ子供は腹の中だ。 堕としたとて、殺したことにはならない。 そこに俺が子供を作れば―― 「俺の子供になる」 「そう。だから、香織を連れ戻すために、必要な人間を連れてきたわよ」 そう言って、羽海は部屋の扉を開く。 「大曲 小町。お前、拘留されたはずじゃ」 「釈放してあげたの」 「話は聞きました。私も協力させてください」 どうやって出したかは敢えて聞かない。 すると小町は見取り図を出して、俺に向く。 「これで、慎太郎様を取り返せるんですよね?」 羽海から何か含まされてるとは思っていた。 だが、こいつも利用できる。 あの野郎のどこが良いのか分からないが、 「あぁ」 怪訝な表情に俺は頷いた。 一
瞼を開くと、目に映るのは清潔感のある白い天井。 繋がれた点滴の管。他に医療機器はない。 「目が覚めた?」 私に微笑むのは慎太郎。 (さっきまで砂浜にいたのよね?) 暗くなって飛んだと思ったら、アレは夢だったらしい。 「ごめんなさい。仕事に戻らないとだよね」 「あぁ無理しないで良いよ」 起き上がろうとする私をその剛腕が優しく寝かせた。 でも中途半端なのは良くない。 「後は僕がやっておくから」 「でも」 「今の香織は休むことが仕事」 「休むことが?」 私は首を傾げる。 時にそういう言葉を掛ける人はいるけど、慎太郎が言うと何か含みがあるように思えてしまう。 「うん。だって香織のお腹には赤ちゃんがいるんだもん」 無邪気そうに言った。 しばらく私は目をぱちくりとさせて、 「・・・・・・本当?」 「うん」 「えっと、私と慎太郎の?」 「勿論」 それしかないのに、思わず聞いてしまう。 ふと、私の顔が赤くなっていくのが分かった。 「性別は分からないけど、しばらくは安静にしておくのが良いだろうね」 慎太郎は諭すように言う。 だけど――私はベットから身体を起こした。 「私、もう少しだけ頑張る」 「頑張る?」 「海上レストランの支配人だって、まだちゃんと務められてないのだもの。それに」 「それに?」 「純から・・・・・・一条から会社を取り戻す為には、もう少し頑張らないとだから」 真っ直ぐな瞳で慎太郎に告げる。 会社を取り戻す。その道筋は遠くて明確じゃないけれど、 「まずはレストランのデザインをキチンと決めないとだから」 点滴の針を外して、ベッドから立ち上がる。 「もう少し、寝ていた方が良い」 計ったように、医者が扉を開けた。 その口元には白い棒・・・・・・慎太郎がふぅと安堵の息をつく。 「流石に、妊婦の前では吸わんよ」 と、呑気に話す。 「香織を診てくれた沓見先生」 「くつみって、水に日って書く」 「よく分かるね。初診の人には読めないって言われる」 と笑いながら言った。 そして抜かれた点滴の針を一瞥すると、 「まぁ、二時間でそれだけピンピンしてるなら良いか」 「ありがとうございます。診ていただいて」 「気にしなさんな。ほれ、これ持っていきな」
「私が慎ちゃんの秘書に?」 朝食を食べ終えた折りに、慎ちゃんは興奮気味に言う。「秘書になれば、ずっと一緒にいられるし、仕事に精が出る。勿論、タダでってわけじゃないよ? 細道」「こちらが秘書としての働いて頂いた場合の年俸になります」 額面を見て唖然としてしまう。 日野内グループの取締役を優に超えていたからだ。 けれど、私は秘書の経験もないし、むしろお願いしていた側。 慎ちゃんの仕事の足手まといにならないか心配で、表情が険しくなる。「仕事の事は心配しないで香織。細道もサポートしてくれるし、日野内のおじさんの元でやってた仕事と同じようにしてくれれば良いからさ」「そ、そう・・・・・
二十年分の思い出話。 ディナーの時間も忘れ、僕たちは語り合って、「それでね。保健室に運ばれたって聞いた香織のお父さんが教室に飛んできて」 そんな話の折り、彼女がコクリ・・・・・・コクリと頭を揺らしていた。 その隣に行くと、ビクリと肩が上がる。「ごめんなさい。ちゃんと聞いてるから、大丈夫」「ううん。長旅で疲れたよね」 彼女の頭を肩へ寄せると、数分としないうちに寝てしまった。 髪がふわりと揺れ、毛先がうなじに触れる。「優しいよね。いじめられたときも転んだときも、ずっと優しくしてくれて」 昔からずっとお姉さんみたいだったけれど、「大きくなって、綺麗になったね」 耳元で呟く
邪魔者が消えた客船で、「んんぅもっとよぉ純」 寝言を言う羽海の隣で、俺は人生最高の朝を迎えた。 日野内グループの不正が世に出回り、暴落した株を俺達『一条グループ』が買い占めた。 これで莫大な資産、そしてこの船は俺の物。「お前は最高の女だよ羽海」 成功の喜びで恋人と唇を交わし続けた俺は、横に寝る女の頬を撫でる。 『田沢湖 羽海』が不正の話を手にしていなかったら、俺はあいつの言いなりになっていただろう。 親父の代から、日野内の奴らは気に食わなかった。 俺達が築き上げてきた業績を、まるで自分の功績のように語ってのし上がりやがって。 だが、あそこまで蔑まされて、反撃の一つもでき
船が港に着く。 そこはサマリア沖にある小さなリゾート島だった。 その名は、「ようこそ『エルアリナイト』へ」 慎ちゃんが両手を広げて歓迎してくれる。 背景にはリゾートホテルやコテージが建ち並ぶ。 そして誰もが、足を止めて彼を見つめていた。「慎ちゃんの島って、ここが?」「そうだよ。驚いた?」 驚くなんて言ったものじゃない。 この島は国内外のあらゆる富豪やセレブが一度は訪れたいと口にする高級リゾートだ。「でも海賊が出るんじゃないの? この辺りって」「その辺は心配ご無用。我が社の警備がついてますから」 見渡すと、来島する人達の船とは別に乗ってきた船のような無骨な船が数隻留