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6.体のブツブツ

Author: 月山 歩
last update Last Updated: 2025-04-25 17:56:41

 タイラー様の手が少しずつ動かせるようになると、元々ブツブツのせいで体中が痒かったらしく、無意識に手の届く範囲を掻き、体中が傷だらけになり、血が滲んでいるところまであった。

「タイラー様、あちこちから血が出てますよ。

 あまり掻かない方がいいのでは?」

 ロドルフも心配そうに肌の血を拭いている。

「そんなに血だらけ?」

「はい、とても痛々しいです。」

 私とロドルフは、タイラー様を心配し、掻かないように説得する。

「わかった。

 それなら掻くのを我慢する。 

 自分がそんなに血だらけだとは、気づかなかったんだ。」

「タイラー様、私の故郷で使っていた傷薬を塗ってもいいですか?」

「ああ、頼む。」

 それは、私の住んでいた領地で取れる匂いが強烈な葉を練り状にした傷薬で、緑色のそれは匂いがきついから、決して塗られて気分のいい物ではない。

 でも、たいがいの傷は治った気がするのだ。

 だから、私のお気に入りで、こちらまで持って来ていた。

 とりあえず、タイラー様が匂いを嫌がらないように、そっと手を持ち上げると手の甲に塗ってみる。

「しみますか?」

「いや、別に。」

「でも、これはかなり匂いが強いですね。」

 ロドルフは、なるべく匂いを避けようと、顔を退けぞらせている。

 だが、タイラー様は、私に傷薬を嫌がらないで塗らせてくれている。

 良かった。

 これで傷が治るはず。

 とりあえず、その薬を手の甲で試してみて、良くなるのであれば他のところも試してみたい。

「これで、数日様子をみましょう。」

 手の甲に塗った薬が取れないように、さらにその上から、ハンカチを巻いた。

 タイラー様は、私が提案することを、拒否することはない。

 とにかく、自由に色々させてくれている。

 実家では、私のお顔が綺麗だから、間違いが起こってはいけないと、周りの男性から遠ざけられていた。

 なので、話せる男の人はお父様だけで、こんなにも話しやすく、受け入れてくれる男性がいるとは知らなかった。

 少し会っただけだけど、タイラー様のお父様は、その中でも話を聞いてくれそうもない方だった。

 だからこそ私は、婚約者がタイラー様で、本当に良かったと思うのだ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「タイラー様、ニヤけてますよ。」

 僕の体を拭くために、マリアに寝室の外に外してもらい、ロドルフと二人きりになると、なんとか手を動かして、僕はマリアが結んでくれた手のハンカチを見つめる。

 マリアが、僕の手を取って、薬を塗って、ハンカチを巻いてくれた。

「両手で僕の手を持ち上げて、薬を塗ってくれたんだよ。

 僕のこの汚くてボツボツだらけの手を取って。

 この手を嫌がらずに触ってくれるのは、きっと王国中の令嬢の中で、マリアだけだ。

 この喜びを何と表現していいのかわからないよ。

 もし、この手の甲の傷が治ったら、マリアは僕の体の他のところにも、薬を塗ってくれるだろうか?」

「おそらく、マリア様なら塗ってくれるでしょうね。

 でも僕は、体の中心の方は止めますからね。

 マリア様は、婚約中とは言え、貴族のご令嬢ですからね。

 限度があります。」

「そうだね。

 ロドルフ、そうして。

 僕も、マリアに嫌われたくない。

 くそっ、何としてでも体を動かすぞ。

 この手だって、前はこんなに動かなかったんだ。

 なのに、毎日動かすことで、こんなに動くようになった。

 足も動かすぞ。

 そして、できるだけ早く立ってみせる。」

「その意気ですよ。

 タイラー様。

 マリア様を、本当に手に入れるためにはやるしかないです。」

「ああ。」

「こんなに力が沸いてくることはないよ。」

 タイラーは、寝たきりになって、手足がほとんど動かないことはもう諦めていたが、マリアに出会ってから、毎日何時間もかけて体の運動を続けている。

 数日後、マリアはタイラーの手の甲のハンカチをそっと外してみているが何も言わず、じっと手を見つめている。

 「傷は綺麗に治ってきています。

 でも、なんか変だわ。」

 そう言うと違和感があるのか、マリアは僕の手を握ったまま、さらにじっと見つめている。

 どうしたんだ?

 僕は不安になり、何も言えないままマリアの言葉を待つ。

 すると、マリアは疑問が解けたのか突然笑顔を浮かべ、話し始める。

 「ああ、やっぱりそうだわ。

 ブツブツが無くなって、肌が平らでスベスベになっているの。

 タイラー様、傷もそうですが、そこだけブツブツも無いんです。

 だから、何か変だと思ったんだわ。」

「何だって?」

 僕は、手を頑張って持ち上げ、手の甲を自分で確認する。

 確かに引っ掻いた傷は少し残っているものの、ブツブツは消えている。

「タイラー様、やりましたね。」

 ロドルフもそれを見て喜んでいる。

「ああ。」

 僕は信じられない気持ちで、穴が開くほど自分の手の甲を見つめ続ける。

 今までこのブツブツを治したいと、ありとあらゆる薬を試して来たのに、これが消えることはなかった。

 なのに今、マリアが塗ったこの匂いのキツい傷薬のおかげで綺麗に治っている。

 そして、ブツブツが消えたせいか、今までより皮膚が突っ張らず、指が動かしやすい気がする。

 いつもは手を握るのだって一苦労だったのに。

 もしかして、このブツブツが完全に消えたら、もっと体全体が動かしやすくなるのかもしれない。

 僕は、体はほとんど動かせないけれど、心の中では飛び上がるほど嬉しかった。

 その後、マリアは薬を手の甲だけでなく、他の部位にも優しく塗ってくれている。

 僕は、どんなに薬の匂いがキツくても、それだけで嬉しい。

 マリアが僕のブツブツの汚ない体を、躊躇いもなく触れ、優しく薬を塗ってくれている。

 僕は幸せ過ぎて、溢れそうになる涙を堪える。

 僕が一番恐れていたのは、マリアに僕を気持ち悪いと思われることだった。

 でも、真剣に薬を塗ってくれるマリアの瞳の中に、そのようなものは感じられない。

 ただ、僕のブツブツの肌を案じてくれている。

 僕は、夢心地でマリアに薬を塗ってもらっていたけれど、ロドルフによって腕と、足先、顔と首までで止められる。

 くっ、残念だけれど仕方がない。

 体の中心は、部屋で二人きりの時に、ロドルフを睨みながら、彼にやってもらった。

「しょうがないでしょ。

 そう言う約束です。」

「わかってる。

 睨んでいるだけだ。

 気にするな。」

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