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20.妹

Auteur: 月山 歩
last update Date de publication: 2025-04-25 18:21:23

 私は、タイラー様とのことも気がかりだけれど、それと同じぐらいハリエットのことが心配だった。

 カーステン様を頼りにして、クライトン家に身を寄せていただろうに、その彼にあんなことを言われて、この侯爵邸で一人、さぞ傷ついて、心細い思いをしているのではないかと思った。

 今私は、カーステン様のことは置いておいて、侍女に案内してもらい、ハリエットの部屋を訪れた。

 すると、ドアは閉まっているが、中から女性の怒鳴り声が聞こえてきた。

 私が慌てて居室に入ると、ハリエットが暴れていて、部屋の調度品を薙ぎ倒し、部屋は無残なありさまだった。

 周りにいる侍女達は、彼女の暴力に恐れながらもそれを必死におさめようとしていた。

「ハリエット、落ちついて。」

「来たわね、私を笑いに。」

 ハリエットは、お酒に酔っているらしく、私を見つけると焦点の定まらない目で睨みつけながら、ふらふらと近づいて来る。

 とりあえず暴れることはやめたので、ハリエットをソファに侍女達と共に座らせる。

「ハリエット、お酒を飲みたくなる気持ちはわかるわ。

 でも、侍女達に迷惑をかけたり、物に八つ当たりしてはいけないわ。」

 私は、
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