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第8話

作者: 三葉ふたば
星奈は征臣のあとについて、夏帆の病室へ向かった。

星奈を見るなり、夏帆は怯えたような顔をした。

征臣は足早に夏帆のもとへ向かう。

「夏帆ちゃん、怖がらなくていい。星奈は謝りに来たんだ」

夏帆はすぐに征臣に抱きつき、離れようとしなかった。星奈を見る目は、明らかに勝ち誇っていた。

星奈は見なかったことにして、無表情のまま口を開いた。

「ごめんなさい」

夏帆は不満そうな顔をした。

「星奈、その謝り方、ずいぶん適当じゃない?」

星奈は少しも驚かなかった。

「じゃあ、どうすればいいの?」

夏帆は鼻を鳴らした。

「本気で謝るなら、膝をついて謝るのが筋じゃない?」

征臣は眉をひそめ、何か言おうとした。だが、星奈は無表情のまま、背筋を伸ばして床に膝をついた。

征臣の顔に驚きが浮かんだ。

「星奈……」

星奈は征臣を見ず、静かに夏帆へ目を向けた。

「ごめんなさい。これでいい?」

夏帆はようやく笑顔になり、うなずいた。

「まあ、いいわ。征臣がいるから、今回は許してあげる」

書類を取り出して素早く署名すると、そのまま星奈の顔へ投げつけた。

星奈は示談書を確認すると、無表情のまましまい、征臣を見た。

「これで、赤ちゃんを返してくれる?」

生気の消えた星奈の目を見て、征臣の胸がざわついた。

征臣は骨壺を差し出した。星奈は何よりも大切なもののように、骨壺をそっと胸に抱いた。

征臣もそのあとを追い、病室を出た。手を伸ばして星奈を引き止め、青ざめた顔を見ながら声を和らげる。

「星奈、もうこんなことはやめよう。前はあんなに優しかったのに、どうしてこうなったんだ?」

征臣はため息をつき、骨壺を胸に抱えた星奈をそのまま抱きしめた。

「今回、夏帆ちゃんを傷つけたのは星奈だ。入院している間は、俺がそばで世話をしなきゃならない。

もう大人しくしていてくれ。ずっと結婚式を挙げたがっていただろ?今回のことが落ち着いたら、式を挙げよう。星奈が俺の妻だって、正式に発表する。

これからは穏やかに暮らして、また子どもをつくろう。な?」

星奈は征臣を見上げた。ここまできても、征臣はまだ、星奈が意地を張っているだけだと思っている。

それなのに、どうして平然と未来の話ができるのだろう。

今さら見せる愛情も、困り果てたような態度も、すべてが白々しく、吐き気がした。

これまで何度もぶつかってきた。そのうち一度でも、征臣が迷わず星奈を選び、信じてくれていたなら、二人がここまで壊れることはなかった。

星奈は骨壺を強く抱きしめ、征臣の腕から抜け出した。

何も言わず、背を向けて歩き出す。

征臣は胸の奥が空っぽになったように感じた。それでも、星奈へ念を押した。

「これから2日間は夏帆ちゃんのそばを離れられない。弁護士に連絡して、離婚届の提出を取りやめるのを忘れるな」

星奈は一瞬だけ足を止め、そのまま立ち去った。

2日後、弁護士から、予定どおり離婚届を提出したとの連絡が届いた。

星奈は荷物を持って市役所へ向かい、無事に離婚届受理証明書を受け取った。

征臣に渡す書類は、バイク便で会社へ送った。

証明書をしまうと、骨壺をしっかりと抱きしめ、故郷へ向かう列車に乗った。

窓の外を流れていく景色を眺めながら、星奈はかすかに笑った。

「赤ちゃん、お母さんと一緒に帰ろう」

この悲しみは、きっと一生消えない。

勇気を振り絞っても、返ってきたのは失望だけだった。

征臣、もう二度と、会いたくない。

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