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第7話

作者: 三葉ふたば
征臣の眼差しが、一瞬だけ揺らいだ。

そのとき、夏帆が泣きながら訴えた。

「征臣、痛い……私、死んじゃうのかな……」

その一言で、わずかな迷いも消えた。

「大丈夫だ。絶対に死なせない!」

征臣は少し力を込めて星奈の指を振りほどき、突き放すように言った。

「星奈、その子を使って同情を引こうとしても無駄だ。全部、自業自得だ!その子がいるからって、何をしても許されると思ってるなら、そんな子はいないほうがましだ!」

そう言い捨てると、夏帆を抱いたまま大股で立ち去った。星奈の体の下に、一瞬で血が広がったことにも気づかなかった。

星奈は激痛に耐えながらお腹を押さえ、必死に訴えた。

「征臣、私は本当に夏帆を傷つけてない!お願い、行かないで!私を置いていかないで!赤ちゃんを助けて!お願いだから、助けて、征臣!」

それでも征臣は足を止めず、すぐに星奈の視界から消えた。

星奈は血の涙を流すような思いで、声の限りに叫んだ。

「征臣なんて、大嫌い!」

激しい陣痛が次々と押し寄せ、下半身から流れる血は止まらない。

星奈は血がにじむほど強く唇をかみしめ、リビングから玄関へ向かって少しずつ這っていった。ようやく玄関までたどり着いたとき、ちょうど散歩をしていた人が家の前を通りかかった。

星奈は必死に助けを求めた。

「助けて……お願い、助けて……」

通行人はすぐに119番通報し、星奈は救急車で病院へ運ばれた。

星奈は医師の腕を強くつかんだ。顔は涙と汗で濡れている。

「お願いです。赤ちゃんを助けてください……あと1か月で生まれる予定なんです。お願いだから、助けてください……」

医師と看護師は星奈に酸素マスクをつけ、急いで手術室へ運んだ。

無影灯の下、星奈の耳には激しい耳鳴りが響いている。医師と看護師の切迫した声だけが、かろうじて聞こえた。

麻酔が体に入っていくのをはっきりと感じたあと、腹部が切り開かれ、赤ちゃんが取り出されたような感覚があった。

意識を失う直前、医師の一人が言うのをかすかに聞いた。

「残念ですが、搬送が遅すぎました」

星奈はわずかに目を見開き、そのまま意識を失った。再び目を覚ますと、病室のベッドに戻されていた。

大きく膨らんでいたお腹はずいぶん平らになり、皮膚だけが力なくたるんでいた。

上半身を無理に起こした途端、傷口に鋭い痛みが走り、星奈は耐えきれずベッドに倒れ込んだ。

病室の隅から、かすれた声が聞こえた。

「星奈、自分のせいで子どもを死なせて、これで満足か?」

声のした方へ顔を向けると、征臣が病室の隅のソファに座っていた。無精ひげを生やし、真っ赤な目で星奈を見ている。膝の上には、小さな骨壺が置かれていた。

星奈は骨壺を見つめたまま、とっさに体を起こそうとした。その拍子に、ベッドから床へ転げ落ちた。

起き上がることもできず、骨壺を見つめる星奈の目から、涙がとめどなくあふれた。

あまりの苦しさに呼吸が乱れ、息を吸うことさえできない。

口を開けて泣こうとしても、喉から漏れるのは苦しげな息の音だけだった。

しばらくして、ようやく途切れ途切れに言葉を絞り出した。

「赤ちゃんを返して」

征臣は骨壺を抱えて立ち上がり、冷え切った声で告げた。

「今回の件で、白石家は警察に被害届を出した。鷹取家の顔を立てて、夏帆ちゃんは示談に応じると言ってる。直接謝れば、示談書に署名するそうだ」

星奈は憎しみに満ちた目で征臣を見た。

「よくも私に、夏帆に謝れなんて言えるね」

征臣は無表情のまま星奈を見下ろした。

「謝らないなら、鷹取家でも守りきれない。刑務所に入れば、星奈の人生は終わる。それに、子どもの遺骨はいらないのか?」

氷水を浴びせられたように、星奈の全身が冷え切った。悔しさをのみ込み、従うしかなかった。

「分かった」

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