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第4話

Penulis: 椿
結愛だけは、妙に嬉しそうだった。

「相原先生、やっと来てくださったんですね。

ほら、見てください。うちの子、うちの人にそっくりでしょう?」

視線を落とすと、おくるみに包まれた小さな顔には、悔しいくらい英孝の面影があった。

また目の奥が熱くなった。

それでも、結愛と研修医の前でだけは取り乱すまいと、必死にこらえた。

結愛の状態を確認し終えると、私は1秒でも長くそこにいたくなくて、逃げるように病室を出た。

けれど、私が自分の診察室に戻るとすぐ、英孝も追いかけてきた。

止める間もなく、英孝は内側からドアの鍵をかけた。

「何をするつもり?

ここは病院よ。あなたの奥さんと赤ちゃんは、まだ病室にいる。これ以上近づかないで。変な噂を立てられたら迷惑だから」

けれど英孝は、まるで聞いていないようだった。

「莉都、この数日は休みを取れ」

その言葉に、呆れて笑いが漏れた。

「本気で私を愛人扱いするつもり?

奥さんと顔を合わせないように、私に隠れてろってこと?」

「そういう意味じゃないって、わかるだろ」

返事をする気にもなれなかった。

私は英孝の横を通り過ぎ、彼がかけた鍵を開けた。

英孝はしばらく私を見ていたが、やがて諦めたように息を吐いた。

「莉都、結愛は産んだばかりだ。今、離婚の話なんてできるわけがない。

でも、俺にとって妻はお前だけだ。親たちも、お前を鳴海家の嫁だと認めている。紙一枚に、そこまでこだわる必要があるのか?

籍を入れないと言ってるんじゃない。少し時間が欲しいだけだ。子どもがもう少し大きくなったら、必ず結愛とは別れる」

私はそれでも黙っていた。

とうとう英孝も我慢の限界だったのだろう。

さっきまでの柔らかさが、声から消えた。

「莉都、忘れるな。相原家はいまも鳴海家の世話になってる。

お前が何不自由なく医者を続けていられるのも、俺がお前の親に数億円の仕事を紹介してやったからだ。

親に話したところで同じだ。きっと『少しくらい我慢しなさい』と言われるだけだろうな。

俺がお前を好きだから、ここまで黙って聞いているんだ。勘違いするな。

今回の件は俺が悪かった。休みたくないなら、結愛は転院させる。それでいいだろ。だが、これ以上騒ぐな」

そう言い捨てて、英孝は部屋を出ていった。

私はソファに崩れるように座り込んだ。

怒りで、体が震えていた。

その瞬間、ようやくわかった。

これが、英孝の本性だったのだ。

かつて英孝は、私に言ったことがある。

俺がお前によくしているのは、見返りが欲しいからじゃない、と。

でも違った。

あれは、見返りを求めない優しさなんかじゃなかった。

いざというとき、私を黙らせるためのものだったのだ。

そのとき、スマホに1通のメッセージが届いた。

【相原先生、職場の皆さんに知られてもいいんですか?自分が他人の家庭を壊した不倫女だって】

……

誰が送ってきたのかは、わからなかった。

けれどそのメッセージのせいで、その日は1日中、何をしていても上の空だった。

退勤前、看護師が突然私のところへ来て、結愛が会いたがっていると告げた。

病室へ行くと、中にいたのは結愛と赤ん坊だけだった。

英孝の姿がないことに、私は思わずほっとした。

けれど、用件を尋ねるより先に、結愛が口を開いた。

「相原先生、実はまだ、お話ししていないことがあるんです」

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