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偽装死した夫が義姉と不倫?私は最高の男と再婚

偽装死した夫が義姉と不倫?私は最高の男と再婚

作家:  ハル完了
言語: Japanese
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概要

逆転

ドロドロ展開

ひいき/自己中

妻を取り戻す修羅場

不倫

菅原青葉(すがわら あおば)と菅原拓海(すがわら たくみ)が結婚して3年目、拓海は任務中に命を落とした。 拓海の双子の兄である菅原拓真(すがわら たくま)が、血に染まったバッジを持ち帰り、かすれた声で言った。「青葉さん、拓海は……もう戻ってこない」 青葉はその場に崩れ落ち、そのまま意識を失った。 目を覚ますと、青葉は狂ったように拓海を捜しに行こうとし、それを義母の菅原沢子(すがわら さわこ)が抱き留めた。 その後、青葉は三度も自殺を図り、そのたびに助けられた。 みんなこう言っていた。「菅原隊長と奥さんは、本当に愛し合っていたんだな……」 ええ、本当に。 それほど「仲が良かった」からこそ、拓海が「死んで」3ヶ月が経った頃、ようやく青葉は真実に気づいたのだ。 死んだのが、拓海ではないということに。

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第1話

第1話

菅原青葉(すがわら あおば)と菅原拓海(すがわら たくみ)が結婚して3年目、拓海は任務中に命を落とした。

拓海の双子の兄である菅原拓真(すがわら たくま)が、血に染まったバッジを持ち帰り、かすれた声で言った。「青葉さん、拓海は……もう戻ってこない」

青葉はその場に崩れ落ち、意識を失った。

目を覚ますと、青葉は狂ったように拓海を捜しに行こうとし、それを義母の菅原沢子(すがわら さわこ)が抱き留めた。

その後、青葉は三度も自殺を図り、そのたびに助けられた。

みんなこう言っていた。「菅原隊長と奥さんは、本当に愛し合っていたんだな……」

ええ、本当に。

それほど「仲が良かった」からこそ、拓海が「死んで」3ヶ月が経った頃、ようやく青葉は真実に気づいたのだ。

死んだのが、拓海ではないということに。

……

三度目の自殺未遂から助かった日の夜。青葉は青ざめた顔で義実家へ向かった。拓海の遺品を引き取って心を慰めようとした時、奥の部屋からひそひそ話が聞こえてきた。

「拓海、いつまで隠し通すつもり?青葉さんはあなたのせいで3回も自殺を図っているのよ!」

青葉の爪が、手のひらに強く食い込んだ。

拓海?

義母はなぜ、拓真を「拓海」と呼んでいるのか?

「母さん、もう少し待って」その声は拓真のものだったが、かつて拓海が青葉をなだめる時にそっくりだった。

「兄さんは死ぬ間際、俺に雪乃のことを託した。雪乃は体が弱いから、兄さんの死の事実を聞けば生きていられない。だから俺が兄さんになりすまして、雪乃との間に子どもを作る。そうすれば、その子が生きる支えになるはずだ」

青葉の全身の血が凍りついた。耳に入ってきた言葉が信じられなかった。

死んだのは拓真であって、拓海ではなかった。

自分の夫は生きていた。しかもその兄に成りすまし、毎日、隣の部屋で菅原雪乃(すがわら ゆきの)と眠っているのだ。

「でも、青葉さんはどうなるの?」沢子が焦った声を出す。

「あなたは毎晩雪乃さんの部屋で寝ているけれど、青葉さんの気持ちを考えたことがあるの?」

「青葉は、雪乃よりも強いから……」

その言葉が刃のように胸を刺した。青葉はよろめいて後ろに下がった時、壁際にあったほうきを倒してしまった。

部屋の中は急に静まり返った。

青葉は、逃げるように慌てて走り去った。

走りながら手のひらに激しい痛みを感じた。手を開いて見ると、握りしめていたバッジが皮膚を切り裂き、血が溢れていた。

この3ヶ月、毎晩そのバッジを握りしめて涙した。しかし今、それらすべてが馬鹿らしく思えた。

自分の夫は生きていた。

拓海はただ、雪乃のために、彼自身が死んだと自分に思わせておいたのだ。

5年前、青葉は親睦会で拓海と出会った。

拓海は屈強な部隊の隊長で、青葉は部隊の専属劇団のダンサーだった。

拓海を狙う女性は多かったが、彼は客席から熱心に「白鳥の湖」のステージを見届け、踊りきった青葉のもとへ向かい、その大きな上着を肩に掛けて言った。「風が冷たいので、暖かくして」

その大きな上着に包まれながら、青葉は恥ずかしさで真っ赤になった。

それから拓海のアプローチが始まり、任務の前には遠回りしてでも青葉の劇団を訪ねてきた。

青葉が交際を申し込まれた日、拓海は酔っ払って彼女を抱えて回りながら叫んだ。「俺の一生の人は青葉だけだ」

結婚後、誰もが拓海を愛妻家と呼び、青葉を大切にしていると噂していた。

青葉自身も、これ以上ないほど愛されていると感じていた。

しかし、現実はどうだ?

拓海は雪乃のために拓真を演じ、毎晩布団を共にして、妊娠の準備までしている。

そして自分は間抜けのように、夫のために泣いて、死のうとし、地獄のような思いをしてきたのだ。

拓海は、自分にも心があり、痛みを覚えるとは思わなかったのか?

青葉は頭がぼーっとするなか家へ戻ると、そこにはまた、仲人の上野紗枝(うえの さえ)が訪ねてきていた。

「青葉さん、賀川隊長が2週間後に離島に赴任されます。これでもう7回目の訪問になりますけれど……今回お断りするなら、一生帰ってこないそうですよ」

賀川隆平(かがわ りゅうへい)。拓海の同僚である。

青葉が夫の不在を告げられてからというもの、隆平は何度も訪ねて、結婚の意思を尋ねてきた。

しかしこれまでの6回は、断り続けていた。

自分には一生、拓海以外の人など愛せないと思っていたからだ。

だが、今は……

青葉は視線を上げ、穏やかな声で答えた。「はい。そのお話、お受けします」

紗枝は呆気にとられた。「えっ、本気でおっしゃっているんですか?」

「ええ」青葉は笑顔を見せた。「お手数ですが、あちら側にお伝えください。2週間後に彼のもとに嫁ぎ、一緒に離島へ行くと」

その瞬間、ふすまが開いた。顔を曇らせた拓海が立ち尽くしている。「青葉さん、誰と結婚するっていうんだ?」

青葉は彼を見て、ただおかしく思えた。

「拓真さん」青葉は低く答えた。「これは私個人のことです」

拓海は紗枝を見つめたが、手は青葉の腕を痛みを感じる強さで締め付けた。「青葉さんには俺がついてますから。それに彼女は拓海を心から慕っておりました。再婚などありえないので、二度とこんな話を持ち込まないでください。次は容赦しませんよ!」

紗枝は混乱を隠せなかった。「しかし、さきほど青葉さんが承諾……」

話の途中で、青葉がそっと紗枝を引き離した。「上野さん、デパートに行く用事があるんでしょう?今のうちに済ませてください」

促されるまま紗枝は慌てて応じ、逃げるようにその場から去った。

紗枝がいなくなるのを確認してから、拓海はようやく手の力を緩めた。「青葉さん。拓海を亡くして辛いのは分かりますが、俺がついてますから。今後はこのような縁談は、俺が全て追い返しますので……」

今、青葉にとって、すべての仕草が哀れに思えてならなかった。

他の部屋で雪乃と寝ているくせに、自分の再婚は怖いというのか?

この世に、そんな身勝手な道理があるだろうか。

だが、青葉はただそれを押し込めて、おとなしく頷いた。

どうせ2週間後には他人になり、永遠に離れるのだから、何を言われても関係なかった。

その晩、青葉が静かにパッキングをしていると、薄い隔てを超えてあの擦れ合う音が響いた。

以前であれば、そんな動きも愛し合う普通の夫婦のやりとりだと済ませられただろう。

しかし今は、その息遣いがまるで刃物のように突き刺さる。

あれは間違いなく、愛し合う時に拓海が漏らしていた音だ。自分だけが聞いていたはずの、拓海の声。

「うああ!」

夜空に響き渡った悲鳴。駆けつけると、薄着で乱れた様子の雪乃を抱えて飛び出す拓海が見えた。月明かりに、雪乃の真っ白なパジャマが赤い血に染まっていく。

近隣の住民が騒ぎに気づき、数人が身を乗り出して尋ねた。

「まあ、いったい何かしら?」

「そういうことをしているときに、ちょっと激しすぎて出血したらしいよ……」

「あらあら。拓真さん、日頃はずいぶん厳格そうなのに、なかなか激しかったのね……」

人混みの中に立ち、青葉は冷え切っていく感覚に陥った。

戻ろうとすると、隣人が彼女を引き止めた。「青葉さん、家族なんだから様子を見てきなよ!」

あらぬ噂を立てられるのを防ぐため、彼女は上着を羽織って病院へと向かった。

廊下に立ち込める消毒液の匂いが、青葉の目に染みた。

拓海が不安そうに歩き回り、青葉の姿を見つけると一瞬止まった。

「なぜここに?」

青葉は口元を歪めた。「家族として、様子を見るのは当然のことですから」

突然手術室のドアが開き、医者が顔を出した。

「安心してください。奥さんは大丈夫ですよ。妊娠中ですから、しばらくは控えめにするように……」

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第1話
菅原青葉(すがわら あおば)と菅原拓海(すがわら たくみ)が結婚して3年目、拓海は任務中に命を落とした。拓海の双子の兄である菅原拓真(すがわら たくま)が、血に染まったバッジを持ち帰り、かすれた声で言った。「青葉さん、拓海は……もう戻ってこない」青葉はその場に崩れ落ち、意識を失った。目を覚ますと、青葉は狂ったように拓海を捜しに行こうとし、それを義母の菅原沢子(すがわら さわこ)が抱き留めた。その後、青葉は三度も自殺を図り、そのたびに助けられた。みんなこう言っていた。「菅原隊長と奥さんは、本当に愛し合っていたんだな……」ええ、本当に。それほど「仲が良かった」からこそ、拓海が「死んで」3ヶ月が経った頃、ようやく青葉は真実に気づいたのだ。死んだのが、拓海ではないということに。……三度目の自殺未遂から助かった日の夜。青葉は青ざめた顔で義実家へ向かった。拓海の遺品を引き取って心を慰めようとした時、奥の部屋からひそひそ話が聞こえてきた。「拓海、いつまで隠し通すつもり?青葉さんはあなたのせいで3回も自殺を図っているのよ!」青葉の爪が、手のひらに強く食い込んだ。拓海?義母はなぜ、拓真を「拓海」と呼んでいるのか?「母さん、もう少し待って」その声は拓真のものだったが、かつて拓海が青葉をなだめる時にそっくりだった。「兄さんは死ぬ間際、俺に雪乃のことを託した。雪乃は体が弱いから、兄さんの死の事実を聞けば生きていられない。だから俺が兄さんになりすまして、雪乃との間に子どもを作る。そうすれば、その子が生きる支えになるはずだ」青葉の全身の血が凍りついた。耳に入ってきた言葉が信じられなかった。死んだのは拓真であって、拓海ではなかった。自分の夫は生きていた。しかもその兄に成りすまし、毎日、隣の部屋で菅原雪乃(すがわら ゆきの)と眠っているのだ。「でも、青葉さんはどうなるの?」沢子が焦った声を出す。「あなたは毎晩雪乃さんの部屋で寝ているけれど、青葉さんの気持ちを考えたことがあるの?」「青葉は、雪乃よりも強いから……」その言葉が刃のように胸を刺した。青葉はよろめいて後ろに下がった時、壁際にあったほうきを倒してしまった。部屋の中は急に静まり返った。青葉は、逃げるように慌てて走り去った。走りながら手のひら
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第2話
青葉は病院の廊下に立ちすくみ、頭の中でキーンと耳鳴りが響いていた。「妊娠」という医師の言葉は、まるで青葉の頭を直接殴りつけたかのようだった。青葉は思わず拓海を見た。しかし、彼はきょとんとした後、その目に喜びを浮かべた。そして、「よかった……これで全部が元通りになる」と嬉しそうに呟いた。その言葉がどういう意味か、青葉にも分かった。雪乃が妊娠したからだ。拓海はもう「拓真」を演じる必要がなく、自分の元へ戻ってこられるのだ。けれど、そんなものはもう、いらない。「ですが、奥さんは貧血ぎみですね。一度、輸血をしなければいけません」という医師の声で、青葉の思考は断ち切られた。拓海はすぐ袖をまくったが、医師に止められた。「あなたとは血液型が合わないです。B型の輸血が必要です」青葉は、そのB型だった。拓海はそっと視線を戻し、少し迷ってから青葉に歩み寄った。「青葉さん、雪乃が身籠ったんだ。この子供は……俺らが長いあいだ願っていた子なんだ」彼は一息置いてから言った。「どうか雪乃に、血液を分けてやってくれませんか?子供が無事に生まれたら、絶対に埋め合わせをしますから」埋め合わせ、だって?青葉は心の奥で、鼻で笑った。拓海のいう埋め合わせとは、再び自分の元に戻ってくることなのか?「血液なら差し上げます。それに、埋め合わせなんていりません」青葉は表情を一つも変えずに言うと、そのまま看護師に付いて部屋を出た。注射針が腕を貫き、自分の血が真っ赤なまま袋に溜まっていくのを、青葉はただ見ていた。不意に、新婚の頃、ひどい熱を出した時に拓海が自分をおぶって何キロも走った夜のことを思い出した。あの時も今日と同じような鋭い注射針があったが、拓海は自分の手をしっかりと握りしめてくれていた。「大丈夫、青葉。俺がここにいるよ」なのに今、自分の血は、他の女の体を温め、彼らの新しい命のために使われようとしている。その後しばらくの間、青葉は家の中で休んでいた。ふと窓の外を見ると、拓海はあれから一度も職場に姿を見せていなかった。毎日、お弁当箱を手にして家と病院の間を行き来する姿があった。今日雑炊を作ったら、明日はシチューを煮込み……いつの頃だったか。自分が風邪をひいた時も、彼はこうしてコンロの前に立ち、工夫を凝らして自分に栄養のあるものを作ってく
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第3話
注文のとき、拓海は慣れた様子で次々と頼んだ。「塩は控えめで、酸っぱくて辛い感じで……あ、ネギは抜いてください」すべて雪乃の好みだった。店員から「妹さんは何にしますか?」と尋ねられてようやく気づき、拓海は青葉へ向き直った。「私は何でもいいです」お茶を飲む青葉の目は、たちのぼる湯気で見えなくなっていた。料理が並んでも、青葉はうつむいたまま、機械的にご飯を口に運んだ。のどがキュッと詰まって、彼女はハッとした。お皿に載っていた団子に胡麻が入っていたのだ。青葉は胡麻アレルギーだった。昔の拓海は青葉の体質をしっかり覚えており、食堂での食事ですら胡麻抜きを指定してくれていた。それなのに、拓海は目の前で胡麻を使った団子を注文している。「青葉さん?」青葉の顔色が真っ青なことに気づき、雪乃が怪訝そうに言った。「どうしたの?」拓海は驚いて顔を上げた。赤く腫れた青葉の肌を見るなり、勢いよく立ち上がった。「胡麻を食べたんですか!?」だんだん息ができなくなり、青葉の視界は暗くなっていった。遠のく意識の中で、拓海が近づいてくるのが見えた。しかし雪乃の痛々しい声に阻まれた。「ああっ……お腹がすごく痛い……」一瞬、世界から音が消え、時間が止まったようだった。青葉の見つめる先で、拓海は硬直し、目の前の自分と雪乃の間で迷っていた。とうとう拓海は雪乃を腕に抱いた。立ち去る際、焦った様子で店員に告げた。「妹を、どうか病院へ……」「しっかりしてください!」店員の慌てふためく叫びが、さらに遠くかすんでいく。やがて意識が途切れ、青葉は闇の中へと落ちていった。鼻を突く消毒液の匂いで、青葉は激しい痛みと共に目を覚ました。目を開けると、看護師が点滴の交換をしているところだった。「目が覚めましたか?」看護師はホッとした。「運ばれるのが遅れたら大変なことになるところでした」青葉は何か喋ろうとしたが、喉の奥がただただ焼けるように痛い。あのとき拓海が何のためらいもなく雪乃を抱いて去っていった光景が、何度もまぶたの裏に浮かんだ。青葉が再びまぶたを閉じると、大粒の涙が目尻から静かにこぼれ落ちていった。その後3日間の入院期間、青葉は一人きりだった。アレルギーの痒みで夜も眠れず、水すら喉を通らなかった。最もつらかった時、病室の外からぽつ
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第4話
青葉は、拓海の身体がはっきりとこわばったのを感じた。「何だって?」彼の声が、急に冷たく沈んだ。雪乃は、目を真っ赤にして泣きじゃくった。「ちょっとお小遣いを稼いで、服を買いたかっただけなの……このままだと、特別風紀取締班に連れて行かれちゃう……」帰還手続きは他人に譲ることが禁止されていて、違反行為は許されなかった。拓海は、おでこに青筋を立てて怒った。「俺の毎月の給料は全部渡しているのに、どうしてそんな事をしたんだ!?」「だって……」雪乃は拓海の袖を引っ張り、地団駄を踏んだ。「ねえ、どうすればいいの?私は妊娠してるのよ。捕まるのなんて絶対に嫌よ」その時、玄関のドアが激しく蹴り開けられた。制服姿の3人の男が、ドカドカと踏み込んできた。「雪乃さんですね。あなたが地方復興員の帰還手続きを不正に売買していたと、匿名の告発がありました。署までご同行願います」あたりの空気が、一瞬で凍りついた。拓海は長い間だまり込んでいたが、やがてぽつりと口を開いた。「妻ではありません」全員の視線が、一斉に拓海に集まった。息が詰まるような沈黙の後、彼は一語一句、はっきりと告げた。「この件は知っています。妻がやったのではありません。やったのは……青葉さんです」青葉の頭の中が、真っ白になった。「今、何て言いましたか?」青葉の声が震える。「もう一度言ってください、誰がやったって?」拓海は青葉から視線をそらし、ごくりと喉を鳴らした。「青葉さんです!」青葉は、震える声で何か言おうとした。だがその前に、特別風紀取締班の男たちに両腕を押さえつけられた。「目撃者の証言があるので、おとなしくついて来てください!」トラックに乗せられる瞬間、青葉は拓海を鋭く睨みつけた。拓海は身を挺して雪乃をかばっていた。凛々しい立ち姿は、かつて大災害の時に命がけで自分を救ってくれたあの優しい彼の面影を、もうどこにも残していなかった。……狭くて暗い取り調べ室の中で、青葉がどれだけ身の潔白を訴えても、誰も耳を貸そうとしなかった。「菅原隊長が自ら証言したんだ。嘘であるはずがないだろう?」班長は机の上に乱暴に万年筆を叩きつけた。「いいから、さっさと吐け!」3日間のあいだ、一滴の水も一口の食事も与えられないまま、青葉は炭鉱へ連行され、 強制労働を命じられた。
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第5話
拓海は勢いよく青葉を放し、熱いものに触れたように、よろけながら後ずさりした。「すみません、俺は……」拓海はごくりと喉を鳴らし、掠れた声で言った。「ここ数日、雪乃の様子が落ち着かなくて入院しているんです。勘違いして、部屋を間違えました」拓海は踵を返し、背中を向けてまるで逃げるように立ち去った。青葉は口元を乱暴に拭い、そのバカバカしさに苦笑いをした。拓海がこれほど嘘が下手だなんて知らなかった。今は昼間だし、間違って入るほど、自分のことが分からなくなるわけがないはずなのに。青葉は数日後、退院手続きを終えて病院をあとにした。その退院した日、ちょうど基地の一般開放日だった。青葉が基地の宿舎に戻ると、愛想の良い夫人たちにすぐさま取り囲まれた。「青葉ちゃん。菅原隊長が亡くなられて随分経つのだし、あなたもいつまでも塞ぎ込んでいないで。良い人を紹介してあげる!」「そうよ、岡田隊長の下の息子さんなんか、若くして将来有望、本当にいい男よ……」青葉はすでに隆平からのプロポーズを承諾していることを告げようとした。だがそれより早く、一人の青年の前まで連れていかれた。「ほら見て!広瀬さんよ、科学研究所で働いているの。お家には家具が全て揃っているそうよ!それにお給料も月30万円もあるらしいわ!」その青年が、眼鏡に触れて自己紹介をしようとした。その瞬間、大きな影が猛烈な勢いで入り込み、彼の顔を拳一撃で殴り倒した。「きゃあっ!」その場にいた全員があっけにとられた。青葉が顔を上げると、激怒して血走った拓海の目線と合った。拓海は制服のボタンを外し、呼吸を大きく乱して叫んだ。「奥さん方のお気持ちだけで結構です」一語一句、押し殺した氷のような声音だった。「青葉さんの面倒は、自分が見ますので、他人のお節介など要りません」そう言うなり、拓海は青葉の腕を力任せに掴んで引っぱって行った。随分と遠くまで連れていかれ、青葉はそれを強引に振り払った。「拓真さん!」青葉は拓真の名前をあえて強調した。「お節介を焼いているのはあなたのほうですよ」拓海の瞳がかすかに揺らめいた。「はっきり言いますが、私とあなたは、何の関係もないでしょう?私が見合いしようと誰と再婚しようと、私の勝手です」青葉が踵を返そうとしたとき、背後から鈍い叩きつける音
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第6話
翌日、空がうっすらと明るくなり始めた頃、庭から車のエンジン音が聞こえてきた。青葉は目を開け、拓海の車がだんだんと遠ざかる音を聞いていた。ほっと一息つこうとしたその時、寝室のドアが乱暴に蹴り開けられた。パシッ。激しいビンタが青葉の頬に叩きつけられ、焼けるような痛みが走った。雪乃がベッドの隣に立ち、その目は深い憎しみに満ちていた。「あんたって本当にいい度胸ね!夫を亡くしたからって、自分の義理の兄をたぶらかすなんて!」「何をバカなことを言っているんですか?」青葉は頬を押さえた。しかし次の瞬間、ピンと来た。昨夜のことだ……なんて滑稽なのだろう。拓海は自分と正式に役所に婚姻届を出した、本当の夫なのに。それなのに今の二人の関係は、他の女に浮気現場を押さえられたかのように言われてしまうのだ。「勘違いしないでください、昨日の夜は彼が……」「黙りなさい!」雪乃は、サイドテーブルの上のキャンドルを激しくなぎ倒した。「ちょっと顔がいいからって、人の夫を誘惑できると思わないことね。今日、拓真の心の中で誰が本当に大事なのか、はっきり思い知らせてあげる!」火が音を立ててカーテンに燃え移り、一瞬にして燃え広がった。「頭がおかしいんじゃないですか!?」青葉はベッドから飛び起きて外に逃げようとしたが、雪乃に手首を強く掴まれた。「何をそんなに焦ってるの?」雪乃は鼻で笑う。「私が一緒に死ぬとでも思った?」雪乃は青葉の耳元に顔を寄せ、冷酷な声で囁いた。「ここへ来る前に、拓真に連絡しておいたの。ねえ、彼はまずどっちを助けると思う?」押し寄せる煙で青葉の涙が止まらなくなる。必死でもがいていると、外から慌ただしい足音が聞こえてきた。「雪乃!青葉さん!」拓海が火の海に飛び込んできた瞬間、青葉はぼんやりと結婚初夜を思い出していた。拓海は自分を抱きしめ、こう言ったのだ。「青葉、覚えておいてくれ。どんな時だって、俺にとってお前が一番だから」だが、現実は違っていた。拓海は青葉に目もくれず、真っ直ぐに雪乃を抱き上げて外へ飛び出していったのだ。「拓海……」青葉が手を伸ばした時、崩れ落ちた梁が行く手を阻んだ。熱風が肌を焦がす中、青葉は倒れ込んだ。その刹那、いつかの拓海の姿がフラッシュバックした。基地の専属劇団の舞台裏で、彼は微笑みながら自分の手
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第7話
退院の日、あまりの陽射しの強さに、青葉は思わず目を細めた。基地の宿舎の入り口に差し掛かったとき、紗枝が爪先立ちになって手を振る姿が見えた。「青葉さん!やっと来てくれましたね!」「上野さん?」青葉は乱れたおくれ毛を整えたが、まだ火傷の残る右腕がジンジンと痛んだ。「賀川隊長の方が全て手配してくださって、明日の朝一番の船で出発することになりました」紗枝は声を潜め、懐から乗船券を取り出した。「荷物はあまり多くしないでほしいとおっしゃっていました。あちらの離島に、何でも揃っているそうですから」青葉は慌ててポケットからポチ袋を取り出し、彼女に渡した。「わざわざお知らせいただき、ありがとうございます」「あら、仲介の手数料は賀川隊長からすでにいただいているのに!」「これは別のお礼です」青葉はそれを紗枝の手に押し込み、かすかに微笑んだ。「私の新しい生活への第一歩ですから」紗枝はきょとんとした顔になり、すぐに嬉しそうに言った。「そうですね、お祝いしなくちゃ。亡くなった旦那さんのことなんか忘れて、もうこれから先のことを考えろってことですよ……」そう。世間の人たちにとって、拓海はもう死んだことになっている。任務の失敗で、血に染まった部隊章と共に消えたことになっているのだ。けれど青葉だけは知っていた。拓海は平気な顔をして、今でも別の女性と睦み合っているのだ。青葉が話し出そうとした時、いきなり玄関のドアが乱暴に蹴破られた。拓海が、不機嫌そうな顔をしてそこに立っていた。制服が汗でぐっしょり濡れている様子からして、大急ぎで戻ってきたに違いない。「もう青葉さんに再婚の相手を連れてくるなと言ったはずでしょう!」拓海は紗枝の手から包みを奪い取った。「彼女は俺が養うから、再婚など認めません!」紗枝は体がビクッとするほど怯えた。「でも、もう青葉さんは……」「上野さん、お引き取りください」青葉はそっと遮り、紗枝に目で帰るよう促した。紗枝が慌てて帰ろうとすると、家に入ろうとしていた雪乃とぶつかりそうになった。雪乃は青葉を守るような姿勢の拓海を見上げ、その目は鋭く光った。……夜遅く、青葉が黙々と身の回りの整理をしていると、いきなりドアが開いた。雪乃がわざとらしく、目立たない腹を抱え、鼻で笑った。「まだ前のお仕置きが堪えていないのね。ま
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第8話
港に着き、青葉が荷物を引いてバスを降りると、グレーのコートを着た男性が嬉しそうに手を振っているのが目に入った。「青葉!」ずっと想いを寄せていた青葉の姿を見つけると、隆平の目は一気に輝いた。彼は足元の荷物も気に留めず、急いで青葉のところへ駆け寄ると、彼女の持っていた荷物を受け取った。「僕が持つよ」青葉も、変に遠慮するつもりはなかった。それにこれから夫婦になって一生を共にするのだから、早く隆平に慣れるべきだと思った。青葉は手元のスーツケースを渡し、少し微笑んだ。「ありがとう」その澄んだ涼やかな声が耳に入った瞬間、隆平の耳はトマトのように真っ赤になった。彼は照れくさそうに頭をかき、嬉しそうに笑った。「水臭いよ、これから家族になるんだから」家族?青葉は足を止め、思わず隣にいる隆平を見上げた。こうして目の前の男性をちゃんと見るのは、何年ぶりのことだろう。紗枝や高校時代の同級生の噂話に至るまで、共通していたのは彼が青葉を深く想っているということだった。あまりに一途な想いゆえに、賀川の両親がいくつものお見合い話を持ってきても、すべて断り続けていたという。魅力的な女性たちが積極的にアプローチしても、ことごとく遠ざけていた。自分が未亡人となってからも、周囲の言葉に惑わされることなく、ひたむきに自分の答えを待ち続けていた。今この瞬間も、彼は視線を感じさせないよう盗み見を続けている。目と目が合うと、すぐにそらし、それでも真っ赤な顔だけは隠し切れないでいる。その可愛い様子に青葉はつい吹き出してしまった。しかし次の瞬間、何かを思い出したように、真剣な顔で隆平を呼び止めた。「隆平、お話ししたいことがあるわ」もう拓海のことは諦め、過去のすべてを水に流して隆平と新たな一歩を踏み出すと決めた。だからこそ、隠し事はせず誤解を解いておきたかった。青葉の真剣な態度を見て、隆平も嬉しそうな笑顔を引き締め、まっすぐに見つめ返した。「ああ、何でも言ってくれ」青葉は深く息を吸い込んで言った。「私の過去のことは、知っているわよね?」知らないはずがない。ずっと青葉を見守っていたからこそ、夫を失ったと聞いてすぐにお見合いの仲介人を立ててプロポーズしたのだ。基地の宿舎の全員に、青葉は自分のパートナーだと知らしめるために。そして、誰
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第9話
そう言えば、青葉はむしろ、拓海が自分から退路を断ってくれたことに感謝するべきかもしれない。当時、拓海が亡くなったという知らせを初めて聞いたとき、青葉はショックのあまり精神的にひどく参ってしまった。そのせいで、「拓真」のことを、何度も自分の夫と見間違えるほどだった。青葉を完全に諦めさせるため、拓海は基地の宿舎の全員の前で、自分は一生、雪乃の夫だと固く誓った。さらに、自分が拓海であると証明する書類や遺品をすべて自分で燃やした。「死んだ」拓海への供養として、拓海がもう本当にいないことを、青葉に受け入れさせようとしたのだ。そのため、彼が拓海であると証明する人や証拠は、この世にもう一切残っていなかった。今さら自分が拓海だと言い張っても、頭がおかしいと判断されて精神病院に入れられるか、もしくは本当に拓海だと判明すれば、嘘をついていたとして監査委員会によって刑務所に送られるだけだった。どちらの道を選んでも、お先真っ暗なことに変わりはなかった。そしてこの事実は、青葉にとっては後の面倒事がきれいになくなることを意味していた。それを聞いて、隆平はハラハラしていた胸をなでおろした。彼の覚えている拓海は、常に冷静で、細かなところまで気がつく完璧な男だった。そんな拓海が、まさか色恋沙汰のせいで、こんな風に自分で自分の首を絞めることになるとは思いもしなかった。だがこれでいい。これで青葉を奪い返されることはない。これからは、青葉は一生自分のものだ。そう考えると、隆平には自然と顔に嬉しそうな笑みが戻ってきた。青葉に握られていた手を、今度は自分から力強く握りしめた。「隆平、あなたと人生を歩むと決めたからには、前のことには決着をつけたわ。誰のことも二度と振り返らない。ただ、あなたにも一つだけお願いがある。私を失望させるようなことはしないで。私を裏切ったら、すぐにでもあなたの前から永遠に去るから……」青葉が最後まで言い切る前に、彼女は隆平のその逞しい腕の中にきつく引き寄せられた。隆平がまとう石鹸の清潔な香りと温かい陽だまりのような匂いが青葉の鼻をくすぐり、こわばっていた体がすうっと軽くなっていくのを感じた。「青葉のことをずっと、この10年ずっと愛してきたし、待ち続けていたんだ。僕との結婚を受け入れてくれたことが、どれほど特別なことか、他の誰よりも分
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第10話
拓海は、青葉を駅に送り届けると、休む間もなく病院へと急いだ。青葉に突き倒されてからというもの、雪乃は切迫流産の兆候があり、ひどく気弱になって拓海から離れようとしなかった。ほんの少しでも姿が見えないと、雪乃は酷く悲しんで泣きじゃくり、挙句には意識を失ってしまうのだった。それを思い出すと、拓海は急いで足早に廊下を突き進んだ。予想通り、病室で目を覚まして夫がいないと知った雪乃は、堰を切ったようにボロボロと大粒の涙をこぼしていた。「拓真、拓真、どこにいるの?」いくら呼んでも答えはなく、雪乃はだんだんと不安に襲われ、それと同時にお腹にもじわじわと痛みが走りだした。だが痛みにも構わず、衰弱した体に鞭を打って、自らベッドを抜け出して拓真を捜そうとした。次の瞬間、雪乃がずっと呼んでいた夫が外から突然ドアを開けて近づいてきた。「雪乃!」フラフラの状態で床へ転びそうになった雪乃を目にして、拓海はひやりとしてとっさに抱き止めた。「気をつけて!」見慣れた腕の中に抱かれ、張り詰めていた悲しみと恐怖が一気に溢れ出した。雪乃は拓海の服を強く掴み、顔を上げて彼を見つめた。雪乃が上を向くと同時に、あふれた大粒の涙がハラハラと床へ落ちた。「私、もうあなたに捨てられたのかと思った……」ここ数日、拓海が見せる青葉に対する奇妙な態度と、青葉からの目に見えない挑発に、雪乃は強い危機感を覚えていた。実家で両親が泥沼の離婚をし、そこからの十数年の苦渋を身をもって味わってきた雪乃は、この手の気配に並外れて敏感だった。だからこそ、雪乃は気が気ではなかったのだ。かつて父が母を見捨てたように、今度は夫が自分を見捨てるのではないかと震えていた。この数年のあいだ、拓海は本当に雪乃に尽くしてくれた。泥沼から彼女を引っ張り出してくれ、かつて夢にも見なかった素晴らしい生活を与えてくれた。特に、彼が任務から帰ってきてからは、まるで狂ったように雪乃を愛し、毎晩抱かない日はなかった。彼にこれほど愛されたからこそ、もう離れることなんてできない。彼なしでどう生きていけばいいのか、考えるだけで怖かった。そんなおぞましい最悪のシナリオを、全力で回避するために、雪乃は必死になって予防線を張っているのだ。なのに雪乃が目を覚ますと、拓海の気配すらない。代わりに残さ
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