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彼はまだ自分があとどれだけ生きられるのか分からなかった。だからこそ、一度でも多く抱いておきたいと思った。その時が来て、自分が逝ったとしても、もう悔いは残らないように。海咲は心の中でふと感慨に耽った。なるほど、よく「孫は目に入れても痛くない」なんて言われるけど、ファラオの子どもたちを見る目はまさにその通りの優しさだった。もし他人から話を聞いただけなら、きっと信じられなかっただろう。だが今、彼女は自分の目で見て、心から納得していた。今、宝華は粉ミルクを飲んでいるが、星月はまだ食べていなかった。それにファラオもたぶんまだ食事をしていない。「外で何か買ってくるわ。何が食べたい?」「ママ、ハ
海咲は、彼がわざと隠していることに気づいていた。だが、今は証拠もなければ、詳しい事情も分からない。ただ、遠回しに説得するしかなかった。「今、お父さんが元気だからこそ、ちゃんと病院に行って診てもらって、少しでも長生きしてほしいの。二人の子どもが大きくなるの、お父さんも楽しみにしてるでしょ?その時に二人が結婚して、私たちみんなで一緒に結婚式に出席できたら、素敵じゃない?」「そうだな、本当にその日が来たらいいな」ファラオの心にもそんな未来への憧れが満ちていた。だが、自分はこれまであまりにも多くの悪事を働き、たくさんの人を傷つけてきた。今、こうして報いを受けているのかもしれない。それでも、死
病気になったのなら、治療すればいい。今の医療技術はここまで進歩しているし、彼らはお金にも困っていない。だったら、なぜこんなことをする必要があるのか?「いい子ね、おじいちゃんに直接聞いてみましょ」海咲は事情を知らないから、子どもに適当なことを言うわけにもいかなかった。彼女は疑念を胸に病室のドアを押して中へ入った。ファラオはスマートフォンを見ていて、顔を上げなかった。訪ねてきたのは看護師だと思い込み、不機嫌そうに言った。「さっきはっきり言ったと思いますが、こういうことは俺自身が決めるべきです。なのに、まだ――」顔を上げ、海咲の姿を認識した瞬間、彼の言葉は喉の奥で止まった。瞳には驚き
星月はファラオとの関係がどんどん良くなっていた。会えるのが嬉しくて仕方がない様子だった。「ねえママ、今日の宿題もう終わったよ。チェックしてくれる?」「もちろんよ」海咲はにっこり笑って頷いた。幼稚園の宿題はとても簡単だったし、星月もきちんと丁寧に仕上げていたから、特に直すところもなく、すぐに確認は終わった。星月は宿題を片付けると、軽い足取りで階下へ行き、テレビを見始めた。海咲は娘の宝華と戯れながら、くつろいだ時間を過ごしていた。そんなとき、玄関のインターホンが鳴った。宅配便だった。海咲は最近ネットで何も頼んでいなかったから、州平のだろうと思って、深く考えもせずに受け取り、箱を開け
海咲の眉間には次第に深い皺が寄っていった。――今日の父の様子、どうにもおかしい。思い返せば、前に自分と州平が出かける際、娘を数日預かってもらおうとしたときも、彼は「用事がある」と言って断ってきた。そのときは深く考えなかった。年配の人間にも生活がある、そう思っていた。けれど、今日の電話の違和感が加わると、無視できなくなった。電話の中で、海咲は疑念を押し殺し、表には出さなかった。「宝華は今寝てるの。今週末、星月も学校が休みだから、そのとき一緒に会いに行くわ」「うん、いつでも時間があるときでいいよ」ファラオは電話を切ったあと、深くため息をついた。ちょうどその時、病室のドアが静かに開き
州平は顔を上げ、まっすぐに白彦を見つめた。「自分を試してみたいと思わないか?」「もちろん思います。実を言うと、ここに入社したのも、限界を超えて自分を成長させたかったからです」白彦の返答はまったく迷いがなかった。彼は生粋のキャリア志向型の人間だった。学生時代から数々の大企業でインターンを重ね、どんな雑用でも学びになることなら進んでやってきた。そして卒業後、帰国を選んだのは自分の力を試し、限界を突破したかったからだ。「ここに新しいプロジェクトがある。企画書はすでに完成していて、残るのは細部のブラッシュアップと、プロジェクト全体の進行管理だ」州平はファイルをデスクに置き、彼の前に滑らせ