第 10 話

「売女」という言葉が彼女に向かって投げつけられ、佳子は顔色が青ざめ、頭がクラクラし、掌を強く握ることで最後のメンツを保っていた。

もしかしたら、自分は、祐摩の目には、金さえ出せば何でもする人間に映っているのだろうか。

彼女は自己弁護をするつもりはなかった。

深く二回息を吸い、「最近少し暇だったので、ちょっとした仕事を引き受けただけですよ」と佳子は言った。これ以上彼と気まずくなりたくなかったので、あえて一歩後ろに下がった。

祐摩は彼女が無駄なことをするのを好まなかった。「彼がどんな人間か、調べたことはあるのか？」

佳子は黙った。

祐摩は彼女を見上げさせると、威圧感を放ちながら、唇を引き締めて言った。「調べていないだろ」

佳子は本当に疲れていた。どんなに説明しても彼は受け入れない。

しかし、佳子は少し困惑していた。彼がなぜそんなに怒っているのか理解できなかった。こんな大事にするのは彼らしくない。

真剣に考え直してみると、男の本能的な独占欲から来ているのかもしれない。

自分の妻が外で目立つのや、他の男と食事や酒を共にするのを好まないようだ。

佳子は顔を下げ、唇を噛んで黙っていた。

照明が、彼女のあまりにも美しい顔を照らしていた。艶やかで赤い唇はベリーの汁を塗ったように潤っていて、甘い香りを放ち、思わず押し倒したくなるほど美しかった。

祐摩は前に二歩進み、彼女の顔を持ち上げた。「彼は今夜どこに触れた？」

佳子はその問いに少し困惑した。

彼女は顔を背け、唇を噛みしめ、何も言えなかった。

祐摩は淡々とした表情と穏やかな声で、まるで自分とは無関係な小さな事を尋ねるように言った。「話せ」

佳子は唇を噛み締め、口を閉ざした。

彼は高い位置から彼女をじっと見つめた。

彼の細く白い指の腹が彼女の唇に触れ、まるで弄んでいるかのようだった。

祐摩の声は低く、かすれ気味だった。「ここに触れたのか？」

佳子は涙を浮かべて、首を振った。

彼はその答えを聞いて満足したようで、冷たい表情が少し和らいだ。

彼は長く美しい指で彼女の唇を開き、無造作に指先を入れて、のんびりと尋ねた。「ここは？」

佳子は涙がこぼれ落ち、熱い涙が彼の手の甲に当たった。

祐摩の動きが止まり、数秒沈黙した後、彼は親指を引き抜き、ハンカチで濡れた指先を拭いた。「辛いか？」

佳子は彼の前で泣きたくなかった。しかし彼女はとても頑固だった。

彼に対して弱さを見せたくなかった。

まるで涙で彼の同情を引き出そうとしているようだった。

でも、実際に祐摩は簡単に誰かに同情するような男ではなかった。

佳子は祐摩よりも冷酷な人間を見たことがなかった。

冷たく、理性的だった。

たとえ彼が美保をどんなに愛していても、限界があった。

自分を卑屈な立場に置くことはなかった。

祐摩は手を挙げ、彼女の涙を拭いた。「泣いても問題は解決しない」

佳子は涙声で言った。「知っています」

彼女は繰り返した。自分に言い聞かせるかのように。「大崎さん、私にはわかっています」

佳子はただ、自分が彼の前で特別に尊厳を失っていると感じていた。

でもそうか、早くから自分を彼に売り渡してしまって、今さら尊厳を語るのは無理だ。

彼女は徐々に嗚咽を収め、鼻声で話し始めた。「彼には、腰を触られただけです」

祐摩は「うん」と返事をした。

佳子は視線を下に向けた。彼を見たくなかった。

一目でも多く見たら、心臓が強く痛む。

彼が好きでなければ、今のように苦しむことはなかっただろう。

しかし、彼女は彼をとても愛していた。

同時に平等な愛を渇望していた。

佳子の鼻先は赤く、目の周りも赤かった。彼女は足元を見つめた。「これからは大崎さんの顔を汚さないようにしますが、私は続けてもいいですか。」

デザインの仕事を。

彼女は未来のことを考えなければならなかった。

祐摩との契約婚は、あと二年で期限が切れる。

離婚した後、彼女は自分で生計を立てなければならない。

祐摩はあっさりとした口調で言った。「ダメだ」

彼は彼女の腰を抱き寄せ、彼女を見つめた。「水上さん、俺は君がこの仕事を続けることを望んでいない」

佳子は黙っていた。

これは無言の反抗だった。

祐摩は彼女が泣いて赤く腫れた目を見て、苛立ちを感じた。

彼はすぐにその奇妙な感情を抑え、「君がどうするかは君次第だ」と言った。

佳子は彼の言葉を聞き、彼の態度を理解した。

彼女は譲るつもりはなかった。

大したことはない、彼の見えないところでデザインを続けるだけだ。

佳子はぼんやりとしていると、突然お腹が痛くなり、顔色はほとんど血色がなくなった。

軽い痛みが次第に鋭くなり、無視できないほどになった。

彼女は徐々に腰を曲げ、無力な手で彼の腕を支え、顔色は紙のように白くなった。

祐摩は彼女を支え、眉をひそめた。「どうした？」

佳子は震えながら言った。「お腹が痛いです」

彼女の体はもともと弱かった。

特に妊娠がわかってから、ほとんど休むことができていなかった。

元々体が弱いのに、今夜はさらに驚かされてしまった。

当然、問題が出る。

祐摩は彼女を抱きかかえ、「病院に連れて行く」と言った。

佳子は彼の袖を掴み、首を振った。「いいえ、病院には行きません」

彼女は今でも祐摩に自分が妊娠していることを知られたくなかった。