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第108話

作者:
包丁を握る昭彦の手がピタリと止まり、トマトの果汁が刃を伝ってまな板に落ちた。

彼は横顔を見せ、普段より少し低い声で探るように言った。

「そうかな?」

静奈は彼の口調に含まれる異変に気づかず、笑顔で頷いた。

「もちろんです」

言葉が落ちるや否や、突然インターホンが鳴った。

そのピンポーンという音が、キッチンの音を遮断した。

そして、昭彦の喉元まで出かかっていた言葉も遮った。

じゃあ、君がなってみるかい?

静奈は立ち上がり、ドアを開けに行った。

ドアの外に立っていたのは、あろうことか彰人だった。

静奈は少し驚いた。

彼女の声には、幾分かのよそよそしさが混じった。

「どうしたの?」

彰人は手に保温容器を持っていた。

その表情は淡々としており、まるで通りがかりに立ち寄っただけのように見えた。

「おばあさんが、お前が足を挫いたと聞いて心配していた。料理を作らせたんだ」

静奈は保温容器を受け取り、まるで他人行儀に礼を言った。

「ありがとう。近いうちに本邸へお礼に伺うわ」

その時だった。

昭彦が炒め物を手に、キッチンから出てきた。

「朝霧君、ご飯ができたよ」
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