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婚約破棄、国の極秘計画へ
婚約破棄、国の極秘計画へ
مؤلف: 黒紅嵐柏

第1話

مؤلف: 黒紅嵐柏
「相沢澪(あいざわ みお)様、再度確認させていただきますが、妹の相沢詩織(あいざわ しおり)さんの責任追及を放棄し、告訴も取り下げるということで、よろしいですか?」

「はい、取り下げます」私は落ち着いた声で答えた。

「もう一度、よくお考えください。あなたの左手は腐食が骨に達しており、病院からは生涯回復の見込みがない障害と認定されています。また当方としても、相沢詩織さんがあなたの研究室に無断で侵入し、実験用の液体を硫酸にすり替えたことが原因で今回の傷害に至った、と判断しています。証拠はすべて相沢詩織さんを示していて、警察としても、あなたが責任追及を継続されるのであれば、相手方が弁護士を付けたとしても、傷害事件として立件され、実刑となる可能性は高いです」

「もう大丈夫です。これまで対応していただき、ありがとうございました。責任追及はしませんので、この件はこれで終わりにさせてください」

しばらくの沈黙のあと、警官は小さくため息をつき、最後に一言添えた。

「もし次に、また彼女が同じようなことをしたら、必ず警察署に来てください。ここでは、誰にもあなたをいじめさせませんから」

私はうなずいて、警察署を出た。

「今、病院じゃないのか?」

婚約者の矢ヶ部安臣(やかべ やすおみ)から電話がかかってきて、胸の奥がずきりと痛んだ。

少し間を置いてから、私は彼に答える。

「退院した」

私が入院していたこの半月、安臣は詩織とヨーロッパへ行き、テニス観戦をしていた。

私のことは、そのまま病院に置き忘れられていた。

「今どこにいる?」

安臣はそれだけ尋ねてきた。

私は、警察署の前にいたことを隠して言った。

「学校」

詩織の責任追及をやめるのも、安臣の意志だった。

硫酸で皮膚を抉られた直後、私は先に警察へ通報した。証拠はすべて詩織を示していて、警察は彼女を連れて行った。

ところが、私が手術室から運び出された直後、半年ぶりに、安臣が電話をかけてきた。彼は命令口調で言った。

「詩織への追及を取り下げろ。この件は彼女とは無関係だ」

傷口の痛みもつらかったが、胸の奥を抉られるような痛みのほうが、よほど耐えられなかった。

ベッドの上で布団に指を食い込ませ、胸を押さえたまま、咳が止まらなかった。

最後には言いたいことを全部飲み込んで、平坦な声で、ただ一言を返した。

「分かった」

翌日、私は師匠に電話をかけ、迷いを切り落とすように告げた。

「ロケット計画に、参加いたします」

ロケット計画は国家の極秘計画だ。一度参加すれば、この先ずっと世間と関わらずに生きることになるかもしれない。

安臣のことを捨てきれなくて、私はずっとロケット計画に踏み出せなかった。

けれどその日、ようやくすべてを悟った。どれだけ無理をしても、安臣が私を好きになることはない。

だったら、私が彼を手放す。

師匠は淡々と告げた。

「君の口座に四千万円を振り込んだ。半月で全部片づけろ。迎えはそのあと、こちらで手配する」

私は急いで学校へ戻った。ちょうど同じタイミングで、安臣も来ていた。

車の中の彼は、眉骨が際立ち、鼻筋の通った端正な横顔をしている。金縁の眼鏡越しの瞳は、静かに澄んでいた。

顔を上げて彼の目と合った瞬間、胸の奥がまた、ちくちくと痛んだ。

私は反射的にすぐ目を伏せた。

「乗れ」

短く言われ、私は後部座席のドアを開けて、音を立てないように座り込む。

車が走り出しても、私たちは息を合わせたみたいに一言も交わさなかった。

もともと、私と安臣に共通の話題なんてない。

昔の私は、彼と過ごせる時間ができるたびに、はしゃいで色んな話をしていた。

彼はうんざりした素振りも見せない。けれど返ってくるのはいつも沈黙だった。

珍しく、今回は彼が沈黙を破った。

「お誕生日、おめでとう」

私は首をかしげ、スマホを開いた。今日が自分の誕生日だと、そのとき初めて気づいた。

けれど、まさか、彼が私の誕生日を覚えているなんて。

顔を上げると、バックミラー越しの彼の目は相変わらず冷淡で、感情の欠片もない。

そういうことか。彼がそう言ってくれたのは育ちの良さゆえで、私を大事に思っているからじゃない。

「ありがとう」

会話はそれで終わりだった。残りの道は、沈黙だけが流れていく。

そして家に着いて、ようやく分かった。安臣は詩織の誕生日を祝いに来たのだ。

私と詩織は、生まれたときに取り違えられた。詩織は私の代わりに相沢家で十数年暮らしてきた。

私が見つかって連れ戻されたのは、高校一年のときだった。

それでも詩織は、相沢家の箱入り娘として、今もこの家で暮らしている。

安臣は車を降りると、振り返りもせず足早に屋敷へ向かう。

詩織の誕生日のために、屋敷の外の花壇まできっちり整えられ、祝福の文字が読める形に刈り込まれていた。

スマホを確認しても、誰からも何も届いていなかった。

長いあいだ、こういう扱いの差には慣れたと思っていた。

それでも、目の前で突きつけられると、胸がきゅっと痛む。

大丈夫だと、自分に言い聞かせる。もうすぐ、ここを離れるのだから。

ロケット計画に参加すれば、私は外界とは完全に遮断されることになる。

来る前に、弁護士に作らせた縁切りの書類もバッグに入れてきた。

私はそれを確かめるように指先で触れ、深く息を吸って、安臣の後ろについた。

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