Compartir

第9話

Autor: 満福うつわ
お正月の1週間前、家族のグループチャットが急に静かになった。

12月27日になって、父がようやくメッセージを送った。

【年末年始をどう過ごすか、各自で教えてくれ。誰かが勝手に決めるのはなしにしよう】

兄は仕事。梨奈は友人とスキーへ行くことになっていた。

父と母は、ふたりで家に残るという。

私の番になり、短く返した。

【南ヶ丘で過ごす】

母からの返事は、ひと言だけだった。

【分かった。何か食べたい物はある?送るから】

初めは、何もいらないと返そうとした。

途中まで書いて、消した。

【手作りのたくあんがいいな。それと、お母さんが作る辛みそ】

10分後、母から感嘆符が3つ並んだ返事が届いた。

【分かった!!!辛みそは多めに入れておくね】

思わず笑った。

家族の好意を受け取っても、また私ばかりが我慢する関係に戻るわけではない。

その優しさで私を縛ろうとしないのなら、受け取ってもいいのだ。

大みそかには、帰省しないプロジェクトの仲間が何人か、私の家へ食事に来た。

同僚たちが、鍋の素や飲み物を持ち寄って集まってきた。袋いっぱいのミカンを提げてきた研修中の後輩は、
Continúa leyendo este libro gratis
Escanea el código para descargar la App
Capítulo bloqueado

Último capítulo

  • 家族5人の新居に、私の部屋だけがなかった   第10話

    翌年の秋の連休、私は実家へ帰らなかった。ちょうど大事なプロジェクトが終わり、ようやく取れた3日間の休暇を、自分の家で過ごすことにした。半月ほど前、両親から尋ねられていた。【今年は、知佳の家へ行ってもいい?都合が悪かったら、断ってくれていいから】私はメッセージを見て、ひと言だけ返した。【来てもいいよ】家族が着いたのは午後4時を過ぎていた。兄と梨奈も休みを取り、両親と一緒に来た。私は4足の来客用スリッパを用意して待っていた。母は履き替えながら、足元をしばらく見つめた。「今度は、どうして4足なの?」後ろにいた兄が、あきれた声を出した。「母さん、わざわざ自分が落ち込むようなこと聞くなよ。ここは知佳の家なんだから、自分のスリッパはあるだろ」皆が笑った。母も笑ったが、目は少し赤くなっていた。リビングへ入った母は、仕事用のスペースを見て足を止めた。「ここは、知佳が使っているの?」「うん。家で残業するときに使ってる」そこには壁一面の本棚と、広い机があった。窓辺には、半年ほど前から育てている観葉植物があった。母は机の角を、指先でなぞった。「知佳、子どもの頃から、自分の机が欲しかったんじゃない?」私は料理を皿に盛る手を止めた。「欲しかったよ」子どもの頃、兄には自分の部屋があった。梨奈が生まれると、両親はもうひとつの部屋を子ども部屋にした。私が眠っていたのは、物置を片づけて作った、ベランダ脇の小さな部屋だった。宿題を広げられる大きな机が欲しいと、一度だけ母に言ったことがある。母は、兄や梨奈と張り合わないの、と私をたしなめた。母も、そのときのことを思い出したのだろう。しばらく黙ったあと、静かに言った。「私、自分で思っていたよりずっと、知佳に我慢させてたのね」私は「もう昔のことだから」とは言わなかった。あったことまで、なかったことにはできない。代わりに、洗ったブドウを母へ差し出した。「食べる?甘いよ」夕食の支度は、皆で分担した。父が料理を作り、兄が野菜を洗い、梨奈が果物を切った。母も手伝おうとしたが、私は椅子に座らせた。母は不満そうに言った。「6時間以上もかけて来たのに、お母さんはお客さんなの?」私はわざとうなずいた。「そうだ

  • 家族5人の新居に、私の部屋だけがなかった   第9話

    お正月の1週間前、家族のグループチャットが急に静かになった。12月27日になって、父がようやくメッセージを送った。【年末年始をどう過ごすか、各自で教えてくれ。誰かが勝手に決めるのはなしにしよう】兄は仕事。梨奈は友人とスキーへ行くことになっていた。父と母は、ふたりで家に残るという。私の番になり、短く返した。【南ヶ丘で過ごす】母からの返事は、ひと言だけだった。【分かった。何か食べたい物はある?送るから】初めは、何もいらないと返そうとした。途中まで書いて、消した。【手作りのたくあんがいいな。それと、お母さんが作る辛みそ】10分後、母から感嘆符が3つ並んだ返事が届いた。【分かった!!!辛みそは多めに入れておくね】思わず笑った。家族の好意を受け取っても、また私ばかりが我慢する関係に戻るわけではない。その優しさで私を縛ろうとしないのなら、受け取ってもいいのだ。大みそかには、帰省しないプロジェクトの仲間が何人か、私の家へ食事に来た。同僚たちが、鍋の素や飲み物を持ち寄って集まってきた。袋いっぱいのミカンを提げてきた研修中の後輩は、部屋に入ると私に尋ねた。「水野さん、どこに座ればいいですか?」私はダイニングテーブルを指した。「好きなところに座って、みんなの席はちゃんとあるよ」それほど大きくないテーブルに、6人分の食器がきちんと並んだ。誰ひとり、あとから用意された小さな椅子に座ることはなかった。食事の途中、母からビデオ通話がかかってきた。画面の中では、父と母だけが食卓についていた。私は少し驚いた。「お兄ちゃんと梨奈は?」母は笑った。「言ったでしょう。ひとりは仕事、もうひとりはスキーよ。若い人には、それぞれ予定があるんだから。私たちだって、ふたりでゆっくり年を越せるわ」父も画面へ顔を寄せた。「お母さんも、ようやく分かったんだよ。無理に全員そろえるのは、家族団らんじゃなくて出欠確認だろ」母が父をにらんだ。「何よ。分かったようなことを言って」私は声を上げて笑った。母は玄関へスマホを向けた。あの淡い青色のスリッパは、今もそこに置かれていた。けれど母は、帰ってきたときに履いてとは言わなかった。ただ、穏やかに尋ねた。「今の部屋、慣れた?」「

  • 家族5人の新居に、私の部屋だけがなかった   第8話

    1か月後、父と母、梨奈が南ヶ丘へ来た。母から連絡があったのは、3日前だった。【知佳に会いに行こうと思うんだけど、時間ある?忙しかったら、私たちだけで観光して帰るから。会社に急に行ったりしないから、安心してね】「会社に急に行ったりしない」という文字を、私は長いあいだ見つめた。迷った末、短く返した。【日曜の午後なら大丈夫】3人は、本当に約束した時間に現れた。マンションに着いても、母はそのまま上がってこようとはせず、私に電話をかけてきた。「知佳、今、マンションの前に着いたの。迎えに来てもらっても大丈夫?」外へ出ると、梨奈が紙袋を抱え、ふたりの後ろに立っていた。梨奈は私を見ると、きゅっと唇を結んだ。「お姉ちゃん」以前の梨奈なら、私を前にしてこんなに緊張することはなかった。私は3人を部屋へ案内した。母は中へ入ると室内を見回したが、以前のように「こんな物を買って、もったいない」「これ、何に使うの?」と、私の買った物に口を出すことはなかった。ただ、窓のほうを見て、ひと言だけ言った。「日当たりがいいね」父もソファに座り、珍しく実家へ戻れとは言わなかった。梨奈が紙袋を差し出した。中をのぞくと、入っていたのはプレゼントではなかった。南の島行きの航空券4人分のキャンセル確認書と、作り直した家族の木の写真だった。梨奈は小さな声で言った。「お姉ちゃん、これだけしたんだから許してって言いに来たんじゃないよ。ただ、ちゃんと謝りたくて」私が顔を上げると、梨奈は目を赤くしていた。それでも泣くまいと、こらえているようだった。「お母さんが何でも私を優先してくれるの、当たり前だと思ってた。お姉ちゃんもいつも『いいよ』って言ってくれるから、本当に気にしてないんだって思ってたんだ」梨奈は紙袋の端を指でいじった。「ピアノの部屋のこともそう。あそこが、お姉ちゃんが実家に泊まれる唯一の部屋だって分かってた。それなのに、お母さんから空けておくのはもったいないって言われたら、私もそうだと思った。今考えると、本当にひどかった」母が口を挟もうとした。梨奈はすぐ、母を止めた。「お母さん、かばわないで。私ばっかりいい思いをしてたんだから」部屋が静かになった。梨奈が両親にかばってもらわず、自分の非を認め

  • 家族5人の新居に、私の部屋だけがなかった   第7話

    南ヶ丘へ来て初めての週末に、兄がひとりで訪ねてきた。兄は会社へ押しかけたりせず、前もって私の都合を聞いてきた。私たちは、社員寮の近くのカフェで会う約束をした。顔を合わせると、兄はまず辺りを見回して尋ねた。「こっちの暮らしには慣れた?」「うん。寮は会社から少し遠いけど、必要な物は何でも買えるよ」兄はうなずき、それきり黙った。これまで、こうして座って話すことはめったになかった。実家では、兄と梨奈がいつも楽しそうに話し、私はたいてい聞き役だったからだ。しばらくして、兄はバッグから古いアルバムを取り出した。「母さんが押し入れを片づけてたら、出てきたんだ」私は最初のページを開いた。そこには、子どもの頃の写真ばかりが並んでいた。兄が初めて自転車に乗った日は、私が後ろから支えている。梨奈が初めて発表会の舞台に立った日は、私が舞台の前にしゃがみ、動画を撮っていた。父が入院していたときの写真もあった。私は父のベッドの端に顔を伏せたまま、眠っていた。母が転んでけがをした年には、私が車椅子を押して再診に付き添った。最後のページまでめくったところで、兄が言った。「これ、知佳が写ってるの、こんなに少なかったんだな」私は顔を上げなかった。「ほとんど、私が撮ったから」兄は黙った。しばらくして、兄が小さくつぶやいた。「くそ……最悪だな」私は笑った。「今頃、気づいたの?」兄は顔を手でこすった。「こんなことになるまで、本当に考えたことがなかった。知佳は俺たちよりずっとしっかりしてると思ってた。父さんも母さんも、何かあれば最初に知佳を頼るし、いつもちゃんとやってくれてたから。だから、こういうことは気にしないんだって、勝手に決めつけてた」私はアルバムを閉じた。「気にしてなかったわけじゃないよ。いつも私から『私にも』って頼まなきゃいけないのが嫌だったの」兄は何も言わなかった。それが、かえってありがたかった。別れ際、兄が母からの伝言を口にした。「母さん、年末年始の旅行はやめるってさ。みんなで家にいて、知佳が帰ってくるのを待つって言ってた」私は首を横に振った。「待たないで。今年は帰らないから」兄は少し眉を寄せたが、説得はしなかった。「分かった。そう伝える」2歩ほ

  • 家族5人の新居に、私の部屋だけがなかった   第6話

    翌朝、会議室へ入ったところで、兄から電話がかかってきた。電話に出ずに切ると、兄はかけ直さず、写真を1枚送ってきた。梨奈が買ったばかりの電子ピアノは、彼女の部屋へ移されていた。片づいたゲストルームの壁際には、新品らしきベッドが置かれている。写真の下に、短いメッセージがあった。【母さんが、慌てて用意したんだ】私はひと目見て、画面を閉じた。午前中は、3時間続けて会議だった。会議が終わると、同僚に昼食は何がいいかと聞かれた。反射的に答えた。「何でもいいです。好き嫌いはないので」同僚は笑った。「何でもいいって言われると、かえって迷っちゃいますよ。水野さん、何か食べたいものはないですか?」私はしばらく返事に詰まった。「オムライスがいいです。ケチャップたっぷりの」「決まりですね。行きましょう」同僚と食べる、ごく普通の昼ご飯だった。それなのに、家族で引っ越しを祝ったあの夜より、ずっと気が楽だった。午後になると、母からメッセージが届いた。最初の写真は玄関だった。淡い水色のスリッパが1足、並べてあった。甲には、私の名前が刺繍されていた。次は、スマートロックの管理画面だった。【知佳の指紋も登録できるわよ。帰ってきたら、お母さんがやってあげるから】最後の写真は、作り直した家族の木のデザイン案だった。父と母の名前から、今度は3本の枝が伸びている。私の名前は、その真ん中にあった。母は尋ねた。【これならいいでしょう?】私はしばらく写真を見つめてから、母に電話をかけた。母はすぐに出た。「写真、見てくれた?あの部屋のマットレス、お父さんがわざわざ選びに行ったのよ。腰が悪い人でも楽に寝られるんだって。家族の木も作り直してもらうことにしたから、今度はちゃんと知佳の名前も入ってるわよ」母は早口で話し続けた。今からでも私の分をあれこれ用意すれば、これまでのことは帳消しにできると思っているようだった。私は、母が話し終えるのを待った。「お母さん。私、ベッドがなかったから出ていったんじゃないよ」電話の向こうで、母が黙った。「じゃあ、どうしてほしいの?」母の声には、もう自分が責められているかのようなやるせなさがにじんでいた。「部屋も用意した。スリッパも買った。家族の木も作り

  • 家族5人の新居に、私の部屋だけがなかった   第5話

    南ヶ丘駅に着いたのは、正午を少し過ぎた頃だった。ふたつのスーツケースを引いて改札を出ると、会社から迎えに来てくれた同僚が手を振った。「水野さんですよね?トランクを空けてきたので、荷物は全部入りますよ」何気ないひと言なのに、私はすぐに返事ができなかった。これまで家族で出かけるとき、私はいつも荷物を抱え、後部座席の真ん中に座っていた。兄はいつも言った。梨奈は車に酔いやすいから助手席に座らせよう。父と母は年を取っているから、後部座席は広く使わせてあげよう、と。最後に残った場所が、私の席だった。私が来る前から、荷物を置く場所まで空けてくれる人もいるのだ。入社手続きが終わったのは、午後5時頃だった。同僚は社員寮まで案内し、エントランスと部屋の鍵を渡してくれた。「こっちが建物のエントランスで、もうひとつが部屋の鍵です。なくしたら言ってください。予備は総務にありますから」手のひらに載った鍵を見ていると、自然に笑みがこぼれた。そのとき、母からメッセージが届いた。【夜は何時に帰ってくるの?お父さんが、知佳の好きなカニを買ってきたわよ】私は返信しなかった。午後6時半には、兄から催促が来た。【今どこ?父さん、もうカニをさばくって言ってるぞ】7時10分、梨奈が食卓の写真を送ってきた。5人分の食器がきれいに並んでいる。私の席だけ、出入口に一番近い端に、付け足したように用意されていた。【お姉ちゃん、早く。あとはお姉ちゃんだけだよ】7時20分、とうとう母から電話がかかってきた。電話に出るなり、母は強い口調で問い詰めた。「どういうつもりなの?機嫌が悪いのは勝手だけど、食事くらい帰ってきなさいよ。家族みんなで知佳を待ってるのよ」私は鍵を回し、自分の部屋の扉を開けた。「もう、そっちには帰れないよ」母は黙り込んだ。「帰れないって、残業なの?」「今、南ヶ丘にいるの。今日、入社手続きを済ませたところ」「南ヶ丘?」電話の向こうが静まり返った。数秒たって、遠くから父の声がした。「知佳は何て?」母は意味が分からないように、もう一度尋ねた。「南ヶ丘へ何をしに行ったの?」私はベッドの端に座り、静かに答えた。「南ヶ丘に本社がある会社に転職したの。今日、正式に赴任したの」次の

Más capítulos
Explora y lee buenas novelas gratis
Acceso gratuito a una gran cantidad de buenas novelas en la app GoodNovel. Descarga los libros que te gusten y léelos donde y cuando quieras.
Lee libros gratis en la app
ESCANEA EL CÓDIGO PARA LEER EN LA APP
DMCA.com Protection Status