引っ越し祝いの夕食が終わると、母は栗の焼き菓子を切った。そして、用意したプレゼントを開けるよう、私たちをリビングへ促した。兄には、発売されたばかりのゲーム機器一式。梨奈には、彼女がずっと欲しがっていたヴィンテージのバッグ。父にも、新しい急須と湯呑みのセットがあった。私の番が来たとき、ローテーブルの上にはもう何も残っていなかった。母は数秒固まったあと、思い出したように自分の頭を軽くたたいた。「やだ、私ったら。知佳は何でも持ってるから、余計な物はいらないと思ったのよ」梨奈はバッグを抱え、少し気まずそうに言った。「お姉ちゃん、よかったらこのバッグ、しばらく使う?」「何言ってるの」母はすぐに梨奈を手で制した。「知佳は、そういう物に興味ないでしょう。昔から何も欲しがらない、手のかからない子なんだから」私はうつむき、栗の焼き菓子をひと口かじった。甘いと分かっているのに、不思議と苦さだけが広がっていく。子どもの頃、うちには余裕がなかった。兄がスニーカーを欲しがり、梨奈がピアノを習いたいと言うたび、私は早くから「何もいらない」と答えることを覚えた。その後、家の暮らしが楽になっても、家族の習慣は変わらなかった。兄は欲しい物のリンクを送れば、買ってもらえる。梨奈が少し長く眺めていた物は、翌日には部屋に置かれていた。私の欲しい物を聞かれると、母はいつも同じことを言った。「知佳はしっかりしてるし、何でもいいのよ」長いあいだ聞き分けのいい子でいると、気にかけてもらう手間まで省かれてしまうらしい。夜10時になり、私は借りている小さなマンションへ帰ろうとした。父が眉をひそめた。「こんな日に帰るのか?この家に寝る場所がないわけじゃないだろう」母も手招きした。「ゲストルームのベッドなら、今日の午後に整えておいたわ。今夜くらい泊まっていきなさい」ゲストルームの壁際には、折り畳みベッドが置かれていた。その横には、まだ開けていない段ボール箱が積まれている。クローゼットには、梨奈の部屋に収まりきらなかった季節物の服が詰め込まれ、ベッドのそばには小さな台さえなかった。母は予備の洗面用品を持ってきて、笑いながら説明した。「この部屋ね、本当は物置にするつもりだったの。でも、ベッドを残しておいてよかった。じゃなか
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