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第9話

Author: 磨嶋光塔
兄と母が去った後、私はすぐに身を起こし、口の中の残り物を吐き出した。

それがどの臓器の組織なのか分からなかった。

気持ち悪くてたまらなかった。

ためらっている暇はなく、「ガチャン」という大きな音で玄関のドアが閉まる音が聞こえた。

私は家の中の各部屋を見て回った。

家族全員が外出していることを確認した。

こんな夜中に、彼らがどこに行ったのか分からない。

きっと良いことではないだろう。

しかし、私にとってはめったにないチャンスだった。

私は数日前にお年玉で借りてきたポンプを取り出し、井戸に投げ入れ、ホースで水を外の田んぼに流した。

ポンプが働くのを静かに待つだけでよかった。

私は玄関に立って、家族が遅く帰ってくることを願っていた。

もし見つかったら……

何が起こるのか想像することさえできなかった。

殺されるのだろうか?

家族であっても?

今晩、兄と母の殺人現場に遭遇した後、私は師の言う通り、まず井戸の中のものを取り出すことに決めた。

夢の中で私に体を探すよう頼んできたあの女性を思い出した。

私は心の中で決意を固めた。

時間が一分一秒と過ぎていく中、私は寒い冬の中で緊張して冷や汗をかいた。

私は井戸の縁に伏せて、下を覗き込んだ。

井戸の水は絶え間なくポンプでくみ上げられていた。

幸い、井戸はそれほど深くなかった。

周囲の土から井戸に水が浸透する速度は、ポンプで水をくみ上げる速度に追いつかなかった。

すぐに、井戸の水は底が見えるまで抜かれた。

夜は真っ暗で、井戸も深く暗かったので、懐中電灯を使って下を照らした。

何も見えなかった。

私は決心し、縄梯子を井戸に下ろした。

体を乗り出し、慎重に下へ降り始めた。

ほぼ半分まで降りた時、視界を維持するために懐中電灯に頼るしかなかった。

悪臭がゆっくりと私の鼻に染み込んできた。

下に降りるほど、臭いが強くなった。

私は吐き気を抑えられず、嘔吐した。

この井戸はもう使い物にならない。

私は手を上げて口元の吐瀉物を拭き、苦しみの中で冗談のように思った。

約3分後、私は井戸の底に到達した。

足元には汚れた湿った砂と泥があった。

懐中電灯で周囲を照らすと。一瞬にして寒気が足元から頭のてっぺんまで駆け上がった。

井戸の底には、切断された腕の残骸があちこちに散らばっていた
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