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第20話

Author: 山本 星河
由佳はしばらく立ち尽くして地面の携帯を見つめ、ゆっくりと身をかがめて拾い上げた。

由佳、もう自分を辱めるのはやめよう。

最初から清次の心が偏っていて、彼はいつも歩美の味方だったのだ。

昨日のことも、清次が真実を知りたければ、確認すればすぐにわかるはずだった。ただ、彼は歩美の言葉を信じただけなのだ。

これが男にとって忘れられない初恋相手というものなのだろうか。

「山口総監督、高村さんと北田さんが休憩室でお待ちです」

アシスタントが由佳が立ち尽くしているのを見て、そっと近づいて声をかけた。

「分かった、すぐに行く」由佳はすぐに気持ちを整え、大股で休憩室へ向かった。

「どうだった?社長は何て言った?」由佳が入ると、高村がすぐに尋ねた。

北田も期待していた。

由佳は首を振った。

北田はため息をついた。

高村は驚いた。「まさか、社長は賢いと思っていたのに、実際は馬鹿だったなんて」

「それで、これからどうするの?」

「彼らと話をして、若干の調整をお願いしてみる。あとはいくつかの道具を借りよう。北田さん、加工の時にも見ていてほしい。今ちょっとアイデアが浮かんだから、今晩帰ったら例の図を送るわ」由佳が言った。

「分かった」

由佳は再びメイク室に戻り、歩美のチームと再度話し合い、現状のメイクとスタイリングを微調整した。

由佳の心には既に不満があったが、彼女はMQの責任者であり、その責任も彼女にかかっているため、自分の仕事の責任を果たさなければならなかった。

もし広告の効果が芳しくなければ、MQの責任者として由佳は必ず影響を受けるだろう。

歩美にとっては、その影響はさらに大きい。

以前、歩美と清次が撮られて、歩美がMQのブランドキャラクターに選ばれたとと確認したとき、ネットでは和やかな雰囲気だったが、実際には一波乱があった。

池田さんも人気があり、多くのファンがいるため、広告を奪われた池田さん側は由佳の説明にを納得したが、ファンに陰で囁いたことにより、池田さんのために歩美のSNSで論争を巻き起こした。

もしこの広告の効果が良くなければ、歩美は間違いなく冷やかされるだろう。

これは彼女が帰国してからの最初の広告であり、非常に重要だった。

歩美は由佳の提案を受け入れるしかなかった。

なんとかメイクとスタイリングの問題を解
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Comments (5)
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知華
この社長はつくづくバカ
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みやびみやび
主人公がめっちゃ可哀想... てか旦那(名前忘れた)マジでクソ邪魔でしかない 正妻ぶってる歩美も猫かぶりで心底腹立つし さっさと慰謝料etc.もらって仕事辞めよ?
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こもも空
吉村なにさん?名前読めません
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