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第5話

Author: クロエル
どうやって自分の部屋に戻ったのか記憶もあやふやなまま、ベッドの上に座り込んだ私はぼんやりとしていた。

ここでようやく、シオンとの「初対面」の心の高鳴りから解放され、冷静に今夜の出来事を振り返り始める。

けれど、考えれば考えるほど奇妙な気分が募るばかりだった。

最初にシオンと会った瞬間から、何かがおかしかった気がする。

ドアの前でのあのキス、そしてお化け屋敷でのあの強引さ――私は一度も、本当に目の前にいるのが誰なのかを確認したことがなかったんじゃないだろうか?

シオンとレイ。この双子は、意図的なのか無意識なのか、どこか曖昧にその正体をぼかしている。

もしかしたら、最初に私がキスしたのはレイだったのかもしれない。そして、兄弟でそのまま立場を入れ替えたのではないか――そう考えると妙に腑に落ちる気もする。

特にお化け屋敷でのシオンの態度。あれは確かにいつもとは違った。

さらにさっき廊下で聞こえた兄弟の会話。その内容を思い返すたびに、頭の中には疑問符が次々と浮かんでくる。

深く考え込んでいると、突然ドアをノックする音がした。

「リノ、起きてるか?外で夜食を頼んだから、一緒に食べないか?」

シオンの声だ。

私は数秒間沈黙してから、意を決して答える。

「先に食べてて。すぐ行く」

自分を落ち着け、もう一度兄弟を観察してどちらが誰なのか、そして本当に私の恋人がどちらなのかを見極める必要がある。

リビングに向かうと、二人は既に飲み始めていた。テーブルには私の分らしいジュースが一杯用意されている。

「飲む?」とシオンが声をかけてくるが、私は慌てて手を振った。

「ダメ、私、柑橘アレルギーだから」

テーブルには豪華な夜食が並んでいたけれど、私の胃は不安と疑念でいっぱいで、食べる気になれなかった。

「リノ、何か気に入らない?リノが好きそうなものばかり選んだんだけど」

そう言いながら、シオンは緑のジャケットを羽織っていた。区別をつけるためだろうか?

けれど、どこから話し始めればいいか分からず、私はただ口ごもるばかり。

そんな私を見かねてか、レイがビールの栓を抜き、新しいグラスに注いで差し出してきた。

「姉さんがジュースを飲めないなら、ちょっとだけこれでもどうかな?」

私は断るのも疲れてしまい、そのまま一気にグラスを飲み干した。

麦の香ばしい味わい
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