悪役令嬢は愛する人を癒す異能(やまい)から抜け出せない

悪役令嬢は愛する人を癒す異能(やまい)から抜け出せない

last updateDernière mise à jour : 2025-06-04
Par:  天田れおぽんMis à jour à l'instant
Langue: Japanese
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 貴方を癒すのは私。  では私を癒してくれるのは、誰?  悪役令嬢 × 異能 × 西洋風ロマンスファンタジー ここに開幕!  ミカエラ・ラングヒル伯爵令嬢は王太子アイゼルの婚約者であり、『愛する人を守る』という異能を持っていた。  アイゼルが受けた危害はミカエラが代わりとなってその身に受ける。高い治癒能力があるので死ぬことはないが、壮絶な痛みを受けて苦しむことになる能力だ。  そんなミカエラに浴びせられる言葉は、可愛げが無い、不気味、悪役令嬢。  一方アイゼルは冷たい態度をとりながらもミカエラを愛していて、愛するゆえに手放せず苦しむ。  アイゼルとミカエラの気持ちはすれ違うが、異能は止まらない――――

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Chapitre 1

第1話 悪役令嬢を救いに来た王子さま

(助けてっ! 誰か助けて!)

 猿ぐつわを嵌められて暗い部屋の床に転がされているミカエラは、声を出せないまま心の底から願った。

 此処が何処なのかも分からない。

 夜会会場から誘拐されたミカエラは、長い黒髪をハーフアップに整えて華やかな金色のドレスを着ている。

 ドレスが華やかな分、床に転がされている現状が余計に惨めで残酷だとミカエラは感じた。

(あぁ、わたくしは王太子の婚約者だというのに誰も助けにきてくれないの? わたくしが悪役令嬢だから? でもわたくしが殺されれば困るのは、婚約者であるアイゼルさまなのに……護衛は何をしているのかしら?)

 その時だ。

 心細さに震えるミカエラの耳に、ガシャンという派手な音が響いた。

 ミカエラを閉じ込めていた部屋の扉が粉々に砕け飛び散る。

(眩しい!)

 いきなりまばゆい光が室内へ押し寄せるように差し込む。

 目もくらむような眩しい光の中には、金色の髪をなびかせるアイゼルの姿があった。

(なぜアイゼルさまが⁉)

 混乱するミカエラを、青い目がとらえる。

 彼女を見たアイゼルは一瞬だけ痛ましげに表情を歪めると、キュッと口元を引き締めた。

「もう大丈夫だ。安心して」

 アイゼルは彼女の傍らに跪くと、ミカエラの口元から猿ぐつわを外した。

 自由になった口で、ミカエラは疑問を言葉にする。

「アイゼルさま……なぜ、此処へ?」

 アイゼルはミカエラの拘束を解いて助け起こしながら、どうということはないといった調子で平然と言う。

「愛する君が消えたんだ。必死になって探すに決まっているだろ?」

「……え?」

 ミカエラは呆然と、少し怒っているような、拗ねているような様子のアイゼルを見つめた。

(愛する君⁉ アイゼルさまが、愛する君? え?……それは本当に、わたくしのことですか?)

 助け起こされながらも、ミカエラがそう思うのも無理はない。

 可愛げが無い、不気味、無能。

 そして悪役令嬢。

 それがミカエラの評判だ。

 婚約者であるアイゼルも、その評判を肯定するかのように、ミカエラへ冷たく当たった。

(アイゼルさまは、変な呪いにでもかかっているのでは?)

 ミカエラがそう思ってしまうほど、アイゼルの彼女に対する態度は酷かった。

 だがアイゼルにも事情がある。

「そこまでポカンとした表情をされるとは思わなかったな。これでも君を守ろうとしていたんだよ。ちっとも伝わってなかったみたいだけど」

「きゃっ⁉」

 アイゼルは照れ隠しするように顔を背けながら、ミカエラを横向きに抱き上げた。

 ミカエラがアイゼルへの苦しい想いに悩んでいた時、アイゼルはアイゼルで苦しんでいたのだ。

 ミカエラを愛するゆえに冷たくし、愛するゆえに手放すこともできずに苦しんでいたアイゼルと、アイゼルへの愛と愛ゆえに発動する異能により苦しめられていたミカエラ。

 2人の物語を語るために、時は少し遡る――――

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第1話 悪役令嬢を救いに来た王子さま
(助けてっ! 誰か助けて!) 猿ぐつわを嵌められて暗い部屋の床に転がされているミカエラは、声を出せないまま心の底から願った。  此処が何処なのかも分からない。  夜会会場から誘拐されたミカエラは、長い黒髪をハーフアップに整えて華やかな金色のドレスを着ている。  ドレスが華やかな分、床に転がされている現状が余計に惨めで残酷だとミカエラは感じた。(あぁ、わたくしは王太子の婚約者だというのに誰も助けにきてくれないの? わたくしが悪役令嬢だから? でもわたくしが殺されれば困るのは、婚約者であるアイゼルさまなのに……護衛は何をしているのかしら?) その時だ。  心細さに震えるミカエラの耳に、ガシャンという派手な音が響いた。  ミカエラを閉じ込めていた部屋の扉が粉々に砕け飛び散る。   (眩しい!) いきなりまばゆい光が室内へ押し寄せるように差し込む。  目もくらむような眩しい光の中には、金色の髪をなびかせるアイゼルの姿があった。   (なぜアイゼルさまが⁉) 混乱するミカエラを、青い目がとらえる。  彼女を見たアイゼルは一瞬だけ痛ましげに表情を歪めると、キュッと口元を引き締めた。「もう大丈夫だ。安心して」 アイゼルは彼女の傍らに跪くと、ミカエラの口元から猿ぐつわを外した。  自由になった口で、ミカエラは疑問を言葉にする。「アイゼルさま……なぜ、此処へ?」 アイゼルはミカエラの拘束を解いて助け起こしながら、どうということはないといった調子で平然と言う。「愛する君が消えたんだ。必死になって探すに決まっているだろ?」 「……え?」 ミカエラは呆然と、少し怒っているような、拗ねているような様子のアイゼルを見つめた。   (愛する君⁉ アイゼルさまが、愛する君? え?……それは本当に、わたくしのことですか?) 助け起こされながらも、ミカエラがそう思うのも無理はない。 可愛げが無い、不気味、無能。  そして悪役令嬢。  それがミカエラの評判だ。  婚約者であるアイゼルも、その評判を肯定するかのように、ミカエラへ冷たく当たった。(アイゼルさまは、変な呪いにでもかかっているのでは?) ミカエラがそう思ってしまうほど、アイゼルの彼女に対する態度は酷かった。  だがアイゼルにも事情がある。「そこまでポカンとした表情をされると
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