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第5話

Author: 鳳小安
雲乃は一瞬、呆然としたものの、反射的に手を伸ばして赤ん坊を受け止めようとした。

しかし、駆け寄ってきた若菜に激しく突き飛ばされ、そのまま脇へよろめいた。

「やめて!雲乃さん、どうしてこんなことをするの!」

若菜が両手を伸ばして赤ん坊を受け止めた、まさにその瞬間、部屋のドアが開いた。

床に倒れ込んだ雲乃が顔を上げると、研司はすでに足早にこちらへ歩いてきていた。「何があった?」

「赤ちゃん……大丈夫?お願い、ママを怖がらせないで!」

若菜は赤ん坊を胸に抱きしめ、息もまともにできないほど激しく泣きじゃくった。

「雲乃さん、私、ちゃんと言ったじゃない。研司を奪うつもりなんてない、子供と一緒に彼のそばにいられるなら、愛人のままでも構わないって!

ただ、将来この子が『愛人の子』だって言われて、周りから見下されるのが嫌だっただけなのに!だからって、私の子供を殺そうとするなんてひどすぎるよ!

まだ生まれて3日も経ってないんだよ!こんなに小さい赤ちゃんなのに、宙に放り投げて、床に落として殺そうとするなんて……どうしてそんなことができるの!」

「何だって?」

研司が振り向いた瞬間、それまで優しかった瞳が一変し、みるみるうちに充血していった。

雲乃を見つめるその目には、凍りつくような冷たい怒りが浮かんでいた。「雲乃、俺と若菜の子供を殺そうとしたのか?まだこんなに小さいんだぞ!お前だって妊娠してるのに、どうしてそこまで残酷になれるんだ!」

雲乃はゆっくりと床から起き上がると、説明しようと口を開いた。「私がやってないって言ったら信じる?子供を宙に放り投げたのは彼女自身よ。それから私を突き飛ばしたのも彼女」

「雲乃さん、それってつまり、私が自分の手で息子を殺そうとしたって言いたいの?」

若菜はさらに大声で泣き出した。

「もうこんな家には1秒だっていられない!研司、私、本当に頑張ったのよ。あなたの奥さんとうまくやっていこうって、精いっぱい努力した。でも、この人は赤ちゃん一人すら受け入れられないのに、私なんて受け入れられるわけがないじゃない!

もう死ぬ!この子を連れて、あなたたちの前から永遠に消えてあげる!」

若菜は突然、錯乱したようにベランダへ向かい、赤ん坊を抱いたまま手すりを乗り越えて飛び降りようとした。

階下にいた使用人たちはその姿を目にすると、恐怖のあまり悲鳴を上げた。

「危ない!香坂さん、落ち着いてください!」

「早く、誰か来て!」

「若菜、何してるんだ!」

研司は彼女を力いっぱい抱きとめ、震える声で言った。「もうやめろ!雲乃に謝らせる、それでいいだろ!」

「謝る?謝っただけで、私と赤ちゃんが受けた傷が消えるの?」

若菜は赤ん坊の額にそっと手を当てると、涙をぽろぽろとこぼした。「研司……赤ちゃん、熱があるんじゃない?」

研司も額に触れた途端、その顔色が一気に険しくなった。「どうしてこんなことに……?」

「きっと怖い思いをしたせいよ。新生児の発熱はすごく危険なの!うぅ……研司、私たちの息子が死んじゃう!この子が死んだら、私も生きていけない!」

「今すぐ病院へ行く。俺が約束する。息子は絶対に大丈夫だ。だから落ち着け、な?」

「もしこの子に何かあったら?」

「何かあったら、お前の好きなようにしていい」

「分かった。今言ったこと、絶対に忘れないでね!」

研司は赤ん坊を抱き取ると、そのまま部屋を出ようとした。

雲乃の前を通り過ぎるとき、最後に一言だけ言った。「雲乃、お前は昔、こんな恐ろしい女じゃなかった」

雲乃は背筋をまっすぐ伸ばし、無表情のまま答えた。「私はやってないって言ったでしょ。信じるかどうかはあなたの勝手よ!」

「まだ自分の非を認めないつもりか!」

それでも折れようとしない彼女に、研司は激怒した。「誰か来い!」

「はい、社長」

「妻を庭へ連れていって跪かせろ。俺が病院から戻ってくるまで、ずっとそのままだ!途中で何があっても、絶対に立たせるな!」

「社長……今は一番暑い時間帯です」ボディーガードは躊躇しながら口を開いた。「外は40度近くあります。それに奥様は妊娠中で……」

「俺に逆らうつもりか?」

研司が鋭い視線を向けると、ボディーガードはそれ以上何も言えなかった。

「奥様、失礼します!」

二人のボディーガードが雲乃の腕をつかみ、そのまま階下へ連れていった。

雲乃が顔を上げ、研司のそばにいる若菜を見ると、若菜は挑発するように眉を上げてみせた。

まるで「言ったでしょ。研司は何があっても私の味方をするの」とでも言いたげだった。

そして雲乃が階段を下りようとしたそのとき、背後から若菜が思いきり彼女の背中を突き飛ばした。

次の瞬間、雲乃の体は階段を転げ落ちていった。

激しい物音に、屋敷中の人間が一斉に駆けつけてきた。

ただ一人、赤ん坊を抱いて立ち去っていく研司だけは、最後まで一度も振り返らなかった。

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