雲乃がまだ状況をのみ込めずにいるうちに、手術室から出てきた女医がマスクを外した。「研司、安心して。若菜は無事よ。私がついてるんだから、何かあるわけないでしょ?悪いのは若菜を車ではねた人よ。まともに運転できないなら、最初から運転なんかしなきゃいいのに!」若い女性はようやく涙を拭い、笑顔を見せた。「私はもう大丈夫だよ、雅美先生。あの方もわざとじゃなかったと思うし、それに、彼女も妊娠してるみたいだったから」「若菜さん、まだあの人を庇うの?妊娠してるのに車を運転するなんて、他人を巻き込むようなものじゃないか」「そうだよ。若菜、怖がらなくていいからな。あとでそいつを見つけたら、俺たちが絶対に許さないから!」「必ずきっちり責任を取らせてやる!」その女医は、雲乃の親友である須藤雅美(すどう まさみ)だった。そしてそばにいた数人は、研司が昔から最も親しくしている友人たちだった。憤りをあらわにする彼らを見つめながら、雲乃は全身の血が凍りついたように感じ、下腹部にまでずしりとした痛みが波のように押し寄せてきた。一歩、また一歩と後ずさりした末、背中が壁にぶつかり、ドンッと鈍い音が響いた。その音に気づいた一同が、一斉に彼女のいるほうへ顔を向けた。雅美も雲乃の姿を目にした瞬間、呆然と立ち尽くした。「く……雲乃?どうしてここにいるの?」「雲乃さん?」研司の友人の一人が目を見開いた。「まさか、若菜をはねたのって……雲乃さんなのか?」ほかの者たちも一気に慌て始めた。「うわ……これ、修羅場ってやつじゃないか?」「やばいって。本妻が愛人をはねるなんて……研司さんが2年間も必死に隠してきたのに、結局バレちまったじゃん」その言葉を聞いても、雲乃は動かなかった。ただ顔を上げ、まっすぐ研司を見つめた。彼なら、きっと何か説明してくれる。そう思っていた。しかし研司は雲乃を一瞥しただけで、すぐにベッドの上の若い女性へ視線を戻した。「若菜、今は何も考えなくていい。出産したばかりなんだから、体を冷やすな。雅美に病室まで送ってもらえ。ここのことを片づけたら、すぐにお前と赤ちゃんに会いに行くから」若い女性は状況がのみ込めないまま頷き、不安そうに尋ねた。「研司、何かあったの?もしかして、私をはねたあの方と知り合いなの?もしそうなら、あまり責め
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