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第4章

Author: 希乃
あの日を境に、私は完全に自由を奪われた。

拓海は私のスマホやパソコンをすべて取り上げ、家のネット回線まで切った。

それだけじゃない。私が飲んでいた抗うつ薬も、動悸や息苦しさを抑える薬も、勝手にやめさせた。

私は客室に閉じ込められた。拓海は毎日決まった時間になると食事を運んできて、何事もなかったように笑いながら私の口元へ差し出した。

一方、リビングから聞こえてくる物音は、日に日に耳障りになっていった。

私はドアのそばにもたれ、冷めた目でその光景を眺めていた。あの女が業者たちにあれこれ指示を出し、家の中を好き勝手に変えていく。

その左手には、私の結婚指輪がはめられていた。拓海が「わざわざ南アフリカまで行って選んだんだ」と自慢していたダイヤが、女の指で眩しく光っている。

リビングの中央に飾られていた大きな結婚写真も、壁から外された。

女はハサミを持つと、写真に写る私の顔だけを丁寧に切り取っていく。そして細かくなった紙片を、そのままゴミ箱へ捨てた。

主寝室では工事が始まった。壁紙は新しく張り替えられ、ベビーベッドまで運び込まれた。

私の服、化粧品、両親が遺してくれた数冊の本まで、何もかもゴミ袋に詰め込まれ、部屋の外へ放り出された。

拓海はそのすぐそばにいた。止めることもなく、ただ黙って、あの女がこの家から私の存在を一つずつ消していくのを見ていた。

なのに時折こちらを振り返ると、ガラス越しに私へ微笑みかける。

私はもう怒鳴らなかった。食事を拒むこともしなかった。

ただベッドに横になり、天井を見つめながら、頭の中で十日間を数えていた。

そして十日目。あの女が、胎児の精密超音波検査を受けに病院へ行く日が来た。

その日だけは珍しく、拓海は客室のドアに鍵をかけなかった。玄関で靴を履きながら、こちらを振り返る。

「美雨。今日、検査が終わったら、あのマンションを正式にあいつの名義にする。子どもが生まれたら、ちゃんとあいつを遠ざける。だからもうこんなふうに争うのはやめよう。な?」

ベッドの端に座ったまま、私はその優しげな顔を見つめた。そして小さく頷いた。

「うん」

拓海は心底ほっとしたように笑った。そのまま女の身体を支えながら、玄関を出ていく。

やがて鍵の閉まる音がした。私は静かに立ち上がった。

赤ちゃん部屋へと変えられた主寝室へ向かう。ベビーベッドの布団をめくった。

その下から、三本の消毒用アルコールを取り出す。

ここしばらく、私は手首の傷が化膿したふりをして、拓海から少しずつ手に入れていた。

私は部屋の中を見回した。そしてアルコールを、カーペットやカーテン、クローゼットに撒いていった。

刺激の強いにおいが、家中に広がっていく。最後にマッチへ火をつけた。

小さな炎は瞬く間に燃え広がり、周囲を呑み込んでいった。

私は炎から少し離れた場所に立ち、首から下げていたネックレスを外した。チェーンには、ペンダントトップが通してある。

その小さなペンダントの中には、一枚の写真が入っていた。ICUで拓海が意識を取り戻した日、涙を流しながら撮った写真だった。

あの頃の私は、その写真を指さして笑いながら言ったことがある。これがある限り、何をされても拓海を嫌いになんてならない。

私にとって、それは彼を永遠に許すためのお守りだった。私は何も言わず、写真を炎の中へ落とした。

火が写真の端を巻き込み、黒く焦がしていく。やがてネックレスも灰の中へ落ちた。あれほど輝いていた銀色のチェーンは、炎と煤に包まれ、その光を失っていった。

二時間後、拓海は病院の売店で、女のために水を買っていた。そのとき、スマホがけたたましく震え始めた。

電話に出ると、管理会社の担当者が叫ぶ。

「石井さん!ご自宅から火が出ています!今、消防が消火活動をしています!」

拓海は車に飛び乗った。途中で何度も信号を無視し、必死になって家へ戻った頃には、ようやく火が消し止められたところだった。

二人で暮らした家は見る影もなかった。黒く焼け焦げ、ほとんど廃墟になっていた。

拓海は足を引きずりながら、消防隊員の制止も振り切って中へ飛び込んだ。真っ先に向かったのは、私を閉じ込めていた客室だった。

そしてベッドの上にあったのは、身体を丸めるように横たわった、一体の死体。

壁には、口紅と血を混ぜた赤い文字が残されていた。大きくこう書かれている。

「半分の命返すね。これでもう借りはない」

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