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第378話

작가: 楽恩
私はその人の顔を見たことはない。

けれど、宏が彼と二度ほど電話で話しているのを聞いたことがあった。

どうやら命を預け合うような仲で、宏は彼と山名を深く信頼しているらしかった。

「……まあ、好きにしたらいい」

私は少し考えてから頷いた。

「明後日、離婚届を提出しに行く予定だよ。時間、空けておいて」

黒い瞳がかすかに揺れ、宏は皮肉めいた笑みを浮かべた。

その表情には、どこか苦味が滲んでいた。

「……俺と過ごす日を、いちいち数えてるわけ?」

「そうだけど?」

私は隠す気もなく答えた。

宏はまつ毛を伏せ、薄い唇をまっすぐ結んだ。

「……わかった。君の言う通りにする」

「違うでしょ」

私は静かに言い返す。

「これは最初からふたりで決めたこと。誰が誰に従うとか、そういう話じゃない」

宏は黙って私を見つめ、しばらくしてから低く息を吐いた。

「……昔の俺って、君の前ではこんな感じだったのか?」

「どんな感じ?冷たいとか、適当とか、それとも偽善的?」

私はコーヒーを一口飲む。

「安心して。あなたに対して、わざわざ偽ってみせるほど、暇でも優しくもないから」

最初は、もっと体面よく終わらせられると思っていた。

こうして冷え切った言葉を投げつける日が来るなんて、想像もしなかった。

「で……君はいつから、俺のことを好きじゃなくなった?」

不意の問いに手が止まった。

胸の奥がざわつき、いくつもの記憶の破片が一瞬にして押し寄せる。

混乱して、苦くて、息が詰まりそうなほどに。

「……わからない」

首を振る。

「多分、結婚記念日にあなたが嘘をついた時かな。あの瞬間から、もう無理だと思った」

でも本当は。

手放せなかったのは、彼ではなく、長い年月、自分が必死に捧げてきた努力の方だったのかもしれない。

七、八年。

私は半年以上かけて、その泥沼から自分を必死に引き上げた。

宏は身体を折り、膝に肘を置いたまま俯いた。

「この一ヶ月……一度でも振り返りたいと思ったこと、ある?」

「ないよ」

彼が言い終える前に答えていた。

私は、彼に半分命を削るように向き合ってきた。

もう十分だった。

これ以上、何も残っていない。

長い沈黙のあと、宏は深く息を吐く。

「……明後日の朝、役所に行こう」

私は頷いた。

「今度こそ、偽の証明じゃな
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