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第267話

Author: 森の小鹿
家の中から聞こえる黎の泣き声が、まるで刃のように奈緒の胸を抉った。

今にも理性を失い、なりふり構わず中へ飛び込みそうになる。

しかし、充が壁のように立ちはだかり、行く手を冷徹に遮っていた。

「決まったか?」

感情を感じさせない声が響く。「俺と一緒に芝居を打つか、それとも……ここで引き返すか?」

奈緒は拳を固く握りしめた。爪が手のひらに食い込み、鋭い痛みが走る。

目を閉じ、深呼吸をした。

自分は自分だ。砕け散ることはあっても、決して屈しない。

自分を傷つけ、娘を奪った人たちの前で、何事もなかったように仲睦まじい家族を演じろと?

そんな真似は絶対にできない。

確かに理華は優しくしてくれた。

けれど、その優しさを理由に縛られるつもりはなかった。

今夜の充は本性むき出しで、真っ向勝負を仕掛けてきているし、黎もまだ彼らの手元にいる。

もしここで突入すれば事態はさらに悪化するし、充たちが逆上して黎を傷つけないとも限らない。

黎に危害が及ぶことだけは、何があっても阻止しなければ……

「私があなたの家に入ることは、絶対にないから」

奈緒は目を開き、氷のような声で言った。
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