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第4話

Penulis: 森の小鹿
一方、音を聞きつけた恵が慌てふためいて部屋から飛び出してきて、声を張り上げた。

「地震です!地震が来たんですよね?」

そして、香織もギャンギャン泣いている赤ちゃんを抱っこしていたけど、その音を聞いて、裸足のままバッグを掴んで外へ飛び出し、靴を履くのも忘れてしまうほどだった。

……

しかし、二人がリビングに駆け込むと、いつもは冷静な奈緒が、狂ったように大切にしていた置物を次々と床に叩きつけていた。その光景に、二人はあっけにとられた。

それを見て恵が慌てて駆け寄り、止めに入った。

「奥様、おやめください!ちゃんと話し合ってください、奥様!」

香織も泣きやまない赤ちゃんをあやしながら、震えた声で叫んだ。「奥様、やめてください!赤ちゃんが怖がってしまいます!」

赤ちゃんの悲痛な泣き声が耳に入ると、奈緒は全身の力が抜けたように、ぐにゃりと崩れ落ちた。

彼女はついに手の中の陶器の花瓶を置き、赤ちゃんに歩み寄ると、その体を強く抱きしめた。

一方、赤ちゃんは顔を真っ赤にして泣いていて、両方の小さなこぶしを固く握りしめていた。

そこへ香織が近づいてきて、焦ったように言った。「きっとお腹が空いてるんです。ミルクを作ったのに飲んでくれなくて、母乳じゃないとダメみたいです!奥様、早く授乳してあげてください!」

奈緒はほとんど迷わず、無意識に服の裾をめくり上げようとした。

でも次の瞬間、彼女ははっと何かに気づいた。

顔を上げると、案の定、何とも言えない表情をしている充と視線が合った。

充はこの数年、いつも仕事ができて、メイクも完璧な奈緒の姿ばかり見てきた。こんなだらしない格好で、人前で服をめくって授乳する姿なんて、見たこともなかった。

この瞬間、充だけでなく、奈緒自身でさえ気まずさを感じていた。

でも赤ちゃんの泣き声はやまない。彼女はそんなことを気にしていられず、充に背を向けて服の裾をめくり、赤ちゃんの小さな顔をそっと胸に近づけた。

途端に空気が静まりかえり、赤ちゃんがごくごくと母乳を飲む音だけが響いた。

充はその場に立ち尽くし、授乳する奈緒の後ろ姿を見つめていた。その表情は複雑で、瞳の奥深くには読み取れない何かが渦巻いていた。

そして、恵が、散らかった床を黙々と片付け始めた。

一方、香織が近づいてきて、授乳する奈緒を見ながら、そっと言った。

「奥様、本当に大変でしたね。赤ちゃんに母乳を飲ませてあげるために、胸が張る痛みに耐えて、2週間も頑張って……それでやっと母乳が出るようになったんですものね。

赤ちゃんは母乳を飲むようになってから、日に日に元気に育っていますよ。見てください、このほっぺ。ぷくぷくでしょう」

……

奈緒は何も言わなかった。だが、心はすっかり冷え切っていた。

それでも、彼女の耳は無意識に背後の物音を気にしていた。心は失望でいっぱいなのに、なにか慰めの言葉を期待せずにはいられなかった。

しばらくして、ようやく後ろから微かな足音が聞こえてきて、だんだん近づいてきた。

充は奈緒の前に立つと、まず彼女を一瞥し、それから腕の中で夢中で乳を吸う赤ちゃんに視線を落とした。

その時、赤ちゃんが乳を飲むのをやめたので、奈緒は素早く服を整えた。

充はかがみ込むと、ほとんど無意識に、そしてとても慎重に、奈緒の手から赤ちゃんを受け取った。

「パパだよ。やっと会えたね」

彼は腕の中の赤ちゃんをじっと見つめ、いつもは厳しい顔に、珍しく優しい表情を浮かべていた。

「皆この子が旦那様にそっくりだって言ってますよ。本当に瓜二つです」と香織がそばで微笑ましそうに言った。

「そうか?」

充は笑みを浮かべて顔を上げると、たまらず赤ちゃんをさらに強く抱きしめた。

一方、奈緒は、そっくりな二人の顔を見つめていると、思わず鼻の奥がツンとした。

赤ちゃんを見る充の眼差しは、輝いていた。

奈緒の張り詰めていた心は少しだけ和らぎ、怒りもいくらか収まった。

だがその時、けたたましいスマホの着信音が突然鳴り響いた。

充がスマホを取り出すと、画面に表示された「美紀」の文字が、奈緒の目を鋭く突き刺した。

彼はすぐに脇へ移動して電話に出た。すると、向こうから女性の焦った声が聞こえてきた。

「充さん、裕弥がミルクを吐いちゃったの!たくさん!私、もうどうしたらいいのか……わからなくて、どうしよう?」

それを聞いて、充は顔をこわばらせて言った。「落ち着いて。すぐそっちへ行くから」

そして、彼は何も躊躇うことなく、ソファのコートを掴んで行こうとしたが、ふと何かを思い出したように足を止めた。

「奈緒、美紀は新米ママで何も分からないんだ。様子を見てすぐに戻ってくるから」

奈緒は黙り込んだ。

そして心が、更に冷え切っていった。

大股で去っていく充の後ろ姿を見ながら、奈緒はたまらなく皮肉な気持ちになった。

家に帰ってきて30分も経たないうちに、美紀からの電話一本で、彼はすぐに出て行ってしまった。

充があんなに美紀の面倒を見るのは、本当に仁哉のためなのか、それとも……彼自身がそうしたいからなのか?

一方、香織も赤ちゃんを抱いて、困惑した表情を浮かべた。

「奥様、旦那様は行ってしまわれたんですか?さっき新米ママがどうとかって……新米ママは奥様なのに、旦那様は……」

充が奈緒をないがしろにしているのは、周りの誰の目にも明らかだった。

傍らで見ていた恵は慌てて目配せし、香織にそれ以上言うなと合図した。

逆に奈緒は深く息を吸い込んで、そして冷たい眼差しで言った。

「黒崎さん、赤ちゃんの荷物をまとめて。私も2階で準備するから。もうこの家から出よう」

香織は驚いて口をあんぐり開け、恵もぎょっとして、慌てて奈緒を引き留めた。

「奥様、どうか早まらないでください。旦那様は普段は奥様にとても優しいじゃないですか?彼は……ただ忙しすぎるだけなんです。

妊娠中もあまりそばにはいてくださいませんでしたが、毎週お花を届けてくれていましたし。ほら、テーブルの上のひまわり、まだこんなに綺麗ですよ」

ひまわりは、奈緒が一番好きな花だった。なぜなら、いつも上を向き、必死に成長し、何にも頼らないところがあるから。

でも充は、美紀にあれこれ尽くしながら、妊娠中の自分にはひまわりを数本送るだけ。まるで、一人で強くあれと励むように……奈緒は突然、この花に激しい嫌悪感を抱いた。

彼女は恵を振り払い、冷たく言い放った。

「捨てて。見てるだけで吐き気がする」

そして、奈緒は怒りを抑えきれず、憤然と2階へ上がっていった。

恵は恐れおののきながらも、言われた通りに今日届いたばかりのひまわりをゴミ箱に捨てた。

一方、2階に上がった奈緒は、あっという間に荷造りを終えた。

階下に下りようとしたその時、スマホがブーブーと鳴った。親友の山田蛍(やまだ ほたる)からの電話だった。

奈緒は少し気持ちを落ち着けて、電話に出た。「蛍」

「奈緒、聞いたよ。娘さんの出産祝いのお披露目パーティー。友達をたくさん呼んだって。なんで私を呼ばなかったの?私たちの友情ってその程度だったわけ?」

奈緒は言った。「あれはうちの娘の出生祝いじゃないわ。他の人の息子のために執り行われたものよ」

蛍はそれを聞いてカッとなった。「どういうこと?青木社長は外に女がいるの?しかも息子までいるってわけ?」

妊娠から出産まで、奈緒がずっと一人で乗り越えてきたことを、蛍は誰よりもよく知っていた。

蛍はとっくの昔から充に不満を抱いていたが、まさかここまで馬鹿げているとは思わなかった。

すると、奈緒は口の端を引きつらせ、悲しげに笑った。

「従妹と、親友の息子だって。栗原仁哉という人、覚えてるでしょ?昔、私たちの学校の秀才だった。今は海外で大事なプロジェクトをやってて帰って来られないから、充は彼の息子の世話をするのが当然の務めだと思ってるのよ」

それを聞いて、蛍はさらに腹を立てた。

「だとしても、自分の娘をないがしろにして、よその家の息子の世話ばっかり焼くなんてありえないでしょ?妊娠中ほったらかしだったのはまだしも、娘が産まれたっていうのにこの仕打ち!奈緒、あなた一体あの男のどこがいいのよ?」

奈緒の瞳は冷たく、こみ上げてくる感情を必死に抑えていた。

「会ってから話すわ。まだ体調が万全じゃなくて、車の運転ができないの。私と赤ちゃんを迎えに来て。もうここにはいたくない」

今の奈緒はこの新居に嫌悪感しか抱いていなかった。そして、不快に感じさせる壁一面に飾られた、充との5年分のツーショット写真を見て、吐き気を催すほどだった。

そう思って、彼女は写真をすべて壁から外し、はさみで粉々に切り刻んだ。

それからハンマーを持ち出すと、壁一面のガラス棚を叩き割り、充から贈られた、まったく趣味に合わないバッグを、一つ一つ切り裂いていった。

こうして、奈緒はすべての「ゴミ」を箱に詰めると庭に引きずり出し、ガソリンをかけて火をつけた。

ここの物は、何一つ持っていきたくない。

その想いから、今の彼女はただ破壊したかった。すべてを。

ごうごうと燃える炎が黒煙とともに天に昇り、焦げ臭い匂いが立ち込めた。近所の人々は火事かと思って、次々に窓を開けて様子を窺っていた。

恵と香織は顔を見合わせ、奈緒が放つ冷たいオーラに圧倒されて、近づけずにいた。

その間、恵はこっそりトイレに駆け込んで充に電話したが、3回かけても、彼が出ることはなかった。

一方、蛍が車で駆けつけた時、奈緒は薄いパジャマ一枚で庭の真ん中に立っていた。炎の光が、彼女の青白く無表情な顔を照らしていた。

蛍は鼻の奥がツンとなり、すぐに自分のダウンジャケットを脱いで奈緒の肩にかけた。

「あなたバカなの?産後でまだ回復していないのに、上着も着ないでこんな所に立って!青木社長がいないのはともかく、使用人も気遣ってくれないわけ?」

蛍は悪態をつきながら奈緒を抱きしめ、その手からスーツケースを受け取った。

奈緒は蛍の腕の温かさを感じた途端、意識が遠のき、ぐにゃりと崩れ落ちて気を失った。

「奈緒、奈緒……」

意識が朦朧とする中、奈緒は誰かが自分の名前を呼ぶのが聞こえた。でも、まぶたが重くて、どうしても開けることができなかった。

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