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第9話
Pinakabagong kabanata
拝啓、晴れの君 第9話
私は苦笑しながら彼を見上げると、目の前の人がじっと私を見つめているのが見えた。遠くの空に広がる燃えるような赤い夕焼けが、彼の瞳に映り込んでいる。果てしない深い光を灯していた。「そんなに拓海が気になるのか？」結果、彼は眉を上げ、少し不機嫌そうに私に尋ねてきた。……この人、完全に私の話の要点を勘違いしている。「父さんがいなければ、お前が何者でもなくなるなんて、俺は思わない。だって、お前は絶対に反抗するだろうから。それはお前の父さんがこの十数年でお前に教えてきたことだろ。彼に頼るんじゃなく、自分自身に頼ることを。それに、俺がいる。俺を誰だと思ってるんだ？お前のためのナイト様だろ？」「……」ナイト様とか言っておきながら、この人は午前中ずっと高みの見物を決め込んでいたくせに。……拓海は退学した。私の身分も、いつの間にか職員室に出入りした誰かの口から広まってしまった。すると、まるで一瞬のうちに、普段は私に冷たくよそよそしかったクラスメイトたちが、一人残らず笑顔を向けてくるようになった。高校三年生の時間はもともと残りわずかだ。蓮は海外へ行くし、私も海外へ行くことになっている。同じヨーロッパだが、地域は違う。卒業パーティーの日、学校はかなり本格的な催しを開いた。スーツとドレスが必須だった。パーティーが半ばに差し掛かった頃、私はこっそり抜け出した。実は逃げるつもりはなかったのだが、ダンスに誘ってくる男が急に増え、とある人が嫉妬したのだ。そして私の手を引き、裏口から抜け出した。私はスカートの裾を持ち上げ、ハイヒールだから速く走れない、と彼に言った。蓮は瞳に星屑のような光を宿し、眉を上げて大丈夫だと言い、私をひょいと抱き上げた。私は彼に抱きかかえられ、一台の車に乗せられた。青い塗装のスーパーカーで、以前雑誌で見たことがあった。世界で十台限定の。山間の夜風が耳元を吹き抜け、轟音が絶え間なく響く。夜の星々が広大な夜空に砕け散り、連なる木々が束の間の残像となる。彼は私を連れて、ひたすら山頂へと向かった。私は隣の彼を見つめる。風が彼の前髪を吹き上げた。山頂まで走り続け、車が停まった。遠くの夕闇は果てしなく、眼下を見下ろせば、街全体が連なる微かな光がまるで星の火の
拝啓、晴れの君 第8話
「もう一度言ってみろ」「だから、あんたの娘っていう性悪女がうちの息子を誘惑したって言ってるのよ！」女は明らかに、彼のぞんざいな口調に腹を立てていた。「ああ？俺がお前の息子を誘惑したってんなら話は別だがな。娘が誘惑したんなら、娘に文句を言え」……この一言で、私だけでなく、女も沈黙した。職員室全体が沈黙に包まれた。「いやいやいや、どういう風にお子さんの教育をしてるんですか？」女は怒りのあまり、息が詰まりそうになっている。父は電話の向こうで、さらに屁理屈を続けた。「それに、俺の娘がお前の息子を誘惑したんなら、それは娘に甲斐性があるってことだ。誘惑されたお前の息子は、ただの根性なしってことだろ」「……」女の顔にみるみる血が上っていくのを見て、ようやく担任の先生がスマホを取り上げた。「やはり、学校までお越しいただいて、この件を処理していただけないでしょうか？この件について話し合いで解決できない場合、娘さんには停学と懲戒処分を下すことになります」私は父が次にこう言うのではないかと、本気でひやひやした。「停学にすりゃいいだろ、俺が停学になるわけじゃねえし」しかし、父は最後の最後で理性を働かせたのか、しばらくしたら来ると約束してくれた。思春期の頃、誰もが一度はこんな空想をしたことがあるかもしれない。いつものように教室で授業を受けていると、ヘリコプターの轟音が校舎中に鳴り響く。普段自分をいじめていたクラスメイトも、見下していた先生も。今この時、皆が驚愕の眼差しで見つめる中、ぞろぞろと入ってきた黒服の男たちが、恭しく自分に頭を下げて、こう言うのだ。「若様、お迎えに上がりました。当主がお呼びです」……実を言うと、子供の頃いじめられていた時、私も父がこんな風に私のために乗り出してきてくれたら、と思ったことがある。でも、彼はいつも自分のことは自分でやれと言い、一生そばにいられるわけではない、と諭した。いつしか私は、この父親の身分を忘れ、彼がそれなりに金持ちであることも忘れていた。だから、父が電話で学校のヘリポートはどこかと尋ねてきた時、私は一瞬で不機嫌になった。地味に生きろって言ったのはそっちじゃないの。ヘリコプターで来るってどういうつもり？背景の轟音がやかましく、
拝啓、晴れの君 第7話
「明日、全校生徒にお前の正体を晒してやる！」彼に敵わず、もがいているうちに、私はようやく気づいた。自分は少し無防備すぎた、と。彼はどうしたって男なのだ。私を捕まえようと思えば、あまりにも簡単すぎる。そこで私は助けを呼ぶことに切り替え、通りすがりの人を引き寄せようとした。しかし、喉が嗄れるまで叫んでも、誰も来なかった。彼の腕に噛み付こうとしたその時、彼自身がぴたりと動きを止めた。「は……長谷川さん」どうやら私は、無様でみっともない姿になっている時ばかり、蓮に遭遇するらしい。ふと、蓮が先日私に言った言葉が頭をよぎる。「じゃあ、坂本拓海と末永くお幸せに」「……」その瞬間、私の脳裏にたくさんの光景が浮かんだ。子供の頃、蓮が私の家に住んでいた時、こっそり私を連れ出して広大な海を見せてくれたこと。大きくなって再会した時、喧騒と歓声の中で、彼が目を細めて私に笑いかけたこと。だが、一瞬は一瞬でしかない。拓海は本気で頭に血が上っていたのだろう。蓮が厳しい顔で彼を見ているのに、彼は何も気づいていない。本当に蓮の目の前で、また私の服を破り始めた。そして、私も恐怖で固まってしまった。蓮がどうやって私たちの目の前に来たのか、反応する間もなかった。彼はすでに拓海の髪を掴み、その頭を壁に叩きつけていた。……今のこの場面は、かなり刺激的と言ってよかった。拓海の頭はあまり良くなさそうで、今はもう地面にぐったりと倒れている。蓮はしゃがみ込んで彼と視線を合わせた。それは、私が今まで見たことのない蓮の別の一面だった。彼は手を伸ばして拓海の髪を撫でる。その犬でもあやすかのような仕草に、拓海は何も言い返せずに固まっていた。「次、てめえが彼女をいじめてるところを見たら承知しねえぞ、分かったか？さっさと転校しろ」……蓮が立ち上がる。地面に転がった拓海は、なんとしくしくと泣き始めた。それがまた彼の癇に障ったのか、数発蹴りを追加される。そして、彼は顔を私に向けた。「お前が惚れたのは、こんな奴なのか？」彼の言葉にはまだ殺気が収まりきっておらず、目の奥も少し赤かった。私はまだ気持ちが落ち着かず、二歩後ずさる。すると、彼の瞳が一瞬、戸惑ったように揺れるのがはっきりと見えた。「…
拝啓、晴れの君 第6話
拓海に引かれ、私は振り返って彼を見た。漆黒の瞳を持つその人の視線も、私にぴったりと張り付いている。……「どうしたの……あなた！」体育用具室なんて、ほとんど人が来ない場所だ。私は誰かに手首を掴まれた。「拓海と一緒にいるのが癖になったか？」目の前の男は、目を伏せて私を見下ろしている。今度こそ、私は感じ取った。彼は少し……怒っている？「ただ、彼に仕返しする機会を窺っていただけ」私は床に目を落とす。薄く積もった埃の上には、ボールを運ぶワイヤーカゴの車輪の跡だけが残っていた。すぐそばで、ガシャンと激しい音が響いた。蓮が片手で私の背後にあるバスケットボールの入ったカゴに手をつき、私をそこに追い詰める。今日の彼は、相当機嫌が悪いみたいだ。「いつ、あの馬鹿と別れるんだ？」すごく近い距離で、私と彼は静かに見つめ合っていた。しばらくして、私はそっと彼に尋ねた。「蓮、あなたはどういう立場で、私にその質問をしてるの？」彼は黙り込み、私も黙り込んだ。いつからか、自分が少し欲張りになったのか分からない。結果を求めるようになり、絡み合った糸を解きほぐしたいと強く思うようになった。蓮が、恋愛に対して真剣なタイプではないことは知っている。それに、父の身分を考えても、家柄で言えば私は彼に釣り合わないことも分かっている。でも、ある瞬間、彼の軽薄な態度の裏にある本心を知りたくなったのだ。本当に私のことが好きなのか、それともただの遊びなのか。それをはっきりさせたくて、だから私は尋ねた。けれど彼はただ手を伸ばし、私のこめかみに落ちた埃をそっと払っただけだった。「そうだな、俺には何の立場もない」彼はただ、とても残酷に、私に微笑んだ。「じゃあ、坂本拓海と末永くお幸せに」私と蓮は、少し仲違いしたような状態になった。というか、彼が一方的に私を無視しているだけだ。何度かメッセージを送ったが、彼からの返信はなかった。この時になって、ようやく私と彼の距離が元々どれだけ遠かったかを改めて思い知らされた気がした。……拓海に校舎裏へ呼び出された。ちょうど私にも話があったから、向かうことにした。潜在意識の中で、私がずっと拓海を大したことないと思っていたからかもしれない。あるいは、元々私が彼
拝啓、晴れの君 第5話
学校に着くなり、彼は開口一番、私を問い詰めてきた。「テレビの音だって言ったでしょ」私は俯いて、鞄の中からテスト用紙を探す。「でも、俺は確かに聞いたんだ……」「あなたはあの晩、酔ってたのよ、拓海」私は顔を上げ、彼を睨みつけた。私が彼に腹を立てたのは初めてだったらしく、彼は一瞬呆気に取られていた。そこへ、千夏が横から歩み寄ってくる。「ちょっと拓海、晴香がそんなことするわけないでしょ？この子の頭の中、勉強のことしかないんだから。それに、見てよ、この地味な格好。男が寄ってくる心配なんてないって」千夏のあの言葉が、拓海を納得させる口実になったのかもしれない。拓海は冷静さを取り戻した。しかし、それからの数日間、私の日々はあまり穏やかではなかった。拓海が、私をあまりにもきつく見張るようになったのだ。彼にこれほど強い独占欲があったなんて、思いもしなかった。以前はあんなに、私に無関心だったくせに。彼と別れなかったのは、確かに彼に仕返しをしたかったからだ。でも今は、本気で別れたくなってきた。死ぬほどうんざりする。彼がそんなに私のことを好きだとは到底思えない。ただ、男のくだらないプライドが傷つけられただけだろう。そして私の親友である千夏も、この数日は私に笑顔を向けてはいるものの、いつも上の空なのが見て取れた。たぶん……拓海に冷たくされているのだろう。「晴香、正直に言えよ。お前、俺に隠れて他に男がいるんだろ？」その日の午後の体育の授業中、拓海は相変わらず神経質そうに駆け寄ってきて、私に尋ねた。相手にするのも面倒だ。「晴香、いいか、俺と付き合ってれば損はさせない。お前の家が裕福じゃないのは知ってる。これから必要なものがあったら何でも言え、俺が買ってやる。それに、俺は長谷川蓮と知り合いなんだ！」拓海の口から蓮という名前を聞いて、私は一瞬、現実感を失った。私たちの学校は、設備もリソースも県内では一流とされる。私の周りのクラスメイトも、勉強ができるのはもちろん、実家は基本的に金持ちか、そうでなければ社会的地位が高いかのどちらかだ。だから、このような学校では、生徒の交友関係や地位は、その背景と大きく関わってくる。蓮は、確か転校してきたばかりのはずだ。彼のいるクラスは
拝啓、晴れの君 第4話
【お前もちゃんと自分を飾りな】添えられていたのは、彼が撮った口紅の写真。私の記憶力が良すぎるのが、いけなかった。私は「親友」である千夏のSNSを開き、数日前の投稿を遡って見比べてみる。やっぱり。同じ口紅だ。彼女の投稿には、こう添えられていた。【この色、最悪】そして、今日投稿されたばかりの投稿をもう一度見てみる。同じブランドの口紅が、ギフトボックスに一式入っている。添えられた言葉は、【とある人が機嫌取りに買ってくれたの、うふふ】……もう、状況は明らかだった。拓海が、センスのないチョイスで私の親友に口紅を贈って、嫌われた。だから彼は、彼女をなだめるために一式セットで買い与えた。そして、捨てるのが惜しくなったのか、見下したような態度で、親友が突き返した口紅を私に押し付けてきた、というわけだ。彼はきっと、2万円近くもすると言えば、私にとっては天文学的な金額だとでも思ったのだろう。私がきっと、有り難く拝むとでも。……背後で衣擦れの音がして、振り返らなくても、蓮が後ろにいるのが分かった。彼がシャワーを浴びたばかりの熱気が、私をじりじりと灼くからだ。私はスマホの画面を消す。そこに映り込んだ彼の、何も纏っていない上半身。彼は手を伸ばし、ゆっくりとした仕草で私の襟元を整える。「ちょっといいか、晴香」彼が私の下の名前を呼ぶのは、大抵、私のご機嫌を取ろうとする時だけだ。私は「ん」と相槌を打った。その時、私のスマホがけたたましく鳴り響いた。画面に表示された「拓海」という名前に、私は少し驚く。背後から画面を覗き込んだ蓮の瞳が、すっと温度を失った。「出ろ」「……」「晴香、この口紅、俺からの誕生日プレゼントだからな嬉しいだろ、お前の彼氏、マジで太っ腹だから」電話の向こうの男は、ひどく酔っ払っているようだった。「お前はこれから俺の言うこと聞けよ、な？お前にこんなプレゼント買ってやれるの、俺くらいのもんだろ。ふん、晴香、お前もう成人したんだっけ。じゃあ俺たちも、そろそろ……」彼の曖昧な言葉が、だんだんとよろしくない方向へ向かっていく。私はあまり気にしていなかったが、背後にいる男の指が、不意に悪戯っぽく動き始めた。「ちょっと飲みすぎじゃない、拓海？」私は電
