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第1378話

Penulis: 夏目八月
風馬が馬を駆って出陣する時、遠くに秋本蒙雨の姿を認めて、ようやく心底安堵した。

秋本がどれほど命知らずで捨て身になれるか、彼は知っていた。人間は一度、全力を尽くし死を恐れなくなれば、必ずや大事を成し遂げられる。

これこそが彼の夢に見た戦いだった——己の偉大なる事業のための戦い。それゆえ、これまでの冷静沈着さは跡形もなく消え失せ、長らく抑圧されていた熱血が四肢に駆け巡った。天下に君臨せんとする渇望が、強大な力と信念を彼に授けていた。

野心こそがこの世で最強の力だと、彼は確信していた。誰にも止められぬ力だと。

だが野心など、決して最強ではない。真に強大な力とは愛と憎しみ、そして正義と団結なのだ。

玄甲軍統領・上原さくらの愛国の情!

玄甲軍統領・上原さくらの一族皆殺しへの憎悪!

そして兵士と武芸界の人々が結束し、逆賊を駆逐し民草を守らんとする正義!

風馬は程なく異変に気づいた。秋本率いる兵士たちが一斉に軍服を脱ぎ捨て、下に着ていた平服を露わにしたのだ。その平服には「沢村」の字が刺繍されていた。

沢村の者たちだ!

策に嵌ったのだと悟った。来たのは秋本蒙雨ではなく、沢村家の人々と武芸界の人々たちだったのだ。

どれほど武芸に長けていようと、菅原陽雲が現れた瞬間、彼は身動きを封じられた。指揮権を握ることすらできなかった。

しかし、大石広深率いる叛軍は実に猛烈で、一気呵成に河道から東西二本の大通りまで攻め込んだ。さらに前進すれば、御通りに到達する。

さくらもまた彼らを御通りへと誘導していた。御通りは皇城に最も近いが、民草はほとんど住んでいない。無辜の民を巻き添えにする心配がないのだ。

京中の勲爵大臣たちの邸宅は軒並み門を固く閉ざし、最も腕の立つ護衛を配置して門を守らせていた。叛軍に押し入られ、人質にされることを恐れてのことだった。

中には命知らずもいて、塀の上に這い上がって両軍の戦闘を見物していた。おびただしい死傷者を目の当たりにして肝を冷やし、脚が震えながらも、玄甲軍を見直さずにはいられなかった。

玄甲軍とは、これほどまでに強いものだったのか。

そう、京の人々の多くは玄甲軍がかつてどれほど猛々しい存在だったかを忘れていた。特に放蕩者どもが御城番を腐敗させて以降、いわゆる玄甲軍に何の期待も寄せていなかった。

統領も替わってしまい、もはや北冥親王で
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