LOGIN俊平は落ち着かない様子だった。「君は痩せすぎだ。それに、今日は俺がご馳走する。明日は君がご馳走しろ」「分かった」とわこは席に座った。俊平はすぐにジュースポットを手に取り、彼女のグラスにジュースを注いだ。ボディーガードはビールの缶を開けた。俊平は酒もジュースも飲まず、代わりにココナッツミルクのパックを開けた。とわこは少しお腹が空いていたので、箸を手に取り、声をかけた。「さあ食べよう。ご飯のあと、また外に出て散歩するつもり」「一日中歩いてきたんですよね。足は疲れていないんですか」ボディーガードがからかった。「大丈夫。もしあなたが疲れたなら、後で一人で行くけど……」「あの事件のこと、忘れたんですか」ボディーガードは彼女の勇気を称賛した。「まずは食事です。食べ終わってから考えましょう」「うん」とわこは一口料理を口に運んだ。その時、俊平はグラスを掲げた。「乾杯しよう。これからすべてうまくいきますように」とわこもジュースのグラスを掲げ、彼に合わせた。「俊平、今日は誕生日じゃないよね。なんだか今夜、様子が変だよ」俊平はココナッツミルクを飲み、慌てて首を横に振った。「誕生日なら、必ず知らせてプレゼントを買わせるよ」とわこは思わず笑ってしまった。ジュースを飲もうとしたその瞬間、見覚えのある影が突然目に飛び込んできた。奏は午後、三郎と会ったあと、蓮を探して近くを回っていた。ちょうど食事の時間になり、ボディーガードと一緒にレストランに入ると、とわこを見かけた。ボディーガードの健剛は彼らを認識し、先にとわこのテーブルに着いた。こうして奏と健剛は、彼らのテーブルに座った。俊平とボディーガードは固まった。とわこはウェイターに二人分の食器を持ってくるよう頼んだ。俊平とボディーガードはさらに固まった。食器が運ばれると、とわこは奏のグラスを取り、ジュースを注いだ。俊平とボディーガードは顔を歪めた。助けてくれ。ジュースには睡眠薬が入っているのだ。彼らはとわこに睡眠薬を飲ませ、直接連れ出すつもりだった。すべて順調に行くはずだったのに、なぜ奏が来るのか?この辺りにはレストランがいくつもあるのに、なぜわざわざここを選んだのか?しかも空席がいくらでもあるのに、なぜこのテーブルに座るのか?俊平
俊平は言葉を失った。もし真帆の言う通りにして、とわこを無理やりY国から連れ出したら、とわこが目を覚ました時に激怒するだろう。最悪の場合、もう二度と口をきいてくれないかもしれない。だが従わなければ、とわこはここで命の危険にさらされる。何度も考えた末に、俊平は航空券と睡眠薬を受け取った。「あなたならそうすると思っていた。あなたはとわこのことが好きだから、今の私の苦しみを少しは分かっているはず」真帆は水を一口飲んだ。「真帆、人の悲しみは同じじゃない。俺は俺と仲間の痛みなら理解できる。でも君のことは分からないし、とわこと俺は君の想像しているような関係でもない」俊平は静かに訂正した。二人は何年も連絡が薄かったのだ。男女の感情などあり得ない。ただ後輩としての縁は永遠に消えない。「まあ私が分かっていないということにしておけばいい。あなたたちがY国を離れるなら、その後のことはどうでもいい。私は自分の居場所だけ守れればいい」彼女がグラスを置いた。俊平は、「成功するとは限らない」と告げて立ち上がった。「連絡先を残して」真帆が言う。「困った時には助ける」俊平には、彼女に頼る必要があるとは思えなかった。彼の目には、真帆はどこか幼い少女に見えた。幼い顔なのに、大人ぶった口調を真似する様子が少しおかしい。二人は番号を交換し、俊平は別荘を後にした。ホテルへ戻り、とわこのボディーガードの部屋の呼び鈴を押した。ちょうどボディーガードはとわこと昼食を終えて部屋へ戻ったところだった。午後は一緒に蓮を探しに行く約束をしていた。俊平がドアの前に立っているのを見ると、ボディーガードは少し驚いた。「菊丸さん、俺を探しに来たんですか」「うん」俊平は部屋に入り、ドアを閉めた。「とわこは今日どうだ」「今日は元気です。昼までずっと寝ていました。今は部屋に戻って昼寝しています」ボディーガードが答えた。「でも、きっと眠れないと思います。俺が午前中ずっと蓮を探していたのを見て、少し休ませようとしているんでしょう」「それじゃ、君の休憩を邪魔してしまったな」俊平は顔を赤らめた。「特別に俺を探しに来たということは、何か用事があるんですか」ボディーガードは彼を観察した。俊平の心は不安でいっぱいだった。しかし、とわこに直接頼む勇気はない。だ
ボディーガードはそう言い終えると、足早に外へ出た。レストランを出たところで、蓮を大股で追いかける。「蓮!お父さんもお母さんも、ずっと君を探してるよ。昨日なんて、夜中の二時まで探し回ってたんだ」ボディーガードは彼をとわこの元へ連れて行こうとする。「離して」蓮はもう、大貴を終わらせると心に決めている。ボディーガードは彼にもとわこにも遠慮があり、困ったように言った。「お母さんがね、君を見つけたらすぐ連れて来いって言ったんだよ。連れて行かなきゃ、俺クビになるよ」「放さないなら、俺だってママに言ってあんたをクビにできるけど」その一言で、ボディーガードの手が一気にゆるむ。「蓮様。頼むから行かないで。お父さんとお母さんは、大貴は危険だから近づくなって、あいつに捕まったら……」「誰にも捕まらない。大貴を片付けるまでは、もう追ってこないで」蓮は低く吠えるように言う。「俺を信じて」ボディーガードは言葉を失った。蓮は奏にそっくりな顔立ちで、自信家で誇り高く、気性も激しい。まるで奏の縮小版のようだ。彼の放つ圧倒的な自信と支配力に、ボディーガードは飲み込まれてしまう。ほんの一瞬意識が揺れた隙に、蓮の姿は消えていた。意気消沈しながらホテルへ戻ると、ちょうどエレベーターからとわこが降りてきた。「奏と一緒に蓮を探しに行ったの?」とわこはしっかり睡眠を取ったので、顔色も良く元気だ。「さっき蓮に会ったんですけど、逃げられました」ボディーガードは項垂れ、叱られる覚悟を決める。「正直、あの子が怖いです」「じゃあ私のことは怖くないわけ?」「考えてみたんですけど、多分あの子の方が怖いです」ボディーガードは正直に言う。「奏さんでもあの子には手を焼くと思います。蓮を落ち着かせられるのは、社長だけですよ」とわこは悔しさに眉を寄せた。「寝過ごすんじゃなかった」「そんなこと言わないでください。今日、顔色すごく良くなってます。蓮は自分に信じろって言ってました。大貴はすぐ片付けて、社長に会いに行くって」「本当にそう言ったの?」とわこは事態がどんどん手に負えなくなっていく感覚を覚えた。「はい、あの子を信じます。社長も信じてあげてください。蓮は確信がなきゃ動かない子です」別荘。真帆は数日ベッドで横になっていたが、もう我慢できず起き上がった。
奏が立ち上がり、蓮を捕まえに行こうとした瞬間、レストランの入口から数人が入ってきた。先頭に立っていたのは大貴だ。奏が彼に気づいたのと同時に、大貴も奏を見つける。銃撃事件以来、二人が正面から顔を合わせるのは初めてだ。宿敵同士が再会し、空気が一気に張り詰める。大貴の目には露骨な殺気が宿る。だが二人の間には剛と真帆が挟まっているため、表面上の平穏は保たれていた。蓮は大貴が入ってきたのを見るや、すぐに椅子へ座り直した。彼が大貴を見るのは初めてだ。この男が、ママを傷つけた張本人。ママの機転がなければ、今ごろママは酷い目に遭っていた。こんなやつに再びママを害させるわけにはいかない。だから大貴のことは絶対に許さない。「今日はおじさんと会うはずじゃなかったのか。どうしてここで食事しているんだ」大貴が奏に声をかけながら、さりげなく健剛へと視線を流した。健剛は奏の側にいるボディーガードであり、見方を変えれば剛が奏につけた監視役でもある。大貴は、短期間で健剛が買収されるとは思っていない。だが奏がなぜここにいるのか理由が分からない。健剛の頬はわずかに赤くなり、落ち着かない様子だ。その時、奏が先に口を開いた。「彼は今朝、手が離せなかった。時間を変えて午後に会うことになった」「そうか、納得した。で、こいつは誰だ」大貴はどかっととわこのボディーガードの隣に腰を下ろし、奏に尋ねた。ボディーガードはすぐに大貴へ手を差し出した。「大貴さん、こんにちは。とわこさんのボディーガードです」大貴はその言葉を聞いた瞬間、顔色を怒りで濁らせた。「お前、どうしてここにいる。まさかとわこも来ているのか」彼は辺りを見回し、蓮の横顔と目が合いそうになり、一瞬視線が止まった。奏は蓮が気づかれるのを恐れ、すぐに言い訳をした。「とわこのボディーガードを呼び出したのは、彼にとわこを日本に戻してもらうためだ。昨夜、真帆と話したんだが、彼女はとわこにはこれ以上ここにいてほしくないらしい」大貴は鼻で笑った。「やっと真帆の気持ちを考えるようになったか。とわこを説得できないなら、三郎おじさんに頼めばいいだろう。あの女は彼の女でもあるんだからな。ふっ」奏は水を口に含み、静かに飲み込んだ。「奏、お前らが裏でそんな楽しみ方してるとはな。ふっ。それ
だが技術スタッフはわずかな情報を追跡することができた。「高橋さん、あなたのスマホは今日の午前三時に感染したようです」大貴は太い眉をつり上げる。「午前三時なんて、とっくに寝ている時間だ」「追跡結果では午前三時になっています。あなたが寝ていたかどうかとは関係がないです。ご自宅のネットワークか、あなたの個人情報がどこかで漏れている可能性が高いです。そうでなければハッカーが侵入するのは難しいです」「誰が俺の個人情報を漏らした」「そこまでは分からないので、ご自宅で確かめてください。このスマホについては、持ち帰るかここで解析を続けるかを選んでください。ウイルスを解析するまでは一切使用できない状態です」「そんな物を持ち帰っても意味がない。どこの命知らずの悪ふざけだ。三日後に自分が死ぬだと。誰が仕掛けたのか必ず突き止めてやる」彼は歯を食いしばって言う。技術スタッフは助言した。「新しいスマホを買う時は自分の情報でアカウント登録をしないでください。奥さんの情報を使った方が安全です」「分かった」そしてネットワークセキュリティセンターを出て、スマホを買うためにモールへ向かう。歩きながらも、大貴は険しい表情のまま奏が仕掛けたのではないかという疑いを捨てられない。彼は付き添いのボディーガードからスマホを借り、奏のボディーガードに電話する。「健剛、ひとつ聞くぞ。嘘はつくな。奏に最近おかしいところはないのか。外の人間と連絡を取って、俺を殺そうとしている気配はないのか」と怒気を混ぜて問い詰める。健剛は一瞬戸惑うが答えた。「私の見た限り、この二日ほど彼はずっと家で真帆さんと過ごして、あとはお父様の命令で外に出て視察をして、それから二人の叔父たちとも連絡を取っています。毎日相当忙しそうで、見知らぬ人物と会った様子もないし、若様を殺そうとしている話も聞かないです。もし彼に裏があれば、私はすでにお父様に報告しています」大貴はその言葉を聞いて胸をなでおろす。「あいつに俺を殺す度胸なんてない」「彼はいま完全に高橋家に頼って生きているから、下手な真似をするわけがない」「今、彼は何をしている?」大貴が電話を切る前に、何気なく尋ねた。健剛は一瞬戸惑ったあと、答えた。「さっき彼が三番目のおじさんと電話しているのを聞きました。多分会う約束があるんでしょう
大貴はベッドに座ったまましばらくぼんやり考えるが、まったく糸口が見えない。父に命じられて地方で事業を拡大してから二年になる。この二年、こちらの人間とはほとんど関わりがない。ようやく戻ってきて数日しか経っていないのに、なぜ突然命を狙われることになるのか。奏なのだろうか。しかし奏はまだ実権を持っていない。しかも父はずっと彼を監視している。奏に少しでも失策があれば、父が実権を渡すはずがない。だからこの肝心な時期に自分へ手を出すとは思えない。では奏以外に誰が。まもなく高橋家と二人の叔父たちとの交渉が始まる。二人の叔父たちも、今この時に動くはずがない。大貴は頭をぽんと叩き、深いため息をつく。彼はもう一度スマホの画面を見る。表示されている死亡カウントダウンを消そうとするが、画面がまるで固定されているようにまったく反応しない。どれだけ触っても、カウントダウンを止められない。ホーム画面にも戻れない。他の機能も一切使えない。彼の思考は一瞬で真っ白になる。スマホがウイルスに感染したのか。この死亡カウントダウンはどこかのハッカーの悪ふざけなのか。それとも昨夜適当にサイトを触った時に、悪質なページを開いてしまったせいで感染したのか。そう考えた彼は、技術スタッフに調べてもらうことを決める。ホテル。ボディーガードは昨夜とわこと約束していて、今日は近くで蓮を探すつもりだった。朝起きたボディーガードはまずとわこの部屋の前へ行き、呼び鈴を押す。しかし呼び鈴は鳴っても反応がない。彼はスマホを取り出してとわこに電話する。呼び出し音はつながるが出ない。まだ眠っているのか。ボディーガードは少し待ってから、先に朝食を取ることにする。レストランに着いた時、ボディーガードのスマホが鳴る。とわこからだと思ったが、画面に表示されたのは奏の名前だった。奏は先ほどとわこに電話したがつながらず、ボディーガードにかけてきた。「呼び鈴を押しても反応がなかったんです」ボディーガードが伝える。「朝食を済ませたらもう一度様子を見に行きます。彼女は昨夜深夜の二時過ぎに戻ってきました。多分まだ眠っているのだと思います」「なら行かなくていい」「今日は社長と一緒に蓮を探しに行く予定なんです。一人で行っても意味がありません。彼は私の







