今日は東京の名門、三千院家令嬢、三千院とわこの結婚式だ。彼女の結婚式には新郎がいなかった。新郎の常盤奏は半年前の交通事故で植物状態となり、医者から年内の余命を宣告されていた。失意のどん底に落ちた常盤家の大奥様は、息子が亡くなる前に、結婚させようと決めた。常盤家が、東京での指折りの一流名門だが、余命幾ばくもない人間に喜んで嫁ぐ令嬢は一人もいなかった。…鏡台の前で、とわこは既に支度を整えた。白いウェディングドレスが彼女のしなやかな体を包み、雪のように白い肌が際立っていた。完璧なメイクが彼女の美しさをさらに引き立て、今まさに裂こうとする赤いバラのようだった。その大きくてつぶらな瞳には、不安の色が浮かんでいた。式開始まで、あと二十分、彼女は焦りながらスマホのスクリーンを何度もスライドして、返事を待っていた。無理矢理奏との結婚を強いられる前、とわこには彼氏がいた。奇遇にも、その彼氏というのは、奏の甥っ子で、名は弥だった。ただ、二人の関係はずっと伏せていた。昨晩、彼女は弥にメッセージを送り、東京から逃げ出して、一緒に駆け落ちしようと頼んだが、一晩中待っていても返事は来なかった。とわこはもう、待っていられなかった。椅子から立ち上がった彼女は、スマホを握りしめて、適当な口実で部屋を抜けだした。回廊を抜けて、ある休憩室の前を通ろうとしていたところ、彼女は驀然と足を止まってしまった。閉じたはずの休憩室のドアの向こうから、妹のはるかの気取った笑い声が聞こえてきた。「きっとまだ弥くんが来るのを待っているのよ、うちのバカ姉は!ねぇ、後で会ってあげなよ。もし後悔でもして、結婚してくれなかったら、どうするの?」弥ははるかを抱きしめながら、彼女の首に自分の薄い唇を走らせながら言った。「今更、あいつが嫁入りしたくないってわがままを言っても効かないんだろう?後悔したとしても、俺ん家の用心棒どもが多少強引な手を使って、結婚させてやるぞ!」聞こえてくるはるかの笑声は先よりも耳障りだった。「弥くんが毎晩私と会ってるの、とわこにバレたら発狂するわよ。あっはっはっは!」頭の中で轟音が鳴り響くのをとわこは感じた。彼女は気が抜けたように後退し、転びそうだった。両手でしっかりとウェディングドレスの裾を握りしめていた彼女は、瞼から零
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