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第313話

Author: 月影
あの日、彼女がネクタイを買った時、誰かがそれを見ていたに違いない。

そして、同じデザインを買って拓海に送ったのだ。

それが今日、凌央がその件について言い出した原因だ。

「分かった、カードを取りに帰るよ!」

拓海は真剣な表情で言った。

相手は陰にいて、こちらは明るいところにいる。少し不気味だ。

「じゃあ、私は先に上がるね」

乃亜はそう言って、部屋を出て行った。

彼女が姿を消すまで、拓海はじっとその後ろ姿を見守っていた。

その時、電話が鳴った。

電話を受けてすぐに切り、拓海は車に乗り込んだ。

乃亜が家に戻ると、すぐに紗希からのビデオ通話がかかってきた。

紗希は心配して乃亜の顔を見たかったのだ。

その心配を聞いて、乃亜は心が温かくなった。

紗希だけは、ずっと彼女を気にかけてくれている。

「乃亜が一人でいるのが心配だよ。私がそっちに行って面倒を見るか、それとも使用人を頼むか、どっちか選んで!」

紗希は本気で心配している様子だった。万が一、乃亜が考え込んでしまったらどうしようかと心配していた。

「大丈夫、心配しないでちょうだい!」

乃亜は軽く笑って答えた。

今のところお腹も目立っていないし、体も重くないから、一人でも問題ないと思っていた。

紗希はため息をついて言った。

「分かった、無理には言わないわ。でも、もし何かおかしなことがあったら、すぐに電話してね!」

乃亜はリビングのガラス窓の前に立ち、窓の外を見ながら、複雑な気持ちを抑えつつ静かに言った。

「実は、凌央がさっきここに来て騒ぎを起こしたの。しかも、私を養うって言って、家族カードまでくれるって」

紗希はすぐに怒った。

「え?凌央がエメラルド・パレスで騒いだの?頭おかしいんじゃないの!」

紗希の声には怒りと軽蔑が混ざっていた。

乃亜は静かにため息をつき、ソファの横に歩いて行き、ゆっくりと座りながら言った。

「あの人、ただの衝動的な行動だから、真に受けないほうがいいわよ」

紗希はうなずいて言った。

「そうだね。でも、そんな無理な人に惑わされる必要はないよ」

「もちろん!」

乃亜は軽蔑のこもった声で言った。

「前に一緒にいた時、全然大切にしてくれなかった。それなの
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