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第3話

Author: 花輪香
数日後、蒼真は琴音と息子の湊を伴って、あるレセプションパーティーに参加した。

招待状には「一条社長およびそのご家族のみ」とあったが、琴音は会場の隅に悠里の姿を見つけた。

彼女は社長の専属秘書として常に彼に同行していたため、琴音は二人の関係を少しも疑ったことがなかった。それどころか、彼女の誕生日には自らプレゼントを選び、「いつも夫を支えてくれてありがとう」と蒼真経由で渡したことさえあった。

思い返せば、いつも儚げでか弱い彼女の姿は、蒼真の保護欲を掻き立てるだけでなく、妻の私でさえ彼女を気の毒に思っていた。今になって思えば、自分が本当に哀れで惨めだ。

呆然としているうちに、蒼真は車椅子を押して悠里の目の前までやってきた。

二人の視線が交差する。そのほんの一瞬に、数え切れないほどの言葉が隠されているのが分かった。

蒼真は琴音を悠里に任せ、グラスを手に挨拶回りへと向かった。

彼がいなくなっても、悠里は普段通り恭しく接してきた。

「琴音様、何か召し上がりますか?私がお持ちいたします」

琴音は彼女の顔を見るだけで苦しくなり、ただ首を横に振った。

嫌な顔を見せたわけでもなく、ただ首を振っただけだ。それなのに、悠里はひどく傷ついたような表情を作り、涙ぐみながら頭を下げて背を向けた。

その不可解な行動の意図を理解する暇もなかった。次の瞬間、悠里がうっかり足を滑らせたかのように、巨大な特注ケーキに突っ込むように倒れ込んだのだ。

鋭いケーキの台座に頭をぶつけ、彼女の額から血が流れ落ちた。

周囲が息を呑む中、少し離れた場所にいた蒼真が完全に理性を失い、一直線に駆け寄ってきた。

普段どれほど完璧に偽装していても、愛だけは隠せない。悠里が傷つくのを見た彼の目には、抑えきれない焦燥感が溢れていた。

彼は狂ったように琴音を力任せに突き飛ばし、氷のような冷たい声で怒鳴った。

「どけ!」

車椅子に乗っている琴音が、そんな力に耐えられるはずがない。彼女は車椅子から転げ落ち、硬い床に激しく叩きつけられた。

その場にいたすべての招待客が言葉を失った。愛妻家で有名な一条蒼真が、秘書のために琴音にこんな暴力を振るうなど、誰も想像していなかったからだ。

琴音が床に倒れ、床に広がった血が革靴を汚したのを見て、蒼真はハッと我に返った。慌てて琴音を抱き起こし、車椅子に座らせる。

「すまない、琴音!わざとじゃない、前がよく見えなかったんだ。

真白秘書が怪我をした。俺が病院へ運ぶから、君は湊と一緒に帰ってくれ」

そう言うなり、返事も待たずに悠里を抱き上げ、逃げるように走り去ってしまった。

人波が散っていく中、息子の湊だけが琴音のそばで彼女を慰めた。

「ママ、悲しまないで。パパはわざとじゃないよ。悠里お姉ちゃんの怪我が酷かったから、あんなに焦っちゃったんだよ。

僕が一緒に帰ってあげるからね?」

自分の足元にすがりつく湊を見つめながら、琴音は絶望で声も出せず、ただその小さな顔を撫でて頷いた。

二人で車に乗り込んだが、帰路の途中で突然何者かに車を強引に止められた。

琴音が咄嗟に湊を庇おうとした瞬間、乱暴にドアが開けられ、頭から麻袋を被せられた。視界が完全に奪われる。

体を持ち上げられ、どこへともなく連れ去られた。周囲の音が静まった次の瞬間、容赦ない殴る蹴るの暴行を受けた。

「ああっ……!」

麻袋の中でうずくまりながら、琴音は絶望の底にいた。

湊はどうなったのか。彼の安否を心配しながらも、なぜ自分がこんな場所に拉致されたのか必死に考えた。

絶え間なく拳が振り下ろされ、彼女はついに意識を失った。

――どれくらい経っただろうか。微かに意識が戻り、身もだえしようとした時、耳元で聞き覚えのある声がした。

「社長、奥様を殴りすぎです。もう数時間も気絶されたままです」

「いくら悠里様の復讐とはいえ、十分でしょう。これ以上は奥様の命に関わります……」

私を拉致したのは、なんと蒼真の仕業だったのだ。

すべては、先ほどのパーティーでわざと転んだ悠里の怒りを晴らすためだった。

琴音の心臓が鋭く痛んだ。だが、悲しむ隙すらなかった。信じられないことに、すぐそばから、幼くも恨みに満ちた息子の湊の声が聞こえてきたのだ。

「足りない!

この女、わざと僕のママに怪我をさせたんだ!生き地獄を味わわせてやる!」

直後。

いつも素直で聞き分けの良かった湊が、木の棒を振りかぶり、琴音の背中へ渾身の力で叩きつけた。

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