Se connecterそして、30分後、ホテルに着いた。運転手は、そのまま車を地下駐車場へ入れた。桜と安人は、エレベーターの中で悠翔と鉢合わせした。このホテルは劇団と昔から提携している。劇団は芸能界のスターと共演することもあるため、ホテル側も配慮して、俳優やタレント専用のエレベーターを用意してくれていた。だから悠翔も、誰かに気づかれる心配はないと、すぐにサングラスを外した。そして、その綺麗な瞳で、安人が桜の手を握っているのを、じっと睨みつけていた。一方、桜は悠翔の視線に気づいて、少し気まずくなった。彼女は安人の手から自分の手を引き抜こうとしたけど、彼にもっと強く握られてしまったのだった。そして、安人は悠翔を見つめて、落ち着き払った顔で言った。「外で人が多い時は仕方ない。でも、今は三人だけなんだから。すこしは敬意を払ったらどうだ?」それを聞いて、桜は思わず気まずくなった。彼女はハッとして安人を見上げた。「不機嫌にならないで……」付き合ったばかりというのはもちろん、たとえ本当に結婚していたとしても、悠翔みたいな大物俳優に敬意を払ってもらうなんて、もってのほかだ!一方、悠翔は安人を睨みつけ、奥歯をキツく噛み締めた。長年、自分が片思いしてきた憧れの桜が安人の恋人になったという事実を認めるなんて、そんなのできるわけがないだろ!「あなたたちだって、知り合って間もないだろ?!」悠翔は納得いかない様子で、最後の抵抗を試みた。「この先どうなるかなんてまだわからないんだから、結婚なんてまだまだ遠い話じゃないか!」それを聞いて、桜は言葉を失った。やっぱりね。悠翔みたいな大物俳優で、しかも大手企業の次期後継者でもある人物が、自分を安人の恋人として認めてくれるわけがないだろう。芸能界での評判が最悪な自分のことなんて、悠翔はきっと大嫌いに違いない。彼の安人を見るあの目は怒りに満ちていた。きっと、安人がこんな自分と付き合っていることに、すごくがっかりしているんだ。そう思って桜はうつむいて、そっとため息をついた。安人はそんな桜に視線を落とし、少しだけ目を細めた。そして、エレベーターが最上階に着き、安人は桜の手を引いて外に出た。「部屋番号は?」安人は、後ろからついてきた悠翔に尋ねた。悠翔は、不機嫌そうに部屋の番号を告げた。安人は淡々と言っ
安人は彼を見て、いたずらっぽく笑った。「改めて紹介するよ。俺の彼女、桜だ。いずれ結婚するつもりだ」そう言われ、悠翔は驚いた。……それから、6時間のフライトの間、悠翔はずっと落ち込んでいた。その6時間、安人と桜の席は、通路を一本挟んで悠翔の隣だった。時々、桜と安人の話し声が聞こえてきた。何を話しているかはっきり聞こえなかったけど、それでも悠翔は嫉妬で狂いそうだった!ようやく飛行機を降りると、悠翔は急いで安人と桜を追いかけた。一方、安人と桜を迎えに来た車は、もう着いていた。安人は桜に先に車に乗るよう促すと、ドアを閉めて振り返った。すると、そこで悠翔はスーツケースを引きずりながら、恨めしそうな顔で彼を睨みつけた。一方、安人は平然とした様子で、「どのホテルに泊まるんだ?」と尋ねた。「劇団が手配してくれたホテルだ」悠翔は不機嫌そうに言った。「たぶん桜さんと同じホテルだよ。どうせそっちに行くんだから、ついでに乗せてってよ」だが、安人は表情を変えずに答えた。「いや、ついでじゃないな」そう言われ、悠翔は一瞬ポカンとなった。彼は憤りのあまり発狂しそうになった。すると、悠翔はサングラスを外して、安人を睨みつけた。「安人さん、ひどいよ!俺が桜さんが好きで芸能界に入ったのを知ってたはずだろ!なのにあんたって人は」「お前は憧れの人のために芸能界に入ったとしか言ってない。その相手が桜だとは一度も言わなかっただろ」そう言われ、悠翔は言葉に詰まった。考えてみれば、確かにそうだ……いや、違う。この間、優希には話した。でも、彼女が安人に伝えたかどうかは分からない。そう思って、唇をきゅっと結ぶと、悠翔はぶっきらぼうに尋ねた。「じゃあ、いつから付き合ってるんだよ?」それを聞いて、安人は少し眉を上げた。彼にしてみれば、まさか、悠翔のおかげで大晦日の夜に桜の実家まで追いかけることになった、なんて言えるわけもないのだ。すると、彼は言った。「俺が、お前みたいなガキに恋愛のことまでいちいち報告しなきゃいけないのか?」それを聞いて、悠翔は一瞬黙ったあと言った。「相手が桜さんじゃなきゃ、あんたの恋愛事情なんてどうでもいいよ!」「それはどうも」安人は悠翔の肩をポンと叩き、淡々と続けた。「安心しろ。俺たちが結婚する時は、お前を新郎の
悠翔も桜も、同じような変装をしていた。バケットハットにマスク、それにサングラス。桜はすぐにその存在に気がついた。というか、二人はほとんど同時に、お互いの存在に気がついたみたいだった。すると、悠翔は周りを見回し、ゆっくりと桜に歩み寄った。それを見て、桜は息をのんだ。そして、悠翔が自分の隣の席に座るのを、桜はただ呆然と見つめていた。そこは、さっきまで安人が座っていた場所だった。すると、桜は小さく咳払いをすると、うつむいて帽子をさらに深くかぶり直した。間違いない、この人も同業者だ!と桜は確信した。ここ数年、業界に友達なんていなかった。それどころか、同業者に足を引っ張られたり、悪質な嫌がらせを受けたりしたことは一度や二度じゃない。だって、自分みたいに後ろ盾もなくて、事務所からも推されず、悪い噂ばかりなのに話題性だけはある女優なんて、利用するにはうってつけだから!チャンスさえあれば、誰だって利用しようとするに決まってる。そう思うと、桜は心の中で必死に願った。お願いだから、気づかないで!今は安人と一緒なんだ。もしこの人に安人まで見つかったら、明日のネットニュースは「碓氷安人、スキャンダル女優と熱愛発覚か」っていう見出しで持ちきりになっちゃう!自分は叩かれ慣れてるから今更どうってことない。でも、安人は違う!彼はこんなにも素敵なのだ。そして正真正銘、経済界の大物で、ネットでの評判もすごく良い。個人での慈善寄付だって、数えきれないほどしてるのに。もし自分みたいなスキャンダルまみれの女優と噂になったら、彼の評判に傷がついてしまう……それを考えただけで、桜は血の気が引く思いだった。安人の足を引っ張りたくない。そして桜もちゃんと実力で自分を証明して、世間の評価が変わるまでは、彼との関係は絶対に公表できないのだと分かっていた。「桜さん、ですよね?」そう思っていると隣から、低く響く魅力的な声が聞こえた。桜はびくっと体をこわばらせた。慌てて顔をそむけ、わざと咳払いをしてから、声を低くして答える。「違います。人違いです!」ところが、悠翔はぱっと目を輝かせた。声を潜めてはいるものの、興奮は隠しきれない様子だ。「やっぱり桜さんだ!」そう言われ、桜は何も言えなくなってしまった。もうだめだ……こんなに全身を
桜は、彼のその眼差しに怖気づいて、慌ててお腹を押さえながら言った。「あ、お腹すいたー!朝ごはん食べに行かないと!」安人はくすっと笑うと、彼女を抱きしめる腕の力を少しだけ緩めた。桜はすぐに彼の腕の中から抜け出し、あたふたと部屋の外へ走っていった。慌てて逃げていく彼女の後ろ姿を見ながら、安人は眉間を揉み、やれやれとため息をついた。純粋かと思えば、何でもわかっているようなそぶりを見せるし。かといって、わかっているのかと言えば、全然わかっていないみたいだ。まだ子供だから、ゆっくり時間をかけて育てていかないと。……それから、桜はダイニングテーブルの席に着いた。真紀が焼きたてのパンを取り分けてあげると、桜は笑顔でありがとうと言った。そして真紀は聞いた。「碓氷様はまだいらっしゃらないんですか?」すると、桜は気まずそうに顔をこわばらせた。さっきの大きな勘違いを思い出して、彼女は引きつった笑いを浮かべて言った。「ちょっと電話みたい。すぐ来るって」「そうですか。では、碓氷様の分も先に用意しておきますね」そして、真紀が安人にもパンを取り分けたところで、彼が部屋から出てきた。「碓氷様、朝食の準備ができました。どうぞ」「ご苦労さま」安人はそう言うと、桜の向かいの席に座った。それから、真紀は気を利かせて、二人の食事の邪魔をしないよう、そっとキッチンへ戻っていった。一方、桜はうつむいたまま、顔も上げずパンを頬張った。それを見た安人はかすかに口角を上げた。「桜、顔にパンくずがついているぞ」そう言われ、桜は言葉を失った。彼女は唇をきゅっと結ぶと、彼を見上げた。その瞳は純粋で、様子をうかがっているようだった。一方、彼女をからかいすぎてはいけないとわかっていたので、安人はさっきの件にはもう触れなかった。そして、パンを手に取って言った。「味はどうだ。野田さんの得意料理なんだ」桜はうなずいて、「ありがとう」と言った。パンはすべて真紀の手作りだ。チーズが入っていて、サクサクに焼かれていて、付け合わせのオムレツとも相性が抜群で、格別においしいのだ。桜はすっかり気に入ってしまった。夢中で食べ続け、真紀の腕を絶賛した。そこで、安人はわざと尋ねた。「野田さんの料理と、小林さんの料理、どっちが美味しいかな?」そう
桜はダイニングテーブルに歩み寄り、テーブルの上の朝ごはんに目をやった。そこには、パンとおかずが並んでいた。家政婦の野田真紀(のだまき)がトレーを手に現れ、桜を見るとすぐに笑顔で挨拶した。「おはようございます、桜様」桜はきょとんとしてお手伝いさんを見て、少し恥ずかしそうに小さく頷いた。「こんにちは」「碓氷様はもうすぐお戻りになるはずです。朝食は10時にと仰っていたので、さきに用意してからお呼びにあがろうと思っていたところなんです!」桜は尋ねた。「彼は会社に行ったの?」「はい、碓氷様は会議のために会社へ行かれましたが、もうすぐお戻りになるはずです」桜は頷いた。「なんとお呼びすればいいですか?」「碓氷様からは野田と呼ばれております」「じゃあ、私も野田さんとお呼びしますね」桜は真紀ににっこりと笑いかけた。「先に顔を洗ってきます。朝食ありがとうございます」「いえいえ、桜様、ご丁寧にとんでもないです。今朝、碓氷様から、桜さんのことをこの家の奥様だと思って接するようにと、すでに言いつかっておりますから。これからは何か私にしてほしいことがあれば、何でもお申し付けください。あなた様と碓氷様のお世話をさせていただくのが、私の仕事ですので」奥様!?桜は衝撃を受けた。ただ彼氏の家に一晩泊まりに来ただけなのに、どうして奥様になってしまったんだろう?でも真紀は明らかに安人の言葉を心に刻んでいるようで、桜は何も言えなかった。……そして、主寝室のバスルームには、洗面台に新しい洗面用具が揃えられていた。しかもピンク色だ。桜は昨日の夜、自宅から持ってこようとしたけど、安人は必要ないと言った。彼がすでに新太に買い揃えるように頼んであるから、それで真紀が用意してくれたのだろう。そして、新しいバスタオルやバスローブまで、安人は事前にすべて用意してくれていた。安人が彼女のために揃えてくれた日用品は、ほとんどがピンク系やキャラクターものだった。こうして、シンプルな寒色系のバスルームが、桜のピンクの日用品のおかげで、少しだけ柔らかく暖かい雰囲気を帯びていた。やっぱり桜も女の子だ。こういうピンクで可愛い、さわやかなものが大好きだった。それらを見ていると、桜は暖かい気持ちになった。……そして、桜が身支度を終えてバスルームか
トラちゃんは、慣れた我が家に帰ってきて、すごく興奮していた。桜のお気に入りのカーペットに駆け寄ると、お腹を上にして寝転がって、まるっとした体をすりすりさせたのだった。桜はその様子を見て、思わず笑ってしまった。トラちゃんを指さしながら安人を振り返って、「見てよ、あの子たら」と笑いかけた。安人も口角を上げて言った。「やっぱり君が一番よく分かってるね。確かに、慣れた環境の方が嬉しいみたいだ」「M市ではずっと閉じ込められて、実家では叩かれてばっかりだったから。やっと自分の縄張りに帰ってこれて、嬉しいんでしょうね」桜は部屋に入りながら言った。「先に猫砂を用意してあげないと。移動中、ずっと我慢してたから」桜は棚から猫砂を取り出すと、トラちゃん専用のハウスを開け、トイレに新しい猫砂を注ぎ入れた。猫砂の音を聞きつけると、トラちゃんはすぐに起き上がり、ハウスの中に駆け込んだ。桜はキャットフードも補充すると、急いでハウスから離れた。オス猫のおしっこの匂いはやっぱり少しキツイものがあるから。こうして、彼女はそそくさとハウスのドアを閉めた。このドアは改造してあって、トラちゃんが自由に出入りできるよう、下の方に専用の小さなドアが作られていた。桜がリビングに戻ると、安人がベランダで電話をしているのが見えた。彼女は邪魔をせず、自分のスーツケースを主寝室に運んだ。一方、電話を終えてリビングに戻った安人は、桜が主寝室へ行ったことに気づいた。彼は一瞬足を止め、主寝室の方へ歩いていった。主寝室で、桜はちょうどウォークインクローゼットから寝具セットを抱えてきたところだった。安人の姿を見て、彼女は言った。「明日、家政婦さんが来たら私の部屋に連れてきてくれる?猫砂とかキャットフードのことを説明しなきゃいけないから」安人はベッドに置かれた寝具セットに目をやると、かすかに眉を上げて尋ねた。「今夜はここに泊まるつもりなのか?」桜はボックスシーツを広げようとしていた手を止め、彼を振り返った。「そのつもりだけど、何か?」「ここはしばらく誰も使ってないし、今から片付けるのは大変だろ」安人は彼女を見て言った。「明日にはM市に戻るんだし、今夜一晩、俺の家に泊まりなよ」桜は一瞬ためらったが、考えてみると、彼の言うことにも一理あると思った。それに、今自分は安
詩乃は、これまでそんなことまで考えていなかった。彼女は今まで個人で楽曲の著作権交渉をして、いつも買い取りという形をとってきた。今回の映画主題歌に関しては、浩平にすべてを任せていたし、自分は曲作りに専念するだけだったのだ。でも、この先ずっとこの道を進むのなら、たしかに長期的な視点で考えなければいけない。作曲家として有名になれば、仕事をするアーティストや業務の幅もどんどん広がる。最近では、有名な作曲家が自分でアーティストをプロデュースするケースも増えているし......「私、ひとりでやっていけるタイプじゃないと思う」詩乃は浩平を見て、少し気まずそうに言った。「お兄さん、やっぱりあな
「もし男の子だったら、あなたを実家に連れて帰って、そこで出産させることになるわね。だって、生まれた子は成和の養子にするんだもの。手続きもH市の方が都合がいいでしょ」咲玖は詩乃を見て、微笑んだ。「いや、採血なんてしない!」詩乃は恐怖に顔を歪め、伸ばされた手を避けた。「私の血を勝手に抜かないで!ここは北城よ。そんな好き勝手なことはさせないから!」「ちょっと採血するだけよ。あなたと赤ちゃんを傷つけたりしないから、怖がらないで」咲玖はそう言うと、傍にいたボディーガードに目配せをした。するとボディーガード二人がすぐに前に出た。そして、採血キットを持った医師も近づいてきた。「詩乃様、ほんの少し
それから、グレースヴィラに戻ると、清水はキッチンで食事の支度を始めた。陽斗はベビーシッターに任せて、詩乃は主寝室に戻り、シャワーを浴びてメイクを落とした。披露宴自体は、彼女が何か準備をしたわけではなかった。でも、妊娠してからはドレスやハイヒールをあまり着る機会がなかったから。披露宴ではほとんど立ちっぱなしだったので、さすがに少し疲れてしまった。そこで、詩乃がネグリジェを手にバスルームへ向かうと、浩平はスマホを持って書斎に入っていった。......そして、書斎の窓際に立つ浩平はマネージャーの日和からの電話を受けていた。「カウンセラーが蛍の催眠療法をしてくれたんだけど、彼女
日和は自分の耳を疑った。「由理恵さん、あれは事故です。蛍が亡くなって、オーナーもひどく悲しんでいます。どうしてそんなことが言えるんですか!」「あなたは何もわかってないんですよ!」そう言って、由理恵は日和を睨みつけた。「あの子は私を、ずっと恨んでいますよ!私を恨んでるから、蛍を殺したんですよ!これは私への復讐です!」「由理恵さん、デマカセを言わないでください。そんな話、誰かに聞かれたら、オーナーがまたあらぬ疑いをかけられてしまいます......」「デマカセではありません!」由理恵は叫んだ。「浩平の私への態度は、あなたたちも見ているでしょう。いつも名前を呼んで、嫌悪の感情を隠そうともし