二宮綾(にのみや あや)と碓氷誠也(うすい せいや)は5年間婚姻関係を続けたが、これまで夫婦の営みがあっても愛情の云々とは全く無関係なものだった。いや、正しくは、綾が誠也に抱く感情は、微塵も表に出さないよう、完璧に隠されていた。大晦日の夜、華やかな北城は一面の銀世界で、街の至る所で賑わいを見せていた。しかし、広大な南渓館には、綾ただ一人だった。自分で素麺を作ったものの、一口も手をつけなかった。ダイニングテーブルに置かれたスマホには、インスタのある投稿が表示されていた――画面の中の男の手は骨ばっていてすらりとしており、その手で大きなダイヤモンドを拾い上げ、女性の細い薬指に滑り込ませた。そして、女性のこびるような甘い声が響く。「碓氷さん、これからよろしくね」綾は、動画の中の男性の腕時計に釘付けになった。世界限定モデルという、紛れもないステータスシンボル。彼女の胸に、酸っぱいものがこみ上げてきた。動画は停止しているのに、綾は指を画面から離すことができなかった。まるで自虐行為のように、何度も何度も動画を確認するしかなかった。半年前、あの女性からラインの友達申請が来たのだ。それ以来、彼女のインスタで自分の夫の姿を見かけることが多くなった。周りには婚姻関係を隠し続ける結婚生活を5年間続けているが、彼女は今日初めて、夫にもこんなに優しくロマンチックで、細やかな一面があることを知った。先ほどまで湯気を立てていた素麺は、すっかり冷めてしまっていた。もう食べられないのに、綾は箸を手に取り、麺を持ち上げた。しかし、まるで力が抜けたように麺を挟むことさえできなかった。まるで、このどうしようもない結婚のよう。もうこれ以上、深入りすべきではないのだ。綾は目を閉じ、涙をこぼした。そして彼女は立ち上がり、寝室に戻って洗面を済ませ、電気を消してベッドに横たわった。夜が更けた。暖房の効いた寝室に、服を脱ぐ音がかすかに響いた。大きなベッドの上で、綾は横向きに寝ていた。誠也が帰って来たことは分かっていたが、綾は目を閉じたまま、眠っているふりをした。横のベッドが大きく沈んだ。そして、大きな体が綾の上に覆いかぶさってきた。綾は眉間にシワを寄せた。次の瞬間、ネグリジェが捲り上げられ、温かく乾いた手が触れてきた......
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