LOGIN高校教師として働く華(はな)と浩二(こうじ)は、長年揃って婚活中の身だ。だがこの二人が婚姻関係になる気は微塵も無い。 そんな日々の中。 華の元に突然インキュバスを自称する少年が現れ「僕と結婚して下さい!」と迫った。結婚はしたいが、人外は対象外・論外だ。即座に断るも、行き場の無い彼はそのまま彼女の部屋に居着いてしまう。このままじゃダメだダメだとは思えど、この生活は意外にも心地よく、華は少しづつ絆されていく。 その一方。浩二の方にはサキュバスが現れ、「結婚しましょう!」ときたが、こちらもこちらで「帰れ!」と一蹴されてしまう。 婚活中の者達が、色々な事情と性癖を抱えつつ—— 少しづつ距離が近づいてゆく物語。
View More『掃除を手伝って』と言った言葉通り、華さんは一日中部屋の掃除をして、土曜日を終えた。 居間の本棚の中にそれなりにあった婚活系の本は全てベッドの下にある隙間に片付け、並ぶのは“料理のレシピ本”や“片付けの秘訣”といった、当たり障りの無い内容となっている。(ボクのせい……ですよね。指摘しちゃいましたもんね、視線だけでは、あったけど) 確かにあのままの部屋では、“誰か”が来る機会があったら『結婚を意識しまくっています』と一目瞭然だったので、片付けるいい機会だったのかもしれない。相手次第では引いてしまい、交際関係に発展するチャンスすら失うだろう。 ボクとしてはその方が有難いんですが、そこはぐっと我慢します。押してダメなら引いてみよ。それでもダメなら……また押してみます。「これで完了ですか?」 元々綺麗に片付いていた部屋だったが、表に出ている物が減って、室内が更にスッキリした。物が減った分、圧迫感も無いし、アクセントにと飾った花も華やかでとても綺麗だ。「えぇ、ありがとう。手伝ってもらえたおかげで捗ったわ」 端正な顔で優しく微笑まれ、あぁホント好き!と強く思う。一目惚れしたボクの目に狂いはありませんでした。側に寄るだけでゾクゾクするし、ちょっと感じる危険な香りがまた堪りません。(一口喰べてもいいですか?その頰とかキスしたら、きっと甘いんでしょうねぇ……) 気が付いたら涎が口の端から垂れていて、華さんから頭を叩かれた。痛いけど、これもプレイだと思えば、不思議とちょっとだけ空腹が満たされるのだから、華さんの側からは離れる気にはなれない。「お昼ご飯も作ってくれてありがとう、本当に助かったわ」 「ボクじゃ出来ない作業も多かったんで、あのくらいお安いご用ですよ」 そう言ってボクが笑顔で返すと、華さんがまた微笑んでくれた。「夜は私が何かご馳走するわね」 「いいんですか?嬉しいです、手料理食べてみたいです!」 「じゃあ、まずはお風呂にでも入りましょうか。掃除で汚れてしまったものね」(……お、お風呂に、ですか?)
——遥か遥か昔の話に遡る。 まだボクが生まれる前に起きた事で、仲間から聞いただけの話なので、ボクには詳細などはわからない。ただ何となくこんな感じのやり取りの元、こんな事があったらしいぞ程度に聞いてもらえると嬉しい。 ◇ ヨーロッパ地方を中心に、大規模な魔女狩りが起きた十六世紀付近よりも少し前の事。 “占い”や“薬”に詳しかったり、“お婆ちゃんの知恵袋”的な立ち位置にある魔女達に混じり、ファンタジーに出てくるような魔力を持った“魔女”がまだ少しだけ生き残っていた。 彼女達の多くは美貌に恵まれ、ボク達のような“インキュバス”や“サキュバス”達の心までも虜にしてしまう事があったそうだ。 そんな魔女達の中に一人。他を圧倒する程に美しく、桁外れの魔力を有した娘がいた。 当然の如く彼女の周囲には悪魔達が数多く群がり、彼女を誘惑し、手篭めにしようと悪戦苦闘する日々が続きに続き—— ある日、突然娘がキレた。『毎日毎日貴方達はウザいです。邪魔でしかありません。貞操観念の無い存在はハッキリ言ってゴミ以下なので、もう根底からやり直しなさい!』 美しき悪魔達の誘惑に微塵もなびかず、『鉄の処女』の異名で勝手に呼ばれていた娘は、見せしめに一番対応の面倒だったインキュバスとサキュバス達へ永遠に消えない呪いをかけた。『アナタ達は金輪際、一切の淫猥な行動を慎みなさい!コレだと思える相手を探し出し、生涯を添い遂げる種族として生まれ変わるのです!』 娘の持つ魔力をフル動員させたその“呪い”は一族全体にかかり、当時はまだ生まれていなかった者までも対象にしている、かなり厄介なものだった。 インキュバスやサキュバスを根底から全て否定し、存在意義すら奪うような呪いをかけられ、彼等は一様に、他者を好き放題に誘惑する能力を失った。 ちょっとだけ魅了の魔法を使えても、夜伽を完全に強制出来る程の強力なモノを使えない。せいぜい、強力な媚薬を盛った程度のものとなってしまった。 しかも、心から愛おしく想える『たった一人の相手』としか性行為を営めなくなった為、精気を得る手段がほぼ無くなり、ボク達には常に飢えが付き纏う。魔力燃費の悪い体にまでされてしまったせいで、何をしても満たされない。 人の見る淫猥な夢を食べてかろうじて飢えを凌ぎ、誤魔化しな
「「いただきます」」と二人で手を合わせて、彼が作ってくれた料理に箸をのばす。 「……美味しいわ」 焼き加減や味付けが絶妙で、朝なのに食が進んでしまう。「良かった!お口に合って。やっぱり食の好みが似ているって、一緒に暮らすには大事ですからね。夜通しかけて華さんの持っているレシピ本を頭に叩き込んでおいた甲斐がありましたよ」 夜通し?許可もしていないのに室内へ戻ったうえに、本棚まで漁るとか。 しかも一緒に暮らすとか、勝手な事を言ってるわ、この子。 遠い目になりながら話を聞いていると、また笑顔を向けられた。返事を何もしなかった為、『同意』と判断されてしまったのかもしれない。それはマズイわ、早く出て行ってもらわないと。「カシュと一緒には暮らさないわよ?ここは二部屋あるにはあるけど、どちらも狭いし。何より“人外”とだなんて、どう考えても無理でしょう」 「そ、そんな!ボクとの結婚はどうするんですか?」 ひどい!騙したのか?とでも言い出しそうな、婚約を破棄された時みたいな反応をされた。(オカシイわ……『貴方と結婚する』と言った記憶は皆無なのだけど)「お試しでもいいんです!試しにちょっとボクと結婚してみませんか?夜には自信があります!虜にしてみせますよ!」 「……あのね、結婚は『ちょっと』と気軽な気持ちでする行為では無いのよ?」 「人間は面倒ですね。相手が好きなら、それでいいじゃないですか」 渋い顔をされたが、私はそれでも言葉を続けた。「それに私は、婚前交渉をする気は無いわ。無責任な行為はしたくないの」 「ならより一層ボクと早く結婚しましょう!どうせ婚活同士なのですし、即結婚して、今夜にでも夜伽を——」 興奮気味に言われたので、頭を思いっきり叩いて言葉を中断させた。「貴方は“人外”なのでしょう?なら、絶対に無理よ」 「ボクが“インキュバス”だから、“人外”だから……ダメ、なんですか?」 私の手ごと頭を抱え、カシュが切なそうな顔をする。『は、離しなさい!』と思うが、意外に力が強くてビクともしない。「本当はソレ以前の問題なのだけど……まぁ、その点は後にしましょうか。——あのね、根本的な話をすると、カシュには戸籍が無いからよ」「……こせき?」 何それ?とカシュが首を傾げる。「生まれた人の親子関係や結婚歴なんかを記録しているものよ。国が管理し
ベッドに入り、真っ暗な天井を見上げてまず一番に私が考えた事は『明日は部屋の片付けね』だった。『……だって、ねぇ』 そう言って、私の部屋を見渡したカシュの顔が頭をよぎる。「失敗したわ。まだ一度も異性を部屋に……いえ、ここに移ってから友人すらも招待した事がなかったから、自分の部屋の異質さを忘れていたわ。いつでも、誰でも招けるように、本は片付けないと」 このマンション、築年数が新しいのはいいが、部屋があまり広くはない。所謂は“お一人様物件”というやつだ。その為、私は居間に本棚を置いている。漫画や小説の類は購入総数が鬼なので電子書籍で済ませているが、仕事関係の書籍や人生に役立つ参考書の類は全て紙の本で買い、それらをずらりと並べていつでも手に取って学んでいたのだが……最近買う類いは、全て、『婚活のススメ』的な物だった事をすっかり失念していた。 とある理由により、私は、物心ついた時からずっと絶賛婚活中の身だ。 婚姻出来る年齢になるまでの期間はひたすら自分磨きに勤しみ、内面と技術向上に邁進してきた。就職後は婚活パーティーに参加するようになり、合コンにだって積極的に顔を出す。 なのに……結婚出来ないまま、今年で私は二十八歳になった。(何故なのかしら?) いくら考えてもわからない。 安定した仕事を持ち、家事は何だって出来る。相手次第では私が養えばいいと考えているので、夫が主夫になっても構わないから、年収に対しての要望だって無い。身長、スタイル、年齢……それらに対してだって、これといって条件は求めていない。ただ一つ、結婚相手に求める事があるとしたらそれは—— 私を最後まで愛してくれる人。 これだけの事なのに、願いが叶わない。 そんな私の元に変な奴が来た。(……なんだありゃ) 本物の“人外”がいきなりベランダから来るとか、しかも『結婚してくれ』とか、もう意味がわからない。「……うん、もう寝ましょう」 ポツリと呟き、布団にもぐる。肌の為にも、ストレス解消の為にも、今は寝るのが一番だわ—— ◇ 閉じた瞼越しでもわかるくらい太陽が眩しい。どうやら朝になったみたいだ。「……——おはようございます、華さん」 幼い声が聞こえ、私はゆっくりと目を開けた。 一人暮らしなのに、子供の声? あぁ……そうだ、昨日変なのがベランダから来て……あら?『