LOGIN高校教師として働く華(はな)と浩二(こうじ)は、長年揃って婚活中の身だ。だがこの二人が婚姻関係になる気は微塵も無い。 そんな日々の中。 華の元に突然インキュバスを自称する少年が現れ「僕と結婚して下さい!」と迫った。結婚はしたいが、人外は対象外・論外だ。即座に断るも、行き場の無い彼はそのまま彼女の部屋に居着いてしまう。このままじゃダメだダメだとは思えど、この生活は意外にも心地よく、華は少しづつ絆されていく。 その一方。浩二の方にはサキュバスが現れ、「結婚しましょう!」ときたが、こちらもこちらで「帰れ!」と一蹴されてしまう。 婚活中の者達が、色々な事情と性癖を抱えつつ—— 少しづつ距離が近づいてゆく物語。
View More恋愛物語を描くクリエーターの方々は本当に偉大だ。
どんな不可思議なワンシーンも、あり得ないシチュエーションも、素晴らしい絵柄や演出を駆使し、たった数コマや数十秒で夢の様な出逢いへと書き換えてしまう。
『両片思いだった初恋の彼と、十数年ぶりに就職先で偶然の再会』
『ハイスペックなCEOに見初められ、いきなりの溺愛結婚』 『異世界へと飛ばされて、運命の人との愛に溺れながらの冒険譚』『満月を背景にした、窓から来る突然の来訪者——』
善行を積み続けた過去世をすごしてきたとしても、『絶対に』と断言出来るレベルで私には訪れぬシチュエーションだと思っていた。そんな作品に触れるたびに胸が踊り、心がトキメキ、『素敵な恋ね。最高だったわ、ヒロインちゃんおめでとう!』という気持ちが心を満たし、ちょっとの幸せをプレゼントしてくれるのだから。
◇
「やぁ!お姉さん、ボクと結婚して下さい!」
「…………」綺麗な満月に惹かれ、『ベランダでちょっとお月見でもしながらビールでも』。そんな事を考えながら、Tシャツに短パン姿という軽装のまま私が窓を開けると、見知らぬ少年が逆さまになって浮かびながらそんな事を言ってきた。
『いやん、これは夢ね?』などと思うような、お花畑みたいな脳の構造を生憎としていない私の頭に真っ先に浮かんだ言葉は——
(なんだ、背景が満月だろうが、窓からの来訪者なんかこんなもんよね……)
——だった。オカシイわ……あり得ないシチュエーションが今私の目の前にあるというのに、何故ときめかないのかしら。
背景には大きな満月。
眼下に広がる、煌めく街の灯り。
宙に浮かぶ少年。
よく見れば可愛い顔をしていて、口の端から見える八重歯は味がある。ちょっと小柄な感じだが、将来有望間違い無しな雰囲気を漂わせていて、恋愛物語のスタート的材料は充分揃っていた。だがしかし、人の部屋のベランダにいきなり現れた時点でソレは、変質者、ストーカー、下着泥棒、強盗の可能性しか浮かばない——
ようは、犯罪者だ。
私は真顔のまま側に置いてあったスマートフォンを手に取り、警察へと電話をかけた。
「もしもし?警察で間違い無いですか?はい、えぇ、今ウチの窓から怪しい者が侵入して来ていまして——」
「——はい⁈やめてぇぇ!真っ先に司法とかに頼らないで!まずは話を聞こうとか思ってよ!こんな愛くるしいボクを、即犯罪者扱いとかヒドイよぉ!」見知らぬ少年は慌てて私の腕に縋りつき、泣きながら必死に叫んだ。
家出少年かしら?
隣の部屋から逃げてきたとか?
手を祈るみたいに組み、目を潤ませ、上目遣いで『今すぐ、電話を切って!』と懇願される。どうやらこの子に悪意は無いみたいだと判断した私は、警察の方に「……すみません。通報に驚いたのか、逃げられました」と告げて、彼の要求を呑むことにした。
「さて、話を最後までは聞いてくれなかったから、コレはもう、カフェまでちゃんとお迎えに行かないといけないねぇ」 ニヤニヤと楽しそうに笑うカミーリャに対し、ため息のみで華が答える。失礼な態度と知りながらも、何か言い返す気力はもうなかった。「まぁ冗談はさておきだ」と言い、カミーリャが机に頬杖をついて、華へ真顔を向けた。それにより、華が身を引き締めて背を正し、ここからは仕事の話なのだなと気持ちを切り替える。「華先生は確か、今は“文芸部”と“漫画研究会”の部活顧問を担当しているんだったよね?」 そう訊きながらカミーリャは手元にある部活関連の資料をぱらっとめくった。「はい。他にも“アニメ同好会”と“イラスト研究会”も受け持っています。もっとも……“文芸部”以外は名前を貸して、鍵の管理をしているだけですけども」(それにしても、何故に漫画とイラストで別々に活動するのかしら?一緒に活動してくれると、仲間も多くなって楽しいだろうに) 心の中で、華がそっとぼやく。 それにしたってどうして私のところにはこうもオタク文化系のお願いが多いのかと軽く首を傾げる。恋愛小説や漫画が愛読書である事は、秘密にしているつもりなので不思議でならない。「……多いね。まぁ生徒が好きに活動していて、華先生に負担が無いのならいいんだろうけど」 「そうですね。ですが、好きな活動をして学校生活を楽しみたい子供達の笑顔は見ていて楽しいので問題ありません」 「そっか、うんうん」 模範解答とも言える返事をする華に対し、眩しいモノでも見る様な目をカミーリャが向ける。本心からそう思っているのだろうなぁと思うと、理事長としては嬉しくもあった。「そんな華先生に追加で頼みたい部活があるんだけど……出来るだろうか?」「ものにもよりますが……。指導が必要なものですと、専門知識の問題がありますので」 「まぁそうだよね。だから、僕的にはもう華先生にしか頼めないなと思って呼んだんだ。元々は別の先生が引き受けてくれていたんだけどね、生徒と一緒に真面目に部活動に励んでいるうちに、『奥深い世界に興味が湧いたので、ちょっ
「そのうち絶対に何かやるだろうなぁとは思っていたけど、まーさーか、転入初日の自己紹介時にやらかしてくれるとはね。思い付きで行動する私でも、流石にコレは想像出来なかったなぁ、あははは!」 相変わらず『此処は貴族の部屋か?』とツッコミを入れたくなる程に品のある豪奢な一室で、清明学園の理事長であるロイ・カミーリャが声をあげて笑っている。 そんな彼の座る席の正面に立ち、顔面を両手で押さえ、俯いたまま華が「すみません……」とか細い声で謝罪する。だがカシュは笑顔のまま「ボクは謝りませんよ。コレでボクがどんな行動をしようが、華さんは『日本の常識を知らない、距離感のバグっている外国人から一方的に迫られている被害者』って扱いになりますからね」と自信満々に言い切った。 そんな彼の腕に、もの凄い勢いをつけて華が力一杯肘打ちをする。 カシュはその衝撃と痛みにより、「あがっ!」と声をあげはしたが、心なしか表情は『ご褒美、ありがとうございます!』とでも言い出しそうな笑みを浮かべていた。「了解、そういった方向で情報を管理しておくよ。まぁ華先生側の態度が揺らぐ心配はそもそも無いしね。黒鳥君はどう足掻いたって“淫魔”の習性で好きな人を誘惑したくなるだろうから、最初っから隠さないという選択肢は、確かにありだね、うん」「ありがとうございます、カミーリャさん」 そう言って、カシュがカミーリャに向かい頭を下げる。 何の相談もせずに行動した事だけでも詫びようかと一瞬思ったが、彼ならば全て見通しているのではと思い、結局カシュは謝罪をしなかった。「いいんだよ、“人外”達との付き合いには慣れているつもりさ。こちらのルールばかりを押し付けるのは無理だともわかっているからね。この先も、こうやって何度も折り合いをつけていこうじゃないか」 「あ、あの……私の監督責任は問われるのでしょうか?その……頰ではありましたけれど、担任である私が、生徒達の前で、せ、せ……接吻をされて、しまったわけです、し」(何故に『接吻』?『キス』って言うのすら、恥ずかしかったとか?) と、カシュとカミーリャが同じ事を思う。 だがそんな彼女を同時
「何かしら?」 「ボク、まだ日本語を読むのに自信がないので、最前列の席に座らせてはもらえませんか?先生の側に座っていた方が、何かと便利だと思うので」(いやいやいや、貴方ペラペラでしょ。読み書きどっちも不自由無いくせに、何言ってるの!) 可愛い顔してサラッと嘘を言ったカシュに対し、『は?』と視線だけで華が文句を伝える。だがしかし、最前列に座っていた生徒達が黙々と一人分のスペースを勝手に開けて、カシュの席を用意し始めた。「え?まだ私は許可していないわよ⁉︎」 華は最前列の子達にそう言ったが、クラスのほぼ全員が、カシュが一番前の席に座る事に賛同している。「でも先生、黒鳥君の言い分はもっともですし。ね?」と、最前列の子が言う。すると他の子達まで「うん、うん」と口にした。「いや、まぁ確かにそうね……」 別に最後尾でなければならない理由もないので、文句も言えない。「これで黒鳥君が見やすいなら、俺達は別に一列ずつずれてもいいですよ」 生徒達が顔を見合って、「ねー」と笑顔で頷く。『前に座ってくれた方が、眼福そのものなカシュの姿が見易いから、むしろラッキー』的な『見やすい』である事は明らかだった。「ありがとうございます!嬉しいです、とっても」 金髪の美少年であるカシュの喜ぶ姿に、クラスメイトのみんなが崇めるような気持ちになりながら悶えている。『このクラスでよかったぁ!』と叫びたい気分になる者まで中にはいた。「……わかったわ。まぁ、みんながいいなら私は構わないわよ。座席表は作り直さないとだけど、まぁいいでしょう」 そう言って、華が仕方ないわねぇと息を吐く。そんな彼女に向かい、ニコッと一度笑みを浮かべると、カシュは華の胸元を軽く掴んで顔を引き寄せて頰にチュッと軽い口付けをした。「正面に座る許可をボクにくださり、ありがとうございます。これで、毎朝華先生のお美しい姿が特等席で見詰め続けられるんですね、最高です」 何が起きたの?とクラス中の皆が固まる。『キスをしたみたいに見えたけど、え?』と、疑問符でいっぱいだ。もちろん、された華自身も。
週が明け、彼らが出逢ってから三週目の月曜日になった。 今日からカシュが、華の職場でもある清明学園に学生として通学する事になる。彼女の部屋の中にある姿見用の大きな鏡の前に立ち、学校側が用意してくれた詰襟タイプの黒い制服を着込んだカシュが、クルッとその場で回った。「どうですか?華さん。似合ってます?」 嬉しそうに訊かれ、華が完全に保護者の心境になりながら目を細める。もし今一眼レフカメラが手元にあったら、運動会の父親達並みに撮影しまくっていたかもしれない。「うんうん、とっても似合っているわよ」 「ありがとうございます!」 元気に返事をされ、「じゃあ、そろそろ行きましょうか」と彼に声を掛けながら、華がカシュの背中をぽんっと叩く。そして再度しっかり制服姿の彼を見て、『ボクの嫁になって欲しいとか、ホント無理だわ』と改めて思った事を、華は胸の奥にそっと仕舞った。 ◇ 朝のホームルームの時間。「——はい。じゃあ、今日は新しくウチのクラスに転入生が来るので紹介するわね」 華は担当しているクラスの教壇に立ち、生徒達に向かって声を掛けた。高校での転入生は珍しいからか「まじか!美人?美人かなぁ?」「えーどんな人だろう?カッコイイといいなぁ」「モテキャラは来るなー!モブでいい、モブで!」などと、生徒達が好奇心に満ちた言葉を次々と口にする。 普段ならそんなふうに騒いでいる生徒を前にすれば、『そう難易度を上げちゃダメよ、教室へ入って来るのが嫌になるから』と思う華なのだが、今回は『大いに騒ぎなさい!期待以上の子が来るから!』と内心少し自慢気だ。「さぁ入って」 廊下側の扉に向けて華が声を掛けると、間髪入れずにガラッと開き、カシュが颯爽とした足取りで教室内に入って来た。 正面に立ち、ピシッと背を正す。そして色艶の良い唇に笑みを浮かべ、カシュはゆっくり口を開いた。少しだけ生徒達に向かい魅了の魔法を使用したが、華にはわからない程度のものだ。「はじめまして、黒鳥カシュといい