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第363話

Author: 雲間探
翌朝、智昭、茜、そして優里の三人は早くから茜の試合会場に到着していた。

しばらくして、辰也と有美もやってきた。

茜は二人を見つけて手を振った。「辰也おじさん、有美ちゃん、来てくれたんだ?」

有美は近づいて茜の手を握った。「もうすぐ試合だね、茜ちゃん、緊張してる?」

茜は落ち着いた様子で首を振った。「ううん、全然」

辰也にはまだ用事が残っており、今日は有美を送り届けに来ただけだった。

智昭は彼が急いでいることを察して、声をかけた。「有美ちゃんのことは俺が面倒見るから、急ぎの用があるなら行っていいぞ」

「わかった。昼にまた合流して、一緒に食事でもしよう」

「うん」

二人の関係は今でもとても良さそうに見えた。

ただ……

優里は二人の会話を聞きながら、智昭と辰也の顔を見比べていた。

もし智昭は辰也が玲奈を好きだと知ったら、この関係は今のままでいられるのだろうか?

辰也は彼女の視線に気づいたが、軽く頷いただけで言葉を交わすことなく、そのまま立ち去った。

最初から最後まで辰也から話しかけられることはなかった。その様子を見て、優里は皮肉げに口元を歪めた。

玲奈を好きになってから、辰也の彼女への態度はどんどん冷たくなっている。

一方その頃。

自宅で休んでいた玲奈のもとに、礼二から電話がかかってきた。「昼、うちの両親と一緒に食事するんだけど、しばらく君に会ってなくてさ。この二日間、君の話題がよく出てて、会いたがってるんだ。よかったら一緒にどう?」

玲奈も確かに礼二の両親とはしばらく顔を合わせていなかった。礼二の誘いに、素直に頷いた。

昼前、彼女は車で外出した。

約束のレストランに着くと、ちょうど礼二たちも到着していた。

彼女を見つけた湊夫人は、嬉しそうにその手を取った。「久しぶりね、玲奈はやっぱりいつ見ても綺麗ねえ」

玲奈が湊夫人と話していると、ちょうどそのとき、清司が車から降りてきた。玲奈、礼二、そして礼二の両親。四人の姿を目にして、彼は一瞬固まった。

玲奈は彼に気づいたが、表情がわずかに曇り、すぐに視線を逸らした。

清司は驚いたものの、すぐに表情を整えて礼二の両親に挨拶した。「湊社長、湊夫人」

二人は軽く頷いた。

清司は四人の様子をしばし見たあと、そのまま先に店の中へ入っていった。

少し離れたところで携帯を取り出し、智昭に電話
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Comments (2)
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千恵
優里は、周りの人達に1番大切にして欲しい女なんだろうね。 だから智昭がいても、辰也や翔太の動向が気になる。
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岸本史子
辰也が玲奈を好きだろうと優里にも智昭にも関係ないよね、自分達が不倫カップルのくせに
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