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第368話

Author: 雲間探
玲奈も同じ気持ちだった。

彼女は返信した。【暇ない、それから、約束守って。彼女がうちのおばあちゃんの家に行かないよう見てて】

しばらくして、智昭から【わかった】と返事がきた。

それっきり、智昭からの連絡はなかった。

GWの連休三日目の午後、玲奈が家族と一緒に観光地で川下りを楽しもうとしていたとき、凜音から写真が送られてきた。

写真に写っていたのは、優里だった。

今、凜音はG国にいて、ここのところずっとファッションショーの準備で忙しくしていた。

玲奈はその写真を見て、【彼女、そっちのショー見に来てるの?】と返した。

【そうよ!縁起でもない!】

そのあと、またメッセージが届いた。【彼女しかいなかったけどね。藤田智昭は見かけなかった】

玲奈は【うん】とだけ返し、特に関心もなく【帰国はいつ?】と訊いた。

【まだ未定】

凜音はまだ仕事が残っていたらしく、ふたりは少しだけ会話をしてから、凜音はその場を離れた。

十数分後、凜音からビデオ通話が届いた。

玲奈は一瞬手を止め、通話を繋げると、画面に優里と智昭の姿が映った。

凜音は鼻を鳴らし、小声で「さっき来たばかり。今ショーが終わったところ。わざわざ迎えに来たみたい」と伝えた。

優里はどうやら向こうで知り合いがいるようで、誰かと話し込んでいた。智昭はその隣で、彼女が会話を終えるのを辛抱強く待ちながら、静かに様子を見ていた。

礼二が「出張には大森優里を連れて行くだろう」と言っていたことが、まさか本当に当たるとは思わなかった。

でも……

画面に二人の姿はあっても、茜の姿はどこにも見えなかった。そのことに気づいた瞬間、玲奈は眉をひそめた。

ちょうどその時、カメラがぐらついた。玲奈は一瞬、凜音に何かあったのかと身構えた。

よく見ると、ちょうど智昭がこちらのカメラを見てきたところだった。

明らかに凜音の存在に気づいたのだろう。

凜音は彼の視線に思わずドキリとし、反応する間もなく、智昭は何事もなかったかのように視線を逸らした。

彼女と凜音は長年の親友で、関係も深い。

それは智昭もよく知っていた。

だが、異国で偶然出会ったにもかかわらず、智昭には凜音に挨拶をしに行く気配はまったくなかった。

もっとも、智昭は彼女の家族に対しても常にそんな態度だった。凜音へのこの無関心さも、むしろ普段通りと言える。
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Comments (2)
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千恵
護衛が付いていても一人旅ねー 茜って何歳だっけ?? 5歳くらい??
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岸本史子
小さい頃から贅沢三昧で、どんな大人になるのかな?お金がありあまっても両親不在で淋しいこと
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