叶わぬ恋だと分かっていても

叶わぬ恋だと分かっていても

last updateLast Updated : 2025-12-15
By:  鷹槻れんUpdated just now
Language: Japanese
goodnovel18goodnovel
Not enough ratings
77Chapters
5.5Kviews
Read
Add to library

Share:  

Report
Overview
Catalog
SCAN CODE TO READ ON APP

地元の市役所に、期間限定雇用の会計年度任用職員として勤める戸倉菜乃香(とくらなのか)。 元・配属先の都市開発課にいた男、緒川直行(おがわなおゆき)に、ある日突然告白されて。 緒川が妻帯者であることを知った菜乃香は…。 ―― 執筆期間:2021/03/01〜2023/07/01 ―― ※「*」印の付いた章は、色艶めいたシーンが入ります。 ○表紙絵は市瀬雪さまに依頼しました。  (作品シェア以外での無断転載など固くお断りします)

View More

Chapter 1

1.正直すぎる嘘つき①

【Prologue】

---------------------

「やっ、ん。緒川おがわさんの……嘘、つきっ」

生まれて初めて入った、ラブホテル。

そんなところに異性と一緒に入れば、〝そういう事〟になるなんて容易に推察できたはずなのに。

恋愛経験の乏しい小娘の私は、15も年の離れた男性の性事情にとてもうとくて。

勝手にそのぐらいの年齢になったら、女性に対してガツガツしなくなる。

もしかしたら不能にさえなっているんじゃないかなんて馬鹿なことを思っていた。

そんなわけ、ないのに――。

---------------------

お昼休み。

男性ばかりの職場で、ひとり大人しく自席でお弁当を食べていたら、携帯に知らない番号からの着信。

いそいそとお弁当箱にフタをして席を立つと、廊下で恐る恐る電話に出る。

戸倉とくらさん、緒川おがわだけど分かるかな?』

相手は、前に同じ班で働いていた年上の男性だった。

『急に連絡してごめんね。えっと――突然なんだけどさ。明日の昼休み、俺の車が停めてある駐車場まで出てきてもらえない……?』

会計年度任用職員――いわゆる市役所の臨時職員――として働く私は、ひとところに長くいられない。

ひと月ちょっと前に配置換えがあって、私、今は緒川さんのいる都市開発課とは違う課――下水道課――に配属になっている。

当然その時点で電話の彼――緒川さんとの接点も皆無になったはずで。

半年間お世話になった都市開発課を去るときに、くだんの緒川さんかれも含めた同じ班――公園みどり班――の皆さんから、お別れ会を盛大にして頂いて、可愛い花束までプレゼントされたのだ。

なのに。

あれから1ヶ月も経とうという頃になって……今更何の用だろう?

緒川さん、無口でちょっぴり怖いなって思っていた人で、正直同じ班にいた時にもそれほど接点はなかったはず。

そう思いはしたけれど、打ち解けていなかったが故に、そんな年上男性からの呼び出しを断れるほど、私はまだ世渡りが上手くなかったから。

「……わかりました」

よく分からないままにそう返事をしてしまって……約束の日時。

指定された駐車場に出向いた私を、車の中にいざなうなり抱きしめて、緒川さんが言った。

「今日は俺の誕生日なんだ」

緒川おがわさんに抱きしめられていることも、彼から告げられた言葉の意味も、私にはさっぱり理解できなくて。

だから、何?

それがその言葉を聞いた時の率直な感想。

流されやすい私は、抱きしめられているというこの状況をどうすべきか、元上司みたいな存在だからと気安く男の人の車に乗り込んだところも含めて反省しながら考えないといけない。

「……お、おめでとうござい、ます……?」

混乱する頭を抱えて腕の中で何とか無難な言葉を模索する。

そうしておいて、現状を打開すべく「あの……」と恐る恐るつぶやいて身じろいだら、やっと力を緩めてくれて、真正面から見つめられた。

「急に抱きしめてすまない。来てくれたのが嬉しくてつい」

そんなことを言ってはにかむ緒川さんは、私の知らない彼だった。

この人、こんな子供っぽい顔して笑ったりできるんだ。

それを意外に思っていたら――。

「……!」

あごを捕らえられて、いきなりのキス。

ほんの一瞬唇と唇がふわりと触れるだけの軽いものだったけれど、私を凍りつかせるには十分すぎる行為だった。

「……いっ!」

いきなり何するんですか!

そう言いたいのに、緒川おがわさんはまるでその先を私に言わせたくないみたいに言葉を被せる。

「あの、さ――。もし……今キスされたのが嫌だと思わなかったなら、誕生日プレゼントだと思って俺の彼女になってくれないか?」

言うなり、唇を指先でなぞられて、私は言葉を失った。

嫌だと思わなかったなら――?

そう言えば私、びっくりはしたけれど嫌じゃ……なかった。それって……。

Expand
Next Chapter
Download

Latest chapter

More Chapters
No Comments
77 Chapters
1.正直すぎる嘘つき①
【Prologue】 --------------------- 「やっ、ん。緒川さんの……嘘、つきっ」 生まれて初めて入った、ラブホテル。 そんなところに異性と一緒に入れば、〝そういう事〟になるなんて容易に推察できたはずなのに。 恋愛経験の乏しい小娘の私は、15も年の離れた男性の性事情にとても疎くて。 勝手にそのぐらいの年齢になったら、女性に対してガツガツしなくなる。 もしかしたら不能にさえなっているんじゃないかなんて馬鹿なことを思っていた。 そんなわけ、ないのに――。 --------------------- お昼休み。 男性ばかりの職場で、ひとり大人しく自席でお弁当を食べていたら、携帯に知らない番号からの着信。 いそいそとお弁当箱にフタをして席を立つと、廊下で恐る恐る電話に出る。 『戸倉さん、緒川だけど分かるかな?』 相手は、前に同じ班で働いていた年上の男性だった。 『急に連絡してごめんね。えっと――突然なんだけどさ。明日の昼休み、俺の車が停めてある駐車場まで出てきてもらえない……?』 会計年度任用職員――いわゆる市役所の臨時職員――として働く私は、ひとところに長くいられない。 ひと月ちょっと前に配置換えがあって、私、今は緒川さんのいる都市開発課とは違う課――下水道課――に配属になっている。 当然その時点で電話の彼――緒川さんとの接点も皆無になったはずで。 半年間お世話になった都市開発課を去るときに、くだんの緒川さんも含めた同じ班――公園みどり班――の皆さんから、お別れ会を盛大にして頂いて、可愛い花束までプレゼントされたのだ。 なのに。 あれから1ヶ月も経とうという頃になって……今更何の用だろう? 緒川さん、無口でちょっぴり怖いなって思っていた人で、正直同じ班にいた時にもそれほど接点はなかったはず。 そう思いはしたけれど、打ち解けていなかったが故に、そんな年上男性からの呼び出しを断れるほど、私はまだ世渡りが上手くなかったから。 「……わかりました」 よく分からないままにそう返事をしてしまって……約束の日時。 指定された駐車場に出向いた私を、車の中に誘うなり抱きしめて、緒川さんが言った。
last updateLast Updated : 2025-10-25
Read more
1.正直すぎる嘘つき②
今までただの上司ぐらいに思っていた、かなり年上――恐らくアラフォーの男性。 背がすらりと高くて、いわゆるイケオジという部類に入るのだろうけれど、別に好みの顔ではなかったから。 当然恋愛対象だなんて目で見たことはない。 それなのにいきなり〝そういう目〟で見て欲しいと言われて、正直私はどうしたらいいか見当がつかなかった。 「あ、あの――、でも、私……」 何もかもがよく分からないままにソワソワしながら言葉を紡ごうとする私を、緒川さんが不安そうに見つめてくる。 その視線がすごく痛くて、「でも、私」の先が出てこない。 本当は「好きかどうか分からないのでお付き合いは無理です」と続けるのがベストだと分かっているのに。 と、唇に触れていた緒川さんの指先が、不意に口の端に添わされた。 そうして「え?」と思う間もなく、ハーフアップにしていた、肩より少し長い髪の毛をギュッと掴まれて、顔を無理矢理上向かされる。 「やっ、――んっ!」 気が付くと、まるで断ることを許さないみたいに、またしても強引に唇を塞がれていた。 2度も、同意すら求められず奪われた唇に驚愕した私は、声を上げたと同時、すかさず口の端に差し込まれた指の真意に気付けていなくて。 今回のはさっきみたいな軽いキスではなくて、指のせいで出来た隙間を縫うように舌が侵入してくる、ディープキスだった。 その、慣れない行為に思わずギュッと身体に力が入ったけれど、基本何かされることに従順な私は、侵入してくる舌に噛み付いたりしようとは思えなくて。 そればかりか、優しくすり合わされる舌が何だか心地よくすら思えて、ふにゃりと意識がとろけそうになる。 私、幼い頃から強引な人に弱くて、強く出られるとその人に流されてしまう悪癖があった。 別に押さえつけられて育ったわけでも何でもないのに、本能的にそうしておけば周りの機嫌を損ねないことを知っていたから。 強い者に阿っているつもりはないのだけれど、結果的にはそう見えるんだと思う。 4つ年の離れた姉に、あんたのそういうところが見ていてイライラすると言われたことがある。 こんな、ある意味セクハラだと思えるようなことをされてしまった時でさえも、私はそんなお馬鹿な本領を発揮してしまう。
last updateLast Updated : 2025-10-26
Read more
1.正直すぎる嘘つき③
自分でもこんなことじゃよくないと思う。 でも直せないの。 そうして情にほだされやすい私は、強く求められて付き合ったはずの相手に、いつの間にか切なくなるくらいのめり込んでしまう。 愛情を注がれたら、その人の良いところばかりを探して、欠点を見られなくなる。 嫌なところに気付いても、見なかったことにして目を逸らしてしまう。 そう、きっと今回も――。 嬉しそうに「ありがとう」って笑う緒川さんに抱きしめられながら、そんな予感がした。 *** 緒川さんの38歳の誕生日に告白をされて、何だかよく分からないままに流されるように重ねてしまったデートも、今回で4度目。 1回だけなら気の迷いだと言えたと思う。 でも、2回、3回と続けてしまったら、それはもう立派に自分の意志、だよね。 あの日。 緒川さんは私に、彼の彼女になることをダメじゃないと言わせた後で、「――ただ、俺には妻と子供がいるんだ。妻に対して恋愛感情はないけれど家族としての情はある。それを分かって欲しいんだ」と言った。 私にはその詭弁にも聞こえる言葉の意味がサッパリ分からなくて。 「あ、あの……それはどう言う……?」 混乱する頭で何とかそう問いかけたら、「戸倉さんと結婚することは出来ないって意味だよ」って悲しそうな顔をするの。 それは私に愛人になれ、と言っているってことなんでしょうか? 23歳で世間知らずの私にも、さすがに妻子ある男性との色恋は御法度だと言うことは分かる。 「そ、れなら私――」 今の話はなかったことにして欲しい。 そう言いたかったのに。 「俺からのキスを受け入れた時点でもう後戻りは出来ないと思わない? それに……家族にはなれない代わりに、俺は戸倉さんに恋人としての愛情は惜しみなく注ぐつもりだから」 そう畳みかけられて、今更御破産には出来ないのだと示唆されてしまう。 ズルイ、って思った。 引き返すことも、未来を夢見ることも叶わないのだと宣言された恋に、何の意味があるのだろう? 「戸倉さんはまだ若い。キミが本気の恋をするって決めたら、その時は潔く身を引くから。――だからそれまでの間、キミの時間を俺にくれないか?」 緒川さんとお付き合いしてい
last updateLast Updated : 2025-10-27
Read more
1.正直すぎる嘘つき④
「結婚なさっている緒川さんには、とてもじゃないけど手に負えませんよね?」 言って、抱きしめられたままの身体をそっと引き剥がしたら、 「なんだ、そんなこと」 ってクスリと笑われて。 「むしろ俺、そういうのが好きなんだけど、関係が関係だしセーブしなきゃって思ってたんだ。そんなこと言ってたら俺、〝菜乃香〟のこと、ホントにがんじがらめにしちゃうけど、いいの?」 いきなり呼び名を〝戸倉さん〟から〝菜乃香〟に変えてきたのはきっとわざとですよね? 私が本気の恋をしたらすぐに手を引くと言ったのと同じ口で、そんなことを聞いてくるなんて。 あなたの本心は、一体どこですか? *** 前回までは日中に街へ出て買い物をしたり、動物園に2人で行ったり、あてもなくドライブをしてみたり。 まるで学生同士のデートみたいなお出かけだったのが、4度目のデートに当たる今日は、初めて夕方に待ち合わせをしてディナーを一緒に、ということになって。 日没後に待ち合わせというだけで、何だか一気に大人な雰囲気になった気がして、正直戸惑ってしまった。 私たちの関係はなんだろう? お付き合い……している、って言えるの? 行ったことのないようなコース料理の振る舞われるイタリアンレストランには、グランドピアノの生演奏が流れていた。 その雰囲気に飲まれたみたいに、私はフラフラになるまでお酒を飲んでしまった。 私の横、緒川さんは落ち着いた様子で食事とともに白ワインをゆっくりと嗜んでいらして。 その横顔に大人の余裕を感じながら、私は甘めのスパークリングワインをいそいそと口に運ぶ。 緒川さんは年齢――私の15歳上の38歳――より遥かに若く見える。 少しふわりとした印象の髪の毛は、天然パーマらしい。 白いもののほぼないツーブロックのその髪の毛は、いつも綺麗に手入れがされていて寝癖がついているところなんて見たことがない。 それすら大人の余裕に感じられて、何もかもに余裕のない私にはうらやましくさえ思えて。 私、今日は肩よりほんの少し長めのゆるふわウェーブの髪の毛を、ハーフアップの要領で両サイドからゆるりと編み込んで、真ん中で合流させてバレッタ留めにしていた。 けれどそれにしたって、実は寝癖
last updateLast Updated : 2025-10-28
Read more
1.正直すぎる嘘つき⑤
「そっか。実はこう見えてさ、俺も結構緊張してるんだ。菜乃香みたいに若い女の子が俺みたいなおじさんと一緒にいてくれるの、まだ信じられないし」 口ではそんなことを言いながら、全然そんな素振りなんて見せない彼が憎らしくさえある。 「ね、菜乃花。お酒を飲んだら少しは緊張がほぐれるんじゃない?」 ギュッと包まれた手に力が込められて、私はその大きな手の温もりに、慌てたようにコクコクと首肯したのだ。 *** 「甘いのがいい?」 お酒は飲みつけていないよね?と言外に含められた私は、ここでやっと、「はい」と声に出して答えられた。 「じゃあ――」 緒川さんのお勧めで、甘めの飲みやすいスパークリングワインを出されて。 それまで飲んでいた炭酸水と交換される。 琥珀色の液体が注がれたシャンパングラスに、小さな気泡がプツプツと上がる様がとてもお洒落で、一気に大人になった気がした私は、それだけで何だか浮き足立って。 飲み慣れた甘い炭酸ジュースみたいな味にほだされて。白ワインをゆっくりとしたペースで飲む緒川さんを横目に、気がついたらハーフボトルをひとりで空けてしまっていた。 頭がぼんやりしてきて「あ、まずい」って思った時にはすでに手遅れ。 自力ではまっすぐ歩けなくなっていた。 *** 「菜乃香、大丈夫?」 いつの間にかお会計を済ませたらしい緒川さんに肩を抱かれてレストランを出た私は、不意に吹き付けてきた冷たい冬の風に身体をすくませた。 そうして、この寒さにさらされてもなお、膜がかかったみたいにぼんやりした頭で思う。 何やってんの!って。 「ちょっと酔いを覚ましたほうがいいかな。……車までは距離があるし、キミの足取りも芳しくない。近くのホテルに入るんで、いい?」 そこで不意に腕時計に視線を落とした緒川さんを見て、今何時だろう?と思う。 待ち合わせてお店に入ったのは、確か19時過ぎだった。 コース料理とは言え、そんなに長居はしていないと思うから、きっと21時過ぎたくらいかな? 私とこんな風にしているけれど、緒川さんは奥さんもお子さんもある身。 時間が気にならないわけないよね。 素面だったなら、その仕草を見た瞬間に私、ハッと
last updateLast Updated : 2025-10-29
Read more
2.*嫌がることはしないから①
ホテルに入るとすぐ、緒川さんに着ていたコートを脱がされた。 部屋は程よく空調が効いていて、外の寒さが嘘みたいに暖かくて。 ホテル独特の香りというのかな。 決して嫌なにおいではないけれど、私が今まで嗅いだことのない不思議な香りのする空間だなって思った。 もしかしたら部屋が使われるたび、何らかの消毒が施されていて、それが残り香のように染み付いているのかもしれない。 緒川さんは自分の着ていたコートと、私のコートを入り口入ってすぐのハンガーに吊り下げると、優しく私の手を引いてベッドに座らせてくれる。 ラブホテル、とか言うからもっとピンク色の照明に満たされた、全面鏡ばりとかのエッチな雰囲気の部屋かと思っていた。 でも実際は思っていたよりシックな色合いで、そのことに少なからず安堵する。 と、見るとはなしに視線を転じた先、1m四方くらいの小さなボックスが置かれていて、その中に目を凝らした私は慌ててうつむいた。 あれってきっと、世に言う〝大人のおもちゃ〟とやらの自販機だっ! あれさえなければ普通のホテルみたいなのにっ。 緒川さんには、あれに気付いたことを悟られたくない。 なるべく不自然に見えないよう、身体の向きを自販機からほんの少し逸らしたところで、緒川さんが冷蔵庫から冷たい水のペットボトルを持ってきてくれた。 備え付けのグラスにそれを注いで手渡してくれながら、「平気?」と聞かれてコクコクとうなずいた。 ホッとしたようにそんな私の頭を優しく撫でてくれながら、緒川さんがポツンとつぶやく。 「――ねぇ菜乃香。キミの裸が見たいって言ったら……怒る? 菜乃香が嫌がることは絶対にしないって誓うから……。お願い。見せてくれないか?」 いきなりとんでもないことを要求された私はビクッとした拍子に手にしていたグラスを落っことしかけて。 「きゃっ」 服の上に盛大に水をぶちまけてしまった。 冷たさに思わず身をすくませたら、すぐさま緒川さんがバスルームからタオルを手に戻ってきてくれて、何も言わずに濡れたスカートに押し当ててくれる。 水気を拭き取るためにタオルが動かされるたび、布越しに太ももがこすられて意識してはいけないと思うのにゾクッとしてしまう。 お酒は媚薬だとどこかで聞いたことがあるけれど、本当
last updateLast Updated : 2025-10-30
Read more
2.*嫌がることはしないから②
30代も半ばを過ぎると性欲自体がなりをひそめて……もしかしたらエッチできなくなっちゃうのかも? 今まで彼氏ができてこんなに長いこと身体を求められなかったことはない。 それが、私にそう信じ込ませていた。 だって、20代そこそこの私は知らなかったの。 男性はいくつになっても、新しい女性を前にしたら、10代の男の子にも負けないぐらいエッチになるってこと。 四十路が近かろうと何だろうと、問題なく女性を抱けるってこと。 いいえ。そればかりか、寧ろ経験値が高い分、狡猾に女の子を誑かすことが出来るようになってるってこと。 自分で脱ぐのは恥ずかしくて……大きなベッドに腰掛けて、シャツワンピースのボタンに手をかけたまま動けなくなってしまった私を、緒川さんがタオルを手にしたまま、すぐそばに跪いて、じっと見上げてくる。 「あ、あの……」 何も言われず、ただ見つめられているのが恥ずかしくて、すがるような視線で緒川さんを見つめたら、「恥ずかしい?」って問いかけられて。 当たり前のことを聞かないでくださいって言いたいのに、そんな言葉さえ緊張して出てこないの。 仕方なく小さくコクンとうなずいたら、「じゃあ俺が脱がせてもいい?」とか。 嫌だって言ったら諦めてくださるのですか? 「あ、の……やっぱり」 ――脱ぐのは無理です。 そう続けようとしたら 「脱がない、はダメだからね? 濡れたままでいたら風邪ひくでしょ?」 先んじてそう逃げ道を封じられてしまって、私はパクパクと口を喘がせた。 「もしかして、脱ぎたくないって言う気だった?」 クスッと笑われて、図星だったから真っ赤になる。 緒川さんは単純に私の身を案じてくれているだけみたいなのに、私ひとり変に意識してるみたいで恥ずかしい。 年配の男性って、みんなこうなの? ホテルで異性と2人きりになっても、何にも意識してないみたいに余裕の態度で接してきて。 そのくせ当然のようにどんどん相手を追い詰めて丸裸にしていくの。 私の経験値が低すぎるだけですか? 色々考えてみるけれど、頭がぐるぐるするばかりで答えなんて出せなくて。 「菜乃香の悩んでる顔
last updateLast Updated : 2025-10-30
Read more
2.*嫌がることはしないから③
口蓋をやんわり舐め上げられた瞬間、くすぐったいのか気持ちいのか分からなくて涙が溢れた。 「やっ、ぁん、……お、がわ、さ――っ」 ギュッと緒川さんの二の腕にしがみつくように手指に力を込めて耐えるけれど、鼻を抜けるような甘えた声が抑えられない。 「あ、……えっ?」 と、不意に背骨に沿ってじかに手指を這わされた気がして、私はハッとする。 いつの間にかシャツワンピースの前ボタンが腰元辺りまで外されて、肌が露わになっていた。 上下お揃いの薄桃色のブラとショーツが視界に入って、「隠さなきゃ!」て思ったのと同時、背中に回されていた緒川さんの手が、ブラのホックを片手でいとも簡単に外してしまう。 ユルッと締め付けがなくなった気配に慄いて、私は思わず緒川さんにギュッとしがみついた。 そうしなければ支えを失った胸の色付きを、彼の前に無防備にさらしてしまうと思ったから。 「ねぇ、菜乃香。――さすがにそんな格好でしがみつかれたら、我慢できなくなるんだけどな……?」 ふっ……と溜め息混じりに眉根を寄せられて、私は慌てて彼から離れる。 けれど、それと同時にベッドへ押し倒されていた。 「緒、川……さ……っ!?」 横たわった拍子にブラがずり上がって、胸の膨らみがホロリと転び出る。 それを隠そうと咄嗟に持ち上げた手が、そっとベッドに縫いとめられて。 「隠さないで?」 懇願するように強請られた私は、どうしたらいいのか分からなくなる。 緒川さんは私の嫌がることはしない、と約束してくれた。 だったら今の状況は……どうなの? 緒川さんはすぐに手を解いてくれたけれど、1度シーツの上に固定された手を、動かしてはいけないような気がして。 隠そうと思えば隠せるはずなのに、それはいけないことなのだとぼんやりとした頭で思う。 どうしてそう思ってしまうのか、分からない。 分からないから余計に混乱して。 そわそわと出口のない思考に陥り戸惑っているうち、いつの間にかショーツのサイドの紐が解かれていて、急に腰骨の締め付けが緩んだことに驚いた。 「あっ、やっ……!」 肌から落ちそうになる小さな布を逃すまいと、思わず足をギ
last updateLast Updated : 2025-10-31
Read more
2.*嫌がることはしないから④
それならば自由な手で隠せばいいと思うのに、私の脳内には未だ「隠さないで」と告げられた緒川さんからの言葉がまるで見えない楔のように残っていて、両手を顔横で貼り付けていた。 それでも何とか自分を鼓舞してノロノロと腕を上げると、躊躇いがちに胸のふくらみのすぐ下――鳩尾のあたりで所在なく両手を重ねる。 本当は隠したいのはそこじゃない。 日頃は下着に守られている胸と下腹部。 だけどそこを隠してしまうことはいけないことだと、緒川さんの視線が物語っているようで、どうしても隠せなくて。 羞恥心に、緒川さんをまともに見詰め返すことが出来なくて、でも動いてはいけないと何故か思っているから身体の向きを変えることもできない。 せめてもの抵抗に、一生懸命顔を横向けて伏し目がちに視線を合わせずにつぶやいたら、ふっと柔らかく吐息を落とす気配がした。 「そうだね。菜乃香だけ裸とか……そりゃ、恥ずかしいよね」 しみじみと、まるで私にそのことを意識させるみたいにそう言われて、私はますますどうしたらいいのか分からなくなる。 「ねえ菜乃香。俺が恥ずかしくないようにしてあげようか?」 ツツッ……と背けたままの頬の輪郭を、耳のすぐ下からなぞるように指先を這わされる。 そのままフェイスラインに沿ってあごまで伝い落ちた手指に、すくい上げられるように顔を彼の方へ向けられた私は、すがるような思いで緒川さんの声を聞いた。 「――て、欲しぃ……です」 ギュッと目をつぶって小さくこぼしたら、「ん?」と優しく問いかけられる。 「して、欲しい……です」 そんな方法があるのなら一刻も早く。 私の中で、その方法は毛布を着せ掛けてくれるとか、先程取り払われてしまったワンピースを返してくれるとか……そういうことだったから。 だから一生懸命そう言ったのだけれど。 「――了解」 緒川さんは私の懇願に嬉しそうにクスッと笑うと、次の瞬間には再度私の唇を塞いでいた。 「ぇ、ぁ……っ」 なんで?という言葉は声にならないままに緒川さんの唇に吸い込まれて、一言も言わせてもらえなくて。 「ぁ、――っ、や……」 嫌だという声
last updateLast Updated : 2025-11-01
Read more
2.*嫌がることはしないから⑤
「や、あンっ、それ、ダメぇっ」 背中を丸めるようにしてその声を避けようとしたら、キュッと固くしこった胸の先端を緩急をつけてこねられて、ついでのように首筋に口付けを落とされた。 「ひゃ、ぁんっ」 私、知らなかった。 首筋にも気持ちいいと感じる場所があるってこと。 鎖骨付近に緒川さんの唇が軽く吸い付くように触れるたび、望んでいないのに身体が小刻みに震えて。 肌がゾクリと粟立った。 「菜乃香のいいところ、もうひとつ見つけた」 嬉しそうに緒川さんがつぶやいて、私は「違っ」って必死に首を振るけれど、クスッと笑われて信じてもらえなかった。 「菜乃香は口より身体の方が正直だね」 そんな言葉にでさえも、彼の吐く呼気がうなじのあたりに触れるたびゾクゾクと身体が震えて。 「ほら、ここもこんなに」 言われて下腹部に触れられた私は慌てて脚の付け根にギュッと力を入れる。 なのに――。 まるでそんなことをしても無駄だと思い知らせたいみたいに緒川さんの指先が薄い茂みの先の、敏感な突起にいとも容易くたどり着いてしまう。 「触ってないのに、ここ、固くなってるね。――ねぇ菜乃香、感じてるの?」 キュッと柔らかくそこをこねられて、私は思わず身体を跳ねさせる。 そこは鎖骨や乳首なんかより、もっともっと敏感な、私の一番弱いところ。 「ぁ、んんっ」 一生懸命声を抑えようと唇に力を入れるのに、緩急をつけてそこを指の腹でこすられ、潰されるたび、堪えきれない声が吐息とともに漏れ出てしまう。 「やっ、ん」 必死に、下肢にのびた緒川さんの手首を掴んでみたけれど、彼から与えられる刺激に呼応するように指先に力がこもったり抜けたりするだけで、何の抑制にもならなくて――。 「気持ちいい?」 ほんの少しずつ彼の指の腹が秘芽を起点にお尻側に向かって伸びているのを感じる。 その証拠に、突起自体は滑りを帯びるはずなんてないのに、下腹部の方から緒川さんの指の動きに合わせて濡れた水音がし始めて。 「お、がわさ、んっ、もぉっ――。あっ、だめぇ」 やめてって言いたいのにその瞬間、ツプッと彼の指先が私の小さな入り口にほんの少し侵入したから、言
last updateLast Updated : 2025-11-01
Read more
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status