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第369話

Author: 雲間探
智昭は忙しくて彼女に付き添えないのに、優里と一緒にいる時間はあるのか?

彼女が何も言う前に、茜がうきうきと話し始めた。「ママ、もっと早く電話くれたらよかったのに。早くくれてたら、ヘリの中からもビデオ通話できたのに」

玲奈には、今回の智昭の段取りに茜がとても満足していることがよくわかった。

一瞬、玲奈は何も言えなくなった。

だが、胸の奥には重苦しい苛立ちがじわじわと広がっていた。

茜は明日の予定についても楽しそうに語り、明日の夜には帰国すると伝えてきた。

玲奈がまだ返事をしないうちに、茜は期待に満ちた声で聞いてきた。「ママ、明日時間ある?明日も電話したいの」

玲奈はハッと我に返り、二秒ほどしてようやく答えた。「ママ、明日は空いてるよ」

「やった!」

すでにホテルに向かっていると知って、玲奈は少し安心し、しばらく話したあとにビデオ通話を切った。

ちょうど、千尋たちと約束していた川下りの時間になっていた。玲奈はスマホをしまった。

本来なら、連休の遊びを心から楽しみにしていたはずだった。

だが今は、どうしても気持ちが沈んでしまう。

それでも、千尋たちの気分を壊したくなくて、玲奈は一緒にホテルを出た。

目的地に着き、玲奈が列に並んでいたところで、誰かに肩を軽く叩かれた。

玲奈が振り向く。

そこには翔太が立っていた。

翔太は事前に、彼女が家族とこの辺りに遊びに来ることを聞いていて、それでわざわざ足を運んできたのだった。

あの日、翔太が彼女に質問してきたとき、川下りができると聞いた途端、かなり興味を示していた。それを思い出した玲奈は、彼の姿を見ても驚かずに尋ねた。「いつ着いたの?」

「今日の朝」

正式に長墨ソフトに入社してからというもの、彼は何度も彼女を誘おうとしてきた。

だが、一度も約束は成立しなかった。

過去に顔を合わせたのは、会社以外ではあの晩餐会の一度きりだった。

勤務中の玲奈は、いつもきちんとした格好をしている。

だが今の玲奈は、すっぴんで外出し、ラフなノースリーブとカジュアルなパンツ姿。足元はビーサンだった。

陽射しがちょうどよく降り注ぎ、玲奈の顔や腕を照らし出す。それが彼女の肌をいっそう白く際立たせていた。会社での雰囲気とは違い、今の彼女には柔らかく可愛らしい雰囲気があり、見惚れるほど美しかった。

周囲の人たち、男
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Mga Comments (20)
goodnovel comment avatar
tareo
確か茜は6歳だったはずよ
goodnovel comment avatar
ゆーい
ほんとそうですよね!お金出して、はいお願いね!って状況で何で親権欲しがったのか。 玲奈に大事なものあげたくないからって言われてそんな気がする。ほんまクズだわ。
goodnovel comment avatar
まり
茜が邪魔なら親権主張しなくても良かったのでは?そんなにクズ不倫勘違い傲慢女が良いのか?何処が良いのかわからない。 ザマァみたい。クズ男とクズ不倫勘違い傲慢女のイチャイチャなんて、見たくも無いんだけど…
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