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最も自由な男

Author: 吟色
last update Last Updated: 2025-07-12 21:28:29
朝靄が残る旧公園。

アキラは、足元に置いた端末が小さく震えているのに気づいた。

《非認証通信:受信中》

カナが覗き込む。

「誰から?」

「わからない。でも、普通の通信じゃない。形式も、圧縮方式も見たことない」

「こんな通信、普通は届かないよね。……AIの中枢ネットワークに紐づいてないってこと?」

アキラは静かに頷いた。

表示されたメッセージは、たったひとつ。

「迎えに行く。G2区画、赤いクレーンの下で会おう。」

「……場所、指定してきたな」

「罠かもしれないよ?」

「それでも、行くしかない。待ってる誰かがいるなら、俺たちから動かないと」

アキラのその言葉に、カナは小さく頷いた。

G2整備区画──そこは、かつて都市建設AIが最初に手をつけた実験エリアだった。

だが、人間の動きが予測不能すぎたため最適化不能と判断され、統治システムから切り捨てられた。

今では地図上でも半透明の扱い。実質的に存在しない場所だ。

コンテナの残骸と錆びたクレーンが並ぶ道を歩きながら、アキラはつぶやいた。

「管理できない場所は、潰して、見える範囲に人間を押し込めたのか。数字と監視が届く範囲だけを世界にしたんだ」

カナが辺りを見渡す。

「知らなかっただけで……街の外には、こんなに広くて、使われてない場所があったんだね」

「そう思うとさ、街の中がどれだけ狭かったかって感じるよな」

その時、目印の赤いクレーンの根元に、人影が見えた。

シャツのボタンは適当にとめられ、裾は片方だけズボンからはみ出している。

靴紐も、片足しか結ばれていない。

しわだらけの服のせいで気づきにくいが、顔立ちは妙に整っていた。

涼しげな目元に、乱れた前髪がかかっている。

どこか力が抜けていて、緊張感がない。

青年は仰向けのまま空を見ていた。

まるで、ここが世界の真ん中でもいいとでも言うような顔で。

「……寝てる?」

「たぶん、あれが迎えだよな……」

警戒しながら近づいたそのとき、青年がゆっくりと上半身を起こした。

「あー、起きた。君ら、アキラとカナで合ってる?」

そう言って伸びをした姿にも、隙だらけのようでいて、どこか一分の乱れがなかった。

「……えっと、はい。あなたは?」

「セツ。名前だけ覚えてくれたらいいよ。ルキに頼まれて来た。案内と、まあちょっとした指
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