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第17話

Auteur: 枝火
「言わないわ」

春日は首を振った。

もう少しだ、もう少しで縄を解ける。

雪葉は目を細め、冷ややかな声で言った。

「そう......言わないなら、あんたを徹底的に壊してやる」

「この顔をめちゃくちゃにしてやる。そしたら、もう二度と男を誘惑できないでしょ?今、天罰を代行してあげるわ!」

雪葉は完全に狂気に飲み込まれていた。

彼女は刃物を手に取り、春日の顔を傷つけようと振りかざした。

その瞬間、春日は縄を解くことに成功し、素早く身を翻して攻撃を避けた。

雪葉は状況が変わったことに気づき、すぐさま春日を掴もうとしたが、春日は体に滲む血を無視して全力で逃げ出した。

しかし、血が流れる体では走る力も限界があり、数歩進むと雪葉に追いつかれそうになった。

その時だった。

暗闇の中から黒い影が飛び出してきた。

「春日!」

春日の前に立ちはだかったのは千秋だった。

彼は鋭い蹴りを繰り出し、雪葉を突き飛ばし、春日をその腕の中にしっかりと抱き寄せた。

「病院に連れて行くよ」

その声には緊張、心配、後悔、そして強い自責の念が滲んでいた。

春日は彼の顔を見上げた。涙が瞳の中で揺
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