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第6話

Author: 毛利一
才加の父の顔色がさっと曇り、何か言いかけたその時、才加が慌てて制止した。

「お父さん、お母さん、もうやめて。良平の意向は尊重すべきよ。

私、良平を愛してるの。だから、彼がしたいことなら、何だって応援する」

そう言うと、才加は彼の頬にキスをしようとした。

ここ数日、ふたりの親密なやり取りは数え切れないほどあった。最初のうちこそ、良平は人目のないところで才加に「これは芝居だ」と念を押していたものの、次第にそれにも慣れてしまったのか、この2日間の親密さは、私たちの1か月分をゆうに上回っていた。

けれどこの時、良平は高須家の面々の目の前で、彼女を思い切り押しのけた。

高須家の面々は皆、呆気に取られる。良平自身も、はっと我に返ったように薄い唇を震わせると、やがて立ち上がって言った。

「もう十分いただきました。少し風に当たってきます」

彼は席を立った。

才加が慌てて追いかけていく。

「ごめんなさい、気にしないで。両親も悪気はないの。ただあなたを助けたいだけで、これから先も……」

「俺たちの間に、この先はない」

良平が彼女の言葉を遮った。

そのまま車のドアを開けた。

「才加、俺たちのことは、お前の両親にもきちんと話しておくべきだった。これは芝居だ。本当に籍を入れる気なんてない」

「でも私は、本当にあなたのことが好きなの。結婚したいと思ってる」

その言葉を聞いて、良平が振り返った。目を細める。

「才加。俺はお前を愛してない。俺たちの間に、可能性なんてものはないんだ」

まさかそんな答えが返ってくるとは思わず、私は少し意外に思った。

才加はそれ以上に衝撃を受けたようで、まるで信じられない話でも聞いたかのような顔をしている。

「そんなはずない。良平、私に一度も心が動いたことはなかったの?」

良平はしばらく考え込んだ。

「あったかもしれない。だが後になって気づいたんだ。あれはただの執着だったんだと。

俺が一番愛してるのは、やっぱり優衣だ」

言い終えると、彼は才加に構うことすらせず、そのまま車を発進させて立ち去った。

家に戻った良平は、以前ふたりで記入していた婚姻届を手に取り、区役所へと向かった。

窓口がすでに閉まっていると分かると、彼は夜間受付へ向かい、婚姻届を提出した。そうしてようやくひと息つくと、彼は私とのLINEのトーク画面を開いた。

ここ数日、彼はぽつぽつと何通ものメッセージを送ってきていたが、私は一度も返さなかった。ついには珍しく素直に謝罪の言葉まで送り、迎えに行くとまで書いてきた。

それは、これまでの彼には決してなかった行動だった。

気持ちを落ち着けてから、彼は改めてメッセージを送る。

【優衣、本当にごめん。もう怒らないでくれ。

見てくれ、俺たちの婚姻届、もう出してきた】

信じてもらえないと思ったのか、提出前に撮っておいた、私たちの名前が記入された婚姻届の写真まで送ってきた。

メッセージを送った直後、一本の電話がかかってきた。

てっきり私からの電話だと思い込んだ彼は、口元に笑みを浮かべて通話ボタンを押す。

「もう怒って……」

弾んだ声が最後まで終わる前に、電話の向こうから、冷ややかな声がそれを遮った。

「宇高優衣さんの婚約者の黒羽良平さんでしょうか。

宇高優衣さんと思われるご遺体が海外で発見され、現在は国内で安置されています。至急、身元確認にいらしてください」

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