愛が過ぎ去った

私の彼氏、佐藤徹也は法医学者だ。そんな私が、彼がかつて捕まった犯人に誘拐されてしまった。

犯人たちは私の体に爆弾を巻きつけた。

犯人は険しい目つきで私をにらみつけた。「お前が佐藤徹也の彼女か？早く佐藤徹也を呼び出せ」

私は無理やり佐藤徹也に電話をかけさせられた。しかし、彼の声は不機嫌そうだった。「仕事中に電話するなって言っただろう！うるさいな」

私は急いで言った。「徹也、私、誘拐されてるの。彼らはあなたに復讐したいって言ってる。絶対に来ちゃだめ......」

言い終わらないうちに、犯人が電話を奪い取った。

電話越しに、佐藤徹也の声がはっきりと聞こえてきた。「相楽香澄、お前病気か？俺、仕事中だって言ってるだろ。こんなことで冗談言ってんじゃねぇよ」

「侑芽の猫がもう三日間も木の上にいるんだぞ。今助けないと命が危ないってのに、俺を帰らせるためにそんな嘘までつくとか、お前どうかしてるんじゃないか？ どうして今すぐ死ぬとか言わないんだ？」

私は体につけられた爆弾を見た。カウントダウンはすでに残り10分を切っていた。

「私......」

「もういい。こんなくだらない嘘を聞きたくないんだよ。侑芽はその猫を命よりも大事にしてるんだ。もし猫が死んだら、侑芽に何かあったら、お前、相楽香澄が人殺しになるんだぞ。絶対に許さないからな！」

その時、電話の向こうから甘い女の声が聞こえてきた。「徹也すごい！ 本当に私の猫ちゃnを助けてくれた！」

すぐに電話は切れた。

犯人は舌打ちして言った。「くそ、佐藤徹也はこの女を全然愛してないな。人を間違えた！」

犯人たちが去った後、私は自分の体に巻かれた爆弾を見つめながら、自然と涙が溢れ出してきた。

犯人ですらわかっていたのに、私は最後の一日まで気づかなかった。

佐藤徹也が言っていた「侑芽」というのは、彼の幼なじみ、石井侑芽だった。

佐藤徹也と付き合い始めた頃、彼は石井侑芽はただの妹みたいな存在だと言っていた。

私はそれを信じた。でも、何かがおかしいと気づいた時には、もう抜け出せないほど深くハマっていた。

佐藤徹也はどんな時でも、石井侑芽から電話がかかってくると、すぐに駆けつける。

私の両親に初めて会った時でさえ、石井侑芽が「暗いのが怖い」と言っただけで、私たちを置いて彼女のもとへ急いで行った。

一言の説明もなく、ただ「用事がある」と言い残して。

私は彼を引き止めようとした。

彼が行かないようにと、必死に両親に顔を立ててくれるようにお願いした。

それでも佐藤徹也は冷たく笑って言った。

「相楽香澄、俺と石井侑芽はこの20年以上ずっとこうだったんだ。気に入らないなら、俺と結婚しなければいいだろ」

私は自分に言い聞かせていた。佐藤徹也は石井侑芽を妹としてしか見ていなくて、本当は私を愛しているんだと。

でも、死ぬ直前になってようやくわかった。

佐藤徹也は最初から私を愛してなんかいなかった。彼の心の中には、石井侑芽しかいなかったんだ。

爆弾が爆発する前、私は佐藤に最後のメッセージを送った。「さようなら、来世でも出会わないことを願っている」