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第363話

Author: 青葉凛
長年の懸案だった会社の実権が、赤の他人である律から、ついに自分たち「本物の血族」の手に戻ってくる——その期待に胸を膨らませる二人の目は、ギラギラとした強欲な色に染まっていた。

「そりゃそうだろうよ。なんだかんだ言っても、颯馬は俺たちの血筋だ。母さんだって口には出さねえが、律みたいな得体の知れない野良犬になんか、本心から会社を渡す気なんざあるわけねえんだ」

正人は確信に満ちた顔でニヤリと笑った。「ずっと俺たちがフラフラしてたもんで、母さんは愛想を尽かしちまってただけだ。だからこそ、優秀で従順な颯馬の存在が効く。母さんも今回ばかりは真剣に後継者の交代を考えるはずだぜ」

この日のために、兄弟は水面下で周到な準備を進めてきた。宏が慌ただしく海外へ飛んだのも、すべては颯馬を完璧な「拝島の跡取り」として仕立て上げ、連れ帰るためだったのだ。

「だが宏、わかってるだろうな?会社が颯馬のものになった暁には、俺への株の分け前、絶対に忘れるなよ」正人は急に声のトーンを落とし、念を押すように弟を睨みつけた。「俺という伯父の口添えがなけりゃ、あいつがホイホイ後継者の座に収まることなんてできなかったんだか
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    長年の懸案だった会社の実権が、赤の他人である律から、ついに自分たち「本物の血族」の手に戻ってくる——その期待に胸を膨らませる二人の目は、ギラギラとした強欲な色に染まっていた。「そりゃそうだろうよ。なんだかんだ言っても、颯馬は俺たちの血筋だ。母さんだって口には出さねえが、律みたいな得体の知れない野良犬になんか、本心から会社を渡す気なんざあるわけねえんだ」正人は確信に満ちた顔でニヤリと笑った。「ずっと俺たちがフラフラしてたもんで、母さんは愛想を尽かしちまってただけだ。だからこそ、優秀で従順な颯馬の存在が効く。母さんも今回ばかりは真剣に後継者の交代を考えるはずだぜ」この日のために、兄弟は水面下で周到な準備を進めてきた。宏が慌ただしく海外へ飛んだのも、すべては颯馬を完璧な「拝島の跡取り」として仕立て上げ、連れ帰るためだったのだ。「だが宏、わかってるだろうな?会社が颯馬のものになった暁には、俺への株の分け前、絶対に忘れるなよ」正人は急に声のトーンを落とし、念を押すように弟を睨みつけた。「俺という伯父の口添えがなけりゃ、あいつがホイホイ後継者の座に収まることなんてできなかったんだからな」金が絡めば兄弟だって信用ならない。だからこそ、こうして釘を刺しておく必要があった。彼らの目的は初めから一貫している——ただ『会社の実権と株』が欲しいだけなのだ。もしこのまま志津が死に、グループの全権が赤の他人である律の手に渡ってしまえば、自分たちの悠々自適な生活はパタリと途絶えてしまう。それだけは絶対に阻止しなければならなかった。そもそも、正人には自分で会社を切り盛りしようなどという気はサラサラない。能力もないくせに金遣いだけは荒い出来損ないの息子・隆行を、無理に社長の座に据える気もなかった。彼が狙っているのは、あくまで莫大な株とそれに伴う配当金だ。実権さえ奪い返せば、あとは適当な人間に経営を任せ、自分は不労所得を啜って生きていきたいだけなのだ。昔から彼らはそうだった。会社のことなどすべて志津に押し付け、金が尽きれば小切手を切らせるだけの寄生虫。自分たちに経営の才能がないことなど、とうの昔に自覚している。だが、それを志津の前で認めるわけにはいかない。「お前たちには任せられない」と、本当にすべてを奪われてしまうからだ。だからこそ、こうして体面を取り繕い、優秀

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    車に乗り込むと、紫音はこらえきれず胸の内の考えを口にした。「でも、宏さんがわざわざこのタイミングで彼を連れ帰ってきた目的は一つよね。志津様に身内の孫として受け入れさせて、会社を継がせるため……」「君は人が良すぎるよ」ハンドルを握る律は前を見据えたまま、冷ややかな声で応じた。「私の目には、あいつの態度はすべて計算ずくにしか見えなかった。あの耳障りのいい言葉も、裏で父親が入れ知恵したんだろうさ。もし本当におばあちゃんを気にかけていたのなら、とっくの昔に会いに来ているはずだ。なぜよりによって、こんなタイミングで姿を現す必要がある?……もっとも、私はもう彼らの茶番に関わる気はないがね」そう、律はもう拝島家の泥沼の権力闘争に付き合うつもりはなかった。もし志津が颯馬を気に入り、会社を彼に託すというのなら、それに異を唱える気もない。もともと律自身は、拝島の会社や権力そのものに執着などないのだ。もしここを去る日が来ても、自分の力で新たな会社を立ち上げればいい。だからこそ、祖母が下す決断には素直に従うつもりだった。それに、もし颯馬が遺産目当てで「良い孫」を演じ続けるというのなら、少なくともしばらくの間は祖母に優しく接するはずだ。それによって一時的にでも家の中が平穏になり、祖母が心安らかに過ごせるのなら、律があえて首を突っ込んで波風を立てる必要もない。「……あなたの言う通りかもしれないわね」紫音は深く頷き、隣に座る彼の横顔を優しく見つめた。「実は私、あなたがこの家から離れられる日が来るのを、ずっと願っていたの。拝島家を出て初めて、私たちは本当の新しい生活を始められると思うから。あなたほどの能力があれば、どこにいたって必ず成功できるわ。自分で会社を立ち上げても、今以上に立派にやっていけるって、私は信じてる」これ以上、律が拝島の人間たちのために身を粉にして働き、疲弊していく姿など見たくなかった。どれだけ彼が血の滲むような努力をして会社を支えても、あの強欲な親族たちは誰一人として彼を認めようとしないのだから。「私も本音を言えば、とうの昔にこの家を出たかった。ただ、おばあちゃんを見捨てるわけにはいかなかったから残っていただけだ。だが、『結びつきの強い本当の孫』が現れたとなれば話は別だ。もしおばあちゃんが彼を認めるのなら、間違いなく会社を譲ることを考え始めるだ

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