Share

第5話

Author: 匿名
家に帰ると、恵美はカバンの中から静かに中央制御システムを取り出した。

このシステムは、これから15日間の彼女の言動を記録して、その後のシミュレーションに使うものだった。

しかし、具体的な容姿や好み、それに記憶までを伝えるには、何か一つを犠牲にしなくてはいけない。

恵美は目に涙をためながら、10年近くの思い出がつまったアルバムを見つめた。唇の震えが止まらない。

アルバムの一番新しいページには、彼女の誕生日に撮った二人の写真があった。

その日、恵美は車の後部座席で、使用済みのコンドームの包装を見つけたのだった。

自分を一番愛していると言っていた男が、まさか自分の誕生日ケーキを取りに行く途中で、他の女と束の間の快楽にふけっていたなんて。

しかも、他の女とキスをしたその口で、自分に「愛してる」などと囁くのだ。

本当に……気持ち悪い。

「ご主人様、アルバム状のアイテムをスキャンしました。ただちにデータを生成します」

機械が蛍光色の光を放ちながらスキャンする。恵美は、ロード中のバーが少しずつ満タンになるのを無表情で見つめていた。淡い光が、彼女の冷めた横顔を映し出す。

二人のすべての過去が詰まったアルバムが、いとも簡単に消え去っていく。

最後のデータが生成されたその時、玄関のドアが開く音がした。「恵美、ただいま」

後ろから聞こえてきたのは海斗の声。足取りは軽く、彼自身も気づいていないような楽しげな響きが感じられる。

「遅くなっちゃって、ごめん。急な仕事で残業しなくちゃならなくて。待った?」

会社の残業?本当に会社で残業してたのか、それとも、胡桃の上で「残業」してたのかは知らないが。

海斗の首筋に残るキスマークから目をそらすのに必死だった恵美は、何だか笑えてきた。

「別に。もう遅いから、早く休んだら?」

恵美のそっけない態度に、海斗はかすかな不安を覚える。

海斗は恵美のそばに寄り、肩を抱こうと手を伸ばしたが、恵美にそっと身をかわされた。

「恵美、約束を破ってごめん。お詫びと言っては何だけど、明日お前が一番好きなレストランに行かない?

ちょうど明日、拓也が海外から帰ってくるんだ。一緒に食事会でもしようよ」

「拓也?」

恵美は少し考えて、その名前を思い出した。

しかし海斗は恵美に断る隙を与えず、あの手この手で承諾させると、翌日には彼女を連れて食事会に向かった。

幸い、知っている顔ぶればかりだったから、気まずさはそれほどでもなかった。

談笑の途中、河内拓也(かわうち たくや)が恵美に目を向ける。

「恵美さんは相変わらずお綺麗ですね。それに、二人は本当に仲が良くて、海外のニュースでもよく見かけましたよ。まさに憧れの夫婦です」

「当たり前だろ?俺が恵美を口説くのにどれだけ苦労したか忘れたのか?3年間もアタックして、やっと承諾してもらったんだから、大切にしないわけがないだろ?」

海斗は、機嫌をとるように恵美に微笑みかけた。その甘い視線に、拓也は大げさに声を上げる。

「おいおい、独り身の気持ちを少しは考えてくれよ。ちょっとは控えてくれって」

拓也だけでなく、すべてを知っていながら芝居に付き合うのは、恵美にとってもひどく苦痛だった。

海斗の視線も、彼が口にする愛の言葉も、一秒でも長く聞けば、馬鹿らしくて笑ってしまいそうだった。

恵美はこの雰囲気に耐えきれず、トイレを口実にそそくさとその場を離れた。

海斗は心配そうに彼女の後ろ姿を見送り、その姿がドアの向こうに消えるまで、視線を外さなかった。

恵美が部屋を出ると、拓也はすぐに身を乗り出し、声を潜めて尋ねた。「恵美さんには、バレてないんだよな?」

海斗はドキッとして、無意識にドアに目をやった。誰もいないことを確かめてから、小声で答える。「ああ、彼女は何も知らない」

その言葉に拓也は頷き、からかうような口調で言った。

「お前もやるよな。わざわざ俺を海外から呼び戻して何かと思えば、まさか愛人の妊娠準備を手伝わせるなんてさ。もし恵美さんに知られたらどうなるか、考えたことあるのか?」

海斗は黙り込み、拓也のそばにあったタバコの箱に手を伸ばしかけた。しかし、恵美がタバコの匂いを嫌うことを思い出し、すぐに手を引っ込める。

「考えたさ。だからこそ、恵美に知られるわけにはいかない。お前を呼び戻したのも、そのためだろ?

俺が病院に連れて行けば、必ず噂が広まる。だからお前に頼むしかなかったんだ」

拓也は海斗の表情が硬いことに気づき、ふざけるのをやめて真剣な顔で尋ねた。

「じゃあ、恵美さんに……気持ちはもうないのか?」

「ないわけないだろ?恵美は俺の命よりも大切な女性だ。愛してるよ。誰よりも深く、な。

胡桃は……まあ、事故みたいなもんだ。あいつ、恵美にそっくりなんだよ。最初は別にどうこうするつもりはなかった。でも、一緒にいるうちに、まるで初めて会った頃の、20歳の恵美みたいに思えてきてな。

俺はただ、恵美との子供がどんな顔か見てみたいだけなんだ。だから、胡桃が子供を産んだら、手切れ金を渡して海外に送り出す。そして、その子と恵美と三人で、穏やかに暮らすつもりだよ」

もっともらしいことを言う海斗に、拓也は眉をひそめ、核心を突いた。

「本当にそんなにうまくいくのか?最後に情が移って、手放せなくならなきゃいいけどな」

海斗は黙り込んだ。彼の心は、もうどこか遠くへ飛んでしまっているようだった。

海斗は胡桃のことを思い出していた。若かった頃の恵美と瓜二つのあの顔を思い浮かべると、胸の中がざわつく。

一番愛しているのは間違いなく恵美のはずなのに、どうしても、胡桃の存在に抗えない自分がいた。

海斗は眉間をもみ、深いため息をつく。

「全部うまくやるさ。拓也、お前も知ってるだろうけど、俺は恵美との子供が、どうしても欲しいんだ。でも、彼女はもう産めない体なんだよ」

夜風が廊下を吹き抜ける。恵美の手はドアノブにかかったまま。最後に聞こえたのは、海斗の残念そうなあの言葉だった。

恵美は個室のドアの外に立ち尽くす。いつの間にか目には涙が溢れていた。
Patuloy na basahin ang aklat na ito nang libre
I-scan ang code upang i-download ang App

Pinakabagong kabanata

  • 裏切り夫には、身代わりを用意した   第24話

    胡桃の件はかなり大きな騒ぎだったため、海外にいる恵美の耳にも、事の経緯は入ってきていた。だが恵美は、とくに何も思わなかった。むしろ、どっちも自業自得で、当然の報いだと思ったくらいだった。面倒なことから解放されて、恵美はのびのびと快適な毎日を送っていた。F国に秋が訪れる。やわらかな日差しが、川のほとりに降りそそいでいた。恵美は川のそばにあるベンチに腰かけて、詩集を手にしていた。そよ風が彼女の髪を揺らし、ひんやりとした空気を運んでくる。恵美はここで新しい生活を始めた。過去の痛みからも、彼女を深く傷つけた人や出来事からも、遠く離れて。今の恵美は、毎日を絵画や彫刻とともに過ごし、芸術的な雰囲気に包まれて暮らしている。彼女の暮らしはシンプルだけど、とても満ち足りていた。ときどき友達と集まったり、ひとりでF国の街を歩いたりして、この街のロマンチックで自由な空気を感じていた。それから、たまに智也に誘われて、彼の大学へ講義を聞きに行くこともあった。だが、智也への気持ちは友情以上のものではないと、恵美ははっきりと分かっていた。智也と一緒に過ごす時間は楽しかったが、過去の経験を経て、彼女の心はもっと自立し、強くなっていた。もう誰かに頼りたいとは思わないし、簡単に新しい恋愛を始めようという気にもなれなかった。でも、智也の気持ちは、もう隠しきれないほどになっていた。ある日の夕方、彼は恵美をカフェに呼び出した。夕日がカフェのテラスを照らし、あたりにはコーヒーの香りと、かすかな音楽が漂っている。智也は恵美の向かいに座っていた。その眼差しには、いつもと違う緊張と期待がにじんでいる。「恵美さん。君に話したいことがあるんだ」恵美はコーヒーカップを置いて、智也を見上げた。彼が何を言いたいのか、本当はよく分かっていた。そして、いつものように、この話から逃げたいとも思った。でも、この問題にはいつか決着をつけないといけない。相手の気持ちを利用して、いつまでも縛り付けておくなんてできなかった。「君が好きなんだ」智也の声は小さかったけれど、その言葉は一語一句、はっきりと恵美の耳に届いた。「初めて会った時から、君に惹かれていた。君の才能も、自立しているところも、優しさも、全部に心を奪われたんだ。君が初めて僕に会ったとき、君の隣で僕

  • 裏切り夫には、身代わりを用意した   第23話

    恵美と別れた後、海斗は仕事に没頭しようと努めた。しかし、どういうわけか胡桃の影がつきまとい、彼の生活に少しずつ入り込んできた。子供を中絶させた後、海斗は恵美のことばかりで、胡桃を気に掛ける余裕などなかった。しかし、次々と送られてくるメッセージが、胡桃が再び自分を狙っていることを彼に思い知らせた。【海斗さん、どうしてそんなに冷たいの?愛してるって言ってくれたのに!赤ちゃんが生まれるのも楽しみにしてるって言ってくれたよね?なのに、何で私たちの赤ちゃんを自分の手で殺すなんてことができたの……】【全部、あの女のせいだよね。あの女がいなければ、あなたは私だけを愛してくれたはずなのに】【海斗さん、あなたは後悔することになるから。いいや、あの女も一緒に。あなたたち、二人とも絶対に後悔させてやるから】海斗は胡桃の脅しを全く意に介すことはなく、ただ、部下に彼女の今の住所を調べさせただけだ。しかし、まさか胡桃の行動がこれほど早いとは思わなかった。翌朝、世間を埋め尽くすニュースを見て、海斗は一瞬で血の気が引いた。【#小山グループ社長、不倫か】【#小山海斗氏、イメージ崩壊】【#クズ男、隠し子を強制的に中絶させる】かなりセンセーショナルな見出しが、あらゆるSNSに溢れかえっていた。最も海斗を驚かせたのは、胡桃のライブ配信だった。彼女はカメラの前に座り、涙ながらに自分たちの物語を語っていた。「私と海斗さんは、大学の合同説明会で出会いました。彼は私に一目惚れしたんです……それから、海斗さんは奥さんに隠れて私と会ってくれ、プレゼントをくれたり、さらには私たちの間に子供もできたんです。でも、私が正式な関係を求めた途端、彼は私に中絶を強要してきました。それだけじゃなく、業界全体に圧力をかけて、私がこの世界で生きていけないようにもしたんです!海斗さん!あなたがそんな人だとは思わなかったわ!」海斗は画面の中の女を見て、ただただ吐き気を覚えた。胡桃の言うことには嘘と真実が巧みに混ぜ合わされていた。しかし、巧妙に編集されたトーク履歴や写真が添えられていたせいで、どれも真実味を帯びていた。会社の株価は暴落し始め、提携先も次々と手を引いていった。あっという間に、海斗はあらゆる問題に追われ、身動きが取れなくなった。これがすべて、胡桃

  • 裏切り夫には、身代わりを用意した   第22話

    恵美が意識的に距離を置こうとしているのを、智也も察したようだ。だから彼も深追いせず、お茶を一杯飲むと席を立った。それでも、智也はその後も数日おきに大学とギャラリーを行き来していた。「本で得た知識は、実践と結びつけないと意味がありませんから」というのが、彼がくる理由だった。何度も顔を合わせるうちに二人はすっかり打ち解け、恵美からも初対面の頃のようなよそよそしさはもうなくなっていた。その頃、海斗はデスクの椅子に座っていた。手には、届いたばかりの裁判所からの呼び出し状。彼は無意識のうちにそれを握りしめ、紙の端がくしゃりと歪む。呼び出し状に書かれた文字は、冷たく海斗の目に映った。それはまるで、彼の心に残っていた最後の望みを断ち切る、見えない刃のようだった。海斗はその数行をじっと見つめた。焦点が合わず、文字が目の前でちらついて、目の奥がじんじんと痛むようだった。窓の外は、いつもと変わらない街の喧騒。ひっきりなしに車と人が行き交っている。この街の無数の灯りの中に、かつては彼のために灯された光が一つあったのに。でも、もう……海斗はガラス窓越しに遠くのビル群を眺めていたが、彼の心はとっくに海の向こうへ飛んでいた。「もう関わらない」という自分自身で決めたことも、結局は守れなかった。十数時間のフライトを経て、海斗は再び恵美の面影が残るこの場所に降り立ってしまったのだ。恵美へのプレゼントを何にするか、彼は長い時間考えた。そして迷った末に、あるN国の芸術家の遺作を贈ることに決めた。恵美はその芸術家のことが大好きだと、以前とある展覧会でそう話してくれたことがあった。でもその頃の自分は仕事に追われ、聞き流してしまっていた。今、これが自分にできる最後の贈り物だ。海斗は車のトランクを開け、恵美を驚かせようと思っていた。しかしガラス窓の向こうで、彼女が見知らぬ男と楽しそうに談笑しているのが見えてしまった。あんなに屈託なく、楽しそうな恵美の顔を見るのは、本当に久しぶりだった。海斗の足が止まった。胸の中に、言いようのない複雑な感情が渦巻く。彼は一度息を深く吸い込んでから、ギャラリーのドアを開けた。カラン、というドアベルの軽やかな音に、恵美は振り向いた。その視線の先に、こちらへ向かって歩いてくる海斗の姿が映った。恵美の顔から、さっ

  • 裏切り夫には、身代わりを用意した   第21話

    スマホの画面を見て、拓也は顔をほころばせる。「おい!効果てきめんだぞ!やっぱり心配してくれてるんじゃないか?言った通りだろ。さっきまでは忙しくてスマホなんて見られなかっただけなんだって」拓也は笑みを浮かべて通話ボタンを押した。だが口を開くよりも早く、受話器から冷たい恵美の声が響いた。「そんなことして楽しいですか?こんな子供だましの手、引っかかるわけないでしょ?拓也さん、もう余計なことに関わるのはやめたほうがいいですよ。海斗のために動いてるのは分かりますが、私の気持ちを考えていただいたことはありますか?今まであなたが海斗の味方をして私に浮気を隠していたことも、あの女の出産を手伝いに帰国してきたことも知っています。面倒だから問い詰めはしませんが、もう私に関わるのはやめていただけますか?そこに海斗もいるんですよね?だったら、伝えてください。私は昔から一度も、決めたことに後悔したことはない、と。離婚は決定事項で、今さら戻るつもりもありません。よりを戻そうと必死になっても、それは無駄なことですから」恵美は二人の反応など気にも留めず、電話を切った。すべてが筒抜けだと知った拓也の顔から、みるみる血の気が引いていく。ハンズフリーになっていたため、病室にいた海斗にも恵美の一言一句がはっきりと届いていた。海斗の瞳は澱んだ。言葉を発さず、ただ静かに腕から点滴を抜いた。「海斗!どこへ行くんだ?」「外でタバコを吸うだけだ。何でもない」海斗の寂しげな背中が暗闇へと消えていく。海斗の心は今も痛み続けていたが、まだ諦めてはいなかった。これほど長く築いた感情を、そんな簡単に手放せるわけがない。恵美は自分に腹を立てているだけだ。もっと本気で追いかけ、誠実に向き合えば、きっともう一度チャンスをくれるはず。海斗は恵美に捧げるプレゼントを探し回り、国内のオークションを奔走した。おかげで何週間もの間、恵美のギャラリーには顔を出さなかった。しかし恵美の方は、その影が消えたことにすら気づいていない様子だった。海斗が姿を消してから3週目、彼女はクラフト紙の袋を抱えてスーパーから戻った。運悪く今日は傘を持ってこなかった。雨が降らないと賭けていたのが、あっさりと賭けに負けた。「お困りごとですか?」ふと差し出された傘の陰から、柔らかな笑みを浮

  • 裏切り夫には、身代わりを用意した   第20話

    海斗がレストランから出てきた時には、恵美の車はもうそこにはなかった。川辺の湿気を含んだ夜風が顔に吹き付ける。海斗はネクタイを緩め、どこへ向かえばいいのか分からず立ち尽くした。しばらく考えた末、海斗は恵美に時間を与えるべきだと思った。彼女が冷静になるための、そして自分自身が冷静になるための時間を。それに、綿密な復縁計画を立てる必要もあった。方針さえ決まれば、実行に移すのは時間の問題だった。すぐに、プライベートジェットは雲の上を飛んでいた。海斗は窓の外で渦巻く入道雲を睨みつけた。左手の薬指にはめた結婚指輪が、手のひらに食い込んで痛い。だが、この痛みは、あの時の恵美の胸が張り裂けるような痛みに比べたら、どうってことない。着陸すると、海斗は拓也に電話をしてから、すぐに彼のところへ向かった。拓也が予約した隠れ家的な会員制のクラブは、プラタナスの並木にひっそりと佇む路地の奥にあった。海斗が彫刻の施された木製のドアを開けると、拓也はいつも持ち歩いている小さな人体模型をいじっていた。「ギャラリーの件を解決してやったのに、彼女は何の反応もないのか?」「ああ。俺の助けなんて必要なかったみたいだよ。食事に誘われたから、少しは関係が修復できるかと期待したんだけど……結局は、けじめをつけたかっただけらしい。それに、もう離婚調停の手続きを進めてるって」拓也はそれを聞いて、「うーん」と唸った。今回ばかりは恵美が本気で海斗と別れるつもりだと、拓也も察した。実は、拓也もこうなることを予想していた。初めて会った時から、恵美は物腰が柔らかく素直そうに見えても、自分の中に確固たる信念を持っていると気づいていたから。ましてや、恋愛における裏切りというのは、最も許しがたいことだった。結局、二人で話しても良い考えは浮かばず、拓也は焦らずゆっくりやるべきだと言った。もう一度、時間をかけて誠意を証明するしかない。しかも今回は、前に恵美を口説いた時よりもずっと長くかかるだろう。海斗はそれを聞いてうなずいた。「構わない。恵美が戻ってきてくれるなら、いくら時間がかかってもいい」拓也もうなずき、ふと何かを思いついたように言った。「なあ……仮病を使ってみるのはどうだ?前にお前が風邪で熱を出した時、恵美さんはものすごく慌ててただろ?もしお前

  • 裏切り夫には、身代わりを用意した   第19話

    恵美と海斗が出会った時は、二人ともまだ若かった。海斗の方なんか、まだ子供と言ってもいいくらいだった。恵美は海斗より4歳年上で、3年間、彼の家庭教師をしていた。恵美は、問題児だった海斗を何とかまともな道へと導いた。彼を励まし、支え続け、陰鬱で荒れていた性格から救い出したのだ。大学入試の共通テストの結果が出た日のことを、恵美は今でも覚えている。あの日、海斗は合格祝いを口実に彼女を家に招待した。花びらが敷き詰められた庭で、海斗は白いバラを手に恵美へ交際を申し込んだ。でも、彼女は慌てて逃げ出してしまった。それでも、少年のまっすぐな想いは、恐れることを知らなかった。恵美が何度断っても、海斗は諦めずに告白を繰り返した。だから、彼はいつもサプライズの準備ばかりしていた。海斗は友達に笑いながら聞かれたこともあった。「恵美さんは、一体どんな手を使ったんだ?あんな遊び放題だった御曹司のお前を、ここまで夢中にさせるなんてさ」でも、海斗はただ首を横に振るだけだった。「別に何もしていない。ただ、彼女がそこにいるだけで、そばに行きたくなるし、守りたくなってしまうんだよ。いっそ俺の金を目当てにしてくれたら、まだ彼女を振り向かせる方法があるのにって、いつも思うよ」それでも海斗は諦めなかった。何度か酔った後には、どうして受け入れてくれないのかと泣きながら恵美に問い詰めることさえあった。そんな一途な想いを向けられて、動かされない心なんてない。そして、ある平凡な日の午後、二人はついに恋人になった。海斗は自分の言葉通り、恵美を溺愛した。出会って10年、結婚して7年。情熱は衰えるどころか、愛情は日増しに深まっていった。彼女のために庭園を造り、島を買い、人前で自己紹介をする時は決まってこう言った。「俺は小山社長なんかじゃなくて、ただ恵美を永遠に愛する夫だから」と。これほど愛し合っていたのに、結末は互いに傷つけ合うだけだった。恵美の問い詰める声が、太鼓のように海斗の胸を打ち、彼を苦しめた。海斗は指の関節が白くなるほど強くこぶしを握った。テーブルのナプキンに、ぽつりと色の濃いしみが2つ、広がる。しみはみるみるうちに増えていく。ビジネス界のトップに立つ男が、今はこんなにもみっともなく泣きじゃくっている。「ごめん、本当にごめん……俺が

Higit pang Kabanata
Galugarin at basahin ang magagandang nobela
Libreng basahin ang magagandang nobela sa GoodNovel app. I-download ang mga librong gusto mo at basahin kahit saan at anumang oras.
Libreng basahin ang mga aklat sa app
I-scan ang code para mabasa sa App
DMCA.com Protection Status