クローン人形店を出ると、霧雨が降っていた。小山恵美(こやま えみ)は帰り際に店員から言われたことを思い出す。「小山さん、15日もすれば中央制御システムによる行動記録が完了し、身代わりの人形が自動で生成されます。決まりで、身代わりの人形と同じ場所にいることはできません。ですから、この期間に必ずお引越しをお済ませください」15日か……恵美は、今のところ監視装置としか思えないそれを、そっとカバンにしまいながら考えた。まあ、15日もあれば、この深津市での生活にけりをつけるには十分な時間だろう。帰り道、スマホがひっきりなしに鳴っていた。着信もメッセージも、すべて同じ人物から……それは、小山海斗(こやま かいと)からだった。一緒になってから10年間、結婚してからは7年になる夫。用件はどれも同じ。結婚7周年目の記念日だから早く帰ってこい、プレゼントがある、というものだった。恵美は適当に返事をすると、無表情でスマホをカバンに戻した。海斗が言うサプライズになんて、まったく興味が持てなかった。二人の関係はもう終わりかけているのに、何を今さら期待するというのだろう?重い足取りで家に帰ると、ドアを開けた途端、海斗に強く抱きしめられた。「遅かったな。心配で、ちょうど迎えに行こうと思っていたところだったんだよ。恵美、結婚7周年だな。プレゼントも用意してあるんだ。気に入ってくれると嬉しい」恵美が返事をするより早く、海斗はまるで手品のように、手のひらから一つのネックレスを取り出した。それはある国のもので、恵美も知っていた。このお守りは、お金では買えない。外部には公開されていない、ある試練を乗り越えたものだけが、授けてもらえるという神秘の力が宿ったネックレスだった。昔、誰かがあれを自分のために手に入れてくれたら、きっと感動して泣いてしまう、と冗談で話したこともあった。だが……そんなネックレスが、今になって海斗から送られるなんて。恵美は、ただただ滑稽にしか思えなかった。しかし、海斗は彼女の気持ちの変化に気づくことなく、愛情に満ちた瞳でそのネックレスを恵美の首にかけた。そして、愛する恵美が一生幸せでいられますようにと、祈るようにつぶやく。その言葉はとても真剣で、本当に恵美を心から大切に思ってくれているかのようだった。
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