LOGINクローン人形店を出ると、霧雨が降っていた。 小山恵美(こやま えみ)は帰り際に店員から言われたことを思い出す。 「小山さん、15日もすれば中央制御システムによる行動記録が完了し、身代わりの人形が自動で生成されます。 決まりで、身代わりの人形と同じ場所にいることはできません。ですから、この期間に必ずお引越しをお済ませください」 15日か……
View More6月10日。
4回目の結婚記念日。
そして——
私が、あと1年で離婚しよう。そう、決めた日。
本当なら、こんな日になるはずじゃなかった。
少なくとも、4年前の私はそう思っていた。
その日の午後6時にちょうどなった。
さっきから、時計が次の針に進むのを見つめては。
帰ってこない夫への諦めが募り。ため息が溢れた。
私東郷綾香(とうごうあやか)はテーブルの上にまだ湯気の立つ料理を並べる。
壁の時計をもう見たくなかった。さっきから、穴が開くほど見つめている。
夫である東郷優(とうごうゆう)の帰宅予定は、7時だったはず。
もう、1時間前なのに。連絡は、全く取れずにいた。
まだ、遅くない。
——期待なんて、していない。
そう思いながらも、手は勝手に動いていた。
少しだけ良いワインを開けて。
優が好きだった、2年前くらいまではよく行っていたレストランの再現レシピを作って。
花屋で小さな白い花束まで買った。
馬鹿みたいだ。でも、そうでもしないと結婚の意味がないと自分に言い聞かせて。
無心で、優が帰ってくる準備をしたのだ。
三年前には、もうわかっていたのに。
結婚記念日なんて、私たちに意味はない。
スマホを手に取る。
『今日は何時頃帰れそう?』
送信。
既読。
それだけ。
さっきから同じようなメッセージを繰り返し送っている。
返信は、来ない。
まあ、いつものことだ。
胸が痛むほどではない。
もう慣れた。
慣れてしまった。
それが一番、嫌だった。
そのまま待っていると。時は既に8時を回った。
料理は冷え始めていた。
ワインもぬるい。
メッセージは、既読のまま。
ため息を吐きながらスマホを開く。
何気なく流れたSNS。
そして。
指が止まった。
『今年もありがとう♡』
投稿者は、白川咲子(しらかわさきこ)。
——優の初恋の人だ。
そして....今も続いている恋人。
写真に顔は写っていない。
けれど。
映り込んだ腕時計を見た瞬間、呼吸が止まる。
見間違えるはずがない。
結婚祝いに私が贈った時計だった。
胸が、すうっと冷える。
ああ。
今日も、そっちなんだ。
結婚記念日よりも。
大切な愛人との時間を選んだんだ。
….知っていた。
ずっと、わかっていたはずだった。
優が咲子を切る気なんて、一度もなかったこと。
この結婚が、父親同士の事情から始まった“期限付きの契約”だってことも。
最初に言われた。
「誤解しないでほしい」
「咲子との関係は終わらない」
「結婚は五年だけ」
「お互い、割り切ろう」
それでも。
私は好きだった。
頭が良くて。
堂々としていて。
完璧な見た目で。
どこか冷たいけれども、温かい面もある優が。
いつか、少しだけでも。
私のことを見てくれるんじゃないかと。
四年間、馬鹿みたいに期待してしまった。
10時半を過ぎた頃。
玄関のロック音がした。
遅かった。
けれど、帰ってきた。
立ち上がった瞬間。
身体が凍りつく。
「ただいま」
その隣には、当たり前のように彼女がいた。
「こんばんは、綾香さん」
咲子だった。
まるで自分の家みたいな顔で、笑っている。
綺麗だった。可憐、を絵に描いたような人。
私とは、正反対のタイプ。
昔から何も変わらない。
優が、ずっと好きな女。
「……なんで」
喉が、うまく動かない。
優はネクタイを緩めながら、当然みたいに言った。
「咲子が終電逃したら困るし、今日も泊まらせる」
一瞬、意味がわからなかった。
今日は、結婚記念日だ。
私たちの、形だけでも記念日のはずで。
なのに、堂々と愛人を連れて帰ってくる?
しかも。泊まらせるって?
「……今日」
声が震える。
「今日、結婚記念日なんだけど」
優は少しだけ眉を上げた。
本当に、不思議そうに。
「だから?」
空気が止まる。
咲子が小さく笑った。
「あ、ごめんね。気を遣わせちゃった?」
悪気なんてない顔で。
「優、あの台湾で買った紅茶ある?」
——あの、紅茶。
胸の奥が、小さな痛みで痺れた。
私も知らない。
この家にある“いつもの”。
優は迷いなく棚を開ける。
「これ?」
「そう、それ」
自然だった。
あまりにも自然に咲子と優は2人で家にいるのが、馴染んでいて。
4年間の私なんて、まるで存在しないみたいに。
気づけば笑っていた。
笑うしかなかった。
「……すごいね」
声が、自分のものじゃない。
「結婚記念日に.....愛人連れて帰るんだ」
一瞬、空気が凍る。
けれど。
優は少し困った顔をしただけだった。
怒るでもなく。
悪びれるでもなく。
ただ、本気で理解できない顔。
「最初に言ったよね?」
静かな声。
「これは期間限定の結婚なんだからさ」
「俺、咲子と別れるなんて言ってないし、責められる筋合いもない」
「綾香に。変な期待させた覚えもない」
「プロジェクトも。終わるまで後半年かからないくらいの見込みだし」
その瞬間。
何かが、ぷつんと切れた。
あ、そっか。
この人は....私の夫であるはずのこの男は。
最初から、一度も私を妻だと思ってなかったんだ。
私はただ、都合のいい“体裁”だった。
肩書きの綺麗な妻。
それだけ。本当にそれだけで。
….改めて心の中で言語化すればするほど。
ひどく惨めだった。
「ごめん、私」
静かにバッグを掴む。
「少し、外に行ってくる」
優は一瞬だけこちらを見る。
でも、止めないし気にもしてない様子。
「遅くなりすぎるようなら連絡して」
それだけだった。
まるで、どうでもいいみたいに。
玄関を閉めた瞬間。
初めて、涙が出た。
悔しかった。こんな扱いを、当たり前に受け入れていることが。
でも一番辛かったのは。
——まだほんの少しだけ、期待していた自分だった。
スマホが震える。
親友のみかからのメッセージ。
『生きてる?』
『今日どうだった?』少し迷ってから。
綾香は返した。
『最悪。』
『今から会えない?』数分後。
『青山駅前のカフェいる。おいで。』
顔を上げる。
涙でぼやけた街灯。
そんな最悪な1日なのにも関わらず。
この日が。
私の人生を全部変えるなんて。
その時の私は、まだ知らなかった。
胡桃の件はかなり大きな騒ぎだったため、海外にいる恵美の耳にも、事の経緯は入ってきていた。だが恵美は、とくに何も思わなかった。むしろ、どっちも自業自得で、当然の報いだと思ったくらいだった。面倒なことから解放されて、恵美はのびのびと快適な毎日を送っていた。F国に秋が訪れる。やわらかな日差しが、川のほとりに降りそそいでいた。恵美は川のそばにあるベンチに腰かけて、詩集を手にしていた。そよ風が彼女の髪を揺らし、ひんやりとした空気を運んでくる。恵美はここで新しい生活を始めた。過去の痛みからも、彼女を深く傷つけた人や出来事からも、遠く離れて。今の恵美は、毎日を絵画や彫刻とともに過ごし、芸術的な雰囲気に包まれて暮らしている。彼女の暮らしはシンプルだけど、とても満ち足りていた。ときどき友達と集まったり、ひとりでF国の街を歩いたりして、この街のロマンチックで自由な空気を感じていた。それから、たまに智也に誘われて、彼の大学へ講義を聞きに行くこともあった。だが、智也への気持ちは友情以上のものではないと、恵美ははっきりと分かっていた。智也と一緒に過ごす時間は楽しかったが、過去の経験を経て、彼女の心はもっと自立し、強くなっていた。もう誰かに頼りたいとは思わないし、簡単に新しい恋愛を始めようという気にもなれなかった。でも、智也の気持ちは、もう隠しきれないほどになっていた。ある日の夕方、彼は恵美をカフェに呼び出した。夕日がカフェのテラスを照らし、あたりにはコーヒーの香りと、かすかな音楽が漂っている。智也は恵美の向かいに座っていた。その眼差しには、いつもと違う緊張と期待がにじんでいる。「恵美さん。君に話したいことがあるんだ」恵美はコーヒーカップを置いて、智也を見上げた。彼が何を言いたいのか、本当はよく分かっていた。そして、いつものように、この話から逃げたいとも思った。でも、この問題にはいつか決着をつけないといけない。相手の気持ちを利用して、いつまでも縛り付けておくなんてできなかった。「君が好きなんだ」智也の声は小さかったけれど、その言葉は一語一句、はっきりと恵美の耳に届いた。「初めて会った時から、君に惹かれていた。君の才能も、自立しているところも、優しさも、全部に心を奪われたんだ。君が初めて僕に会ったとき、君の隣で僕
恵美と別れた後、海斗は仕事に没頭しようと努めた。しかし、どういうわけか胡桃の影がつきまとい、彼の生活に少しずつ入り込んできた。子供を中絶させた後、海斗は恵美のことばかりで、胡桃を気に掛ける余裕などなかった。しかし、次々と送られてくるメッセージが、胡桃が再び自分を狙っていることを彼に思い知らせた。【海斗さん、どうしてそんなに冷たいの?愛してるって言ってくれたのに!赤ちゃんが生まれるのも楽しみにしてるって言ってくれたよね?なのに、何で私たちの赤ちゃんを自分の手で殺すなんてことができたの……】【全部、あの女のせいだよね。あの女がいなければ、あなたは私だけを愛してくれたはずなのに】【海斗さん、あなたは後悔することになるから。いいや、あの女も一緒に。あなたたち、二人とも絶対に後悔させてやるから】海斗は胡桃の脅しを全く意に介すことはなく、ただ、部下に彼女の今の住所を調べさせただけだ。しかし、まさか胡桃の行動がこれほど早いとは思わなかった。翌朝、世間を埋め尽くすニュースを見て、海斗は一瞬で血の気が引いた。【#小山グループ社長、不倫か】【#小山海斗氏、イメージ崩壊】【#クズ男、隠し子を強制的に中絶させる】かなりセンセーショナルな見出しが、あらゆるSNSに溢れかえっていた。最も海斗を驚かせたのは、胡桃のライブ配信だった。彼女はカメラの前に座り、涙ながらに自分たちの物語を語っていた。「私と海斗さんは、大学の合同説明会で出会いました。彼は私に一目惚れしたんです……それから、海斗さんは奥さんに隠れて私と会ってくれ、プレゼントをくれたり、さらには私たちの間に子供もできたんです。でも、私が正式な関係を求めた途端、彼は私に中絶を強要してきました。それだけじゃなく、業界全体に圧力をかけて、私がこの世界で生きていけないようにもしたんです!海斗さん!あなたがそんな人だとは思わなかったわ!」海斗は画面の中の女を見て、ただただ吐き気を覚えた。胡桃の言うことには嘘と真実が巧みに混ぜ合わされていた。しかし、巧妙に編集されたトーク履歴や写真が添えられていたせいで、どれも真実味を帯びていた。会社の株価は暴落し始め、提携先も次々と手を引いていった。あっという間に、海斗はあらゆる問題に追われ、身動きが取れなくなった。これがすべて、胡桃
恵美が意識的に距離を置こうとしているのを、智也も察したようだ。だから彼も深追いせず、お茶を一杯飲むと席を立った。それでも、智也はその後も数日おきに大学とギャラリーを行き来していた。「本で得た知識は、実践と結びつけないと意味がありませんから」というのが、彼がくる理由だった。何度も顔を合わせるうちに二人はすっかり打ち解け、恵美からも初対面の頃のようなよそよそしさはもうなくなっていた。その頃、海斗はデスクの椅子に座っていた。手には、届いたばかりの裁判所からの呼び出し状。彼は無意識のうちにそれを握りしめ、紙の端がくしゃりと歪む。呼び出し状に書かれた文字は、冷たく海斗の目に映った。それはまるで、彼の心に残っていた最後の望みを断ち切る、見えない刃のようだった。海斗はその数行をじっと見つめた。焦点が合わず、文字が目の前でちらついて、目の奥がじんじんと痛むようだった。窓の外は、いつもと変わらない街の喧騒。ひっきりなしに車と人が行き交っている。この街の無数の灯りの中に、かつては彼のために灯された光が一つあったのに。でも、もう……海斗はガラス窓越しに遠くのビル群を眺めていたが、彼の心はとっくに海の向こうへ飛んでいた。「もう関わらない」という自分自身で決めたことも、結局は守れなかった。十数時間のフライトを経て、海斗は再び恵美の面影が残るこの場所に降り立ってしまったのだ。恵美へのプレゼントを何にするか、彼は長い時間考えた。そして迷った末に、あるN国の芸術家の遺作を贈ることに決めた。恵美はその芸術家のことが大好きだと、以前とある展覧会でそう話してくれたことがあった。でもその頃の自分は仕事に追われ、聞き流してしまっていた。今、これが自分にできる最後の贈り物だ。海斗は車のトランクを開け、恵美を驚かせようと思っていた。しかしガラス窓の向こうで、彼女が見知らぬ男と楽しそうに談笑しているのが見えてしまった。あんなに屈託なく、楽しそうな恵美の顔を見るのは、本当に久しぶりだった。海斗の足が止まった。胸の中に、言いようのない複雑な感情が渦巻く。彼は一度息を深く吸い込んでから、ギャラリーのドアを開けた。カラン、というドアベルの軽やかな音に、恵美は振り向いた。その視線の先に、こちらへ向かって歩いてくる海斗の姿が映った。恵美の顔から、さっ
スマホの画面を見て、拓也は顔をほころばせる。「おい!効果てきめんだぞ!やっぱり心配してくれてるんじゃないか?言った通りだろ。さっきまでは忙しくてスマホなんて見られなかっただけなんだって」拓也は笑みを浮かべて通話ボタンを押した。だが口を開くよりも早く、受話器から冷たい恵美の声が響いた。「そんなことして楽しいですか?こんな子供だましの手、引っかかるわけないでしょ?拓也さん、もう余計なことに関わるのはやめたほうがいいですよ。海斗のために動いてるのは分かりますが、私の気持ちを考えていただいたことはありますか?今まであなたが海斗の味方をして私に浮気を隠していたことも、あの女の出産を手伝いに帰国してきたことも知っています。面倒だから問い詰めはしませんが、もう私に関わるのはやめていただけますか?そこに海斗もいるんですよね?だったら、伝えてください。私は昔から一度も、決めたことに後悔したことはない、と。離婚は決定事項で、今さら戻るつもりもありません。よりを戻そうと必死になっても、それは無駄なことですから」恵美は二人の反応など気にも留めず、電話を切った。すべてが筒抜けだと知った拓也の顔から、みるみる血の気が引いていく。ハンズフリーになっていたため、病室にいた海斗にも恵美の一言一句がはっきりと届いていた。海斗の瞳は澱んだ。言葉を発さず、ただ静かに腕から点滴を抜いた。「海斗!どこへ行くんだ?」「外でタバコを吸うだけだ。何でもない」海斗の寂しげな背中が暗闇へと消えていく。海斗の心は今も痛み続けていたが、まだ諦めてはいなかった。これほど長く築いた感情を、そんな簡単に手放せるわけがない。恵美は自分に腹を立てているだけだ。もっと本気で追いかけ、誠実に向き合えば、きっともう一度チャンスをくれるはず。海斗は恵美に捧げるプレゼントを探し回り、国内のオークションを奔走した。おかげで何週間もの間、恵美のギャラリーには顔を出さなかった。しかし恵美の方は、その影が消えたことにすら気づいていない様子だった。海斗が姿を消してから3週目、彼女はクラフト紙の袋を抱えてスーパーから戻った。運悪く今日は傘を持ってこなかった。雨が降らないと賭けていたのが、あっさりと賭けに負けた。「お困りごとですか?」ふと差し出された傘の陰から、柔らかな笑みを浮
恵美と海斗が出会った時は、二人ともまだ若かった。海斗の方なんか、まだ子供と言ってもいいくらいだった。恵美は海斗より4歳年上で、3年間、彼の家庭教師をしていた。恵美は、問題児だった海斗を何とかまともな道へと導いた。彼を励まし、支え続け、陰鬱で荒れていた性格から救い出したのだ。大学入試の共通テストの結果が出た日のことを、恵美は今でも覚えている。あの日、海斗は合格祝いを口実に彼女を家に招待した。花びらが敷き詰められた庭で、海斗は白いバラを手に恵美へ交際を申し込んだ。でも、彼女は慌てて逃げ出してしまった。それでも、少年のまっすぐな想いは、恐れることを知らなかった。恵美が何度断っ
やるべきことをすべて終え、恵美は玄関に立った。5年間暮らしたこの家を、最後にもう一度だけ、静かに見渡す。それから、しゃがみこんで、スーツケースに鍵をかけた。スーツケースの中身は、着替えが数枚と、あの人形の身元を証明する書類だけ。ほかには、何も持っていかない。この家のすべてに思い出が詰まりすぎていた。だから、恵美は何も持っていきたくなかったのだ。恵美の視線の先には、自分とそっくりな人形が立っている。同じ長さの髪、同じ目元。目尻にある小さなほくろの位置まで、まったく同じだった。人形は、恵美と同じ白いワンピースを着て、静かに指示を待っていた。「プログラム、起動」恵美は静か
その日の夕方、海斗はまた会社の用事を口実に、帰りが少し遅くなると言ってきた。恵美はいつも通り何も聞かない。ただ、いつもと違うのは、結婚指輪を外したことだった。指輪が照明の下で冷たい光を放つ。彼女はうつむきながら、ゆっくりとそれを中央制御システムにスキャンさせた。スキャンの光の中を見つめていると、ふとプロポーズされた日のことを思い出した。あの時、海斗は片膝をつき、愛情のこもった瞳で言ってくれた。「恵美、愛してる。一生かけてお前を守るよ。絶対に離れたりしないから」海斗の気持ちを疑ったことはなかった。しかし、人の心なんてあっという間に変わってしまうものなのだ。結婚指輪がゆっく
海斗がいない間に、恵美は残りの必要なデータを、一つずつ中央制御システムにアップロードしていった。海斗が胡桃をジュエリーフェアに連れて行ったとき、恵美は彼にあげたプレゼントをすべて処分した。海斗が胡桃と一緒に買い物へ出かけたとき、恵美は一番お気に入りだったウェディングドレスをズタズタに引き裂いた。海斗と胡桃が熱いキスを交わしているとき、恵美は一人で黙々とデータを調整していた。この人形が、もっと自分に似るように。少しでも、自分自身になるように。もちろん、黙ってすべてを捨てて逃げ出したいと考えたこともあった。だが、恵美は海斗という人間をよく理解していた。たとえ彼に好きな人ができて
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