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7 わたしが受けた痛みをあなたに

Author: 缶小豆
last update publish date: 2026-10-01 08:31:04

翌日、研究支援基金のトラブルを聞きつけた理沙が、紗良の事を心配して別荘に駆けつけた。

「なにを凌平は企んでいるのかしら……紗良、まさか行く気じゃないよね」

紗良は、ティーカップを机に置きながら微笑んだ。

「もちろん行く気よ。やられてばかりじゃ気が済まないでしょう?」

「やめなさい。病院であなたを強引に連れ去ろうとした凌平を見たよね?」

理沙は、紗良の腕に巻かれた包帯を見つめた。

二人きりになれば、凌平は容赦ない暴力と残虐な思考を隠そうとしないのではないか。

再び紗良を傷つける可能性が高いと思った。

「危険すぎる。あなたのことが心配なの……」

「理沙……もちろん凌平のことは全く信用していないわ。今回は私から反撃するだけよ」

「反撃って……何を考えているの?」

理沙は今までの慈悲深く穏やかな紗良とは雰囲気が変わったと感じて少したじろぐ。

「凌平には私が受けたものと同じ思いをしてもらうだけ……」

紗良の顔にはもう笑みは見られなかった。

紗良は、東山ホテルの最上階にあるフレンチレストラン「ラ・ヴェリテ」に向かっていた。

持ち込み料はすでに支払い済。

ワインは最高級で手に入りにくいものを準備した。

そのコルクに針を刺し、注射器で「凌平への最後のプレゼント」を注ぎ込み渡す。

「連絡していた持ち込みのワインです」

凌平はラベルの年号と銘柄を見たら間違いなく瓶を空にする。

味なんてわからない男に飲ませるのは勿体ないけど、最後の慈悲よ。

紗良は冷たい瞳でその高級ワインを見つめる。

「すまない。早めに来たつもりだったんだが……」

凌平は、約束の10分前にやって来た。

「いいの。4周年のお祝いに一緒に飲もうと思っていた高級ワインをレストランに預けたところよ」

「そんな準備までしてくれたのか。遅くなってすまなかった。いや、すべてが言い訳だ」

「そうね……でも謝罪のチャンスをもう一度上げてもいいかと思って」

凌平の言いなりになりうつむいていた紗良はそこにはいない。

今日の紗良は、シンプルに首元は詰めたロングドレスにあえて小粒のダイヤモンドを一つだけ首元に飾り、上品な装いを見せた。

だが、背中は美しく開き、ゆるく巻いてサイドをまとめた髪の下にのぞくうなじは色気にあふれている。

松田に磨き上げられ、深いワインレッドの唇を上げる紗良は、もう凌平から視線をそらすことはしなかった。

むしろその美しさに戸惑い、視線を外したのは凌平の方だ。

「その……雰囲気が変わって別人かと思ったよ」

「あら?4年前に戻っただけ……懐かしいでしょう」

淡々と笑みを崩さないまま答える紗良に、凌平は困ったようにうなずいた。

「そうだった。初めて君を将暉の墓の前で見たときに、こんなきれいな人が世の中にいるのかと思って一目ぼれしたんだ。将暉が妹を頼むと俺に託してくれたような気持ちになって大切にしたいと思った」

「そうね……私も兄が最後のプレゼントをくれたのだと思っていたのよ」

そう言って注がれたワイングラスを持つ。

「4年だね。君の助けがなければ会社はこんなに大きくなることはなかった。ありがとう。乾杯」

お互いにグラスを上げる。

「飲みやすいな。これなかなか手に入らない銘柄だろう」

「ええ、全部飲んでいいわ。実は私、今日は車で来たから飲めないのよ」

そういって見た目は同じぶどうジュースを置いてもらう。

「それなら……今日は俺たちの家に帰らないか。今までのことは反省している。澪奈やみんなにも、紗良と別れず妻にしたいと思っていると伝えたんだ。俺は本当にやり直したいんだ」

「そうなの?それは澪奈もショックを受けたことでしょうね」

紗良は笑顔のまま凌平のグラスにワインを追加する。

「紗良、澪奈は義妹だ……どうしてお前は……あ、いや」

凌平は言いかけた言葉をごまかす様に一気にグラスのワインを飲み干す。

「とにかく、澪奈は子供なんだ。わがままだし、君のように大人の包容力もなければ、浮気をしたくなるような色気もないよ」

「そう……凌平の好みは大人の色気を持った女性なのね」

紗良が少し棘のある言い方をしたので凌平は慌てる。

「澪奈みたいな子供はそもそも対象じゃないよ。だから誤解を解きたいんだ」

「それを聞いて安心したわ。凌平ったら慌てて飲まなくてもまだあるのに」

紗良は微笑んで再びグラスにワインを注ぐ。

「やっぱり高級なワインは飲みやすいな。紗良、みんな君に男ができたんじゃないかと言うんだ。だが、君は研究一筋でそんな女性じゃない。だけど、正直に言うと、今、君がどこにいるのか気になっている」

「……どこだと思う?」

紗良はいたずらをするような顔つきで笑うと、凌平はほっとしたような顔をした。

「やっぱり男じゃないよな……弁護士の友達がどこか家を準備してくれたのか?」

「ええ……凌平と今後どうするのか決めるまでということで。でも決めたわ」

「よりを戻してくれるのか?」

紗良は恥ずかしそうに「ええ」と呟く。

「ありがとう、紗良!君を大切にするよ」

凌平は4年前に紗良に結婚しようとプロポーズした時と変わらない笑顔を見せて、再び乾杯を告げた。

◇

「寝たの?仕方ないわね。凌平ったら」

紗良はテーブルに突っ伏してしまった凌平に声をかけた。

よく効く睡眠薬ね。

あとは……媚薬の効き目は刺激を与えたら効くかしら?

紗良は、間抜けな顔で眠る凌平を労わる婚約者の仮面を被る。

そのスーツのポケットにはスマートフォンが見えた。

紗良は迷わずにそのスマートフォンを手に取り、凌平の顔認証で開いた。

「澪奈、子供は対象じゃないみたいよ」

紗良はくすくす笑いながら、澪奈にメッセージを送る。

【東山ホテル302号にいる。澪奈に会いたい。大人の恋愛を体験させてあげるよ】

「さあ、凌平。お部屋まで案内するわ。しっかりして」

「……うーん……」

紗良はほとんど意識がない凌平を連れて302号に向かっていく。

その頃、澪奈は凌平からのメッセージの着信に気づく。

「待っててね。凌平……ああ、紗良さんにも教えてあげようかな。あなたとの恋愛じゃ満たされないみたいって」

澪奈はクローゼットから、凌平に買ってもらった一番露出の高い服を取り出していた。

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