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缶小豆
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Novelas de 缶小豆

貴方が愛したわたしはもういない

貴方が愛したわたしはもういない

兄の葬式の日。綾川紗良は兄の墓前で出会った凌平に恋心を抱き、全てを捨てて駆け落ちした。 あれから四年……会社の設立資金を始め、研究開発、出資者集めと一人で担い、上場目前まで育てあげたのに、凌平と義妹の浮気と裏切りを知る。 二人の策略で奪われそうになる様々なもの。社会的に抹殺されそうになった時、危機を救ったのは、自ら縁を捨てた婚約者である藤代宗明であった。 失ったものを取り戻すため、紗良は立ち上がる。次第に浮かび上がる事実には、兄の死も含まれており、そこには凌平の影もあった。 GN編集部とタッグを組んだ華麗なる復讐劇、財閥ビジネスストーリーが今開幕する。
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Chapter: 28 お前の最大の嘘
「なん……だと……」凌平は、今まで、紗良に対して不貞を疑うようなことを言いつつも、本当に紗良に男が出来たとは思っていなかった。だが、紗良に今まで凌平が手出ししなかったことを知っていると告げられた上に、自分が抱いて極上だったと知らない男から宣言されたのだ。凌平が電話口で混乱しているのが、紗良にも手に取るようにわかった。紗良が綾川財閥の令嬢だと知っていたら、婚約者の存在も本気にしていたのかもしれない。だが、凌平は、モテない女が親に見合いをさせられたぐらいにしか思っていなかったのだろう。「私に婚約者がいたことは凌平には伝えていたでしょう。復縁するのもおかしくなければ、婚約者なのだから当然、体の関係があると思わない?」今まで、手を出さないことを大切にされていると勘違いした女を凌平たちは嘲笑ったに違いない。紗良は、少し言葉に棘を含ませて「当然」という言葉に力を込める。だが、強がるように凌平は怯まなかった。「元婚約者……ああ、思い出した。将暉が死んだのは自分のせいだと紗良が苦しんでいた時に、連絡一つ寄越さず、顔すら見せなかったやつか……」ふんっとバカにしたような凌平の言葉がスマホから流れると、今度は宗明の耳がぴくっと動く。端正な顔からさっと血の気が引いたかと思うと、それまで挑発するように、紗良の胸元に差し入れていた手も凍りついたように止まり、ゆっくり引き抜かれた。「凌平」と書かれている画面を睨むその目は、紗良に対する甘える優しさを含むものから、底知れない澱んだ漆黒の冷気がはらむものに変わる。「ああ、その隙にとんだ泥棒に大切な宝を盗まれたのだから、俺の痛恨のミスだ。せめて将暉の死を早く知る事ができればと悔やまれてならない。ところで……」宗明の目はスッと細くなり、室内の体感がぐっと低くなったような感覚を受ける。「お前はどうやって将暉の死を知った?」「どうって…&hell
Última actualización: 2026-11-01
Chapter: 27 この女は俺のものだ
紗良は、妹の里美に連絡して両親と再び会って話したい旨を伝えた。「紗良、どうして藤代当主の家に住み込んでいるの?結婚前の娘がまた勝手なことをしたってお父様が怒り出すわよ」「私だって、その予定はなかったのよ。でも、結婚を前提にしているのだから、自宅で安全を守りたいと言われたの」凌平たちのやり口を知っている里美は、それを聞いてため息をつく。「まあ、紗良には一度逃げられているからわからないでもないけど……明日、米田をマンション前につけさせるわ。お父様を説得するのは大変なんだから、せめてマメに報告してよね」紗良は謝りながら、電話を終えた。だが以前ほどの拒絶感はない様子でホッとする。「俺から綾川当主に話を通したほうが良かったか?」「明日、あなたとの同棲について私が事後報告を済ませた後に、お願いするかもしれないわ」紗良は、苦笑いしながら事後報告は異常であることを強調する。宗明は家族関係が歪だったこともあり、親が娘を心配する気持ちなどの理解は浅い。それを一つずつ伝えてあげないといけない。「それなら俺も行く。紗良が綾川の家で俺のことで怒られることがないようにしたい」まるで、娘は俺が匿っていると宣言しそうな宗明の勢いに、紗良は苦笑いして首を振った。こんな宗明の前で、両親は本音を話せないだろう。「私がまず話をした後にお願いするわ。明日は、先代や来栖宮家の対応と護衛の話だから……」そこまで言って、凌平のことをどこまで伝えようか迷う。「いえ……それだけじゃなくて、ちょっと気になることがあって会社のことも説明したいから……」紗良は歯切れが悪くなる。ただでさえ大変な宗明に、凌平の動きが怪しいことを伝えて心配させるのは気がひける。自分の力で会社を手に入れるから、宗明に渡す価値があるのだ。だが、宗明の目が再び冷ややかに光る。「紗良がやりたいことを邪魔はしない。た
Última actualización: 2026-10-31
Chapter: 26 愛し合って生まれる子
紗良は、先代に宗明が啖呵を切った話を聞いて思わずこめかみを押さえて頭を抱えた。「確かに避妊はしていない……綾川の父からの反対はなかったし、当主の貴方からも再婚約と結婚の話が出ていたから……でも、外から見たら印象が悪すぎるわよね」婚約破棄をした女が、婚家に正式な挨拶も済ませないまま、すでに閨を共にしている――世間や藤代の親族に悪口のネタを与えている様なものだ。これまで意識していたのは、もし妊娠したとしても処女のまま結ばれたのであれば、凌平の子だと疑われる余地はないということだけだった。つまりは……まだ宗明に心が動きつつある段階とはいえ、宗明が長く自分を想い続け、今まで守ってくれたと知った時、ここなら幸せな家庭を築けると無意識に感じて、家庭を築くことに抵抗がなかったのだ。「今後、紗良の体に俺以外の手がつくことを許す気はない。つまり、俺以外との結婚も許す気はない。何だったら、先に結婚してしまうのもありか?紙切れ一枚の話だけだしな……」けろりと微笑んで話しながら、宗明は「ごちそうさま」と手を合わせた。そして、自らシンクへ汚れた食器を持って行こうとするので、紗良が慌ててそれを代わりに受け取った。「確かに、そうすればお互いが離婚に応じない限り、由美子や華子さんが強引に結婚を押し進めることはできないけど……」そんな宗明の突拍子もない提案を笑って話せるほど、自分が宗明に対して心を許し始めていることを実感する。宗明は袖をまくり始め、紗良の隣に立って、一緒に汚れた食器を洗い始めた。時々、紗良の唇に慈しむような軽い口づけを落とし続ける。だが、再びその口づけが長くなり、お互い洗っている皿を置いたまま、その味わいに夢中になる。「宗明、さっきもやったんだから……ダメよ」慌てて、泡だらけの皿を水で流し、布巾の上に置いていく。長い口づけは、次のお誘いだ。紗良は笑いながらダメだとかわそうとする
Última actualización: 2026-10-30
Chapter: 25 本妻になるつもりの女
「来栖宮……あの家ってまだ存続しているのね」政財界で活躍する旧華族は少なくない。だが、来栖宮は近頃とんと耳にしなかった。もちろん、格式高い血筋であるのは知っているけれど……「華子の祖父と父がどうにも救いようのない放蕩ものでな。祖父は事業の失敗を繰り返しているのに、父はギャンブルに女遊びと素行が悪い。その先代の時代から藤代に借金をしていたらしい。そこに由美子が目をつけたみたいだな」「華子さんのお母様は?」「由美子の遠縁にあたる。要するに落ちぶれた名門の借金をチャラにする代わりにその家柄をよこせという取引だ」「ああ、それで借金と縁組……私と宗明の破談は由美子にとっては渡りに船だったわけね」紗良は、歯ぎしりしたいほど自分の行動が宗明を追い込んでいたことを知る。宗明は、紗良を責めることはないが、自分の軽率な過去が、宗明の敵に格好の餌を与えてしまったのは間違いない。「それで……紗良とやり直すことを先代に告げに行ったら、すでに由美子の根回しで華子がいたんだ……」「本宅に……それは……お見合いの席が設けられていたということ?」紗良は、やはり門前払いをくらっても、自分が先代に謝罪に行くべきだったと悔やむ。自分の父親からの許しを得ずに、宗明の父と接触するのを良しと思わなかったのだ。思わず動揺のあまり宗明のシャツを掴むと宗明はその手に、そっと自分の手を添えた。「見合いどころかすでに決定事項の様に、本宅に当たり前のように部屋を持ち、おれの本妻を気取って住みこまれている。由美子に先手を打たれた……」宗明が、いつになく疲れた表情で追い込まれていたように見えた理由が分かり、紗良は自分が招いた過去の判断に対して怒りが止まらなかった。◇宗明が、本宅のエントランスに足を踏み入れた時のことだ。
Última actualización: 2026-10-29
Chapter: 24 当たり前の幸せ
「先代当主はお変わりはない?」カレーを宗明の前に差し出しながら、紗良は顔を曇らせた。実父である高雄以上に、先代の藤代当主が紗良のことを許すことはないだろう。宗明を貶めたどころか、世間は綾川財閥が藤代財閥に泥を塗ったとしか思わない。「ああ、当主は俺だが相変わらず、先代も権力を手放さない。あの老害の太鼓持ちと旧体制への嫌悪から俺に肩入れする人間とに分かれるている」今まで自分のことを何も言わなかった宗明が、紗良に伝えたのは、それだけ心を許していることを意味していた。宗明は「いただきます」と手を合わせて、スプーンでカレーを掬い始める。凌平と比べても意味がないが、やはり良いところの出なのか、行動の一つ一つがスマートだ。「お父様との関係は相変わらずなのね」「由美子の肩を持つ限り、俺にとっては敵だ」後妻の名前を口に出した瞬間、宗明は、冷徹な感情のない表情に戻ったが、カレーを口にした途端、少しだけ目尻がふっと和らいだ。「辛口の方が良かった?あなたの好みを聞いてなかったわ」「いや、丁度いい……というか、今まで家でカレーなんて食べたことがなかったからな。料理人が作るといっても何が入れられているかわからない。あいつらなら、無実の料理人に罪をなすりつけかねないから」淡々とした口調だったが、かつて15歳で薬を飲まされ、湖に沈められた過去を持つのだ。しかも、宗明が普段から薬物混入に気を使うということは、常に危険と隣り合わせだったということだ。宗明の一言はとても重い。紗良も、財閥令嬢として窮屈な思いはしてきた。しかし、家族間の交流はあったし、将暉がみんなに気を配ってくれていた。「食べてもらえるなら嬉しいわ。やっぱり作っても誰も食べてくれないと虚しいもの。カレーみたいなものは温めて直しができるから仕事が遅くなってもいいしね」紗良は宗明の反応が嬉しくなり、「まだおかわりもあるからね」と告げたが、宗明の手はぴたっと止まり、眉が不快そうに寄った。「作ったのに、食べてもらえないことが多かったの
Última actualización: 2026-10-28
Chapter: 23 絶対にお前を離さない
「凌平と澪奈は何を考えているの?澪奈と幹部が株を持って、社長の凌平が株を持たないのはやりにくいと思うんだけど……」紗良には、彼らが何をしたいのか見当がつかない。株式会社は、株の過半数とったものがその会社を支配できる。だから、紗良も会社の全権を早く握るために、株をかき集めようと動いているのに。「ここで凌平が手放すなんて……てっきりあっちも、同じように過半数をかき集めるんだと思っていたわ」株主たちに梯子を外されたら、凌平の立場を守るものは何もない。理沙は、コーヒーカップを置き眉をひそめた。「もしかして、紗良から奪うつもりなんじゃない?今までと一緒よ。紗良の物は自分のものっていう傲慢さよ」「マンションの時と同じね。二人のマンションなんだから、俺のものだろうっていう……」それではたかりだけどね……と紗良は冷ややかに呆れて息を吐いた。4年間紗良が尽くし続けていた都合のいい幻に、今も縋り付いているのだろう。「でも、もう二度と戻る気はないと明確に告げたのに……どうして、凌平の頭の中はあそこまでお花畑でいられるのかしら?」紗良には理解できなかった。証拠は見つけられなくても、熟女クラブの女性たちをあてがったのは紗良だと分かっているはずだ。澪奈との浮気の証拠も見せたし、もう戻らないと分かりやすく告げるためにマンションも売却した。それでも自分の元に戻ってくると思うあの自信は何?紗良は段々その凌平の思考回路に薄気味悪いものを感じ始めていた。「絶対に自分を好きでいるはずだと思っているみたい。それか、振られたような形になったからプライドが傷ついたのかしら。どちらにしても、ちょっとおかしくない?」「うん、ストーカー的な執着しているものを感じるわ。紗良、ここはセキュリティがしっかりしているけど一人で動いてはダメよ。すでに危険な目にあっているし、犯罪まがいのことをしかねないわ」
Última actualización: 2026-10-27
触れたものの過去がわかる彼女と触れられても全く困らない俺

触れたものの過去がわかる彼女と触れられても全く困らない俺

 触れたものが見てきた「過去」を読み取る能力を持つ倉坂瞳。  その能力で、かつて事件を解決して一世風靡した彼女は、世間から誹謗中傷を浴び、人目を避けるように暮らしていた。  そんな彼女のもとへ、20年前の未解決一家殺人事件を調べてほしいと、警察官の大川流星とその上司が訪れる。  だが、瞳は、遺留品から事件の真相を読み取り、その上司が犯人を突き止めてしまう。その結果、二人は犯人から命を狙われ、瞳は、住む場所まで失ってしまった。 途方に暮れた瞳は、流星からもらった名刺を頼りに、彼の家を訪ねる。  その結果、彼女へ罪悪感のある流星は、25年彼女なしにもかかわらず、特殊能力をもつ彼女と同棲を始めることになる。
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Chapter: 59 犯罪を重ねた男の顛末
その頃の流星は、まさか瞳がそんな修羅場の渦中に巻き込まれていることなど、想像もしていない。そして、自分自身の身にもとんでもないことが起きていた。「川村が……死んだ?」流星は、久保田を助手席に乗せて幕田警察署に急ぐ。本当は、奈央のことが終わったら、帰りに瞳を乗せて下心ありの夜のドライブデートに連れ出そうと思っていた。まさかこんな事になるとは……ハンドルを握る手に力が入る。久保田も、もう退職まであと2週間ほどだ。何も、こんな土壇場で川村が出てこなくても……という気持ちになる。「先ほど渋谷主任から連絡が入った。自殺だろうと……」「自殺……まあ、逃げ場がありませんよね」流星の脳裏に、最後に温泉で会話をした記憶や、見たこともない形相で自分に刃を向けてきた最後の姿が蘇り、ぞわっと震えた。逃亡すると言っても、職はない。持っている金を使い果たして終わりになる。日雇いやホームレスにも限界があるだろう。署に着くと、室内はすでに騒然としていた。川村が元係長というポストにいたこともあり、全員が彼を知る関係者だ。過去の事件も関係していることから、現場に向かう者と、情報整理や報道向けのプレス準備をする者に別れる。「現場に行って、川村の顔を見たらすぐ戻ってくるよ」久保田の言葉に、周りの人間もその複雑な心境を慮って頷く。「俺も……行かせてもらっていいですか。その……川村と最後に会ったのは俺だから……」流星も、先輩刑事たちに頼み込む。「まあ……お前も複雑だよな。だけど、マスコミが来るからここで情報の整理をしてもらえないか」「いや……でもさ、署内で息子から事情を聞いてるんですよ。流星は被
Última actualización: 2026-11-01
Chapter: 58 初のラブホテルは修羅場です
どうしよう!奈央さんっ!待ってください!瞳は、タクシー代を立て替えたあと、ピンクのネオンが光るホテルの中に飛び込んだ奈央を必死に追った。当たり前だが、瞳の人生においてラブホテルに入るのは初めてだ。 こんなことなら、富山さんがラブホテルの潜入調査の話をした時に、早めに入っておけば良かった!一瞬、怖くなり足がすくみそうになるが、もう入るしかない。だが、ピラピラとカーテンがはためく中に入った後は、静かに並ぶ車が見え、人の影はない。更には、奈央の姿も夫の姿も、誰の姿も見えず不安になる。うそっ!もうホテルの中に入ってしまったの?瞳は、急いでホテルの入口と思われるところを探した。小さな自動扉が目立たない様に見える。「あれかしら?」瞳は、急いでその入り口の柱に触れようとした。そこを奈央とその夫たちが通ったかどうか確認するためにだ。だが、そんなことをする必要はなかった。何やら、自動扉の先で、すでに修羅場が始まったと思われる凄まじい怒鳴り声が聞こえていた。「奈央さん!待って!」証拠を取るんじゃなかったの?当初の予定と全く変わっている。瞳は、慌てて止めに入るために、声の方向に向かって走り出した。入ってすぐそこには、薄暗いホールに多くの部屋の一覧とそのボタンの明かりが光っている。そして奈央とその夫と愛人と思われる3人が揉めていた。「奈央さん!」瞳は、急いで側に駆けつけると、奈央が涙交じりに夫を罵っていた。「彼女が体調が悪いというから、とりあえずここに連れてきただけだよ」奈央の夫と思われる男が、ブスッと不貞腐れた顔で言い放つ。「よく言うわ。この人が元気よく歩いてる時から、私たちはつけていたわよ、しかも今まで手まで仲良くつないで!ねぇ!」そう同意を求められて「は、はい!」と瞳も思わず返事する。「お前は誰だ?」奈央に新たな加勢が加わったことで、殺してやると言わんばかりの勢
Última actualización: 2026-10-31
Chapter: 57 初めての尾行は11000円
流星さん……すいません。接点を持たないように気をつけているのに、あんなに他人のふりをしたのに……どうやら私は、筋金入りの巻き込まれ体質のようです。瞳は奈央に腕を掴まれたまま、早足でバス停から離れ、奈央の夫を追っていた。「あっ!あいつ、車に乗ってどこかに行くわ。ちょっと私たちもタクシーに乗るわよ!」「へっ!」いや、きっと奈央だって怖くて不安なのだろう。瞳の腕を握るその手は、明らかに震えていた。だからこそ、ここで「さようなら」と瞳は言えなかった。(巻き込まれだけでも十分なのに、私は運が悪すぎるわ!)ただハンカチを届けるだけなら、事務所への帰りが遅ければ富山もおかしいと気づいてくれただろう。流星だって、こんな日に呼び出しがなければ、家に帰ってこない瞳を心配してくれたのかもしれない。つまり、誰からもこの状況に気づいてもらえない。どうすればいいの!瞳は、言われるがまま、奈央の夫をつけるためタクシーに乗っていた。「前の車をつけて!」「ええっ?」タクシーの運転手もあまりない指示に怪訝な顔つきになる。「夫と愛人が乗っているの。お願い……」「はあ、わかりました。やってみますけど……頭を引っ込めといてくださいね」タクシーの運転手も、動揺しつつ後ろを追いかける。奈央の夫は、よくある白のコンパクトカーに乗っていた。車のナンバーは「・410」だ。「4月10日は私たちの入籍日なの。その車を使って不倫なんてどんな神経してるんだろう」奈央の顔が般若の様につり上がり、車内の雰囲気がピリピリし始める。「……あの女の人は知り合いですか?」「直接の面識はないけど、私や夫のSNSにいいねをしてきてたの。今から思えばマウントを取りに来てたのね」「いいね…&he
Última actualización: 2026-10-30
Chapter: 56 駆け引きしなければ
川村……って言ったよね?久保田さんと流星さんが慌てて席を外さなければならないことが、起きたんだ瞳は、川村から襲われそうになった日のことや、その息子の浩介から石を投げられた憎悪の表情を思い出し、思わず目をつぶった。だが、室内にシクシク泣く声がする。奈央だ。「あ……あの……コーヒーにしましょうか」瞳は、こんな時にどう声をかけていいか迷って、知らんふりを決め込んでいる富山に視線を送った。じーーーっ!瞳のなんとかしてくださいという視線のおかげか?富山の困っている人は放っておけない性格がやっと発動したのか?富山は、渋々、奈央に声をかける。だが――「お前もあのヘタレが好きなのか?」やれやれという顔つきで、富山は渋い顔をして奈央に声をかけた。富山さんっ!「お前も」の「も」はおかしいでしょう!!瞳は思わず目に力を込めて富山に抗議するが、富山は素知らぬ顔だ。「へたれ……ホントそうですよね。あの頃、明らかな素振りで絶対私のこと好きだろうなって分かっていたのに……」奈央は呟くように笑いながら答えた。「も」についてはスルーされたようだ。瞳は、ぐったり脱力した。「好きなのかどうか……夫がいうように忘れてなかったのかもしれませんし、思い出が美化されているからかも……もしくは、夫に不倫相手がいるから対抗したいのかもしれません。オープンマリッジっていうのかな……」「オープンマリッジ?」瞳と富山は何それ?という顔で見合わせる。「結婚生活を続けながらそれぞれに相手がいる形です……別れずこのまま結婚生活を続けている、お互いそれで……私も相手がいるからって言いたいだけかも&h
Última actualización: 2026-10-29
Chapter: 55 私はあなたが好きだった
奈央は、瞳が手袋の過去からみた姿とは少し違っていた。今日は胸元まである髪を下ろしている。綺麗に化粧も施されていて、百貨店に勤めているだけありおしゃれな可愛らしい大人の女性だった。これで、私と同じ歳!初めて安い化粧品で化粧を始めたばかりの自分とは、全く違う。更に、瞳は衝撃を受けた。奈央が、自分と同じショコラブラウンの髪色で同じ髪型だったからだ。流星が美容師に指示したわけではなく、流行のカットにしただけだ。それでも動揺は隠せず、瞳は奈央を案内した後は、お茶を入れるふりをしてその場から離れた。深く息を整える。とにかく、動揺を気取られないようにしなければならない。ほぼ同じ時刻に、久保田と流星もやってきて、瞳は机に全員の茶を置き、気配を消すように応接セットから素早く離れた。瞼がパンパンに腫れている瞳を見て、久保田はハッとしたように息を呑んだが、奈央の手前他人のふりをするしかない。声をかけずに知らないふりをしながら、久保田は雑談を続けた。同様に、流星からも少し視線を感じたが、奈央が流星に声をかけたので、そのまま瞳から奈央に視線が移動していった。「夫と結婚したのは、この4月で……でも交際期間は高校からだから8年付き合いました……」奈央が、みんなに経過を説明している声が聞こえる。流星が、高校で告白しそびれた話をしていたし、長い付き合いだったのねと感じながら、瞳は離れた事務机で溜まった仕事をしようと手を伸ばした。だが、離れていても気になる。能力を使って、この溜まった依頼の証拠を探さないといけないのに集中できない。結局、一件も着手出来ないまま、聞き耳を立て続けた。「結婚式でも仲良かったし、誰が別の女性がいるようには感じなかったけどな……」流星の相手を気遣うような優しい声が聞こえてくる。それが自分にかけてくれる温かい声と重なり、瞳の胸をチクっと刺した。「それが&
Última actualización: 2026-10-28
Chapter: 54 彼女が自分で選ぶ道
寝たか……一人で病院まで行くだけでも緊張したのだろうに、その後スマホで知った過去の仕事のその後を受け止めるだけでもう精神的にも限界だったのだろう。流星が抱きしめて5分もしないうちに瞳は寝息を立て始めた。 暗闇の中で顔が見えないのが悔しい。 きっと可愛い寝顔に違いない。流星は、さりげなく抱きしめる腕に力を入れる。 だが、同時に瞳を言いくるめるようにして、こんな関係になっていることに後悔もしていた。どう考えても友人の域を超えた。 どさくさに紛れて一緒に寝る提案をしてしまったが、やっぱりこの距離感は恋人から夫婦の距離だ。理由をつけて好きな子を抱きしめたいという自分の欲に負けたのもあるし、本当に誰かが瞳を抱きしめてやらないと、壊れる気がしたし……ここまで許してくれたなら告白しては? いや、告白しない方が不誠実なんじゃないか? もっと、いやらしい考え方をして仕舞えば、ここまでの関係になれば、瞳は告白されたら断られない気がしていた。だが……瞳さんの性格を考えると……流星の不安な部分は、瞳は、信じると決めた人への心のハードルが低すぎるのが問題だった点だ。 自己肯定感の低さから、どんどん悪化している。普通の女性なら、こんなふうに誘導されたら拒否するか、私のことをどう思っているの?と聞くだろう。 ところが、ここまでされても断らず、身を委ねる瞳の性格を考えると、告白はやはりないと思いとどまった。どんなに断ってもいいと伝えても、言われたから付き合わなければならないと思いかねない。 信じた人から嫌われるのが怖いのか、信じている人に言われたら仕方ないと考えてしまうのか。ああ……流星は、これから瞳が自立して家を出るようになる頃まで告白ができないことを考えて、自分が保てるのか不安になってくる。 今だって、どさくさに紛れてキスしたい衝動に駆られているのに。厄介なのは、多分、自分も瞳以上の女性ともう出会えない気がしていて、片想いなのに誰かと両思いになるより上の存在になっていることだ。
Última actualización: 2026-10-27
錬金術師は国から追われる

錬金術師は国から追われる

錬金術師アリエルは、ミレイユの師匠であり親代わり。だが、突然国の金を横領して恋人のダリウスと駆け落ちして行方不明になる。 二人の事件の事情を知るものとして、何もわからないまま、ミレイユは巻き込まれていく。 全てを奪われた彼女は、師匠が残した隠れ家へ逃げ込むが、そこは、誰も認識していない樹海。更には魔物も出る環境だった。 ミレイユは、錬金術の知識だけを頼りに生活を始めていく。 そんな中、ダリウスによって隠れ家に送り込まれたレオンハルトと共に生活を送ることになり、師匠たちは王室が絡む事件に巻き込まれたことを知る。 師匠アリエルは、ミレイユの元に帰ってこられるのか?そして、ミレイユとレオンハルトの恋の行方は?
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Chapter: 130 幸せな横で俺は悩む
アリアの病気が治ると同時にカイルはさっさと結婚した。今では、すっかりラブラブだ。それを横目に見たレオンハルトは、大きくため息をついた。「レオンハルトさんも早く結婚したらいいじゃないですか」すっかり軽薄さの抜けたカイルが、当然のように言う。こいつは誰だ?アリアに夢中で一途であることを隠そうともしない。アリアも娼館出身であることを気にしていたが、意外と馬1時間のこの領地には知り合いもいなくて安心して過ごしている。今はふっくら健康的になって表情も落ち着き、カイルとアリアは穏やかな夫婦に見えた。「結婚……押し切った方がいいのかな」レオンハルトは口には出してみたが、不安は消えない。「俺だって早く結婚してしまいたいんだよ。問題はミレイユがアリエルを一人にしていいか気にしているんだ」「会話も成立しませんよね。人が目の前にいても、意識してるのかどうか……」カイルも、アリエルの様子を思い出して眉を寄せた。アリエルはこちらからコンタクトを取らなければ、一方通行である。向こうからこちらを求めてくることはない。ミレイユが心配しているのは、このまま自分と結婚したら、やり取りがもっと減りそうで、接点がなくなりそうで怖いという。「……あれが過去の彼女なら、よっぽどダリウスが声をかけて、人らしくしていったんだろうな。昔の日記の彼女はあんな感じじゃなかった」ただ、忘れている記憶もあるらしい。アドリアンが教えたことは軽く説明すれば思い出す。「記憶の蓋が外れれば、もう少し今までのことを思い出して、人間らしくなるのかもしれない」そう話すアドリアンに、最近はエレオノーラ夫人がマナーや礼儀、ダンスまで仕込んでいるそうだ。「アドリアン。あれだけ啖呵を切ったのに、あんな貴族のマナーを教えたところで活かしようがないだろうに。やっぱりダリウスと一緒になる道を残そうとしてるんじゃないかな。それとも、別の縁組を狙ってるのか&h
Última actualización: 2026-11-02
Chapter: 129 師匠、樹海に戻る
「師匠、これってどうやって作るんですか?」ミレイユは、かつてアリエルからもらった万能短剣を取り出した。首をかしげたアリエルがそれを手に取って首を傾げる。「これ、私が作ったのか?」「はい!」「……見せて」淡々と答えて自分が作ったはずの万能短剣を興味深そうに見つめる姿に、ミレイユは少しほっとする。今のアリエルは記憶をすべて失ったわけではない。ダリウスたちと出会う前の知識や記憶は残っているのだ。だからミレイユのことは全く記憶にないし、積極的に昔のように話しかけてくれることはない。ひたすら、無表情に笑うことも驚くこともしない。ただ、錬金術の話なら普通に会話が成り立つ。錬金術は、その魔力の使い方などにそれぞれの個性があるので、自分はアリエルの弟子だったと伝えたら納得はした。だが、それ以上関わりを深めようともしない。◇「……私の娘?弟子?」目覚めてしばらく経ったアリエルは、ミレイユをじーっと見て、首をかしげる。次に視線を向けたのは、レオンハルト。「この子の父親?」「ち、ちがう!」慌てて顔を真っ赤にして否定するレオンハルト。ミレイユも顔を真っ赤にした。「師匠、レオンハルトさんは私がお付き合いしている人です」すると今度はアドリアンを見て尋ねる。「父親?」「ち、ちがう!君は、その……私が渡したお金で、彼女を買ったんだ」「お金で彼女は買えるのか?」意味不明なことをこの男は口走っている。そんなふうに見られたアドリアンは困惑する。その後、アリエルやミレイユは、アドリアンの領地へ同行することに決まった。「領地といっても、実は王都の隣で近いんだ」「ここって樹海防衛部隊の拠点にいく際に近くにあった宿舎辺りですね」かつて、樹海に入
Última actualización: 2026-11-01
Chapter: 128 愛と偽善の果てに残されたもの
王であるセドリックは、目の前の映像で、兄たちが息子ダリウスの大切な人を折檻し続けた姿を見て動揺した。ダリウスは狂ったように目の前で泣き叫んでいる。だが、正直ダリウスがショックを受けることはわかるが、それが宰相辞任に繋がるのかが分からない。必死に冷静を装い、アドリアンに問いかけた。「アドリアン、これは兄たちがやったことだ。私たちが行った事とは違う。これからはこんな悲劇を繰り返さないために、お互い協力しようという事だったはずだろう?」だが、アドリアンは大袈裟に悲しそうな顔をして、セドリックの前で首を横に振った。「ええ、もちろん私はそう信じていました。ですが、先日アルベルト様がアリエルに同じような仕打ちをしたのです。アリエルは錯乱して……壊れそうになった。アルベルト様。妻から報告を受けておりますよ。記憶にありますよね?」アルベルトの顔が、ひくりと凍りつく。「いや、そんなつもりでは――」だが、そんなつもりどころか、ご丁寧に追い打ちまでかけたのだから言い逃れをさせるつもりはない。アドリアンは、語気を強めた。「アリエルが、全てから解放されてやっと目覚めた時に最初に聞いた言葉は、謝罪でも感謝でもない。『弟の前から消えろ。この平民さえいなければダリウスは幸せになれた』ですよ」アドリアンの声は震えていた。王家への怒りと、哀しみのせいで。そして、またしてもそれを守る気がなかったダリウスに。「アルベルト様の言葉は、カールヴァイン王の言葉と何が違うんですか?未来の王であるエリオット様は、アルベルト様の元で同じ思想で育っている。私はアリエルを救い、二度と犠牲を出さぬためにクーデターに協力しました。だが、結局、同じ事の繰り返しだ」「そんな……まさか」セドリックは「本当にお前はそう言ったのか」とアルベルトに問いかける。だが、それを聞いていたアルベルトは反省するそぶりもなく、苛立ちを吐き捨てた。「その平民女は、国に買われた女なんだ。確かにやりすぎなところ
Última actualización: 2026-11-01
Chapter: 127 愛を知らない彼女が残したもの
アルベルトからすれば、あの日の出来事はどうでもよいことだったのだろう。今度は、アリエルに王家の者が絶対に接点を持たないように、魔力供給の間はアドリアン本人が同席する。翌日、ダリウスが魔力供給にやってきた時、何も知らされていない様子だった。ただ、アドリアンから伝わる怒りは感じたようで、ダリウスは疑問に思ったようだった。ダリウスは、アリエルの前では決して声を発さない。ただ、愛しいものを見る目は変わらなかった。だが、それすらアドリアンからすれば、怒りだった。そんなに好きな女なら、なぜ守らない!なぜ家族を、王家を説得しない!「王家の血がアリエルに入ることを知られるな」アリエルは魔力供給の間、目隠しをしていた。なぜそう言われていことを疑問に持たない!二度とアルベルトは近づけない。魔力の供給が減ったとしても、その後は断った。アドリアンは、本当ならダリウスの供給も断りたかった。しかし、アリエルの体調が戻るまではと我慢した。ダリウスの存在に気づかなくても、アリエルはダリウスからの魔力供給が終わる頃にはいつも穏やかな呼吸になる。ダリウスが魔力を流した後は、苦悶の顔が消える。それを見ると、アリエルとダリウスには見えない絆がある気がして、アドリアンは可哀想になる。やがて状態は安定し、医師からも魔力供給は不要であると告げられた。だが、アリエルが目を覚ましたものの記憶の混乱は続いていた。ミレイユやエレオノーラの声かけに応じながら、少しずつ体力を回復していった。もともと感情表現が得意でない上、受けたダメージも大きい。その表情は、アドリアンが知っている無慈悲な生きた兵器時代に戻った。どんなに声をかけても会話もほとんどない。心がない状態に戻り、アドリアンのことも、ミレイユのことも覚えていない。ダリウスのことを尋ねることもなく、今、そばにいないことを疑問にすら思わない。これには、アドリアンもミレイユもショックを隠せなかった。
Última actualización: 2026-10-31
Chapter: 126 同じことは繰り返さない
レオンハルトは、家に帰って、ミレイユとアドリアンの提案について話していた。「もし師匠とダリウスさんが結ばれるなら、アドリアンさんの提案通りにしたいです。自分が迷惑をかけないよう、貴族社会の勉強も……頑張ります。ただ、レオンハルトさんの足を引っ張らなければいいのですが……」相変わらず、ミレイユはまっすぐだ。困っている人のために、ただ錬金道具を作りたい。本当はそれだけを望んでいる。それなのに、師匠の幸せと昇爵する自分に迷惑をかけないかだけしか考えない。「ミレイユ……おれは君がいれば身分なんていらない。いつでも捨てるよ。だから、俺のそばから離れないで」そのままレオンハルトはミレイユの体に手を伸ばした。同じ屋根の下に毎日いる。ここ最近の二人は、思いが通じたこともあり、塔の時とは違い、スキンシップも濃厚なものに変わっていた。歯止めをかける必要がお互いに何もない。せっかく管理人が、ミレイユの部屋をレオンハルトの隣に用意してくれたというのに、その隣の壁すら今の二人には邪魔だった。レオンハルトの部屋にはお互いの衣服が散らばり、お互いをさらけ出していた。今、レオンハルトの前には、ミレイユが裸のまま自分のベッドで眠っている。体のあちこちには、レオンハルトがつけた求愛の印が残される。塔で過ごした日々の延長線のように違和感はない。それなのに、今までと違うのはレオンハルトのものになったミレイユがいる。そっとミレイユに触れると、手がぴたりと擦り寄ってくる。心も、身体も、互いに近づき、距離は変わったのだとレオンハルトの胸が熱くなる。「ダリウスとアリエルもこんな風に幸せになれるといいな」そう囁くレオンハルトにミレイユは「うーん」と寝言のように呟いた。無防備でどこか幼くも見える寝顔に、思わず微笑んでしまう。その時、アドリアンから魔法による通信が届いた。【明日
Última actualización: 2026-10-30
Chapter: 125 何も変わらない
アリエルはずっと、手放した意識の下で深い水の底で溺れているような苦しみを感じていた。 手を伸ばしても、掴めるものはない。痛い……苦しい助けて――やめて!なぜ自分がこんな場所にいるのか、わからない。 ただ、全身を締めつける苦しさだけがあった。遠くで声が聞こえる。 誰かが呼んでいる。 泣いている声もする。でも、誰だっけ……覚えていなくても、もういい気がする。 頑張ったよ。 もう十分、頑張った。温かいものが、体の奥を駆け巡る。 温かい……もっと触れていたい。 自分が誰で、どうしてこうなったのかはわからない。 快か不快か、それだけで世界を測っていた。額に手が触れ、泣く声が近くで響いた。この声は……誰だ? あっ!ダリウスだ!あれ?ダリウスって……誰だっけ? ぼんやりと、現実か幻かもわからない会話が聞こえる。 手に温もりを感じても、体は思うように動かせない。 声も出せず、理解もできない。わかるのは……ダリウスがここにいる――ただそれだけだ。頭にモヤがかかる。 大切なことを忘れている。 ダリウス...それは誰だっけ?次に、アドリアンとミレイユの声。 その頃から、ダリウスとアドリアン、ミレイユという人物が頭の中で浮かび始める激しく泣いている声が聞こえる。「ごめんね、ミレイユ……大丈夫、私はもう大丈夫」心ではそう思っても、声は出ず体も動かない。大丈夫……なのに―― 大丈夫って何だっけ? わかりそうだったのにな……思い出したいのに消えていく。また、新しい力が私を流れる。見えないのに冷たい。 うっすら目を開ける。 目を開けたのに……目の前は、やっぱり何も見えない。誰かから感じる冷たい空気。 敵意のような気配だ。これ
Última actualización: 2026-10-29
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