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第9話

Author: 匿名
晴佳はくるりと父の方へ向き直り、無表情のまま淡々と告げた。

「じゃあ仕方ないわね。ジャスミンもゴミとして捨てたから、植え直せって言われても無理よ」

忠弘は怒りで胸を押さえた。

「親にそんなこと言うのか!わざと俺に逆らってるんだな!」

美月は泣きながら父にすがりついた。

「お父さん、姉さんがひどすぎるよ……!お父さんを殺す気なの……?」

忠弘は咳き込み、震える手で晴佳を指さす。

「……もういい、お前なんか……俺の娘だなんて思いたくもない!さっさと出ていけ!今すぐこの家から出て行け!!」

それを聞いた晴佳は、あっさりと肩をすくめた。

「娘として思いたくない?同感よ。ちょうど私も、あなたを父だなんて思いたくないわ。

でも、『この家から出ていけ』って言われても、それは無理な相談ね」

一歩、また一歩と近づき、真正面からふたりを見据えた。

「ねぇ、お父さん……もう歳には勝てないのね?

この別荘、誰の名義か……ほんとに忘れた?私の名義よ。お母さんが遺してくれた財産。

出ていくべきなのは私じゃない。あんたたちよ」

そう言って、晴佳は迷いなく二人を指さした。

その瞬間、美月と忠弘は完全に固まった。

美月は動揺した声で父に尋ねた。

「お父さん……お姉さん、何言ってるの?どうせまた嘘でしょ?ね?」

彼女は所詮、愛人の子。宇佐見家のことなんて知るはずもなかった。

忠弘に連れられてこの家に来た日、美月は、まるで洋館のような広大な邸宅を前に、目を丸くした。

この贅沢な世界はすべて「お父さんのもの」だと、無意識に思い込んだのだ。

でも実際には、会社も、不動産も、すべては晴佳の母・綾乃のものだった。

晴佳の祖父・常盤正幸(ときわ まさゆき)は、地元でも名の知れた大企業の創業者。綾乃は、その一人娘として、愛情を一身に受けて育てられた箱入り娘だった。

忠弘は、その家に婿入りした身だった。

それでも、綾乃は夫を立てるため、娘に夫の姓を名乗らせた。

だが、すべての財産が、しっかりと自分名義にしてあった。

忠弘は鼻を鳴らして笑った。

「だからなんだって言うんだ?別荘があんた名義なら、こっちは別にまた買えばいいだけの話だ」

そして急に甘い笑みを浮かべて美月に向き直る。

「美月、こんな家なんてもう飽きたろ?新しい家、もっといいの買ってやるよ」

だが美月はまだ諦めきれず、未練たっぷりにリビングを見回した。

「……お父さん、本当にこの家、お姉さんのなの?」

忠弘は無言になった。

美月の顔が一気に青ざめる。本当に晴佳のものだったのか。

でも、すぐに虚勢を張るように、あごを上げて晴佳を見下ろした。

「いいわよ、すぐに新しい家を買うから。もっと大きくて、もっと豪華な家!あんたなんか、このボロ屋に一人で引きこもってなさいよ!」

晴佳はその言葉を聞いても、怒るどころかふっと笑った。

まるで「どうせすぐに泣きついてくるくせに」と、すべてを見通しているような冷ややかな笑みだった。

美月は、得体の知れない不安に胸を締め付けられた。焦るように父の腕を抱え込む。

「お父さん……ねぇ、本当に買ってくれるんだよね?」

忠弘は娘の頭を優しく撫でた。

「もちろんだとも。お父さんは、美月が欲しいものなら、なんだって買ってあげるさ」

そう言って、二人は晴佳に背を向けて玄関へ向かうと、玄関から現れた堀内弁護士とすれ違った。

彼は忠弘の前に立ちはだかり、厳格な声で言った。

「宇佐見さん、奥様の遺言書の『付帯条項』を執行するために、あなたご本人の立ち合いが必要です」

忠弘は怪訝な表情を浮かべた。

「……付帯条項?遺言の執行は、もうとっくに終わったはずだが?」

そう、綾乃の遺言は、確かに彼女が亡くなった後、すでに実行された。

全財産の80%は一人娘である晴佳に、残り20%は夫である忠弘に。

その20%だけでも、十分すぎるほどの金額だった。忠弘が一生遊んで暮らすには十分だった。

そして彼も遠慮することなく、その金で贅沢三昧の暮らしを送り、挙げ句の果てには莫大なギャンブルの借金まで作った。

だが、そんな生活がいつ終わってもおかしくないことを、彼はまったく想定していなかった。

しかも、その運命の主導権を握っているのは、長年彼が無視していた実の長女だったのだ。
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