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第2話

Author: 四季
それでも私は、覚悟を決めて車に乗り込んだ。

強い風が吹き始めて、フロントガラスはあっという間に砂まみれになった。

砂が車体に叩きつけられ、バチバチと音を立てる。視界はほとんど奪われていた。

怖くてたまらなかった。タイヤが砂に取られたり、車が動かなくなったりしないか心配で。

でも、私は歯を食いしばって進むしかなかった。だって、健太と結婚するんだから。彼をあまり長く待たせるわけにはいかない。

私はハンドルを握りしめながら、自分に何度も言い聞かせた。あともう少し、あともう少しだけ頑張ろうって。

どれくらいの時間が経っただろう。やっと見慣れた発射センターが見えてきた。

でも、中に入って耳にしたのは、健太と翠の結婚発表だった。

その瞬間、私はようやく思い知らされた。彼が私にしてきたことが、どれだけ残酷なことだったのかを。

目に溜まっていた涙が引いていくと、視界がだんだんはっきりしてきた。

健太はまだ眉間にしわを寄せ、不満そうに文句を言っている。

「凛菜、何年も待てたんだから、あと数ヶ月くらい待てないのか?

お前と結婚するって約束したんだから、守るつもりだよ!」

私は顔を上げて彼を見つめた。その瞳は氷のように冷たかった。

「もういい。明日、研究院に退職届を出すから。ちゃんと受理してね」

私は背を向けて歩き出した。健太の言葉なんて、もう一言も聞きたくなかった。翌朝、砂嵐がやむと、私はすぐに基地へ戻った。

家に着いた途端、ポケットのスマホが震えた。

インスタを開くと、健太が写真を何枚もアップしていた。

彼と翠が、結婚指輪を見せつけている写真だった。背景は発射塔で、二人はとても幸せそうに笑っていた。

添えられたコメントには、こう書いてあった。

【星空に見守られて。これからの人生、よろしくね】

こめかみがズキズキと痛む。ここ数日、まともに眠れていなかったから、こんなにひどい頭痛がするんだと思った。

私は立ち上がると、机の隅に置いてあった鉄の箱を開けた。

中には、これまで集めてきた健太との思い出の品が詰まっていた。

もう、全部捨てる時だ。

蓋を開けると、一番上に見えたのは、私が彼にプレゼントしたゴーグルだった。

研究基地のあたりは風が強いから、屋外で作業するときに目を傷めないか心配で。だから、これをプレゼントしたんだ。フレームには、私たちのイニシャルも彫ってもらった。

でも健太は、受け取るとすぐに机の上に放り投げて、馬鹿にしたように言った。

「技術屋が、こんな見た目だけのもの、使うわけないだろ」

でも、翠がプレゼントしたプラスチックの星のキーホルダーは、一日中、作業着につけて見せびらかしていた。

愛されてるかどうかで、人の態度はここまで変わるんだ。

私は、その鉄の箱をまるごとゴミ箱に投げ捨てた。

その時、ラインの通知音が鳴った。健太からだった。

【基地に戻る。お前の車で送れ。今すぐ迎えに来い】

どうやら彼は、私がもうそこを出たことを知らないみたいだ。

机のふちに手をついた、その時だった。突然、頭を鈍器で殴られたような目眩が走り、目の前が真っ暗になった。私はそのまま、床に強く倒れ込んだ。

手術でボルトを入れた右足が、えぐられるように痛む。

冷や汗が背中をびっしょりと濡らす。床に倒れたまま動けないのに、スマホだけが激しく震え続けていた。

【なんでこんなに遅いんだ?すぐそこなんだから、這って来たって、もう着いてるはずだろ】

私は歯を食いしばって必死に痛みをこらえた。すると、すぐに次のメッセージが届いた。

【俺が基地に戻るのが遅れたら、どう責任取るつもりだ?少しは自分の立場を考えろよ】

どれくらい時間が経っただろう。私はようやく、少しだけ体が動くようになった。

震える指で、画面に文字を打ち込む。

【健太、私たちはもう別れたの】

送信ボタンを押すと、すぐに健太をブロックして、スマホの電源を切った。

窓の外では、また砂混じりの風が吹き荒れていた。私はソファに体を預け、彼が本棚に飾っていたランドスペースの模型を、ただぼんやりと見つめていた。

健太は昔から、私の手がオイル臭いと言って、彼のものに触らせてくれなかった。

だから私は、健太のものに触る前には、必ず数回、手を洗う癖がついていた。

その習慣は、もう8年も続いていた。
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