Mag-log in「陽菜、結婚を急かすつもりはない」蒼の、真剣な顔。「だけど、早急に答えが欲しい」え?どっち?それに……。「なんの返事?」結婚の話でないなら…あ「ゴムなしでセックスする話」あ……。「……忘れてた」「忘れるなよ」「でも、ほら、いろいろ考えちゃって」「それは、俺もだが……」 えっ!「ひあんっ!」蒼にグッと抱きしめられると、お腹のあたりにゴリッとした硬い感触。これって……。「なんで? さっきまで無かったよね?」「ゴムなしでする話を思い出したから」一瞬で?「変化が早くない?」「あのなあ……」蒼が、深く溜息。「惚れた女に生で抱いてほしいと言われたんだぞ。直ぐに勃つに決まってるだろう」凱と、似たようなこと言ってるわ。蒼と凱って、本当によく似ているわ。 「待って」「だから、待つ。でも、早く決めてくれ」早くって……。「避妊しなかったら、子どもができるかもしれないのよ?」……なんで、首を傾げるの?「変なこと、言った?」「いや、避妊しなければ子ができるかもしれないが、陽菜は二人目が欲しいからそう言ったのではないのか?」……そういえば。「……忘れてた」「忘れるなよ」「でも、ほら、いろいろ考えちゃって」「それは、俺もだが……それで、子どもができることを想定しての、あの台詞ではないのか? そうでなければ、ゴムなしでもいいなんて陽菜は言わないだろう?」いや……そんな、心底不思議そうな顔をしなくても……。「結婚はしないって言っているのよ?」「うん?」蒼が首を傾げる。「分かってる?」「……うん? 陽菜の言葉でいうなら、夫婦であることと、子どもの父と母であることは別じゃないのか?」「えっと、そう言ったけれど……」「婚外子とか、シングルマザーとか、いろいろ問題は出るだろうけれど、それに拘って不仲な夫婦の間で子どもが育つのもおかしいと思う」「うん……」上手く言えないけれど、と蒼が言葉を選ぶ素振りを見せた。「有名税みたいなもので、俺たちはきっとどんな形で子どもを育ってもバッシングは受けると思う。海のときもそうだっただろう」「……うん」当時のSNSに寄せられたコメントを思い出して、思わず俯いた。「子どものことを考えたら結婚すべきって、好き勝手なことを言ってくれるよな」「……うん」蒼の手が私の量頬を包
――― 結婚したら、蒼はまた私を見なくなるもの。陽菜の言葉に、予想外で唖然とした自分と、どこか納得できた自分がいた。 陽菜との離婚は、俺のせい。だから、海のパートタイムダディであることは「仕方がない」と思っている。陽菜が、俺のことを海の父親として受け入れ、俺が海と会うことを認めてくれていることも、幸運だと思っている。海にとってこの“父親の形”がどうなのか、良いのか悪いのかは、この先の海を取り巻く環境の変化で変わっていくだろう。俺にできることは、海が昔を振り返ったとき、こういう“父親の形”で楽しかったと、後悔されないようにすること。そんな気持ちだったけれど、振り返れば俺は海からたくさんの幸せと愛情をもらっている。海が俺に与えてくれるのは、無垢な愛情。子どもってこんなにまっさらなんだなって、俺はよく驚いている。海を育てることで、俺の中の何かは変化しているようだ。子ども好きになった、とかではない。ただ、海以外の子どもにも目がいくようになった。階段の上で小さな子どもを見かけたときや、横断歩道のそばに子どもがいるのを見かけたときは、大丈夫かと、安全だと思える状況になるまでなんとなく目で追っている。声をかけるわけでも、ましてや、手を貸すわけではないが……見守り、のようなことをしている。見かける子どもに、海を重ねているんだろう。そんな子どもを見かけると、海は安全だろうかと不安になる。家で、安全にしているだろうかと、会社帰りに陽菜たちの部屋に立ち寄っている。部屋に陽菜たちがいないと、「いまどこにいる?」と連絡を入れてしまっている。――別れた夫からの頻繁な所在確認って、陽菜さん、迷惑なんじゃねえか?黒崎に、そう言われた。海はまだ幼いから、直接連絡できない。陽菜に聞くしかない。そう抗議することもできただろうけれど、俺は抗議しなか
「ごめん、陽菜……」……これは、予想外だった。少し、いやかなり、己惚れていたみたい。―――ゴムを着けないで生でシようと言えば、ソウのやつは直ぐにむしゃぶりついてくるぞ。異母兄よ、蒼はむしゃぶりついてこなかったよ。それどころか、拒否されてしまった。……それは、そうか。二人目とか言っているけれど、それよりも結婚するかどうかが先なのが普通。蒼と離婚するとき、海を籍に入れることが先だと、蒼は条件のようにそれを要求した。嫡出にすることは、蒼にとって、、私が思う以上に大事なことなのかもしれない。いまの時代、嫡出と非嫡出に法律的な扱いの差はほぼない。でも、それは法律的な観点であって、人の感情はそう簡単に割り切れないのだろう。蒼はそれを、異母兄で経験しているのかもしれない。「陽菜、その、する前に、確認しておきたいことがある」蒼と、また結婚するか?子どもができたら、結婚するか?当然の確認かもしれない。でも……怖い。蒼とこうして、海を一緒に育てられている今の環境に私は満足している。安心、できる。蒼はいつもせっせと、私と海のところにくる。以前の結婚のとき、蒼が私を放置していたことが嘘みたいに、毎日、どんなに遅くなっても連絡だけは寄越す。蒼と会う予定がなくて、私たちが家にいないときに蒼がきたときは、蒼は必ず「どこにいる?」と聞いてくる。以前の結婚のときは、私が家にいるかどうかの確認もしたことがなかったのに。「どこにいる?」と聞いたあと、蒼は必ず「ごめん」と謝る。監視しているわけではなく、ただ不安なだったと、そう言って謝る。ここで私が「謝る必要はないよ」と蒼に言って、どこかに行く前に蒼にメッセージの一つでも残してから出かけることは大した手間でもない。でも、私はやらない。蒼に、安心させたくないから。不安でいる限り、蒼は私のことを気に掛け続ける。――― 社長と同じマンションって、監視されている気になりませんか?黒崎さんに、いつだったかそう聞かれたことがある。前の結婚を知る黒崎さんにとって、蒼の用意した部屋に暮らす私は、相変わらず籠の鳥のように見えるのかもしれない。でも、いまの私は蒼の用意した部屋に自ら入ったの。蒼を、常に不安にさせるため。 捕まった鳥は、逃げること諦めてしまう。そんな鳥を見て
元妻だけど、心底惚れている女に「エッチしよう」と……多分、誘われた。誘われた、で合っている。いま、キス、されている。……この状態で、その気にならない男はいないと思う。いや、別にいてもいいが、俺はその気になった。頭が何の指令を出さなくても、腕が勝手に陽菜に向かって伸びる。最初は遠慮がちに背中に触れた手も、一気に図々しくなって下に滑り降りていき、陽菜のきれいなS字カーブを撫でて、細い腰に到達。力加減に気をつけて、俺は陽菜を抱き寄せる。 チュッ軽いリップ音が立ち、陽菜の唇が俺の唇から離れていく。「……陽菜」「やだ……」自分から誘ってきたくせに?陽菜は、こういう雰囲気に慣れていない。俺が初めてではなかったけれど、俺とはかなりの回数寝ているし、子どももいるのだから、俺としては“今さら”じゃないかとも思う。でも、恥じらう姿はいつも可愛いし、それにまた唆られるのだから、俺に一切の文句はない。もちろん、ないではあろうが、素っ裸で俺の前に立って挑むように誘いかけてきても、陽菜ならその気になる。ほかの女なら、ドン引きだが。「陽菜……」「あんまり、見ないで……」……恥じらう台詞だけで、体が昂ぶる。恥ずかしいのを隠す素っ気ない陽菜の、恥ずかしさを隠せていない真っ赤な頬を包んでキスをする。「……ん……ぁ」久しぶりに聞く、陽菜の甘い声。腰にダイレクトに響く。舌を絡ませると、俺たち二人分の唾液が混じり合い、水音が大きくなる。信じられない、状況。夢のような状況に、脳が火照って頭がぼうっと
蒼と寝たい。あのホットケーキが飛んだ朝から、そんなことを悶々と、ほぼ毎日考えてしまうようになった。明らかに、欲求不満。――― 素裸でソウの前に立って、ゴムを着けないで生でシようと言えば……。あのときはドン引きした凱の提案を、最近は「いいかも」なんて思い始めた自分。そんな自分に気づいて、自分にドン引きする日々を送っている。それに、“蒼と寝たい”と思っていても、海がいる。子どものいる家で、性行為に耽るのは無理。世間の夫婦はどうやっているのか。ネット検索したら、「子どもを預かってもらう」が多かった。預かり先は……ある。海は凱が好きで、私が仕事で遅いときは凱が保育園まで迎えにいってくれて、そのままお泊まりってこともよくある。凱に、預かってもらう?凱も海が好きだから、喜んで預かってくれるだろう。唯一の懸念点は、咲さんとよい雰囲気のデート予定だけど……一昨日見た感じでは、二人がベッド・インするまでは先が長そうだ。……いや、待って。この前の“蒼との子作り”の話題が出たあとで、凱に海を預かってって言うの?凱は、私の上司。仕事を理由には、できない。それで「今夜預かって」なんて言ったら、“今夜、蒼とシます”と凱の頭の中で自動変換されちゃうじゃない。やだ、恥ずかしい。……翠さんに預かってもらう?いやいや、ないない。その状況って蒼が預かれないということだから、蒼の祖母である翠さんが「蒼はどうしたの?」聞かれるだろう。それは、いたってナチュラル。仕事だと誤魔化すことはできるけど、嘘だとバレたときは気まずい。嘘をついたこともそうだし、嘘をついてまでやろうとしたことがアレだもの……。厶ーーー。 *そんな悶々とする日々だったけれど、振り返ってみれば、チャンスは意外とすぐにやってきた。夢の国の特番を凱と見ていた海が「行ってみたい」と凱におねだりし、同国の期間限定スイーツに惹かれた凱は海をつれて夢の国へと出かけていった。帰宅は、二十二時くらい。海の就寝時間は過ぎるが、移動は電車だし、最寄りの駅からは大して距離もないから抱いてこられると凱が言うので、凱の計画に甘えることにした。お気に入りのリュックを背負ってルンルンと浮かれている海と、今日は一日有給を取って海を迎えにきた凱。二人を朝は見送って、今夜は一人だから夕飯はお惣菜ですませようと、
「咲さん、さっきの子どもの件だけど、蒼がどうして”頑張った”になるの?」「パートナーが子育てに協力的な夫婦でないと、”もう一人子どもを”と考えことはないそうです」「でも、それは蒼に限らず周りがとても協力的だからだと思うわ」職場も子育てに理解があり、就業時間や休日は結構フレキシブルだ。海の世話についても、凱や翠さんたちもよく手伝ってくれる。「でも、陽菜さんが考えている二人目の子どもの父親は、社長ですよね?」「……まあ」ダイレクトに聞かれた。「そう思えるってことは、陽菜さんから見て社長がそれだけ”父親”として、そして”男”として魅力的ということではありませんか?」男としてって……咲さん、結構ダイレクト。でも、正論だから、反論できない。いや、反論する必要もないのだけど。蒼はとてもいい“お父さん”だと思うし……うん、いいお父さんなの。でも、最近”お父さん”の蒼を見るとモヤッとする。文句ではない。でも、モヤモヤッとする。 「まどろっこしいなあ。素裸でソウの前に立って、ゴムを着けないで生でシようと言えば、ソウのやつは直ぐにむしゃぶりついてくるぞ」お異母兄様、妹とそういう話はパスなのでは?「ミスター・李はそういう経験がおありで?」「あるといえば、ある」さすが、凱。「シたんですか?」「まさか。一目散に逃げた」……駄目じゃない。 「凱、役に立つアドバイスを頂戴」「だから、さっきのが役に立つアドバイスだって」「でも、凱は逃げたんでしょう?」「当たり前だろう。惚れてなきゃ逃げるに決まっているが、惚れた女にそれをやられたら直ぐ勃つに決まっている」異母妹相手に、少々生々し過ぎないかな?そして、すごいね。最近日本語ペラペラだなと思ったけれど、猥談までペラペラだとは。「エミも、試してみたらどうだ?」「……そうですね。子がほしいと子宮が疼くぐらいの男を見つけたら試してみます」大人な会話ね……なんか、ピンク色のモヤモヤがあって、居心地悪いわあ。 * 「うわっ」子育てをしていると「なにをして、そうなった?」と思うことによく遭遇する。いまが、まさに、そう。なぜか、蒼の頭の上にホットケーキがのっている。「パパ、ごめんなさい」「……いいさ」海に反省されては、何も言えない気持ちはよく分かる。「次は、気をつ