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酔夫人
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Romans de 酔夫人

幽霊聖女は騎士公爵の愛で生きる

幽霊聖女は騎士公爵の愛で生きる

十七年前のあの日、「聖女」は死んだ。 でも「私」は生きている。 私は父伯爵に異母妹ラシャータの代わりに彼女の婚約者アレックス・ウィンスロープ公爵に嫁げと言われた。 彼は異母妹の自慢の婚約者だったが、魔物との戦いで呪われたという。 二十歳、初めての外の世界。 そこにはたくさんの「愛」があった。
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Chapter: レティーシャ(7)
鳥の鳴く声が聞こえた。読んでいた本からレティーシャが顔をあげると窓の外に鳥がいた。見たことはあるけれど名前は知らない鳥。くるっとした目と目があうと、鳥は首が右と左に小さく動かして飛び立った。視界の外まで鳥が飛んでいくのを見送ると、レティーシャは視界の端で赤い何かが揺れたことに気づく。ウィンスロープ邸の庭を管理している庭師だ。彼はいつもレティーシャが見つけると隠れてしまう。(人に見られずに作業してこそ一人前なのかしら)目立ちたくないなら赤い作業着は止めたほうがいいとレティーシャは思った。 *(でも、いつ見てもきれいな庭だわ)窓から見える庭は美しい。咲き誇っている花は全てに管理が行き届き、枯れたり萎れたりしている花はレティーシャの見る限り一つもない。この窓からそれを見るたった一人のために作られた庭。しかし、それを見るこの部屋の主のアレックスはまだ体を起こすことができない。それでも庭師たちは庭の管理に手を抜かない。アレックスがいつか見るから。そのことが、この美しい庭が、アレックスが回復することへの願いだとレティーシャは感じる。(助ける目的。戦う目的。色々と難しく考えていましたが、その目的たるものは、こういうことなのかもしれませんわ)見ず知らずの誰かではなく、アレックスの回復を願うこの人たちをアレックスは守りたかったのかもしれない。その結果が国を守っただけなのかもしれないとレティーシャは思った。スフィア邸を出て半年、初めて外に出たレティーシャはこの世界の広さを感じている。かつて知っていたものはこの世界のほんの一部で、それもかなり歪んだものだった。当主が療養中ではあるが、ウィンスロープ邸はレティーシャにとって明るい。まだこのウィンスロープ邸内だけの世界しか知らないのだが、これまでのレティーシャの世界に比べたらかなり広いことを知った。(いまの私は『幽霊』ではない)スフィア邸を出て、レティーシ
Dernière mise à jour: 2025-11-18
Chapter: レティーシャ(6)
「異変が起きたのは|魔物の大流出《スタンピード》発生から4日目の朝。索敵が得意な者が周辺の魔物は全て討伐し、残りの魔物は山に戻ったと報告した直後に閣下がお倒れになったのです」『突然』というのはあまり重要ではない。重度の興奮状態にあるとき、人は痛みや疲労を感じないというからだ。(その前から異常は起きていたと考えたほうが自然でしょうね)「救護天幕に運び込んだ閣下の肌は黒ずみ、一部は溶けはじめてすごい臭いだったそうです」(溶ける。腐る。ラシャータ様も同じようなことを仰っていたわ。人間の体は生きてその血を巡らせる限り腐ることはありません。だから血の巡りが止まった……もしくは、止められた?)「閣下は一部の騎士に護衛されて先に王都に戻り、私たちは副団長の指示に従って後から王都に戻りました。戻ったときにはすでに面会謝絶で、それからは団長しか閣下にお会いできていません」「そうですか」レダの説明に頷きながらレティーシャは『腐る』理由について考えていたが、レダの視線に気づいて首を傾げた。「なんでしょう?」「失礼を覚悟で申し上げますが、ラシャータ様が閣下の治療にそこまで親身になられるとは思いませんでした……その、あくまでも噂ですが、ラシャータ様は閣下の治療を拒否していたと聞いていたので……」(間違っていませんわ。だから、レダ様がお怒りになることは正しいです)昨日の父伯爵とラシャータの言い分。 そしてレダの表情。そこにレティーシャが知っているラシャータの性格を合わせれば、レダが『ラシャータ』を批難する気持ちも分かる。(でも、レダ卿は考えたことがないのかしら)『聖女の力』といわれる治癒力。死んでさえいなければ、どんな病気でも怪我でも治してみせると豪語できる力。この力を神から授かった初代聖女を、人々は「神に愛されているから」と言った。しかし、その力を持つレティーシャにしてみれば、初代聖女は愛されていたのではない。聖女の力は神罰だったのではないかとさえ思う。この国は王のいる貴族制度のある国だが、聖女の力のせいで
Dernière mise à jour: 2025-11-17
Chapter: レティーシャ(5)
「なにがあった?」レダに大声で呼ばれて駆けつけた『先輩』はまず状況を確認した。慌てるレダ。レダの手をしっかり握って離さないレティーシャ。状況がさっぱり分からなかった。彼は優秀だったが、彼は悪くない。「ラシャータ様が、馬車に乗るのが怖いと仰りまして」「……いろいろ気になるが、それで最も重要な問題点は?」「私に一緒に馬車に乗ってほしいそうです」『先輩』は考えた。考えて、朝食がまだだということに気づいて、早く帰りたくなった。「よし、そうしろ」「えー!」こんなやり取りはあったが、馬車に乗ったレティーシャは落ち着きを取り戻した。レダが一緒ということもあるが、扉が閉まってしまえば外は見えない。窓から下をのぞき込まない限り高さは分からない。「ラシャータ様、ひざ掛けをどうぞ」「ありがとうございます」レダが渡してくれたひざ掛けは柔らかくて温かかった。ラシャータの服は露出はなくとも少々季節外れで夏物。秋になったばかりとはいえ、朝の空気は少々冷たかった。「二時間ほどでウィンスロープ邸に到着します」「レダ卿、その間に閣下の状態を教えていただけませんか?」「ご存知、ないのですか?」(しまったわ……)ラシャータは治療のために一度アレックスを見ている。半年間のラグがあるとはいえ、状態を知らないこと不自然だ。(早速ミスしてしまいましたわ)ここまで結構ミスしているが、レティーシャが自覚したミスはこれが初めてだった。(適当に誤魔化しましょう)「戦闘中に起きたこと知りたいのです」「なるほど」あまり「なるほど」ではなかったが、話を進めるためにレダは納得する振りをすることにした。「私たちは山岳地帯から魔物が溢れたと報告を受け、国境の砦に向かいました」「出陣の様子は私も知っておりますわ。先駆けが得意な騎士様たちに閣下が『ついてこられる者だけついてこい』と仰られて、それに激励されて騎士様たちはかつてない速さで街道を駆け抜けたとか」「そうです。『ついてこられる者だけ』などと言われては引き下がれません」「まあ、とても格好いいですわ」「それほどでも……えっと」話が逸れたことに気づいてレダは話を戻す。「我々が到着したときには、山の麓にある村が三つも壊滅していました」「生存者は?」「誰もおりませんでした。村は魔物たちに蹂躙され、家の壁には
Dernière mise à jour: 2025-11-13
Chapter: レティーシャ(4)
「は、初めまして、ラ、ラシャータ様。ウィンスロープ騎士団のレダと申します」「よろしくお願いします、レダ卿。無理をいって騎士様を裏口で待たせてしまって申しわけありませんでした」レティーシャが頭を下げると、レダの口がカパーッと開いた。レティーシャが顔を上げても、レダは口をカパーッと開いたままだった。(どんな表情をしていても美しい方だわ。ウィンスロープ騎士団にはこんな素敵な女性の騎士様がいらっしゃるのね)この光景を小屋から見ていたドマは《早速か!》と叫んだが、レティーシャには聞こえなかった。「ラシャータ様、ですよね?」ドマの言う通り、早々とレティーシャはその正体を疑われたわけだが……。「はい。ラシャータ・スフィアと申します」レダはラシャータに会うのは初めてなのだろうと思ったレティーシャは挨拶をした。本当ならここでカーテシーをするべきかもしれないなと思ったが、カーテシーができないレティーシャは笑顔で誤魔化すことにした。それで正解。普通の貴族令嬢は迎えの騎士にそんな丁寧なあいさつはしない。「とりあえず、行きましょう」この事態を『とりあえず』で纏めたレダは優秀な騎士である。しかし、彼女の難関はまだまだ続く。「お荷物は?」「これですわ」レティーシャは中古の鞄を掲げてみせる。 服と一緒にもらったラシャータのお古の鞄だ。ドモに言われた貴重品もしっかり入っているから問題ない。でもそれはレティーシャの考え。「え、あ、本当にそれだけ、え、それだけですか?」「はい」「あの、失礼ですが、嫁入りですよね?」「はい、お嫁にいきます」疑わし気なレダの声をレティーシャはあっさりと肯定する。あっさりし過ぎていた。「そんな市場にいくようなノリで……いや、失礼しました。荷物は私に……「いえ、自分で持ちます」」貴重品は肌身離さず。レティーシャは鞄を胸の前に抱えてギュッと握った。 「そうですか。それでは、馬車にお乗りください」レダの手を借りて、レティーシャは馬車の前にあるステップを昇りはじめた。ワクワクしていたが、三段あるうちの二段目まで昇ったところで足が止まった。隣を見るとレダの高く結ばれた髪の付け根がよく見えた。レダのほうがレティーシャより背が高い。 だからさっきは見えなかったわけだが――。「どうしましょう」「忘れ物ですか? それでし
Dernière mise à jour: 2025-11-13
Chapter: レティーシャ(3)
翌朝、伯爵邸の裏門に馬車がとまるのがレティーシャには見えた。窓から外を見れば空はまだ宵が明けたばかりの薄紫色。(ラシャータ様だったらまだ夢の中ですわね)貴族の娘を迎えにくるには早すぎる時間だったが――。(それほどウィンスロープ公爵閣下の容体はお悪いのだわ)レティーシャは荷物を昨日のうちにまとめておいたので、準備万端とばかりに鞄をぽんっと叩いた。父伯爵たちの計画に納得できない点や不安な点は多々あるものの、父伯爵たちの決定を覆すことなどレティーシャにはできない。やるしかないのだ。それにレティーシャは暴走する魔物を体を張って抑え込んだアレックスに感謝していた。レティーシャには魔物と戦う術はないから、自分たちの代わりに戦って倒れたアレックスに恩返しのつもりで精いっぱい尽くそうとレティーシャは考えていた。(侍女として雇っていただけたほうがよかったけれど、仕方がないと諦めましょう)レティーシャは窓ガラスに映る自分の姿を見た。そこには見慣れない。 貴族令嬢っぽい姿をした自分が映っている。着飾った感じがして、レティーシャは少し恥ずかしかった。いまレティーシャが着ているのはラシャータのお下がりの服。昨日、ラシャータの侍女から渡された大きな麻袋の中に入っていた。 父伯爵が準備させていたらしい。ラシャータのお下がりと聞いて、彼女がいつも好んで着ている露出の激しい服だったら嫌だと思っていたが、袋を開けると想像はよい意味で裏切られ、落ち着いた雰囲気の雰囲気が入っていた。少々年配の貴族夫人が聖女レティーシャに贈ったものらしい。この国に一人しかいない聖女は神格化され、いざというときに助けてもらおうとする貴族たちからの贈り物が絶えない。それらの中から、ラシャータが地味で趣味ではないといったものを麻袋に入れてまとめて寄越したらしい。捨てれなくて困ってたのだと侍女たちは笑っていたが、レティーシャはその老夫人に深く感謝していた。だって特に悪い点が見当たらない。これまで着ていた麻の服に比べてはるかに上質な布の肌触りで、着心地がいいと感じるほどだ。《おい、レティーシャ。お前、本当にその格好で『ラシャータ』を名乗るつもりか?》脳内に響いた声に、レティーシャは後ろを振り返った。暖炉から出てきた煙が固まって黒猫の形になる。 家守りの精霊『ドモ』だ。「嫁入り
Dernière mise à jour: 2025-11-13
Chapter: レティーシャ(2)
「無理ですわ!」無茶を通り越して無謀な話で、レティーシャは反射的に「はい」と「いいえ」以外で答えてしまった。  パアンッ視界がグルっと回った。 壁が見えて、頬がジンッと熱くなる。「口答えをするんじゃないわよ」痛みに滲む視界でラシャータがまた手を振り上げていた。また叩かれる。レティーシャは目を瞑り、痛みに備えて体を強張らせた。 叩かれることには慣れているが痛いものは痛い。「それにケガをさせるな」 「なんで?」父伯爵に止められたラシャータの声は不満気だったが、初夜の床で傷があると騒がれたら嫌だという父伯爵の言葉にラシャータはキャハハッと笑った。「新床なんてないわ。新郎は腐りかけて、ベッドから起きあがることもできないんだもの」(……腐り、かけ?)ラシャータの言うことが本当なら、自分の婚約者が腐りかけていることのどこに愉快さが、笑う要素があるのかがレティーシャには分からなかった。ラシャータに対して不快な気持ちを隠せなかったが、レティーシャの眉間に寄った皺をラシャータは恐怖と誤解した。ラシャータの顔が愉悦に歪む。 「アレク様、魔物に呪われたの」 「そんなになるまで……どうして……」「だって、醜かったのだもの」呆気らかんとした悪びれのないラシャータにレティーシャは唖然とする。「アレク様の全身は真っ黒で、臭くて、近寄りたくもなかった。あれはもうアレク様じゃない、怪物よ。怪物と結婚するなんて絶対に嫌!」「それじゃあ治癒は……「するわけないじゃない、気持ち悪い!」」ラシャータは自分を守るようにその腕を自分の体に回した。 (それなら……治癒を命じるなら分かりますわ。それなのに、なぜ結婚の必要があるのかしら) 「んもう、お父様が陛下に治癒力を最大限に発揮するには『伴侶』になる必要があるなんて言うからよ」「仕方がないだろう。お前が治癒を拒んだなどと言えるわけがないし、これでようやくウィンスロープ公爵夫人になれると思ったから」「それはアレク様が怪物になる前の話。おっそいのよ、お父様は」膨れるラシャータと、それを宥める父伯爵のやり取りでレティーシャは粗方を理解した。アレックスが怪我をするまで、ラシャータは早く結婚したいとアレックスに迫っていた。それを多忙などを理由にアレックスは拒否していたのだ。「閣下は口もきけなかったと言っていた
Dernière mise à jour: 2025-11-13
隠された愛 ~ 「もう少し」ってあとどれくらい?

隠された愛 ~ 「もう少し」ってあとどれくらい?

藤嶋陽菜は夫である蒼と恋愛結婚をしたが、蒼は二人の結婚はしばらく秘密にしたいという。 理由は、「いまは言えない」。 繰り返される、「もう少しだけ」。 表向きは他人の二人。 そんな二人の前に白川茉莉や李凱が現れる。 いまは言えない「秘密」を陽菜が聞く日はくるのか。
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Chapter: 2.
目的の人物は直ぐに見つかった。予想通り、人が最も集まっている中心地にいた。やっぱり彼も背が高い。 *|藤嶋《ふじしま》|蒼《そう》。大手ゼネコン藤嶋建設の創業家一族の直系で次期社長。現在は副社長の地位にあるが、社長である父親・藤嶋|司《つかさ》を遥かに凌ぐ実力とカリスマ性から、藤嶋建設の実権は彼が握っているといっても過言ではない。彼の周りに群がっている人たちは彼より二十歳は年上だろうに、彼に向けるその媚びた表情から王に謁見する臣下にしか見えない。彼の傍には美しい女性。そして彼によく似た幼子。まるで“幸福”を絵に描いたような家族。でもこの三人は“家族”ではない。正確には「まだ」家族ではない。なぜなら藤嶋蒼の妻は私なのだから。 *蒼は私と離縁し、あの女性、いま蒼に笑顔を向けている|白川《しらかわ》|茉莉《まり》と再婚したと思っていた。私は離婚を拒んでなどいない。その証拠に、彼の前から姿を消す前に記入済みの離婚届を黒崎さんに渡しておいた。それなのに、「一応確認しておけ」と凱に言われて役所で戸籍を確認したら、今日の午前中はまだ私は藤嶋|陽菜《ひな》のままだった。こんな状況であっても私と離婚しない蒼が理解できない。このパーティーは社長である藤嶋司の誕生日を祝うもの。藤嶋家主催で、息子の蒼の名前で開かれている。そのパーティーで、蒼の傍で微笑んでいるのは白川茉莉。そして次期後継者と紹介するように二人の傍にいる子ども。誰がどの角度から見たってこの三人が家族だ。本当に何を考えているのか分からない。でも、もう分かりたいと思っていない。『凱』視線を蒼に向けたまま凱に声をかけると、隣の凱の気配が変わるのを感じた。野生の獣が、これまで消していた気配を一気に開放して飛び掛かるような雰囲気だ。『Mr.Fujisima』張りのある凱の美声が一瞬で会場を支配し、呼ばれた蒼だけじゃくて全員の目がこちらに向いた。二人が視線を交わしたのは一瞬で、蒼の視線はそのまま隣の私に向けられた。二人ほどではないけれど、私も日本人女性としては背が高いほう。敵意のこもる目が、一瞬で驚きに変わる。そして驚きから、「どうしてここに?」という疑問に。驚くのは分かるけれど、この状況でそれ?そんな気持ちを込めて、笑っていない微笑みを蒼に向けて、目線をほんの一瞬だ
Dernière mise à jour: 2025-11-17
Chapter: 1.
『大丈夫か?』隣にいる男、李凱(リー・カイ)から異国訛りのある日本語で気づかわれた。170cm弱あるから私も日本人女性としては背が高いほうだけど、190cmを超える凱の顔は遥か上にある。だから凱の顔を見るときは首の後ろがキュッとなるのだけど、こうして見上げる角度に慣れているのもは《《彼》》も同じくらい背が高かったからだろうか。いや……そうじゃない。いけない。浮かびかけた彼とのいい思い出を頭を振って追い払う。『陽菜、無理ならやめよう』頭を振った理由を凱には無理だと勘違いされた。でも、そうではない。大丈夫。だって、こんなチャンスは次はいつくるか分からない。『大丈夫ですよ、《《支社長》》』“支社長”と役職をつけたことがトリガーとなって、凱の表情がやや硬くなった。英国に本社のある世界的に有名な建築事務所キャメロットの日本支社長に相応しい顔だ。凱はこのパーティーに上客として招待されているから、おそらく《《彼》》が自ら挨拶にくるだろう。『大丈夫か?』 『うん』 『それなら、行こう』凱の表情は“上等”と言わんばかりに満足気だったけど、その腕は“傍にいる”というように優しくて、私はこの腕に安心させられる。 *『しかし、周りの目が少々鬱陶しいな』凱は不満げだけど、こんな視線に慣れていることを知っている。品の良い顔立ちにアウトローの雰囲気を併せ持つ男。危険な魅力に満ちた凱に老若男女は目を奪われる。特に女性。彼女たちの視線は凱を搦めとらんばかりにギラギラと熱いし、その隣にいる私には鋭利は刃物のように鋭く刺さる。 『視線の主は美女たちよ?』『美女なんてどこにいるんだい?』わざとらしくキョロキョロとフロアを見渡した凱は私にウインクをする。『俺がいまエスコートしている女性以上の美女を連れてきてくれないか?』『馬鹿ね』気障な台詞。 でも、凱にはよく似合っている。『……ありがとう』緊張をほぐしてくれた凱に感謝しながら、私たちはフロアを横断してバンケットホールに向かう。ちらほらと見知った顔が増えてきた。 目的地が近い。 緊張が戻ってくる。『俺を見て、My Dear』凱の優しさと、甘さの籠った声に周囲が騒めく。向けられたのは私なのに、周囲の女性が被弾して顔を真っ赤にしていた。うん、素晴らしい。 今日のパートナーに本当に相応しい。
Dernière mise à jour: 2025-11-17
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